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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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66話 後片付けをしよう

 戦闘がひと段落したプレイヤー達が、念の為残党が残っていないかと捜索している時。 地精の整地していた側、断面となった三階層目の穴よりほうほうの態で這い出した二つの影があった。 片方は首なし枯れ木悪魔のシュベズ、もう片方は四本腕の黒い竜人型の悪魔ドレクドゥヴァイ。

「シ、死ヌカト思ッタ……」
「さささすが十三人の守護者がひとり。 わ、我をあっさり倒したのも伊達ではないな!」

 一度はケーナに倒されたが“死亡による召喚ペナルティ”の制限が取り払われたため、再びオプスに召喚されたドレクドゥヴァイである。 例のオプスが潜んでいたダンジョンで、廃墟と化した最下層のボスの役目を任されていた。 ……のだが、それが何故こんな所にいるのかと言うと。

「これで主の密命は終わったとみてよいな、シュベズよ」
「イヤ、後ハコノ場カラコッソリ立チ去ルトイウ仕事ガ残ッテオ……」

「ほう、その前に貴様等へ問いただしたいことがあるんじゃがのう?」

 二体の背後から投げかけられた低い声。 おそるおそる振り返れば、『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』の文字と『阿修羅像』を背景に(オプス)が仁王立ちをしていた。 小さな悲鳴を上げて後退りしたシュベズとドレクドゥヴァイは、慌てて片膝を付いて臣下の姿勢を取る。 その行為を冷めた眼で見下ろすオプスは二体へ質問を投げかけた。

「ドレクドゥヴァイはダンジョンでの留守番を頼んでおいたと記憶しているのじゃが?」
「はっ! 務めておりました。 ところがシュベズがやって来るなり『主より密命がある』と連れ出されまして」
「密命?」
「この地下に潜んでいた魔物どもを支配して、主のお仲間が倒し易いようにぶつけろと。 それを果たしたところです!」 

 眉間にシワを寄せたオプスは睨み付けるような視線をシュベズに。 左胸のうろに納まる頭蓋骨はその視線から目を逸らし、姿勢を低くするだけだ。 主との間に無言タイムが広がると、ハッと気付いたドレクドゥヴァイがシュベズを凝視する。

「まさか『主からの密命』とは貴様の妄言かっ?!」
「モ、妄言トハ失敬ナ! ブツケル種族ノ算段ヲシタノハ誰ジャト思ッテオル」
「そりゃお前だな、我はふんぞり返ってただけだしな」
「ソウジャロウソウジャロウ、……ハッ」

 売り言葉に買い言葉、ついベラベラと口を滑らせたシュベズは、すぐ傍から発生した凶悪な威圧感に背筋を凍らせた。

「ほほう、貴様の勝手な行動でケーナが要らん勘違いをし、疑惑の一端が此方を向いていると言う訳じゃな」
「イ、イイエッ、ケッ決シテ主ノ立場ヲ不利ニスルヨウナ事ハ……」

 オプスはわたわたと手を振って弁明をするシュベズに背を向けると、右腕を上げ指を鳴らした。

 大きくも小さくもないパチンという音は、予め待機していたレッドドラゴンを呼び寄せる。 バサリと砂塵を起こしながらシュベズの背後に着地した紅玉(ルビー)色の鱗が煌めく全高三十メートルの巨体。 感情を感じさせぬ瞳は二体の悪魔を睥睨する。 ドレクドゥヴァイはシュベズを見、主を見て「え、我も?」と驚愕した。

「いやちょっと待てせめて普通に送還するとかダナ」
「ソウジャ痛イヤラ苦シイヤラノ消エカタハシトウナ……」
「連 帯 責 任 だ!」

 直後、鉄をも溶かすような高温の炎に炙られ、二体の悪魔は跡形もなく消滅した。 永久に失われた訳ではないので、再召喚は可能である。 
 一連の裏事情を後でケーナに説明したオプスだったが『功労者になにしてんの!?』と、ケーナに張り倒されるハメになった。







「合体魔法と言うのは?」
「ない」
「えええっ!?」
「あれはねー、ゲーム開始時の所属国の道具屋で七種の基礎魔法を買うでしょ。 その後にもう一回売り物のラインナップを覗くと出て来るの。 故にあれはクエストじゃないから、コピーして譲渡は出来ないんだ、ごめんねー」
「ある意味隠しアイテムと言いますか、見落としがちな秘密情報ですよねえ」

