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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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後日談その3 スカルゴ、棺桶の蓋を開ける

 時系列的にはエピローグのちょっと前になります。

「ど、どど、ど……どおおおおおしよおおおおおおぉおぉお」
「まずは落ち着こうマイ。混乱している頭じゃあ考えられるものも考えられないよ」
「姉上は押しが弱すぎなのだ。何故あそこで何も言えなくなってしまうのか、理解に苦しむな」

 王城の第一王女の自室で3人の男女が話をしていた。
 学院の教室が丸々収まろうかという広さがあるのに、その3人はソファの陰に隠れるようにして会話を行っている。

 頭を抱えて涙目で取り乱しているのがこの部屋の主。マイリーネ・ルスケイロ王女。
 彼女をなだめながら話を前に進めようとしているのが、宰相の娘で親友のロンティである。
 そして他人事だから勝手なことを言っているのが、この国の第一王子のディオルク・ルスケイロだ。あれからずいぶん経つのに、名乗ろうとしてもケーナに「デン助」としか言われないところが涙を誘う。

「もうすでに王妃様の期限は切れてるんだよ! あなたはそこを分かっていない!」
「でも……、だって……」

 焚き付け続けた結果がこれでは、色々と骨を折ったロンティも文句を言いたくなる。これではもういよいよ、最後に残った手札を切るしかない。
 下手をすると王都が大混乱になる結果を生むかもしれないので、こればかりは切りたくなかったが……。

「とりあえず貴方たちは直ぐにでも城を離れて。殿下なら抜け道は熟知されているでしょう。こちらはなんとかします」
「大丈夫なのか、ロンティ? 相手は母上なのだぞ」
「これがたぶん最後になると思いますので、マイリーネは覚悟決めてね」
「う、うん……」

 仕える親友の頼りない返事を聞いて、やれやれと肩をすくめたロンティは仕事着の襟を正すと、足早に部屋を出ていった。キチンと鍵を掛けるのも忘れずに。
 不安げに扉を見つめる姉の手を引いて、ディオルクは窓際まで引っ張っていく。

「ほら、姉上。姉上は知らないだろうけど、この部屋の抜け道を教えてあげるから」
「ディオ……。なんで私の部屋なのに、あなたがそんなに詳しいの?」

 壁の一角を探って仕掛けスイッチを作動させる弟を見ながら、別の意味で不安になるマイリーネであった。






「おう、お袋。丁度良かった!」
「あら、カータツ。どうしたの。何か用事?」

 カータツが村門を出た所で、向こうから歩いて来る母親を見つけた。
 ケーナは戦闘用の装備だが、なんとなく薄汚れた感じがある。トンネルを掘っているという話だが、カータツはその現場を見たことがない。正確には危ないからという理由で近付けさせてくれないからなのだが。

 時々聞く話では掘っている途中でモンスターが出たり、崩落したりするのだとか。
 母親の強さを知っている身としては、今日明日にも東の山々が綺麗さっぱり消失したとしても驚かない自信がある。

「なんかあったのか?」
「ああこれ? トンネルを掘り進めてたら、今度は地底湖のスペースに出ちゃってさ。そっから出て来たウーパールーパーみたいなドラゴン種と戦闘になって倒したんだけど。余波で天井が崩落するわ、工兵隊のドワーフたちが巻き込まれてへそを曲げちゃっうわで、工事が中断されたんで帰ってきたの」
「相変わらず退屈しなさそうなイベントに囲まれているんだなあ」
「退屈しないのはいいことよね、ふふふ」

 本人は楽しそうに笑うが、カータツは呆れるばかりである。

「オプスは入り口を封鎖してから帰るってさ。それでどうしたの?」

 カータツは普段から工房に籠もりきりで、青空の下で顔を見るのもケーナにとっては久しぶりになる。村の外へ出るのは石切場に向かう時くらいで、護衛と荷物運びにケーナ作のゴーレムを連れて行く。
 そうでない場合は、マイマイかスカルゴからの伝言をケーナに伝えに来る時だ。

「姉貴から連絡があってな。王女の一大事だから助けてくれとさ」
「は? え? 何ソレ」

 聞かされた言伝の内容に声のトーンが一段階下がる。
 即時魔法を使って体の汚れを落としたケーナは、王都に向かうべく転移魔法を発動させた。

「カータツ! オプスやルカたちに出掛けてくると伝えといてっ!」
「はいよ。気をつけてなー」

 消え去る前の母親から伝言を受け取ったカータツは、手を振りながら魔法陣が消えるまで見送った。





 王城内を捜索していた騎士に見つかり、城壁の抜け穴からの脱出が一歩遅かったマイリーネたち。

「さあ、姫様も殿下もお部屋に戻りましょう。アルナシィ王妃様から謹慎命令が下っております」

 こちらに向かって手を伸ばした騎士の手に悔しさをにじませるマイリーネ。
 姉を守るように王子はその間に割り込んだ。

「殿下までどうしたというのです? さあこちらへ」
「そうはさせねえっ!!」

 唐突に頭上から掛けられる声に驚いた騎士が見上げるが、視界いっぱいに広がる赤い物体に「しまった!?」と失態を悟る。ピコンという間の抜けた音と共に騎士が倒れ、乱入者がマイリーネたちの前に降り立った。

