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学校1のゲーマーと学校1の天才が迷い混んだ生き残るためには勉強が必要な世界 作者:サブローム狼

第2章 この世界よりも戦いが多い学校

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第18話 「次」

僕は花束を持って病院を訪れた。病院の玄関を通り、5階まで上がる。エレベーターもあるが、僕しては階段で昇るほうが好きだ。
目的の部屋の前につくとひとつ深呼吸をした。別に気を引き締めて入る必要はないのだが、その方が何か少しだけ気が楽になるような気がする。
ドアを開けると、中には二人の男がベッドの上に寝ていた。そのうち、年上の背の高い方の男が僕に向かって話しかける。

「お。よく来たな。まあ、もっと奥に来いよ」

そう言うと、兵士長、オームが手招きをする。オームが動いたからか、もう一人の少年ボルトも起き上がる。

「どうも……」

座ったままひとつ礼をした。僕はオームの近くにおいてある椅子に座った。

「もうあれから1週間経つのか……」

オームが遠い目をしながら言う。
イゼンとミゼンがこのまちに襲いかかってからもう1週間がたつ。あれほど大きな事件は3年ぶりらしい。結局、学校での被害は先生3人、生徒2人が亡くなり、学校は一時的に閉鎖された。
現在、やっと学校は始まったが、あの事件以来学校を辞めていったものも少なくない。それもそのはず、あの事件はすぐにこのまち全体に広がり、保護者の目にも届いた。その結果、子どもを学校に行かせなくなる、といったことが起こったのだ。

「学校の生徒も減少か……。まあ、仕方ないわな」

オームが言う。

「そうですね。 モルの知り合いはまだ続けるみたいですけど」

「そうか。 しかし、ひどい事件だったな」

「ええ」

「俺は結果的に多くの市民を護ったってことで、ひとつ階級が上がったが、実際もっと早くに何とかしとけば。学校への被害はゼロですんだかもしれないのになぁ」

そういいながらオームがお見舞いの品であるリンゴを取り出す。

「あ、剥きますよ」

僕はナイフをテーブルからとる。

「いや、大丈夫だ」

そう言うとオームは手を広げたので持っていたナイフを危なくないように渡す。

「フレミー先生も結局助けられなかったし……俺は何をしてきたんだろうな」

オームはリンゴを剥きながら言う。

「でも、人を助けたのは間違いないじゃないですか。 居なかったら最後、イゼンの動きを止められなかったじゃないですか」

「ははっ。そうかな。そう言ってくれるとありがたいよ」

そう言って向いたリンゴを2等分にして僕に差し出してきた。

「ほらよ」

「ありがとうございます」

僕とオームはリンゴをかじりながら会話を続けた。

「そういえばモルとかいう子はどうなったんだ?」

オームが訊ねる。

「今はギルドで他の仲間と作戦会議? みたいなのをしてますよ」

「しっかり見てやれよ」

「大丈夫ですよ。あれから3日で立ち直りましたから」

そう言ってリンゴの最後の欠片を飲み込む。

「ん。 表面上だけかもしれないぞ。あのタイプの子はみんなの前では多分明るく振る舞っているんだよ。しっかりとみんながいないところでもいたわってやれ。多分そうしたほうがいいぞ」

そう言ってオームもリンゴを飲む。

「そういうもんですかね?」

「まあ、勘だけどな」

そう言うとオームは枕を直し始めた。まだ完全回復してないだけあって、ずっと体を起こしているのは辛いのかもしれない。僕もこのあと寄るところがあったので、病室を後にした。

病院をでてしばらく北に歩くといつものギルドが見える。そこからさらに北に進むとある一件の家にたどり着く。周りの建物に比べると少しだけ古い感じの、でも趣のある洋風の建物だ。そのインターホンを押すと一人の少年が出てきた。

「セツナさんですか。上がってください」

その少年、アボガドロは自分の部屋に案内した。ドアを開け、中にはいると一人の少女が、テーブルの方を向いて、床にクッションを敷いて座っていた。

「来たわね」

……やっぱりため口かぁ……

パスカルはこっちの方を向いて軽く手を振りながら言った。

「まあ、座りなさいよ」

指定されたところに座る。アボの方を見るとコーヒーを作っているようだった。

「どう? モルの様子は?」

パスカルが聞いてくる。

「別に……どうってこともないけど」

アボがコーヒーを目の前においてきたので、それをすする。

「そう。 それならいいわ」

パスカルは安心したようにコーヒーカップをとる。
その間にアボもテーブルの周りに座る。

「それよりも問題なのはモルの存在ですね」

アボがコーヒーを飲みながら言う。

「今は何てこともないでしょうけど、この町の被害の原因がモルとばれてしまうと街の人からの非難は避けられないでしょう。最悪の場合、捕まるかもしれません」

アボはコーヒーカップを置こうとして、テーブルの端から落としてしまった。カーペットも引いており、そこまで高いテーブルではなかったので、割れずにはすんだが、コーヒーがカーペットにこぼれた。