 海に落ちた者を引き揚げた後、周辺を一通り捜索して残党が潜んでないかを確認したプレイヤー達。 爆発を地に潜ってやり過ごした土精は整地を再開し、スキルマスター三人はドラゴンを送還して、報酬の技能(スキル)譲渡作業に移る。 各三国にはケーナがしたためた手紙を風精に送ってもらい、今回の騒動が無事に終わった事を伝えてある。 フェルスケイロにはシャイニングセイバーが、ヘルシュペルにはコイローグが帰還後に詳細を伝える予定だ。 オウタロクエスだけはケーナが直接赴くつもりである。
 ケーナが後で聞いた話によると、ヘルシュペルとオウタロクエスは演習という表向きの理由で、国境警備を厳重に警戒していたらしい。 実際には兵が国境に辿り着く前に事が終わってしまうという結果になったのだが。 廃都に近いフェルスケイロだけは一度襲撃された前例から戒厳令を敷き、万全の体制を整えていたのだとか。 闘技祭の最中だったので民衆に多少の不満は残ったようだが、スカルゴ大司祭による『女神からの啓示が下された』という演説に殆どが納得した。 王都の空に現れた天使もその『啓示』を後押しする要因になったと、ケーナは息子から聞き及んでいる。 天使の発言の大半が意味の分からないものだったことにも起因して。



 現在はすっかり整地の終わった王都の入り口だった場所。 全員がリラックスして名刺交換ならぬ近況や雑談の真っ最中だ。 大半の者が自分以外のプレイヤーに会うのが初めてだったり、もう他に居ないんじゃないかと諦めていたりだと言うのだから、騒がしさもひとしおだ。

「そうそう、サハナもオウタロクエスへ行っておかないとね?」
「なんでですかお姉様? 私、何処かの国に用事は無いんですが……」
「娘が身を粉にして二百年も国のために働いているんだから、(ねぎら)いに訪問するくらいはしてあげなさいよ」
「…………むすめ?」
「里子のサハラシェードよ。 私を真似て作ったーって言いに来たでしょ?」
「…………」
「…………」

 奇妙な表情で固まるサハナ。 楽しそうにソレを眺めるケーナ。 特に隠す話でもないので周囲で聞いていた者は囃し立てる。

「おー、サハナは王母様だったのか。 権力者の仲間入りだな」
「老後まで安心設計?」
「ハイエルフの老後って何時だよ……。 国が潰れるんじゃね?」
「そして愛憎渦巻く後継者争いの渦中へ」
「最後には毒入りスープで暗殺されるという」
「……惜しい人を亡くしましたね」

「やかましいっ!!」

 サハナが声を張り上げると「わー」と散っていく一同。 幼稚園児のような光景に爆笑する何人か。

 端の方では黒コート姿のオプスが所在なさげに立っていた。 レア装備から立ち昇る黒い霧のエフェクトに皆が怯え、誰も技能を貰いに近寄ろうともしない。 実は普段から単独行動や濃いプレイヤーと一緒だったために、一般プレイヤーとどう接すれば分からないだけである。 一人途方に暮れていただけというのは、彼だけの秘密だ。

 技能(スキル)譲渡は、ケーナと隠れ鬼がいれば問題ない人数だったので、あっさり終わった。 ほとんどの者が戦闘系でなく、【温水】や【真水】等のゲーム時代では死にスキルだった日常系を選んでいた。 コーラル達のように、冒険者として生計をたてている者は極少数のようである。

 中には「ヘルシュペルで服屋やってるから、オーダーメイドも受け付けてやんぜ」とか、「フェルスケイロで飲み屋やってるからいつでも来な!」と店の宣伝をしてくる者まで。 実は皆意外と近くに居たんだなあと苦笑するケーナだった。

「イェーガーさんは今なにしてるんです? 結婚はしてるような事を言ってましたけど」
「ああ、ちと道具屋とかな。 ()ポなら自作できるし」

 『小ポ』とはゲームの省略用語で、初心者が最初から持っている支給品の【ポーションⅠ】である。 効果はHPの回復が五十~八十程度。 ケーナが普段『微ポ』と呼んで作っている【ポーションⅡ】は百五十~二百程度。 ゲームでは魔法の方が安く済み、回復力が『微ポ』の倍だったので、使用するのは始めたばかりの初心者から中級者に足を突っ込んだ者くらいだ。 今の世界では『小ポ』でも上位のアイテムとされているらしく、イェーガーの作る物はかなり重宝されているとか。