 赤いピコピコハンマーを右手に持ち、左腕に赤ん坊ほどもあるカエルのぬいぐるみを抱えたケーナであった。

「あなたは……」
「ケーナさんっ!?」
「やーやー、マイちゃんにデン助。久しぶりだねえ。積もる話もあるんだけど、ここじゃなんだから」

 ピコピコハンマーをくるんと回すと3人の足元に魔法陣が出現する。
 目の眩むほどの光が放たれた瞬間、周囲の光景が一変していた。
 天井は斜めで天窓が1つだけ開き、薄暗い室内に光を運んでいる。屋根裏部屋のようだが乱雑に箱が積み上げられて全体的に埃っぽい。

「「ここは?」」

 2人の呟きに答えるように床板の一部が上向きに開いた。

「あら2人ともいらっしゃい。お母様もお帰りなさいませ」
「ん」
「「先生っ!?」」

 顔を出したのは王都の中洲にある学院の長。ケーナの娘のマイマイであった。

「とりあえず皆さん、そこから降りて来て下さい。お茶にしましょう」

 屋根裏部屋から降りて来た一同は、ガランとしていてテーブルとソファしかない居間に通された。
 マイマイは持ってきたティーセットを広げ、紅茶を振る舞うべく準備をする。
 ケーナはテーブルのど真ん中にカエルのぬいぐるみを置き、その頭をもにゅもにゅと撫でていた。

「マイマイ経緯でロンティから話が来てね。王女の一大事って言うんで飛んできたんだ」
「それはロンティがご迷惑を……」
「いやいや、友人のピンチに駆けつけられんで何が友情か」

 マイマイの淹れた紅茶で喉を潤しながら、ケーナはここに来た経由を語った。

 ここは学院の一角にある家で、過去には警備員の為の詰め所だったそうだ。今はただの倉庫となっていて、鍵は学院長であるマイマイの管理している1本だけである。
 話を聞くと学院に在籍していた/している2人は「ああ、あそこの……」と納得していた。

「さてスカルゴに告白しよう大作戦ですが……」
「ゲコォッ!?」
「けっケーナさんんっ!?」

 ぼかんと赤面して縮こまるマイリーネと同時に、素っ頓狂な声がハモるカエルのぬいぐるみ。姉弟の視線は否応無しにそれに向くことになる。
 マイマイだけは額にシワを寄せて難しい顔をしていた。

「さっきから気になっていたんですが、なんですかそれ?」
「固い! 固いよデン助! 数年前に私に怒声を浴びせてくれた粗野なアナタは何処へいってしまったの?」
「自分も大人に成らざるをえないといふほほへふほ(いうことです)!?」

 するりと伸びたケーナの手が、王子の頬をびよーと引き伸ばす。

はふほはへへふ(何の真似です)?」
「子供のくせに猫被るなよぅ、ほーれほれ」

 王子はぐにぐにと縦横にイジられる頬を掴む手を「うがー」と振り払う。

「まったくアンタといると調子狂わされるぜ。ああいてえ」

 赤くなった頬をさすり、砕けた口調で愚痴をこぼす王子にケーナはニヤリとした笑みを浮かべる。

「そーそー。外ではそうじゃないと張り合いがないわぁ」
「初めて合った時と変わらねーし。冒険者は気楽だよなあ……、で?」

 テーブルの上に乗せたカエルのぬいぐるみをぽふぽふと叩き、「これ魔法()生物だから」と説明するケーナ。

「なんか今、含んでなかったか?」
「えーなんのことでしょー。けーなわからなーい」
「気にしたら負けなんだろー。ったく、わかったよ……」

 弟と同じ事を考えてしまったことに、段々ケーナに毒されて来たなあと感じるマイリーネであった。


「さあマイちゃん! このカエルにキミの想いの丈をぶつけるんだ!」

 がしっと両肩を捕まれ、真剣な瞳を向けられてたじろぐマイリーネ。ケーナは一旦マイリーネから離れると、拳を振り上げて力説する。

「この魔法()生物はスカルゴと繋がっているから! 遠慮無くあの子の心にアナタの愛を叩き込んでやって! 毒電波よろしく」
「ええと、どくでんぱ? がなんなのかは分かりませんが、分かりました。ケーナさんを信じます」
「ゲコォ……」

 王子は何となくぬいぐるみが肩を落としたような気がした。
 それとマイマイが益々渋い顔になっていくのを見て首を傾げる。
 ケーナは天井を見上げてから娘に尋ねた。

「それでマイマイ。この建物の防御はどうなっているの?」
「あ、はい。残念ながら強度はそのままですわ。一応探索魔術等への妨害術式は組んでありますけど」
「上出来、上出来」

