ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
御奉仕59「思いは目に映る」
 薄暗い階段を下りる。弾むような足音が響く。
 廊下に出る。すぐ目の前には職員室がある。
 薄紅色の光が差し込み、廊下を淡く照らしていた。
 円は学級日誌を届けに職員室まで足を運んでいた。帰り仕度を終えて来ている。
 鞄を職員室前に置き、
「失礼します」
 申し訳なさそうに中に入り、担任の杉先生の机に向かう。
 杉先生はいない。なので、学級日誌だけ置いて帰ることにした。
 他の先生方の机と比べて、杉先生の机はスペースがない。
 仕方なく、円はプリントの山の上に置いた。
 直後、プリントの山が崩れて、数枚ほど床に落ちた。
 慌ててそれらを回収する。最後の一枚を拾う。
 大神蓮太郎。
 ふと、その名前が見えた。見れば、それは進路希望の紙だった。
 見てはいけないという善心が手を動かす中、頭の中ではしっかりと紙面の内容が記憶されていた。
 手の動きが遅い。どこか覚束無い印象が見られる。
 円はゆっくりと立ち上がり、進路希望の紙を置いて、一目散に去って行った。
 ガラララ。扉が開く。
 杉先生が戻ってきた。
「あら、中野さん来てたの。あっ、そっか、日誌……」
 帰りの挨拶一つ交わさずに、円は杉先生を横切った。
「……、……え?」
 私、何か悪いことしたかしら、と杉先生が自分を問い詰めていた。
 円は逃げるように去って行った。
 蓮太郎の進路希望の紙。第一から第三希望までの全て項目に、進学の意思は記されてなかった。



「で、話って何だ?」
 その日の帰り、蓮太郎は吹雪の買い物の荷物持ちを手伝っていた。
 正確に言えば、荷物持ちはあくまでオマケ。本当は吹雪から話があると言われたから付いてきたのだ。
 家路を歩む二人を夕日が照らし出す。
「その……復興祭の日なのですが……」
「復興祭がどうかしたか?」
 吹雪は息を呑み、そして、
「“蓮太郎”に伝えたいことがあります」
 見た。真っ直ぐな目で。蓮太郎を。
 蓮太郎は止まった。あるいは、止められた。何に? その真っ直ぐな眼差しに。
「ふ、吹雪もかあっ〜」
 ははっ、と照れ臭さを紛らわす蓮太郎。大雑把に大股で歩いていく。
「……! 私以外にも誰かいるのですか?」
「ん? ああ、まあ、烈火にもな」
 シンッ、とまるで氷に僅かなひびが入ったような音が聞こえた気がした。
 吹雪は一瞬足止まり、
「そうなんですか……」
 程なくして動き出した。



 それは、翌日の朝のホームルーム前のことだった。
「えっ、円も?」
 蓮太郎は円から、
「はい、復興祭の日に伝えたいことがあります」
 そう告げられた。
「なんやなんや。祭がどうかしたんか?」
 葵が輪に加える。
 そこには、烈火と吹雪がいた。
 遠く離れた席。
 宇佐子がその輪を退屈そうな目で見ていた。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。