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  Sixy 作者:希羽
授かった銃 ♯2
 目の前には大宮の靴。純の足の方に長身。もとの立ち位置からみて前方奥に三人。更に奥に下の階へ続く階段。すぐ背後には高めの手すり。膝辺りにメロンパンとクリアファイルしか入っていない軽い通学鞄。

 長身が純の足を掴もうとしゃがもうとする。
 純は鞄の紐を握り鞄を浮かせ片足を振り上げてその軌道を調整しながら、下ろしかけた筋肉質な顔面に薄い鞄を押し付ける。
 ほんの一瞬だけ、長身の視界を奪った。
 すかさず体制を立て直そうと振り上げた足をそのまま下ろし、その勢いに乗って素早くかがんだ格好で地面に両足をつける。
 これをほぼ2秒弱のうちに行った。 

 「てめっ!」

 一番近い大宮が動きを止めようと覆いかぶさってくる。
 しかし5人の中で一番重量がなさそうなのは大宮だ。おそらく純とそう変わらないだろう。
 かがんだ状態から立ち上がる勢いで胸の中心に向けて体当たりをかます。例え両足を踏ん張っていようと身体の重心近くであるため、体重をクリアすればよろけるはず。
 案の定、大宮は後ろに倒れそうになる。
 そして体当たりで近づいたその流れに乗って胸倉を掴み、片足を軸にして二人の位置が入れ替わるように大宮をまわした。
 振り返ると右前方に歯を食いしばった長身。左前方にまだ3人いる。
 
 クソッ!

 純は大宮を長身に向けて突き飛ばす。2人は地面に転がった。これであと数秒の間、行動時間を稼げる。
 当初の構図では3人組の方に大宮を当て、最低2人を足止めしつつ疾走して 純 2or3人+大宮 長身 の直線の位置関係にすることで長身の最短距離を奪うはずだったが、予想以上に長身の動きは俊敏だった。
 それでも、5人中もっとも厄介なのはリーチが長く豪腕な長身である。これを抑えられたのは前向きに考えるべきかもしれない。
 左手には一対一なら切り抜けられる相手が3人。 
 3人がお互い近い距離から一点を目指せば必ず最短距離を取り合うことになり移動が遅れる。大宮と長身は4秒は持つだろう。
 ちなみに、4秒あれば標準的な体力で静止した状態から15メートルの移動は容易い。
 純は制服の内ポケットとズボンのポケットに両手を突っ込み何かを握り取り出す。
 
 「しねや!」

 先頭の1人が拳を上げた。
 体制を低くして若干距離のある1人目の腹部下に右足の蹴りを入れた。
 ダメージを蓄積させるには内臓のある腹部を狙うべきだが、突き飛ばすには全身に衝撃が通じる胴体の骨格を狙う方が適切。この場合は足が上がらないため股関節付近を狙った。
 退院後続けている筋トレによって運動能力はやっと標準値の足元に達した程度のため体重利用以外の格闘は不利である。賭けだ。
 それでもリーチは前蹴りなら1.2倍長く、突き飛ばせば後ろにかぶる2人に対しても影響が出る。おまけに足の筋力は腕の2倍以上だ。決して分の悪い賭けではない。
 
 「ぬおっ!」
 
 ヒットした。しかしそれは浅い。
 2人目に被さるが3人目はスルーだ。近づいてくる。
 純としては左に迂回してそのまま出口に突っ切りたいところである。
 突っ切ろうと右肩を盾にして衝突覚悟で踏み出した。
 だが相手も力を込めて身構える猶予があり、両腕で容易に止められてしまった。単純に体重の違いが原因と言えるだろう。
 ここで守りに徹している両腕をすり抜け、純は至近距離からさきほど右手で取り出したボールペンを3人目の太ももに突き刺す。非力ながら武器を使ってガードを抜ければダメージは大きいはず。太ももなら振り下ろしで威力も増し両腕も届かない。なにより、足の負傷はとっさの動きを大胆に鈍らせるのだ。幸い学生服の生地は薄く、傷は浅くとも痛みは強いだろう。