「あ。す、すみません。すぐ片付けます」

そう言ってアボは部屋から出ていった。

「幸い、モルが原因だって知ってるのは体育館に避難していた生徒だけだったしね。全員顔見知りだったから話すようなことは無いと思うけど……」

パスカルは心配そうにコーヒーカップを見つめる。

「とりあえず、この問題は話が進んでいない。巷では過激なテロ集団ってことになってるらしい。軍の方もそう思っているだろう」

僕はコーヒーを飲み終えると、立とうとした。

「ん? もう帰るの?」

パスカルはこっちの方を向いて尋ねた。

「ああ、他の二人のことも心配だしな」

「そう。じゃあまたね」

パスカルはコーヒーカップを口元に運び始めた。

ドアを開けようとしたとき、アボが入ってきた。

「あ。もう帰るのですか」

パスカルと同じ質問をしてくる。パスカルの時と同じ理由をもう一度パスカルがいる前で言うのもなんだか気持ちが悪いので、適当に挨拶をして、帰った。

家を出ると、家の中から何やら声が聞こえてきた。

「ちょっと! ウチはブラックなんて飲めないわよ!」

「しょうがないじゃないですか。うちには砂糖を置いてないんだから」

「えぇぇ。どう言うことよ!」

……元気そうで何よりだ。

あいつらが元気をなくしていないのは意外だったが、あの2人が死んでからしばらくはボルトを含めた3人で泣き明かしたらしい。

ギルドに戻ると、まだ、メイラとモルは会議をしていた。ギルドのはしっこの方で何やら話し合っている。

「どうだ? 何か決めれたか?」

「あら? 帰ってきたのね。どうだったの?」

「ん。まあまあかな」

適当に返事をする。別に隠しているわけではないが、あまり人には話したくない。

「ちょっと! セツナさんがいないとほとんど何も決まりませんでしたよ! 早く次のことを一緒に話し合いましょうよ!」

モルがテーブルを叩きながら言ってくる。
はいはい。と思いながらテーブルに付き、3人で日が落ちるまで次のことを話し合った。

日もくれて、ギルドで適当にワンコインシャワーを使って風呂に入った気分になってギルドを見渡した。ギルドのテーブルには1日の疲れを癒すために、旅人たちが酒を飲んでいる。メイラもモルもそこに姿はなかった。
しばらくギルド内をぶらぶらと歩いていると、メイラに出会った。どうやらメイラもシャワーを浴びていたらしい。

「なあ。モルは?」

「知らないわよ。部屋に戻ったんじゃないの」

メイラが、濡れている髪の毛を方にかけたタオルで拭き取りながら言う。
このギルドには宿泊施設もあり、週契約で登録している。3人同じ部屋というわけにもいかないので、一番小さい部屋、カプセルホテルよりは少し大きいくらいのを3つ借りている。別荘を持っているのは持っているのだが、現在、水道やら電気やらの設備が整ってないから、工事中だ。別荘といっても、持ち主はここ数年使ってなかったそうだ。

「そうか、ありがとう」

メイラの言葉にしたがってモルの部屋までいく。
ノックをするが返事は帰ってこない。

「ん? モルー。居るのかー?」

それでも返事は帰ってこない。居ないのか。そう思って部屋を離れようとするとき、部屋の中から声が聞こえた。

「……開いてますよ」

モルの声だ。
僕はドアを開け、中にはいるとモルは布団にくるまっていた。あまり広くないため、布団を踏みつけながらモルの顔の近くまで行く。

「私はどうしたらいいのでしょうか」

布団の中でモルが言った。こちらに顔を向けようとはしない。

「私は生きてて、みんなと生活していていいんでしょうか……」

「どうせならもっと早く、早く盗賊団に戻っていればよかったんだ……。なぜ私は自分の幸せを優先して周りを見渡せなかったんだ」

モルはかすれるような、そんな声で言った。布団の中からなので、声がこもって、聴こえにくい。
僕は何も、励ますような言葉は見つからなかった。人との会話なんてほとんどなれていない。ましてこんなにも自分が落ち着いている状況で相手にかける言葉なんて見つからない。
ただ、ひとつだけ、ひとつだけかける言葉があるとしたら――。

「私は……死ぬべき――」「モル!」

僕がモルの名前を読んでモルの言葉を遮る。

「もう。いいじゃないか。過ぎたことは。もし~だったらなんて、英語の仮定法や、古文の『まし』で十分だよ」

丁度この世界に来る前に習っていた分野だ。偶然にもそこを記憶していた。

「反実仮想なんて後悔しか生まれない。過去のことから学ぼうと思ったら、悔いの気持ちを表した反実仮想じゃだめなんだ。次に繋げるための、次に生かすための振り返りでないと」

正直この一言でモルが納得するとは思えない。意味が伝わってないかもしれない。でも、僕が言えることはこんなものだから。

「僕はもうでるからな。元気でな」

そう言って、僕はモルの部屋から出た。モルは多分元気になる。少なくとも人前では明るく振る舞えるほどの精神力は持っているんだから、そのうち克服する。次は絶対にもっと心が強くなって。








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