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地下三階 拘束と嘆願 2

 薄暗い部屋で、一人の男がパソコンのキーボードを弄っていた。

 パソコンのペイント・ツールに、女の絵が描かれていく。

 アニメ調のその絵は、空の水兵隊達の他人を模した絵だ。

 内気で女性経験に乏しい男達の一部が、このアニメ調の絵をよく好む。

 彼の瞳は、爛々と、輝いていた。

 支配欲に駆られた瞳だった。

 表向きは、彼は普通の下請け作業員だった。仕事をしながら、もう少し高い給料を得られる仕事に就く為の資格取得に奮起していた。そして、彼は内気な性格で、異性と会話するのが苦手だった。彼は十代の半ば頃から、絵を描き続けていた。才能があった為か、すぐに上達していった。それは彼のリビドーと結合した。


 彼は今や、エロティックな絵を描く職人をしていた。

 彼の絵のファンはそれなりに多かった。…………。



 ネットワーク内部にある、アンダー・グラウンド寄りの巨大掲示板に、イラストが投稿され続けていた。


 描かれた絵は、フロイラインや副官のルシールに似ていた。

 少し、胸の形や等身などを絵師の好みに弄っている。

 その絵は、軟体動物の触手に絡み取られていた。水兵隊の服が、申し訳程度に残骸として身体に残っている。触手は絵の彼女の胸や股に巻き付いていた。彼女の肌は、粘液塗れになっていた。触手は下半身から、体内奥深くへと侵入しているみたいだった。

 とてつもなく、卑猥な絵だった。

 そして、絵師の性欲が全開で露出されていた。

 これを描いた者は、下流階級の者だろう。女を知らない三十路を過ぎた男だ。絵だけはやたらと巧い。絵を描いた者は、プロフィールや、稀に自らの顔も晒す為に、その生活の実態は手に取るように分かる。


 フロイラインは、まじまじと、そのような絵を眺めていた。

 電脳空間には、このような絵がよく転がっている。

 一応、アングラな物として扱われているが、最初に年齢確認の警告が表示されるだけで、特に閲覧の制限は無い。フロイラインはよく、自分や周りの者達を模した絵を収集している。

 どうしようもない程の、快感が込み上げてくる。

 この絵師と、その絵師のファン達は、清純なものを汚したいという欲望に駆られているのだろう。それはきっと、自らが惨めで卑小な存在だからこそ、半ば復讐する形で、半ば独占欲を満たす形で、自らの信じる清楚な存在を貶めようとする。

 フロイラインは、自分が彼らの性欲の道具にされている事実に、とてつもない歓喜が湧き上がってくる。

 彼女は笑う。

 そう、みな、拘束されているのだ。


 内なる獣を吐き出そう。

 扉は開かれているのだろうから。


 そう。

 理想の女性像、それは男達の脳内にしか存在しないもの。

 そして、それを汚したいという両面価値。

 そのせめぎ合いの中を、彼らは生きているのだろうか。

 フロイラインは、そのような事を、想像するだけで歓喜と恍惚が湧き上がってくる。

 彼らは自らの欲望によって、支配されている。彼らは彼女達に服従し続ける。もしかすると、理想の女の為にならば、命さえも投げ捨ててくれるかもしれない。

 もし、その仮定が本当ならば、プレイグにとって、とてつもなく都合の良い存在となるだろう。

 事実、空の水兵隊をアイコンにしたグッズに対して、自らの仕事の給金を、少なからずつぎ込んでいる男達は多い。彼らの何割かは、命さえも奉げるに違いない。

 フロイラインは考える。

 自分や空の水兵隊達は。

 ずっと、彼らの女神でいなければならない。

 純潔と汚辱の対象でなければならない。



 全てはプレイグの思惑通りだ。


 みな、完全なる国家の祝福を受けているし、彼らは受け入れてもいる。

 電脳空間に書き記されていく文字によって、プレイグの調律は続行される。

 自由とは服従する事なのだから。


 そして、みな、枷に、鎖に、檻に気付かない。

 自由を謳歌していると思い込んでいる。自分達に拘束具が嵌められている事に気付いていない。そして、それこそが彼らにとっての最大限の幸福なのだろう。

 感情も、欲望も、何もかもがコントロールされている。

 そもそも、多くの人間達は、無限の自由などよりも、程良い不自由と服従を望むのだから。

 電脳空間には、プレイグの触手が伸びている。

 全ては絡み取られている。


 そして、おそらくは脳を犯され続けるのだろう。


 それが、それこそがプレイグの能力である『アノーマリー』の力なのだから。

 みな、見えない触手によって、絡み取られているのだから。



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