 「ってぇ!」

 思った以上に効果があり、容易に左手に回る。
 純 3人目 と直線状に体制を立て直したところで手を伸ばしてきた2人目。
 純は3人目に体重をかけて一直線に2人目ごと突き飛ばすような動作をする。
 同じ手は食わない、と2人目は足を止めてその場で防御体制。
 
 「かかった」
 
 攻撃は来なかった。
 なにせこれは純の仕掛けたフェイクでなのだ。
 まんまと引っかかった2人目、振り返った3人目より半歩早く、純は出口への軌道を完全に確保。
 1人目は立て直したもののその2人に経路を塞がれている為いないも同然。長身と大宮など今起き上がったところだ。大口を開けた。

 「逃がすなぁ!!」
 
 状況は回避した。そう確信したとき。 

 「ぬっ!」

 不覚にも純は足を踏み違えてしまう。
 足首がよじれスピードが落ちる。真後ろには二人目。

 「まてやぁ!」 

 右手を掴まれた。かなりの握力に眉を曲げる純。
 どんどん落とされるスピード。

 「ちくしょう!」

 3人目さえすぐそこに来てしまった。
 純は咄嗟のミスにより絶体絶命に後戻り。
 男2人に掴まれては純では回避できない。
 もう無理であろうか。
 笑ったのは、しかし純であった。
 残された左手に持っているカッターナイフから音をたてて刃を出す。右手を握った二人目によく見えるように。
 そして何のためらいもなく鬱陶しい二人目の腕の上で力強くいた。

 「ぐわぁ!」
 
 驚愕の表情で手を離し、傷の深さを確かめる二人目。
 だが、そこには無傷の肌しかない。
 そう、これもフェイク。
 カッターナイフを知る多くの人間が音に騙されて反応してしまう。ましてや戦闘中だ。
 いくら正当防衛でも出血沙汰など避けたい純であるが、基本的に他人敵視を無意識に行う為、常日頃から隠し持つようにしているのだ。
 用心深さを通り越して異常だろう。皮肉にもそれは6年の隔離生活にもたらされたものである。
 
 「くそがぁ!」

 刃がないカッターの話など知らない3人目がヤケクソになって突っ込んでくる、が。

 「ほらよ」

 右腕に持ち替えてカッターを思いっきり投げつける。
 当然のごとく急所を守ろうと完全に戦意をなくしてしまった。
 いうまでもない、刃物を投げつけられてひるまない者など常識世界には存在しないのだ。
 形勢逆転。
 純の判断力の勝利であった。非力ながら少ない運動量で5人の男を切り抜ける。尋常な度胸と冷静さではない。
 人生の在るべき時間の穴埋めに得た思考の巡る早さ。 
 空白の6年間を終え、純がひたすらやり始めた事はなにより知識を入れること。
 本を読み漁り、パソコンでありとあらゆる情報を頭の中に叩き込み続ける日々。
 他人と接することが病的に苦手な人間は、ひとりきりで空白感を満たせることに没頭し続けたのだ。
 分野を問わずにひたすら知能を集め、集め、集めた。
 そうして、唯一大切な莉への思いが蓄積されたその能力を暴発させた。病的なほどの一途さと集中力が代償を与えた。
 出口をくぐり全速力で階段を駆け下りる純。
 その表情には珍しく、満足の色が垣間見えた。
 純自身、自分の力を試したのは初めてであり、成功から得られる自分の能力への確信に浸っている。 
 莉に見せたかった。彼女に自分の力を示し、安心してもらえるように、あなたの努力が実ったことを表したい、と。
 走りながらそう思っているときだ。
 大勢の人の声が聞こえ、賑やかな渡り廊下まではあと数歩という時だった。
 
 「ごめんな2年?」

 2度目の絶体絶命が、現れた。

 「先に謝っとくわ」
 
  
 
  
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