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少々お下品な表現があります。これはいけない、と思ったら退避してください。
兄の研究
作:○


 静かな住宅街。その一角にある二階建ての家の前に制服姿の二人がいた。
「ここがお前の家か」
 安藤雄二は短めの髪の下にある形のいい眉と真面目そうな目に、やや不安そうな色を覗かせつつ目の前の家を見上げた。
「そうだよ」
 雄二より頭一つ低い所から森本芳樹がのほほんと答える。どことなく幼い雰囲気で、声も表情はのんびりとしていた。
 雄二は芳樹の家に来ていた。きっかけは放課後の芳樹の言葉だった。
「昨日兄ちゃんがPS3を買って壊したから見に来ない?」
「は?」
「壊れたてだよ」
「はあ?」
 意味がよく分からず、つながりもあまり感じられない会話だったが、なんとなく興味を引かれた雄二は芳樹に案内されるまま森本家にやってきてしまっていた。
「ただいまー」
 ポケットから取り出した鍵でドアを開くと、芳樹は玄関に靴をばらまいて家に入った。
 後から入った雄二はきちんと散らばった靴までそろえて玄関に並べておく。
 玄関の脇にある階段の前で、芳樹は雄二の方に振り向いて口を開いた。
「そうだ、兄ちゃんの部屋に入ってみる?」
「……あの変態の?」
「人の兄を捕まえて変態はひどいなあ」
「弟妹に子供を作ろうとか弟妹に裸エプロン最高とか、お前の話を総合すれば変態以外の何者でもないだろう」
 雄二は言い放った。
「いや、それは違うよ。兄ちゃん裸エプロンは弟に限るって」
「もっと駄目じゃねーか。せめて妹だけならまだしも。いやそれも駄目だけど」
 雄二は本格的に呆れたような声を出した。
「うーん、でもその程度で変態って言うのは抵抗があるなあ」
「……」
 黙ってしまった雄二をよそに、芳樹は軽い足取りで二階の部屋の前に到着した。
「ここが兄ちゃんの部屋。ま、どうぞどうぞ」
「勝手に入っていいのか?」
「いいよ。兄ちゃんも友達来たら見せてもいいっていってるし」
「やっぱり変な人だな」
 芳樹の案内で兄の部屋に入った雄二。いろいろな話から想像していた部屋とは違い、きれいに整理されていて清潔感が漂っていた。
 白いカーテン、ベージュのベッドカバー、机の上には雑誌が何冊か机のラインに平行になるよう綺麗に置いてある。雄二が近づくと、緊縛倶楽部と言うタイトルと、革製品に身を包んだ人々がなんかこういろいろしている表紙が目に飛び込んできた。とりあえず見なかったことにして視線を上に上げると、机の上の棚に精巧な人形がいろいろと置いてあった。
「何だあれ?」
「フィギュアっていうらしいよ」
「へー」
 近づいてみると、ほとんど裸の女の子や男の子の人形が所狭しと並べられている。
「なんだこれ?」
「えーと、確か家族どんぶりっていうパソコンのゲー」
「わかったもういい」
 他に目を移した雄二は部屋の一角、机の横にある棚からどす黒い波動のような物を感じた。
「あの棚は?」
「ああ、あれ? 兄ちゃんのDVDコレクション。気に入ったのがあったら貸してあげるよ」
「兄貴のDVDなんだろ?」
「兄ちゃんは頼んだらすぐに貸してくれるから」
「ふーん」
 雄二は改めて棚を見た。所狭しと並んだ中に知っているタイトルが一つもない。
「僕はちょっと着替えてくるから、雄二はDVDを選んでてよ」
「ん、ああ」
 芳樹が出て行った後、雄二は棚にぎっしりと並んでいるDVDを見た。そのうちの一つを手にとって見る。
「きみはぺこ? ふーん、アニメか」
 パッケージをひっくり返して裏を見ると、世界初ショタアダルトアニメと書いてあった。
「……?」
 よく見ると、女の子と思っていたキャラクターの股間にはモザイク越しに何かがあって、相手の子にもモザイク越しに何かがあった。
 雄二はDVDをそっと棚に戻した。
 まだ日の高い時間にもかかわらず、なんとなく薄暗い室内。部屋の中はやけに静かだった。
 棚の別の所を見ると、奈々と言うタイトルがあった。手にとると、小さい女の子の水着姿と奈々8才と言うタイトルが見えた。
 雄二は少し震える手でDVDを棚に戻した。
 また別の所を見ると、熟女マニアというタイトルがあった。震える手で取り出そうとしたら、雄二の祖母と変わらない年齢の女性の裸がちらっと見えたので、渾身の力で棚に戻した。
 またまた別の所を見ると、ナンパ大作戦と言うタイトルがあった。取り出してみると、パッケージには裸の男がぎっしり詰まってふんがむんが。
「何か気に入った物あった?」
 芳樹が部屋に入ってきた。
「……すみません、早くここから出たいです」
 雄二は憔悴しきった表情でか細い声を出した。
「どうしたのさ雄二」
「こんな魔窟にいたくない」
 雄二は搾り出すように声を出した。
「ただいまー」
 まだ明るいのに薄暗い雰囲気の中、玄関の方で声がした。
「あ、兄ちゃんだ」
 芳樹が玄関へと駆けて行く。この魔窟の主……雄二も好奇心で芳樹の跡を追ってみた。
