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唯一ひとり
作:福岡真彩


 テレビに映るその男は、嬉々揚々と自分の国の言葉で喋り始めた。
 「こんばんは、みなさん。レポーターのジョン・ジージョです」
 いつものように始まりの挨拶を告げる。彼のカン高い声は不快さを感じず、楽しげな気持ちになる。テレビタレントとしては優秀である。
 さてこの番組の趣旨を説明しなくてはいけない。この番組は絶滅に瀕している動物、文化、芸術などを、この男、ジョンが直接現場に出向き、その様子を生放送でお送りする番組である。
 彼は今回、「日本で最後の鍛冶場」に来ていた。日本で唯一機能している鍛冶場であり、作っているものは刀である。ここで働いているのは年老いた技術者一名のみで、生産数もかなり少ない。
 現在世界中に出回っている刀の、九割九分が外国産のものだ。外国産のほうが技術がよいためか、性能もよく値段も安い。
 それでも刀マニア達はこぞって数の少ない日本ブランドの刀を欲しがるのだ。そのために値段はかなり高騰している。
 それらの説明を一通り終えたジョンは鍛冶場の中に足を踏み入れ、日本語で「オジャマシマス」と言った。続いて中に入ったカメラマンが中を写すと、優しそうな鍛冶職人、藤堂の照れくさそうな笑顔が写った。
「コンニチワ」
「ど、どうもこんにちは。よろしくお願いします」
 通訳が藤堂の言葉を訳した後、ジョンはカメラの方を向いて、カン高い声で説明を始めた。
「ここでは以前、鍛冶職人がもう一人おられたそうなのですが、その方は数ヶ月前に亡くなってしまいました。さらに今では刀を作れる日本人がおらず、弟子を取ることも不可能で、この先、刀を作れるのは藤堂さんのみと言う事になってしまいました。ちなみにほとんどの刀は大量生産で作られていますが、日本のものはすべて手作りなのだそうですよ。あの鋭利なものがどうやって作られていくのか楽しみですね」
 そういって、カメラは作業場のほうへ向かった。このあと、藤堂の実演の予定があるのだ。
 しかしそこで異変は起きた。突然、藤堂は不自然に咳き込み始め、やがて自分の胸を手で引っ掻き始めたのだ。
 それに気づいたカメラマンはすぐにそちらにカメラを向け、その様子を取り続けた。むろんテレビでもその様子が流され続けた。
 やがてスタッフの一人が呼んだ救急車が着き、担架で藤堂は運び出されてしまった。
 鍛冶場、お茶の間では少しの沈黙が流れた。
「生放送ではこんなハプニングもつき物ですね」
 ジョンが笑顔でそういった後、映像はスタジオに戻された。続報を待つ間、ほかの企画を進めるためである。

 次に藤堂の情報が舞い込んだのは、絶滅したマウスの映像が終わった後である。
 先ほどの鍛冶場をバックに、ジョンがやはり満面の笑みで報告を始めた。
「藤堂さんは以前から大変思い病気にかかっていたらしく、死ぬのも時間の問題だったそうです。そして今、病院から藤堂さんがお亡くなりになられたとの情報が入りました。まさか生放送中に最後の鍛冶職人がなくなってしまうなんて、異例の事態ですね」
 そういった後、映像はまたスタジオに戻った。タレントたちは、驚くものもいれば、腹を抱えて喜んでいるものもいた。もちろんテレビを見ている視聴者達もおなじくである。
 そして司会の男が最後に一言番組をしめた。
「えー、今回の目玉企画。『絶滅頻種日本人、最後の一人』でしたが……」
 番組制作サイドは、まさかのハプニングによって得た高視聴率にニマニマとしていた。














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