 ケーナはカップの紅茶を飲み干してから立ち上がると、おもむろに胸の前で手を合わせた。
 マイマイを除く王族2人がクエスチョンマークを浮かべる中、足を軽く開き、両腕を右側に伸ばすと時計のように180度回しつつ左側でガッツポーズを取る。

変ッ身ッ(ミラーチェンジ)!!」

 一瞬だけケーナの全身から虹色の光が迸り、治まったそこにはもう1人のマイリーネが立っていた。

「「えっ!? あれっ!?」」

 王子と王女が目を剥いて驚愕する中、マイマイはティーセットを片付け始める。

「ケーナ、さん、ですか?」
「そーよー。ちょっと囮としてこの姿借りるわね」

 ケーナの化けたマイリーネが腰を捻ったり肩を回したりして自分の動きを確認する。ドレスとは違うお忍び用の外出姿まで同じになっているが、実際にはかなり精巧な幻影を被っているだけである。
 【ミラーチェンジ】は目の前にいる対象の姿を写し取る魔法だ。ただし鏡のように写し取るため、文字や絵があると左右逆になってしまう欠点がある。

「それで……、どうするんです?」

 元の口調に戻ってしまった王子の質問にはマイマイが答える。

「要は姿が見えないから探されるんです。その点から言えば学院は第一捜索目標に入りますね。宮廷魔術師の探査を妨害出来る術師は王都にあまりいませんから。けれども見つかってしまえば捜索の手は緩んで、目標を確保する方に比重が置かれるでしょう」
「という理由で私がマイちゃんになって王都内を逃げ回ってくるわ」

 その理屈に感心して偽マイリーネを見上げていた王子をひょいと小脇に抱える。

「え? いえいえいえ!? な、なんで私まで!?」
「私が1人でいるよりはデン助が一緒の方が信憑性あるでしょ。だいたい探索術式は私には向いて来ないからね。あとこの部屋は女の子が本気の告白をする場なんだから、伴侶候補以外の男性はシャットアウトよ!」

 じたばたと暴れる王子をものともせず、「あとは手筈通りにね。マイマイ」とだけ残して偽マイリーネは出て行った。
 それを「いってらっしゃいませ」と見送ったマイマイ。
 彼女は向かい合うマイリーネとカエルの魔法()生物へ向き直る。

「私も少しの偽装工作のためここを離れます。扉は施錠しますが、内側からは楽に開きます。後はお母様の言った通りにするも良し。自分で考えて行動するのも良し。あなたの後悔のないようにしなさい」
「はい。ありがとうございます!」

 はっきりとした声で頭を下げるマイリーネに、マイマイは嬉しそうに頷いて部屋を出て行く。ガチャリと小さく鍵の掛かる音を聞きながら、マイリーネはカエルの魔法生物と向き合う。

「これが……、スカルゴ様に……」
「ゲコォ……」

 部屋の中ほどに浮かんだ小さな光源に照らされた1人と1体が静かに佇む。
 しばらく俯いていたマイリーネだったが、長めの深呼吸を念入りに行ってからおずおずと話し始めた。

「スカルゴ様は覚えて、いますか? 初めて、会ったときを……」

 一旦言葉を切る。だが魔法生物は返答を返せない。目をパチクリさせているだけだ。

「あの時は、まだ、私は幼くて……。スカルゴ様のことは、お父様のお友達、だとしかみていませんでした……」




「さて先ずは注目を集めないとねー」

 学院を直接出ると足が付きそうだったので、扉から出ずに転移魔法で一旦貴族街へ跳んだケーナたち。スタスタと勝手知ったるなんとやらという風に歩いていく。

 貴族の邸宅前を通るたびに、門前警備をしている者たちがこちらを見て目を丸くしていた。ひらひら〜と手を振って、にこやかな笑みをつけるのも忘れない。
 ケーナの笑顔には軽い魅了効果が付加されている。せいぜい第一印象を一段階上げる程度のものでしかないが。それでも彼等は礼を返してくれる。

 なんとなく対応が楽しくなってきたケーナは、通りのあちこちに愛想を振り撒きまくる。
 後を着いてくるデン助が「お気楽なものですね」とため息を吐く。

「大丈夫でしょう? お貴族様に愛想を向けてるんじゃないんだし」
「貴族だったら大問題ですよ。派閥というのをご存知ですか?」
「知ってる知ってる。少し前に息子の所に石像買いにきたご婦人に聞いたよ〜。今の国王様にまだまだ続行してもらいたい人たちとか、デン助を王位継承1位にしたい人たちとか。マイちゃんを国王に据えて、自分たちの血縁を婿に入れたい人たちとか」
「よくそこまでご存知ですね……。そのご婦人の名を聞いてもよろしいですか?」
「『私がこんなこと言ったなんて秘密よ〜』って言われちゃったから言わない」
「そうですか」

 そして再びため息。
 王子ではあるが、継承権2位には色々と気苦労があるのだろうと思ったケーナは、それ以上の口出しはしなかった。
 そうこうしている内に貴族街を抜けて王城前に近付いた頃。ようやく前方から騎士が2名駆け寄って来た。