 玄関には、雄二達と同じ学校の制服を着た、芳樹より頭一つ高い男がいた。やや長めの髪に綺麗な顔、あの部屋の住人とは思えない男が、優しい表情で芳樹と話している。
「あ、雄二、これ司兄ちゃん」
「よろしく雄二君。芳樹が友達をこの家に連れてくるのは珍しいな」
 司は優しい声で雄二に微笑みかける。
「あ、はあ、よろしく」
 いわゆるオタクっぽい容姿を想像していた雄二は、不意打ちを食らってうまく対応できない。
「じゃ、雄二、僕の部屋にいこう」
「あ、ああ」
 雄二は芳樹の後をついて階段を上がっていく。ふと振り返ると、司が手を振っていた。
「後でお茶でも持っていくよ」
 にこやかで爽やかな表情、優しい声。まったく部屋のイメージと会わない。雄二は大きな違和感に戸惑いを隠せない。
「そんな事しなくてもいいよ」
 芳樹は笑いながら司に返事した。
 難しい顔をして考え込みながら芳樹の跡を歩く雄二。
 芳樹の部屋に入った二人。芳樹はさっそくPS3を雄二に見せる。
「これが兄ちゃんが昨日買って壊したPS3」
「……そもそも、なんでいきなり壊したんだ?」
 芳樹は笑いをこらえられないような表情でPS3を立てたり寝かしたりしている。
「兄ちゃん、よっぽど嬉しかったみたいでね。家族の一員になる儀式って言って、PS3を亀甲縛りにして天井から吊るそうとしたら縄が解けて落っこちて」
「……」
 雄二は話を聞きながら、両手の指でこめかみを押さえていたが、顔を上げると真面目な表情で芳樹の方を見た。
「それはまあどうでもいいとして……アレ本当にあの部屋の兄貴?」
「そうだよ、なんで?」
「部屋のイメージとぜんぜん違うんだが」
「そんなことないと思うけど」
 雄二は真剣な目をして芳樹のほうを見た。
「正確にいうと、あのDVDコレクションの持ち主とは思えない」
「えー? ぴったりだよ。だって」
 言葉の途中で、ノックの音が芳樹の部屋に響いた。
「はーい、どうぞー」
 芳樹の返事の後、部屋のドアが開く。
「お茶持ってきたぞ」
 そこにはブルマと体操着で武装した司が、お茶とお菓子がのったお盆を持って立っていた。
 思わず吹いてしまう雄二。
「わざわざそんな事しなくていいのに」
「こらこら、何もしなかったらお客さんに失礼だろ」
 あんたが一番失礼だよ! という言葉を雄二は飲み込んだ。
 司は部屋の中にやってくると、雄二と芳樹の前にお盆を置いて、自分もその前に座り込んだ。
 妙にブルマと体操着が似合っているのが、雄二の背筋を冷たくする。
「兄ちゃんもここにいるの?」
「お前が友達を家に連れてくるのは珍しいからな」
 司はさっさとコップを掴むと、一人先に冷たいお茶を飲んだ。雄二もコップに手を伸ばす。
 そのとき司のつるつるの足が目に入った。毛が無い。
「ん、気になる? 今日はお客さんが来てるから剃ったんだ」
「は、はあ」
 雄二はあいまいに返事をしながらお茶をちびちびと飲む。
「兄ちゃん足はいつも剃ってるじゃない」
「足? Vラインの事だぞ」
 そう言って司はブルマを少しめくった。
 雄二は飲んでいたお茶を霧状にして吹き出した。
「あーあー、雄二大丈夫?」
「げほっ、ごほっ」
 盛大にむせる雄二。芳樹は雄二の背をさすりながら司の方を見た。
「そういえば兄ちゃん、今日はブルマが盛り上がってないね」
「ああ、ガムテープでお尻の方に回して固定してるんだ。お客さんの前で恥ずかしい格好は出来ないからな」
 手遅れだよ! という言葉が喉まで出かかったが、雄二は渾身の力でそれを飲み込んだ。
 ようやく咳がおさまった雄二が、落ち着こうとお茶を飲みながら改めて司の股間を見てみると、たしかにあるはずの物がないように見える。
 どうにも信じがたい雄二はあるはずの物を探そうと注目した。
「……つっ」
 司が眉間に少し皺を寄せて呟いた。
「どうしたの? 兄ちゃん」
「う……家族以外に見られるのはなんか新鮮で、ちょっと興奮してきて……いてて」
 雄二は飲んでいたお茶を唇の端から垂れ流した。
「兄ちゃん、お客さんの前なんでしょ? しっかりしなきゃ」
「いたた……大丈夫だ。こういう時の為に対策は立ててある」
 司はそう言うと、足を座禅のような形に組んだ。
「精神統一して煩悩を追い出す」
 司は目を閉じる。黙って目を閉じた顔だけなら、まるで陶磁で出来た人形のように見えた。
 音の消えた室内。芳樹と雄二は固唾を飲んで見守る。

 ぺり……ぺりり

 何かがはがれる音が聞こえてくる。
 雄二の背中を冷たい汗がつたう。

 ぺり……ベリリッ!

 最後の音に反応して雄二は二階の部屋の窓から外に飛び出した。窓の下に張り出した屋根にバウンドした後、玄関前に強引に着地、間髪いれず素足でアスファルトの上を駆け出す。
「ガムテープがッ、ガムテープがッ……!」
 錯乱気味で走る雄二の叫びが、住宅街にいつまでもこだましていた。














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