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地下四階 水と炎 2

「何だあれは……っ!」

 モニターを見ながら、プレイグの部下達は絶句していた。

 軍服を着た男達の中には、冷や汗を流し続けている者も多かった。


 当のプレイグ本人は、侵入者の行動を淡々と眺めていた。


 しかし、彼の部下達は唖然とした顔で、映像を眺めていた。中には、嘔吐感を我慢している者もいた。


 ……精神が弱いな、駄目だ。彼らには教育が必要だろうな。


 赤い炎を纏った女が、たった一人で、クラーケンが誇る空の水兵隊達を挽肉へと変えていた。

 赤い女は、今、水兵隊の一人をビルの強化ガラスへと叩き付けていた。

 炎の怪物には、矢も銃も通じないみたいだった。当然、剣や槍も通らない。ガーディアンとなっている怪物達も、同時に只の肉塊へと変えられていく。

 赤い化け物は、巨大なビル一つをその腕力だけで破壊していた。

 次々と、都市のビルが雪崩のように、倒壊していく。

 まるで、それは映画のワンシーンのようでもあった。

 映画と違うのは、専用のセットを使っていない事だったのだが。


「プ、プレイグさ、さま、私は、私は四十年以上生きていて、あんなモンスターを見た事がありませんっ! あれは何がどうなっているんですか? 私はトランキライザを使い過ぎたんでしょうか?」


「いや、興味深い存在だな。あれは。何とか、DNAを摂取出来ないものか。もし捕獲して血肉を摂取出来れば、我が国をより強固に出来るかもしれんぞ」


 プレイグは、マシーンのように淡々とした顔をしていた。

 その玲瓏な美貌に嵌め込まれた二つの瞳は、何の感情も灯っていなかった。

 まるで、新たな実験動物を眼にした研究者のような眼差しだった。

 プレイグの眼から見れば、共喰いを行うマウスと何ら大差は無かった。

 轟々と、火炎を撒き散らしながら。

 炎を纏った化け物の虐殺は続いていた。

 この女はよりによって、過剰なまでに残虐的な殺し方を好んでいるみたいだった。まるで、自分の行動を見せ付ける為に、悪意的に、対峙する相手の肉体を激しく損壊していた。目玉を穿り、骨を抉り出し、頭蓋を割って脳を撒き散らして、腸を振り回していた。そして、時折、肉片をくちゃくちゃと、ガムのように、口に含んでいた。


 …………いや、明らかに、彼女は見せ付けていた。街中の至る処に監視カメラがある事など、とっくに気付いているに違いない。

 それが分かっていて、炎の女は虐殺を続けている。

 水兵隊の最上戦闘員ルシールが、あっさりと生首になった後も、プレイグの顔付きは何も変わらなかった。代わりに彼の部下の一人が涙を流していた。どうやら、この男は、ルシールのファンだったみたいだった。

 プレイグは、鼻で笑う。


「おい、分かったんだが。あいつは陽動だ」

 プレイグは部下達に、そう告げる。


「本命は他にいる。少し前に、通信機から報告も来た。……報告が遅れた原因も探るべきだな。どうやら、全員で三名いるらしい。残り二人は何を狙っているのか」

 プレイグの思考は回転していた。


「もし私なら“三つの太陽”を狙う。お前達、『アブソリュート』には指令を下しておけよ。是非、彼には役に立って貰わないといけないからな」

 そう言いながら、プレイグは腹が減ったと言って、給仕の者を呼んで、昼食のサンドイッチとお茶を用意させた。



 プレイグは、BLTサンドを口に挟みながら、モニターを睨んでいた。


 それは『天空の揺り篭』と呼ばれる場所だった。


 儀式の巫女とは別の方法で作り出した、クラーケンの守護者。

 機械と人間の頭脳の結合だった。


 それによって創った戦力の最高峰が”アブソリュート”と呼ばれる存在だった。

 あの怪物には、多少の信頼を置いている。

 彼ならば、やってきた謀反人を簡単に始末してくれるだろう。

 プレイグは、トマトの汁で汚れた唇を丁寧にナプキンで拭う。



 二つの頭を強引にくっ付けて、二つの頭蓋と脳が接合して、目玉が三つも零れ落ちて、サイクロプスだ、サイクロプスだ、双子で一つの一つ目巨人だ、と、グリーン・ドレスは笑い転げながらも、彼女達を率いているボスである、フロイラインに対して、攻撃出来ない事に内心憤りつつあるみたいだった。


 フロイラインは、この女の理解出来ないセンスを疑いながらも、水によって全身を浮かせながら、ある場所へと、敵を誘い込むようにした。

 そこは、フロイラインが自室にも使っているビルだった。

 敵の女は、あっさりと、彼女に付いてきた。

 ビルとビルの壁を蹴り上げながら、フロイラインは、敵が付いてくるのを待つ。グリーン・ドレスは彼女の案内に従うように、彼女へと向かってくる。

 やがて、数十分の間、鬼ごっこは続いた事だろうか。


 フロイラインは、あるビルの中へと入り込む。

 グリーン・ドレスも、それに合わせて、中へと侵入してきたみたいだった。



 フロイラインは、プレイグの事を思うと、力が漲ってくる。


 …………。

 プレイグは、彼女の顔をブーツで踏み潰していた。


 そして、彼女の黒髪を強く鷲掴みにする。

 彼の瞳は、何の感情も灯っていなかった。


「やれ。隅々まで綺麗にするんだ」


 彼女は、最高司令官であるこの男のズボンを外していく。

 フロイラインは、実の兄であるプレイグの下半身に、丁寧に舌を這わせていく。

 足の指先も、足の裏も、丁寧に舌を伸ばしていく。

 股の付け根に顔を埋め、フロイラインは兄の名をひたすらに呼び続けた。プレイグは腹を抱えて笑い続ける。喉の奥まで、兄のモノは入り込んでくる。


 息をするのが、困難になる。

 プレイグの部下達が見ている前で、その恥辱は行われていく。

 彼の部下の男達は、軍服を規律正しくその身に纏って、まるで微動だにせずに、二人の行為を見守っていた。

 忠誠を示させる為に、プレイグは時折、このような事をフロイラインに行わせる。プレイグの性欲の捌け口は、主に、実の妹を使っていた。

 やがて、プレイグは彼女の服を強引に脱がし始めて、乳房や臀部をまさぐっていく。

 実の兄が、実の妹を犯し続ける。

 彼らは、それが正しい事なのだと信じ切っていた。


「私、私、お兄様の、プレイグ様の子を宿します」

「よろしい。期待しているぞ」


 プレイグは唇を歪ませる。彼の瞳は笑っていなかった。

 兄の期待に答えたい。


 フロイラインにとって、兄こそが国家の象徴だった。



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