「「姫様! 殿下!」」

 先程ケーナが気絶させた騎士ではないようだ。
 2人は交互に王妃が姫の外出禁止を命じたことや、王子の家庭教師が待ちわびていることを告げた。
 それに偽マイリーネは頷くと「では戻りましょう。お二方ともエスコートをお願いできますか?」と手を差し出した。デン助が目を丸くする中、要請に従い騎士の1人が偽マイリーネの手を取る。
 その腕がスコンと前触れもなく抜けた。騎士の手にあるのは肘から先だけだ。

「あ!? うわっうわわわっわっ!?」

 騎士2人とデン助が絶句し、生首ならぬ生腕を手にした騎士は反射的にそれを放り投げてしまう。
 騎士の手を離れた生腕はポガーンと爆発し、黒色の煙が騎士たちを包み込む。

「なっ、なんだこ、ぶわーくしょいっっ!?」
「姫っこれはい、い、へーくしょいっっ!!」

 黒色の煙に纏わりつかれた2人はくしゃみを連発する。
 逃れようと左右に動くが煙の範囲からでることはかなわない。

「……なんですか、あれは?」
「ちょっとした悪戯魔法かな。効果は5分くらいしか続かないけど」

 脇に抱えたデン助の質問に空中に避難していた偽マイリーネが答える。
 20種類以上の悪戯がランダムで発動するもので、使った本人も何が起こるか解らない魔法だ。今回のこれは「コショウでくしゃみをする」というものである。

「で、姫発見の報告を他の騎士たちにはどうやって伝わるのかな?」
「どうって……。普通に走って探してじゃないですか」
「え? マジ? 通信の魔道具とかないの?」
「そんな高価な物が騎士たちに渡るほどあると思っているんですか!」
「そっかー。じゃあ今回の騒動のお詫びに作るかあ。シグナルとかなら扱いも楽でしょ」

 高価な通信の魔道具を騎士の数だけ作る、と聞いてデン助の顔に驚きが浮かぶ。ケーナのことは魔法に精通しているだけだと今まで思い込んでいたからだ。

「その通信の魔道具というのは……?」
「ん? デン助も欲しいの? 別に構わないけど」
「ちょっ、バッ!? そんな高価なもの支払える訳ないでしょう!」
「高価? 魔韻石(まいんせき)と塗料と鉄が少しと木材で済むし、ちっとも高くないよ。それに今回の騒動のお詫びだしねえ」

 のんびりとしたやり取りの後、デン助を小脇に抱えたケーナは河の対岸にある市民街へ移動した。




 マイリーネがスカルゴと出会ったのはまだ5〜6歳くらいの頃だ。
 せっかく生まれた王位継承者が魔力を暴走させて亡くなるという事件があった。それを回避するため、マイリーネが物心ついたくらいに教師役として呼ばれたのがスカルゴである。

 「さあスカルゴ殿! 早く早く!」
 「兆候も無いと聞いていますし。今日明日で暴走なんて起こりませんよ、陛下」
 「何を言う! 可愛い娘のためならばどんなことでも準備万端疾風迅雷が私のモットーだ!」
 「陛下は何と戦う気ですか……。こんにちはリトルレディ。初めまして」
 「だれ?」
 「親バカの君の父上に雇われたしがない大司祭だとも。しばらくよろしく頼みますよ」
 「きらきら?」
 「おや、眩しかったかい? レディには誠実に当たるべし、というのが母上様の教えなのでね」
 「貴様ーっ!! 可愛い娘を誘惑しているのではなかろうなっ!!」
 「だから診て欲しいのか診て欲しくないのか、どちらなのですか!?」

 最初は父親とド突き合いをする変な大人という認識であった。

 「こんにちは姫殿下。本日はどうかな? 痛いとか苦しいとかはないかな」
 「マイリーネ」
 「ええ、貴女の名前でしょう。存じていますよ」
 「だからマイリーネでいい。お姫さまいらない」
 「なかなか魅力的な提案ですが、あちらにいる貴女の父上の顔が羅刹のようなので……」
 「ぐぬぬぬぬ」
 「父上じゃま」
 「ぐふっぅ!?」

 何度か顔を合わせるうちに、それが楽しみになっていった。
 その時の顔を見られ、顔を綻ばせていた母親に恋心を指摘されたことも。びっくりして部屋を飛び出し、城の中で迷子になってしまった事は彼女の忘れたい過去である。

 「おやおや、人族の子は育つのが早いのですね。少し前までこのような……」
 「いえ、さすがに人差し指と親指で摘めるほど小さくはありませんでしたわ」
 「そうでしたか?」
 「そうです」

 叶うならば神殿に勤めるシスターとなって、毎日でも顔を合わせたいと思ったことも1度や2度ではない。
 気が付けば思い出話に涙腺が緩み、ポロポロと涙を流していた。

「ゲコッ!」

 カエルの魔法生物が懐を探るような動作をし、自分が何であるかにハッとなり、グッタリとうなだれていた。手を伸ばそうとして届かないことに愕然とする。おずおずと口先を近付けて、涙を拭ってくれた。

