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花の小話

作者:タウタ
 戦争が始まっても私の村は平和そのものだった。爆弾を落とす怖い飛行機も、動くものを皆殺しにする敵の兵士も、村の誰も見たことがなかった。若い男が徴兵されて、力仕事が大変になったくらい。ほとんど自給自足の村だから、食べ物がなくて困ることもない。おかげで、私も花屋を続けることができた。
「花が欲しい」
 ある日、見たこともないほど上等なスーツの男がやってきた。黒い髪、黒い目、黒い口ひげ。なんだか肌も浅黒い。ジャケットもネクタイもズボンも革靴も黒い。シャツだけが、できたばかりの雲のように白かった。
「――の花が欲しい」
「なんですって?」
 私は聞き返した。
「――の花だ」
 男の口は動いている。声は聞こえている。でも、肝心なところがわからない。私が首を傾げると、男はもう一度同じ言葉をくり返した。やっぱりわからない。聞こえているのに理解できない。
「悪いけど、うちにはないわ」
 私はそう言うしかなかった。今度は男が首を傾げた。
「花は、ここにあるので全部か?」
「そうよ」
 男は店の中をぐるりと見回し、帰っていった。
 数日後、また男が来た。この前とは違う男だったが、同じように黒い髪と目で、黒い服を着ていた。その男も私にわからない花を探していて、私はないと答えた。
 それから何日かして、三人目の男が現れた。彼も黒い髪と目で、黒い服を着ていた。前の二人と同じことを言い、私は同じようにないと答えた。
 黒い男は毎日違う顔で現れるようになった。私は気味が悪くなって、七人目で聞き返すことをやめ、九人目で彼が口を開く前にないと言った。そのうち、黒い服を見るだけで怖くなってしまい、私は店を休みがちになった。
「もし、お嬢さん」
 久しぶりに店を開けた日、真っ白なおじいさんがやってきた。白いジャケット、白いネクタイ、白いシャツ、白いズボン、白い靴。髪も眉も私の百合より白い。目だけがこれまでの男たちと同じように黒かった。
「花が欲しいのだが」
「どんな花をお探し?」
「一輪残らず全部くだされ」
「なんですって?」
 私は聞き返した。
「一輪残らず全部売ってほしいのだ」
 おじいさんは白い長財布から、私の顔が映るほど黒いクレジットカードを取り出した。そんなもの、こんな田舎で使えるわけがない。おじいさんは困った顔をしたけれど、すぐに分厚い札束を差し出した。こんなにたくさんのお金、生まれて初めて見た。偽物かもしれない。私は真ん中から一枚抜き取って目を凝らした。日にも透かしてみた。本物みたい。
「足りるかね?」
 足りるも何も、店ごと買えるほどの大金だ。まさか本当に店ごと買うつもりではないかと思い、花だけでいいのか聞いてみた。
「花だけでいい。ただし、一輪残らずだ」
「いいわ」
 花なんてまた育てればいい。包まなくていいと言うから、私はありったけの花をバケツごと荷車に積んだ。
「返してくれなくていいから」
 今にも車輪が取れそうな荷車も、錆びかけたバケツも、新しく買えばいい。
「ありがとう、お嬢さん」
 おじいさんは荷車を引いてコトコト歩いていった。売り物がなくなった私は、おじいさんが小さな白い点になって丘の向こうへ消えてしまうまで、ぼんやりと見送った。

その夜、大きな爆弾が落ちて、私の村は丸ごと消えた。

Fin.

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