「ああ、この世界のポーションって作るのに手間が掛かるし高いよね」
「銀貨三枚とか洒落になんねえよな」

 学園で見た作成風景を思い出してうんうんと頷くケーナ。 イェーガーと話を聞いていたシュピラールまでもが同調して頷いていた。 シュピラールはヘルシュペル北西部の漁村で水産加工のような事をやっているらしい。 彼が取得した技能は【作成:馬車】である。

「流通を妨げていた盗賊がやっと退治されましたからね。 この技能で冷凍車ならぬ冷凍馬車が!」
「そ、それはなによりですね……」

 力説するシュピラールに退治側のケーナは若干引き気味だ。 更に話を耳にした元盗賊(コイローグ)も周囲を見渡し顔を青くしている。 何人か店を持つ者がシュピラールの話に混ざり、盗賊に流通を止められたと憤慨している者が多い。 盗賊は捕らえられ、ギロチンに掛けられたことになっているので、皆は晴れ晴れした表情だ。 ここで今更蒸し返すこともないだろうと思ったケーナは、口を滑らさないようにとコイローグに釘を刺す。 「え、でも」と口ごもるコイローグの頭を後ろから伸びた灰色の手が掴んだ。

「おい小僧。 ここで余計な事を口にしてケーナの気遣いをフイにするんじゃねえぞ。 真実を聞きつけた途端、あいつらがお前をフルボッコにしても自業自得だからな。 おいオプス!」

 エクシズはコイローグの頭を鷲掴みにしたままオプスを呼ぶ。 憮然とした表情で近付いてきたオプスを見るなりコイローグは小さい悲鳴をあげる。

「お前、コイツをフルボッコにするといったらどうする?」
「全力で【滅殺の槍(ザン・ラ・バーシュ)】じゃな」
「四百レベルにそんな上位雷系魔法なんか使ったら蒸発するでしょうがっ!」
「【生かさず殺さず(てかげん)】を併用するからHP1で生き残る、問題あるまい」
「ひいっ!?」

 あっさりとオプスの言いたい事を察したコイローグが悲痛な叫び声を漏らす。 治療して半生半死、治療して半生半死を繰り返そうと言うのだと。 ケーナと戦ったり、ギロチンを受けたりした経験があるコイローグだからこそ、死ぬに死ねない時の苦しみを痛感している。 

「おいおい、スキルマスターが集まってイジメかー? 可哀想だから止めといたれよ」

 悲鳴を聞きつけて勘違いしたコーラルがコイローグを庇う。 シャイニングセイバーは「ケーナはしないと思うが、お前(オプス)はなあ……」と疑いの眼差しだ。 想定内なのかそれを受けてニヤリと笑うオプス。

「シャイニングセイバー、こっちの魔人族はヘルシュペルの騎士団に所属してるわ。 コイローグ、そっちの竜人族(ドラゴイド)はフェルスケイロの騎士団長よ」
「お、ご同業か。 俺はシャイニングセイバーだ、宜しくな」
「は、はいっ。 コイローグです、宜しくお願いします!」

 ケーナはシャイニングセイバーに盗賊討伐について語りはしたが、コイローグがその当人だとは一言も言っていない。 ここで多少なりとも交流をして貰って、真相を語るかどうかはコイローグに任せるつもりだ。




「それより、そろそろ解散しようぜ? 俺は家で待ってる母ちゃんが怖い……」

 尻すぼみになるイェーガーの発言に全員がドッと笑う。 皆の帰りについては、ケーナが三国王都へ【転送】───転移の他人に掛けるバージョン、術士が行ったことのある場所へ他人もしくは集団を飛ばす───する事になっている。 他にもサハナやオプス、隠れ鬼と【転送】を使える者はいるが、三国全部へ足を運んだことのあるのはケーナだけだからだ。 隠れ鬼は妹達と来たときと同じ方法で戻り、サハナはそこら辺の森から隠れ里へ繋ぐ道を作って帰るそうだ。 シュピラールはこのまま街道を北上し、イェーガーはオウタロクエスへ飛んでから家がある村まで自力で移動することになっている。 ちなみに彼の家は例のダンジョン村にあるという。 これを聞いたケーナとオプスが揃って噴き出したのは仕方がないと言えよう。