「……え」

 既視感を感じてマイリーネは目を見張った。今の感覚に覚えがあったからだ。
 どうして自分が王族なんだろうと、しがらみを何もかも捨て去って自由になれたらどんなに良いだろうかと。
 でもそんな逃げを自分は許せなくて、矛盾した心を抱えて悩み苦しみ、みっともなくスカルゴ(あの人)の前で大泣きしてしまったことがあった。

 その時のスカルゴは何も言わず、頭を優しく撫でてくれるだけであった。それがどうしようもなく嬉しくて、悲しくて、暖かくて、心が穏やかになって。指で涙を拭ってくれた時と今のカエルの行為が似ているのである。

 いや、女の勘が同一だと告げている。

「ま、まさか……、す、すかるごさま……?」

 マイリーネがその名前を口にした途端、カエルの魔法生物から光が(ほとばし)った。
 それも一瞬のことで、光が治まった後にはそっぽを向いてなんとも言えない顔をしたスカルゴが立っていた。何時も落ち着いた感じの青と白の法衣も、気のせいかしおれているように見える。

「あー、そのー、ですねー」
「なぁっ!? ななななななななななななんなんなんなんにゃにゃにゃにゃにゃにゃ……」

 瞬間沸騰よろしくドカンと真っ赤になったマイリーネが事態についていげず「ふにゃぁぁ」と気絶するのに時間は掛からなかった。

「マイリーネッ!?」

 と。一番聞きたかった人の声で、彼女の意識は闇に落ちた。


 次に彼女が目覚めた時はぼんやりとした光に焦点を当てるより前に、スカルゴのドアップがこちらを覗き込んでいるのが分かった。
 反射的に顔を手で覆い、体ごと顔を背けようとして横になっていたソファから転げ落ちる。

「大丈夫ですか、マイリーネ?」

 絨毯に俯せになるような格好で名前を呼ばれ、恥ずかしいやら顔を見せたくないやら死にたくなるやらである。面と向かって言えない事を、面と向かって言っていたのだ。羞恥心の方が何よりも勝る。
 俯せになっているマイリーネと同じように、スカルゴもテーブルとソファーの間に座る。

「そのままでいいので聞いて下さい」
「……聞きたく、ないです……」
「では1人言ならば問題ないですね」

 なんとなくケーナと似ている部分がそこにあった。スカルゴはマイリーネの髪を梳き、話し始める。

「実は朝から母上の強襲を受けて、あの姿に変えられると同時にスキルや魔法を封じられてしまったのですよ」

 なんでそれがカエルなのか首を傾げるところだ。
 それ以前に口付けで涙を拭われたことに再び瞬間沸騰に襲われるマイリーネであった。

「そして貴女には謝罪を。何度も何度も訪ねて来たのにはそのような理由があったのですね。恥ずかしながら、私は貴女の服やアクセサリーや髪型の変化が何を意味するのかも分かりませんでした」
「気付いて、いたんですか?」

 マイリーネが俯せで蚊の鳴くような声に、スカルゴが小さく首を振った。

「情けない事ですが、貴女が帰った後に全てシスターたちに教えてもらいましたよ。『どうして褒めないのか』とも散々怒られましたね」

 ははは、と乾いた笑いをこぼすスカルゴにいつものエフェクトを飛ばしている時の覇気が感じられなく、マイリーネはようやく顔を上げた。

 目をを合わせたスカルゴの視線はふらふら〜と泳ぐ。そこでマイリーネはスカルゴの顔にも朱がさしているのだと気付く。
 スカルゴは頬を掻きながら視線をさまよわせ「あー、コホン」と咳払いをして居住まいを正す。

「マイリーネ。正直、貴女より長く生きている身でこのようなコトを頼むのは気が引けるのですが……」

 胸に手を当て、真摯な瞳を向けて来るスカルゴに、マイリーネの心臓は早鐘を奏でる。

「私に……、ですか?」
「そうです。貴女にしか頼めません。私に、恋愛を教えて頂けませんか?」
「えっ!?」
「報酬は……、そうですね、先程のプロポーズの返事、でどうでしょうか?」
「ぷっぷろっ!?」

 カエルのぬいぐるみだったスカルゴに溜め込んだ想いをぶちまけたのだ。プロポーズのようなものである。言ってしまったものはもう戻らない。マイリーネは俯き加減になりながらも小さく頷いた。

