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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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65話 イベントを終結へ向けましょう

「うおおおおおおおっ!」
「でえりゃああああたっ!」
「こなくそおおおおっ!」

 戦場には漢達の怒号、もとい気合いの入った叫び声で溢れていた。 身の丈もある大剣でモンスターを両断する者、素早く後ろを取って背後から急所を撃つ者、他のフォローに奔走する者。

「ああもう面倒くせえっ!」
「だあああっ!? あぶねえだろ馬鹿野郎!」

 ちまちま戦うのが面倒になり武技を放つ者。 巻き込まれそうになって慌てて避け、抗議する者。 統制のとれた戦闘をしているが、一部でははしゃぎ過ぎているところも。

「ちょっとそこー、真面目にやんなさいよー。 格下だからって油断すると酷い目にあうわよー」

 数少ない後衛役のサハナが注意を飛ばす。 「わーってるよ!」と返ってくるものの、浮ついた空気は変わらない。 一つ間違えれば生死を分ける状況だが、その浮かれている理由は誰も彼もが理解していた。

「懐かしいですねぇ」
「まあ、否定はしませんが……」

 感慨深いシュピラールの言葉に苦笑して頷くサハナ。 此処に集ったプレイヤー全員が現状の集団戦闘を懐かしく感じているのは明らかだ。 




 住宅街でキメラの大群を下した前衛組は、そのまま城まで一直線に進撃した。
 待ち伏せされていると分かった時点でプレイヤー側の急襲は無意味となる。 他にも王都内へ潜伏している待ち伏せ兵がいる可能性があり、いるかいないか分からないモノを探すのにも手間が掛かる。 これ以上のバラバラ行動も各個撃破される危険性が出てくるので、その辺りを後衛に丸投げし、ダンジョンの出入り口を押さえる方向に踏み切ったのだ。

 ゲームの全盛時には緑が生い茂り、鮮やかな花や鳥がプレイヤーの目を楽しませていた王城の庭園へと。 当然ながら街の廃墟と同じように石畳はひび割れ、庭園の土は赤茶けていて枯れ草程度しか見当たらない。 目を引くのは当時庭園の中央を占めていた噴水があった場所だ。 そこにあったはずの噴水は跡形も無く、円形に抉れた穴がぽっかりと空いている。 中には古びた石階段が地の底へと続いていた。


 到着した直後に穴から現れたのは、二足歩行トカゲのモンスターであるリザードマンと、汚泥で形成された魚型の狂った水精である。 両方とも水属性のモンスターだったので、プレイヤー達は火属性の武技や魔法を交えつつあっさり撃破。

 その後も続々と現れる二種類ないし三種類のモンスター。 何故か火属性なり風属性なりのモンスターが固まっているので、難なく駆逐出来ている。

「しかし、モンスターももう規定のプログラムに沿って動いている訳ではない筈なのに。 なんだってこんな愚をやっているんでしょうね?」
「何か別の企みがあるとか?」

 心底理解できないとシュピラールは呟く。 それに同意しながら罠の可能性も捨てきれないと、サハナは思案顔だ。
 現在、前衛チームはサハナとシュピラール以外のメンバーを二隊に分け、十人弱で交互にモンスターと戦闘を繰り広げていた。 こちら側はイェーガーや隠れ鬼の八百レベルから、コイローグなどの四百レベルまで。 対するモンスター側は今のところ高くても五百レベル程度である。 四百レベル帯のプレイヤーが無理して突っ込んだりしなければ、難なく倒せる相手だ。 念の為周辺に異常がないか気を配りながら、サハナとシュピラールは援護を受け持っていた。

「あ、こら!」
「ぐあっ」

 ローテーションで入れ替わった隊。 後ろに下がってHPとMPをポーションで回復したり、武器の手入れ等を行う皆からコッソリ離れた一人をサハナが捕獲する。

「どーしてそう前にいたがるのキミは!」
「ふぐぐ……」
「おいおい絞まってる絞まってる。 そうなったら喋れんだろうに」

 サハナが首根っこ掴んで引きずり倒したのは騎士鎧姿の魔人族、コイローグである。 先程からローテーションを無視して前に居続けようとするので、その都度気付いたシュピラールやサハナに怒られていた。

 丁度下がる隊にいたエクシズが見かねて、サハナからコイローグを解放してやる。 睨むような視線をコイローグに送るサハナは、ただ数少ない仲間が減ることをよしとしないだけだ。

 ヘルシュペルを活動拠点としているエクシズには一連の事件を知り得る機会があった。 ケーナからも掻い摘んで事情を聞いている。 一応コイローグが再び暴走を始めるような時があれば、近くに居られるエクシズが真っ先にこれを鎮圧するつもりだ。 それと現在の状況は話が別である。

「まあまあ勘弁してやれよ。 こいつも色々と脛に傷を持っていてな、ここらで挽回しておきたいんだろうよ」
「あだだだだっ!? 痛い痛い痛いっ!」

 軽口のようなエクシズ、しかしその片手はコイローグの頭にアイアンクローとなって襲い掛かる。 見ている方にまで痛みが伝わるようなコイローグの痛がりように、その場に居た者の顔が引きつった。 そこへ更に面白がっている声が加わる。

