その花は暗い洞窟の深層部で一輪のみ咲いていた。
本来そのような場所で花が咲くことはまずないのだが、それの独特な性質によって、その場所に咲く事が出来たのだ。
光が存在しない場所でどのように生きることが出来るのか。なんとこの花は光合成をしないのである。それとともに、二酸化炭素を取り入れることもしないのだ。この花はなんと酸素を取り入れる呼吸をするのである。花弁が分厚くなり、その中に肺のような機能があるのだ。
そしてその見た目は、誰がどう見ても「人間の鼻」なのである。
これを発見した科学者チームがあった。彼らは、新種の花を探す目的で作られたチームで、それの謎を解明することも仕事なのである。
そして、その「花の鼻」を傷つけず持ち帰ることに成功した彼らは、研究所で調査を始めていた。
ある日、有名な富豪がそこに訪れた。彼は無類の花好きでありこの研究所に多大な投資をしている。むしろほぼ彼のお金のみで支えているようなものだ。
富豪は特にこの研究所に期待はしていなかったが、(花にお金をかけるという事実が彼にとって満足なのだ)珍しい花が見つかったとの事でそれを見に来たのだ。
「おお。これは素晴らしい!」
富豪は「鼻の花」をみて声を荒げた。彼はこういうものこそ求めていたのだそうだ。ユニークでユーモアがある。
そして次の瞬間、彼は小切手とペンを取り出してこう言った。
「いくらで売ってくれるのだろうか?」
研究員は顔を見合わせた。
「申し訳ないですが、これはお譲りできません。これが最後の一輪ですので。それにこの花は私の所有物ではないので、私がそれを決めることは出来ません」
富豪の顔からの笑みが消え、目つきが変わった。
「そう、これは君の所有物ではない。この研究所のものだ。じゃあこの研究所は誰のものだ? 誰が支えているのだ?」
研究員たちは二の句が出なかった。
「小切手など必要なかったな。これは私が持って帰る。また面白いものが見つかったら教えてくれ」
そう言って富豪は「鼻の花」が植え替えられた鉢を持って、研究所を去った。
翌日富豪はパーティを開いた。もちろん主役は「鼻の花」である。
いつものように沢山の花を並べて、その中央に例の「鼻」を置く。
すると不思議なことに、ほかの花がどうでもよく見えるのだ。誰もが中央の鼻に釘付けにされる。笑いや感動、生命の神秘を見た驚き、誰もがそれを一度に味わい不思議な気持ちになるのだった。
それからパーティは毎日のように行われ、「鼻の花」は沢山の花に囲まれ、沢山の人間の視線を浴びた。
ところがある日、異変は突然起きた。あの鼻の花が枯れてしまったのだ。
それは酸素と水分のみで生命を維持できるはずだった。
富豪はなぜ枯れてしまったのか解らずに、あの研究所を訪れた。
「どういう事だ! 枯れてしまったぞ。明日のパーティの予定も台無しだ!」
研究員はその鼻を数秒間眺めた後、「あぁ」と呟いた。
その冷たい態度に、富豪は泣きそうな顔になった。
「なぜ枯れてしまったのか教えてくれ。頼む」
それを見て、研究員の一人は皮肉をたっぷり込めた言葉でこう返した。
「花粉症による鼻詰まりですね」 |