「良かった」

 どこかホッとした感じのスカルゴが安堵感のある笑みを浮かべ、手を差し出す。未だ顔を直視出来ないものの、マイリーネがおずおずと差し出された手に自らの手を重ねた。


 2人で部屋を抜け出すと、腕組みをしたマイマイが壁にもたれかかっていた。
 スカルゴがマイリーネの手を握っている姿を見て、マイマイの表情に緩みが見える。

「先生。あの、その……」
「マイマイ。迷惑を掛けましたね」

 申し訳なさそうに俯くマイリーネには笑顔を。
 素直に頭を下げた兄には嫌そうな顔を。

「うわぁ。光って唸らない上に素直な兄さんがこんなにキモいものだなんて初めて知ったわ……」

 遠慮の無い妹の皮肉はスカルゴの胸にブッスリと突き刺さる。「うっ」とたじろいだスカルゴがぐらりと揺れるも、その腕に抱きついたマイリーネがなんとか支えた。

「せ、先生……」
「なぁに? もう正妻気取りかしら。先に言っておきますけど、私は姫様を義姉(ねえ)さんなんて呼びませんからね」

 抗議の視線を向けて来るマイリーネに皮肉たっぷりに返す。別に嫌みではなく「正妻」や「義姉」の言葉にあたふたするマイリーネの様子を見て、ニヤニヤしていた。それを見たマイリーネはからかわれたのに気付いて益々赤面化が進む。

「おっと、兄嫁をからかう(こんなこと)している場合じゃないわ。さっさとお母様を止めないと……」

 マイマイはわざとらしく今気付いたように手を叩くと、学院の門へ走り出した。




 場所を変えて対岸の市民街側にやって来た偽マイリーネとデン助。
 捜索している騎士に気付かれ易いように、大通りや市場を選んで移動するもあちこちから声を掛けられていた。

「おや姫様! どうだい瑞々しいだろう! 1つ持って行きな!」
「あら姫様。出来たてだよ! お城の皆で食べておくれ!」

 その度に果物でいっぱいになった籠を貰ったり、サーターアンダーギーもどきを袋いっぱいに貰ったりだ。あっという間に偽マイリーネだけでなく、デン助の手元も貰い物だらけになってしまう。

「いやー、マイちゃん大人気だねえ。こりゃイイ女王様になれるわ〜。ちゃんとスカルゴの手綱を握ってくれるといいなあ〜」

 貰い物は全てアイテムボックスの中へ放り込み、自分で買った串焼きを頬張る。
 それでもサービスだと言われ、2本注文のところ4本も貰ってしまった。デン助も以前はガキ大将としてこの界隈を暴れ回っていた経験から、串焼きの食べ方が分からないなんてことはない。

「てっきり貴女は、姉上とスカルゴ様のお付き合いに反対するものだと思っていました」
「んー、まあ反対はしないねー。お勧めもしないけど。要は当人同士の問題で、母親の私が口出すことでもないしね」

 放任しすぎてどの面下げて母親だと言えるのかなあ、と自嘲する。
 里子に出したことに愚痴も言って来ない娘/息子たちには頭が下がる思いだ。

「デン助的にはアレがお義兄(にい)さんになるのはウザイかもしれないけど」
「そうですね。朝から晩まで城の中がピカピカ光っているのには遠慮したいところですね」

 初めて意見が合うことに顔を見合わせて苦笑する。
 串焼きを食べ終えた頃に、騎士の接近をキーが感知した。

(ケーナ様。哀レナ生ケ贄ガ来マシタ)
「さて、あの2人が結論を出す前に、何人沈むかな?」
「お手柔らかにお願いします……」

 気合いを入れる偽マイリーネに、頬が引きつるしかないデン助であった。自身の経験から彼女に反抗することの虚しさは身に染みている。

「姫様! 殿下! 申し訳ありませんが強制的にでも捕縛させていただきます!」

 意気揚々とやって来た騎士たちであったが、ケーナの魔法の前にはまったくの無力であった。


 そのいち。
「ぐわあああっ! なんだこれはっ!? 顔に貼り付いて外れないいぃぃぃっ!」
「なんですかあの豚の鼻の付いた眼鏡は……?」
「まあ、そのまんまかな」


 そのに
 ガゴーン!
「ぶけッ!?」
「ああっ、どこからか落ちてきたたらいが頭にっ!」
「定番だしなあ」


 そのさん。
 スト――ン!
「うわああぁぁぁー……」
「うわっ、この穴は底が見えませんけど大丈夫なんですか?」
「大丈夫。人は死なない魔法だし」
「ところで先程から騎士が被害にあうたびに、周りからではない笑い声が聞こえるのですが?」
「仕様だしねえ」

 偽マイリーネに近付いた騎士たちが次々と不幸に見舞われるのだ。市民たちはドン引きである。
 ついでに市民たちとは関係ないオバチャンたちの笑い声が響き、被害に遭った騎士たちの心を折っていた。

 後から駆け付けた仲間の騎士たちも手を出しあぐねている。
 膠着状態に陥った所へ竜人族(ドラゴイド)の騎士が人混みをかき分けて現れた。

(げ!? シャイニングセイバー……)

「何をやっている!」
「だっ、団長!」
「とっとと姫様を城へお連れせんと王妃様の機嫌が悪くなるばかりだ……ぞ?」

 ケーナの想定してる上で最悪の懸念が早々にお目見えだ。
 同じゲーム出身のシャイニングセイバーに鑑定でも使われれば、王女でないことが一発でバレてしまう。辺りに倒れている部下を睨んでいた眼光が、偽マイリーネに向いた瞬間更に鋭くなる。