 イベント参加プレイヤー全員とフレンド登録をし、何かあったら連絡し合う旨を確認しておく。 これについてはシュピラールが提案をしていた。

 『組合みたいなのを作った方が良いでしょうか?』
 『よっ、纏めの帝王! 痒い所に手が届くね!』
 『スキルマスターが出張れば終わるんじゃね?』
 『……そうかもしれませんね』
 『『『丸投げかっ!?』』』

 ……とかいう一幕があったのは割とどうでもいい話である。



 ドラゴン曳航型ゴンドラ飛行船に乗り込み「息災でなぁ~」と去っていく隠れ鬼とその妹達。 妹の一人がケーナと一緒に行くと駄々をこねるハプニングがあり、姉妹達は皆疲れきった表情をしていた。 「泊まれる部屋はあるから何時でも遊びに来てもいい」とケーナが言わなければ、ストーカーとなってまでも着いて行っただろう。 それだけの執念を彼女に感じられ、苦笑するケーナだった。

「では、お姉様。 里の仕事が終わり次第、挨拶に伺いますね」
「その時はサハラシェードにも会いに行けるといいね!」
「ぐっ……ま、まあ、そのうちに……。 あ、はは」
「自分で作ったのだから自業自得と言う事じゃろう。 観念してご対面すればよい。 さぞかし感動の一幕が見られそうじゃのう?」
「アナタには関係ないことですっ!」

 ハイエルフの隠れ里では狩りや見回り等の仕事がローテーションで回ってくるため、サハナは頻繁に外出することが出来ないと言う。 にこやかな姉の提案に引きつった笑みで応対する横でニタニタと笑うオプスに突っ込まれ、憤慨するサハナ。 「仲がいいなあ」と思っているケーナの胸の内を知れば、全力で否定するだろう。
 エクシズとクオルケは生活圏が近場と言う事もあってシュピラールに同行し、途中まで送っていくことに。 コイローグは数人のプレイヤーと【転送】を選択した。 フェルスケイロ側に帰る者が何故か一番多かったので、そちらはオプスが引き受けると申し出る。

「さて我はシャイニングセイバー達とフェルスケイロに飛ぶことにしようぞ。 ケーナは先に村へ戻って、ルカを安心させてやるとよい。 サイレンはケーナと一緒に先に戻っておれ」
「かしこまりました」
「ううーん、私の目が無いからってあんまり変なことしないでよ?」
「……お主が我をどう思っておるのか一度とことんまで話し合う必要があるのう?」
「何時も通り平行線のような……」

 腰に手を当てて憤慨する態度を取る(だけの)オプスに、にっこり微笑んでのらりくらりとかわすケーナ。 そのやり取りが恐ろしいものに見えたシャイニングセイバー達はオプスに「とっとと飛んでくれ」と急かす。 何か急ぐ必要があるのかと疑問顔になったオプスに、サイレンは「さっさとお飛びになってください」と黒い笑顔で応対する。 むしろそっちのほうが何倍も恐ろしいものに見え、背筋を冷えさせるオプスの同行者達。 【転移魔法】の黒い渦に消えるオプスを見送ったケーナはほっと溜め息を吐いた。

「もうしばらくは村から出ないでおこう」
「ケーナ様が村に滞在していてもあまり出来ることは無いと思われますが?」
「まあ、そうかもしれないけど。 村を出るときに限って騒動が起きてるような気がする……」

 ぼそりと呟くように言ったが、サイレンは特に返答をすることも無く小さくかみ締めるように頷いた。 その動作に激しく肯定されたような気がして、がっくりと項垂れるケーナ。

「気にしたら負けだと思いますよ、ケーナ様」
「主も主なら従者も従者な件について……。 いいやもう、早く帰ってルカとスキンシップをとろう」
「あまり構いすぎるのもどうかと。 ルカ様も気難しいところがありますゆえ」
「うん、気をつける」

 サイレンと手を繋いだケーナは【転移】する。 黒い渦を抜け、一歩進んだ先は長閑な空気が漂う馴れ親しんだ辺境の村の光景が広がっていた。


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