第1話:名前をつけよう
家に帰り、自分の部屋に着いてダンボールを下ろす、その衝撃で目が覚めたのか子犬がこっちを見上げてくる。目が合うと尻尾を振り始めたが……出してやった方がいいか。
ダンボールから出してやって床に下ろすと興奮しているらしく、鼻をふんふん鳴らしながら床を嗅ぎまわっている。部屋の中は俺の着替えとか出かける前に敷いた布団でごちゃごちゃしてるけどこいつから見たら十分広いんだろうな。
それと、いつまでも犬って呼ぶわけにもいかないし名前を決めなきゃいけないか。何がいいか……俺と同じような名前にすればいいのか? だとしたら睦月に近い……月とか陸、でもこいつはメスだから陸は駄目だな。それに名字と語呂が悪いのは避けたい。
そう考えていると子犬が部屋の隅で体を震わせていた。
まさか……そっと覗き込んでみると、そこには小さな水たまりができていた。さっそく漏らしやがったな!?
そばに置いておいたティッシュを急いで水たまりに押し付け吸い取る、ここで拭き取ろうとすると広がっちゃって大変なんだよな。
「だめじゃないか、トイレはそこだ!」
いや、言っても理解できないか……そう思っていると子犬はトイレの上に歩いて行き、今度はちゃんとトイレでした。こいつ天才なんじゃないか!?
「おお、すごいぞ犬! お前は天才だ!」
とりあえずさっき使ったティッシュをトイレで流そうと部屋を出る、部屋のドアを閉めておけば外には出ないだろう。
二階にある部屋からトイレに行くのは面倒だ、なぜトイレは一階にしかないんだろう。愚痴を言いながらもティッシュを流して部屋に戻る。
「ただいま……って、いない!?」
部屋の中が散らかっているとはいえ子犬が見当たらない、布団の中に潜って寝てるのか? 布団をめくってみたがいない。
考えろ……まずこの部屋の中にいるのは間違いない、そして隠れられる場所は限られている。部屋の中にあるのは布団、机と椅子、着替えの山、子犬の寝床用に買ったバスケット、そして犬を入れてきたダンボールだ。
まず布団の中にはいなかった、そして椅子の上には登れないだろうから……下か! 机と椅子の下を覗き込んでみるがここにもいない。
残るは三か所、ダンボールは自力じゃ入れないだろうしバスケットの中にはクッションとタオルが入ってるだけだ。つまり……
「ここだぁ!」
叫び着替えの山を崩す、崩した衣類を持ち上げて片づけながら探す、面倒だ……崩さなくればよかった。
だが、ここにも……いないだと!?
奴はどこに行ったんだ、この限られた空間の中で奴はもう俺の死角を発見したのか!?
俺がパニックになりつつも部屋の中を見回しているとバスケットの中が動いたように見えた。だけどバスケットにはクッションしか入ってないはず……!!
クッションの下、そしてタオルに隠れて見えなかったがそこで子犬は寝ていた。ペットショップでもらったタオルだが、それには今まで嗅ぎなれた香りだから落ち着くとか言ってたっけ。
初日から心配させるなよな……そういえば名前考えてたんだっけ。
今は十月、そうだカンナなんてどうだろう。神無月だし、でも神無じゃ縁起が悪いしな……神奈なんてどうだ?けっこうかわいいと思うし。
「うん、今日からお前は神奈、椎堂 神奈だ」
優しく頭を撫でてやったら軽く身じろぎして頭をタオルの中に隠した、まさに頭隠して尻隠さず。
今日は疲れたし俺も寝ようかな……明日も日曜だから休みだし。まだ寝るには早すぎる時間だけどまあいいだろう、晩飯作るのめんどいし。
布団にもぐりこんで神奈を見る、相変わらず静かに寝ていた。
「これからよろしく、そしておやすみ神奈」 |