「ぜあっっ!!」
「「「「団長っ!?!?」」」」
「おっと危ない」

 いきなり王女を斬ろうとしたシャイニングセイバーに、騎士たちから悲鳴が上がる。
 普通の人間だったら上下半分に断たれている剣筋だが、偽マイリーネは難なく回避して後方に跳ぶ。その辺にあった家の屋根に着地すると、遠巻きに見ていた市民から拍手喝采が巻き起こる。

「はい殿下大人しくして下さい」
「えっ!? えええええーっ!」

 ただしデン助には影響ないと見切っていたので、その場に置いてけぼりにされた。そして手の空いている騎士にあっさり捕獲されてしまったのである。

「団長っ! 姫様を斬ろうとするなんて何を考えているんですかっ!?」
「馬鹿よく見ろ! 偽物だ!」

 言われて目を凝らして見る騎士たち。しかし鑑定の使えない彼等にケーナの魔法を見破る(すべ)はない。

「全然違いが分からないんですけど……?」
「ええいもうっ! とっとと正体を現せ! こんなことするのはお前しかいねえだろう! ケーナ!」
「あー、バレたー」

 言い当てられては素直にコピーを解く。
 塵のように空気に解け消えていくガワの中からケーナが姿を現すと見物人と騎士団からどよめきが上がった。

「ちょっと何やってんですか団長ぅ! 自分の恋人を斬ろうとするだなんてっ! オーガ! デビル! 人でなしぃっ!」
「「まだそのネタ残ってたのっ!?」」

 少ない女性騎士から非難の声がシャイニングセイバーへ飛ぶ。当人たちにとっては、もう廃れていたと思っていた話なので寝耳に水のことである。
 どよどよどよと動揺が見物人にまで広がった。

「え、なに?」「恋人を斬ろうとした?」「セイバーさんが?」「なにそれ酷い!」「痴情のもつれ?」「修羅場だ修羅場」「でもあれ大司祭様の母親じゃない?」「え、横恋慕なの?」「略奪愛だ!」「まあ落ち着け」「大司祭様可哀想…」「でもさっきまで姫様だったけど」「姫様の姿のうちに()っちまおうと?」「謀反! 謀反なの!?」「なんて酷い」「なんて計画的なんだ…」「――!」「―…!?」「  」「 」「」

 もう収拾のつかない言いたい放題である。
 ケーナは大司祭の母親としてそこそこ有名人なので、噂話はいつものことである。苦笑して見守るしかないが、騎士団であるシャイニングセイバーにとっては普通に醜聞であった。

 「もう許さねえ!」とブチ切れたシャイニングセイバーが、剣を構えて闘気を纏う。
 周囲で固唾を飲んでいた騎士たちが慌てて距離をとり、市民たちに避難勧告を行った。

 だがケーナが「その挑発受けて立つ!」と言った瞬間、蜘蛛の子を散らすように誰も彼もが逃げ出した。
 体の周りに銀環が出現し、とんでもない魔力を吹き出したケーナに、さすがのシャイニングセイバーも冷や汗を垂らす。

 胃の痛くなるような緊張感が辺りに漂い、遠巻きに見ていた人たちが息を呑む。
 市街地崩壊のビジョンを誰も彼もが抱き始めた時、中洲から上がった1発の火球が破裂して緊迫した空気をぶち壊した。

 皆がびっくりして胸を押さえながら上空を見上げる。
 爆発後の硝煙がたなびく中、皆の視線が反れたのをいいことにケーナは戦闘態勢をあっさりと解く。

「はーいはいっと。時間稼ぎ終わりー」
「え?」

 拍子抜けするほど間延びした声に、皆が一触即発から免れたと胸をなで下ろす。
 シャイニングセイバーも全力全開のケーナと戦わずに済んだことに内心安堵した。

「じゃあシャイニングセイバー。今回のお詫びは後日ね〜」
「ちょっちょっと待てぇい! なんだ時間稼ぎってぇ!?」

 転移魔法で消えようとしていたケーナを慌てて呼び止める。

「えー、時間稼ぎは時間稼ぎー。私の役目は終わったの」
「じゃあ何で姫様に化けてたんだよ! お前が誘拐したんじゃねえのかよ!」
「あー……。誘拐はしたかも。でも監禁してたのマイマイだしなあ」

 計画手順を指折り反芻しながら素直に白状するケーナ。
 さり気なく娘の関与を織り交ぜるあたり、酷い母親である。

「ってことは学院かっ!?」
「でも時間稼ぎ終わったから、今頃はお城に向かってるんじゃないかな?」

 部下を学院に走らせようとするシャイニングセイバーを脱力させる解答がケーナより飛び出す。頭を抱えるシャイニングセイバーに騎士団員は苦笑いだ。

「だーっ! くそっオプスの仕業かっ! 無駄足踏ませやがって」
「オプス関与してないけど」
「……ナニソレコワイ」

 衝撃の告白!
 虚ろな瞳になったシャイニングセイバーはぶっ倒れた。
 騎士たちが団長に駆け寄ると彼の滂沱が水溜まりになっていたという。

「あ、さっき貰ったのマイちゃんに渡しておかないとねえ」

 役目は終わったと安堵したケーナは、何が何だかと困惑する現場を放って学院へと転移をした。


 2日後。
 第一王女マイリーネと大司祭スカルゴとの婚約が発表され、国中がお祝いムードにつつまれた。

 まあ、それはいいのだが。
 即結婚とならなかったのには別の意味で切実な問題があったからだ。

「いやーまさかねえ。大司祭の後任が居ないとは……」

 後任を選ぶための書類が執務机の上に山脈となっているのを眺めながら、ケーナは溜め息を吐いた。
 大司祭の後任が決まっていないどころか、司祭から大司祭への教育が必要な業務が滞っていると聞けば、呆れかえる他ない。

「ここ80年くらい兄さんが君臨してたから、誰も後任なんて考えなかったんじゃないんですか」

 自分と母親の分だけ紅茶を淹れ、寛ぎモードのマイマイが肩を竦める。

「暢気なことを言ってないで、誰か手伝ってください!」

 頭上に暗雲たちこめるエフェクトを浮かべながら、書類を捌きつつスカルゴが悲鳴のような泣き言を漏らす。

「私の仕事じゃないし」
「私の仕事でもありませんわ」

 母娘ともきっぱりと断る。
 暗雲の濃度と厚みが増した。

「あ、あのっ! 私でよろしければっ!」
「いいんです、マイリーネ様。ここで甘やかしては兄さんの為になりません」

 戸惑いながら手伝いを申し出たマイリーネを、マイマイが執務机から引き剥がす。

「「さっさと終わらせて結婚しようぜ!」ぐらい言ったらいいんだよ。マイちゃんは」
「ええっ!?」

 母娘ともに尻に敷け的なことを言われ、マイリーネが赤面して縮こまる。
 それを「初々しいなあ、可愛いなあ、スカルゴに渡すのは勿体無いなあ」などと不穏なことをケーナは考えていた。口にはださないが。母親に妙な目で睨まれているのを感じたスカルゴは冷や汗が垂れまくりである。

 一応城下を騒がせた罰として城まで出頭したのだが、お咎めはなしであった。
 個人的に騎士団の方へお詫びの品を届けたくらいである。
 王様たちはケーナと親戚付き合いが出来ることにたいそう喜んでいた。

「とりあえずお土産買うのに付き合ってよ、マイマイ」
「ええ、ルカのね。最近の王都での流行りは任せて」

 やれ服は何々だとかアクセサリーはどうとかだとか。和気あいあいと会話の弾む母娘が、執務室を出て行った。

「……はあ……」

 普段であればケーナが居るだけでハイテンションになるはずのスカルゴだったが、今さっきまで謎の緊迫感で薔薇も咲かなかった。
 しおれた朝顔のようなスカルゴを励ますように、マイリーネが寄り添う。そのたおやかな手を取ったスカルゴとマイリーネの視線が絡み合った。
 なんとも甘い雰囲気になりかかったところで、2人の接近が急停止する。

 執務室の扉が薄く開き、半眼のケーナが覗いていたからだ。

「「…………」」
「へー」
「あ、あの、母上、様?」

「……スカルゴ」
「はっ、ハイィッ!!」

 ジ――――と見つめられた挙げ句、感情の篭もっていない声で名前を呼ばれ、自然に背筋が伸びる。
 怒られる。これは怒られると覚悟を決めてガチガチなスカルゴに、ふっと笑みを漏らしたケーナは「がんばんなさいよ」とだけ言って扉を閉めた。


「お待たせ〜」
「兄さん、どうでした?」

 神殿のホールでマイマイと合流したケーナは、くすくすと笑う。

「イチャイチャしようとしてた。もげろ」
「なんですかそれー?」

 昔、ネットでよく見たフレーズを呟けば、マイマイは首を傾げる。
 尚も笑い続けるケーナに話し掛けようとしたところ、奥から轟く「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!」という雄叫びが神殿全体を揺るがした。

 マイマイだけでなく、ホールにいた神官やシスター、参拝客までもがびっくりして足を止める。
 神の教えを説こうとしていた神官長やシスターが我に返り、「ちょっと失礼」と言い残して原因を探りに行ってしまう。

「あらあら、先が思いやられるわねえ」
「兄さんに何をいったんですか?」
「ちょっとね」

 詳しく聞きたかったマイマイだが、こうなるとケーナが口を割らないと分かっているので諦めた。
 ケーナたちが去った後、大司祭が神官長に怒られる声が響いてくるのに時間は掛からなかった。

◎サブタイトル
 結婚が墓場だから、その前ということでこのように。

◎デン助
 やっと名前が……。

◎魔法()生物
 正確には魔法(で姿を変えられ真実の名を呼ばれることで術が解ける)生物いきものである。

◎変身
 もちろん、オプスの仕込みである。

◎ご婦人
 身も蓋もないが王妃様である。

◎シグナル
 5桁の数字で遠方とやり取りをするアイテム。ポケベルのようなもの。

◎シャイニングセイバー×ケーナ
 騎士団の中では常識。

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