「何々、コイローグの暴露話? ここで裁判沙汰にするの? イジメはよくないと思うな」
「お姉様!?」

 休んでいたプレイヤー達の向こう、街側の城門よりケーナが現れる。 その背後には巨大なチェス駒が見えていた。 ゆっくりと蛇行しながら地形を変えていて、チェス駒の周囲には切り取られた街の欠片が浮かんでいる。 更にその向こう側にユラユラと動くカラフルな色の物が複数確認できる。 もう王都の半分は整地済みなので、外に出してあるドラゴン達を内側へ呼び込み、ケーナ達に丸投げされた周辺探索を彼等へ任せてある。
 オプスは土精霊の制御とドラゴン等への指示に残り、ケーナは様子見も兼ねて前衛隊へ来たのだ。

「もう地下はそんなに面積が残ってないからさ、残党も打ち止めかなぁと思って」

 ケーナはアイテムボックスから片手で抱えられるくらいの小型のハープを取り出し、【やすらぎの夜】と言う音楽系技能(スキル)を行使した。 ゲームでは効果範囲にいるプレイヤーを五線譜と音符のエフェクトが囲み、五分で各個人のMPが三割回復する補助技能である。 行使者がその間まったく動けないというデメリットはあるが、魔法に頼らないという点では数少ない回復手段だ。
 リアルとなった今ではハープが勝手に音を爪弾き、ゆったりとオルゴールにも似た音色が辺りに響き渡る。 叩いても叩いても湧き出るモンスターにうんざりしていたプレイヤー達は、この音色でMPが回復すると同時に再び活力が沸いてくるのを感じた。 

 体が動かせないので口を動かそうとしたケーナは、突如として足元が大きく揺れるのを感じて目を見張った。 それは皆も同じで、休んでいた者も即座に立ち上がって臨戦態勢を取る。

「イタチの最後っ屁ってやつかのう?」
「呑気な事言ってねえで下がれ! 下から来るぞ!」

 前に出ていた隊を指揮するイェーガーの号令に、慌ててその場から飛び退くプレイヤー達。 少しの間を置いて石畳に亀裂が走り、轟音を立てて隆起すると、瓦礫を跳ね飛ばして異様な物体が姿を現した。

「げっ!?」
「なななっ、なんだあっ?!」
「うえっ、気持ち悪っ!」

 高さ三メートル強の黒いプリン。 外見を一言で言い表せはそれに尽きる。 異様なのはその湾曲を描いたゼラチン状の表面から突き出した無数の頭や腕や脚等、色々なモンスターの部位だ。
 小さな棍棒を持ったゴブリンの片腕があれば、錆の浮いた大斧を掴んだオーガの腕もある。 人を二人くらい撫で斬りに出来そうな巨大カマキリの前腕部もあれば、捻じくれた指先に鋭い爪を備えた猿人(ゴアエイプ)の腕もある。 黒い剛毛の生えた哭毒蜘蛛(マドラチュラ)の脚もあれば、通った後には溶けた道が残ると言う強酸蛞蝓(オースイ)のヒダも見える。 何よりも皆の度肝を抜いたのはあちこちから突き出してあらぬ方向を向いたゴブリンやオーガ、リザードマンや魔獣種の頭部だ。 全てが憎々しく歪んだ怨唆の表情を浮かべ、眼窩は落ち込み眼球はない。 真っ黒い空虚な視線が四方八方に向けられていた。

合体(ユニオン)スライムか……。 こっちで目にすんのは初めてだが、ここまで不気味なもんだったとは、な」
「なにそれぇ?」

 納得がいったと頷くイェーガーに嫌悪感たっぷりのケーナが聞く。 答えはサハナから返ってきた。

「モンスター達の攻略方法が大体確立されたゲーム後半時期に投入された“その場でモンスターを融合体(キメラ)にする”モンスターですよ。 試験運用(テスト)の時に初心者殺しになっちゃって不評だったので、何処かのイベントモンスターと一緒に配置されたとは聞いていたんですけど、こんな所で相対することになるなんて……」

 ケーナの脳裏には関係者としてオプスが挙がる。 実のところ後期のオプスはゲーム内のGM活動がメインで、バージョンアップ等の製品仕様については関与していない。 ……などという事実をケーナは知らないのだが。

「つまりコイツを倒せばイベント終了って事だな?」
「……たぶん」

 イェーガーが獰猛な笑みを浮かべると、それに追従するように全員が武器を構える。 黒プリンスライムの表面に赤い光と青い光が走った瞬間、ケーナとサハナから爆裂魔法と水槍魔法が飛ぶ。 それは黒プリンスライムから迸った同二種類の魔法と激突して相殺され、戦闘開始の合図となった。

「「「「おおおおおおオオオオオッ!!」」」」

 真っ先に突撃したのは大剣使いのコーラルやシャイニングセイバー、イェーガー達だ。 相手の間合いなど知ったことではないと次々に肉迫し、大振りの一撃で黒プリンスライムから生えているモンスターの部位をばさばさと切り落としていく。

「ひげ剃り機みたい」
「ぶっ」

 素直な感想を述べたケーナにシュピラールが噴き出す。 呑気な様子に見えるが、サハナを含む三人共油断はしていない。
 リアデイルにおけるスライム種は、RPGで定番の初心者御用達弱小モンスターではないからだ。 体内に数種保持する色のついた器官で魔法を使い分け、物理攻撃耐性や分裂等の特殊技能(エクストラスキル)を持っていたりと、戦士特化プレイヤーの天敵である。

 この合体(ユニオン)スライムは物理攻撃耐性は持っていなかったようだが、分裂はするらしい。 大ざっぱな斬り方で角の一部が地面に落ち、それが人の腰程の大きさに肥大化した。 それからリザードマンの頭とオーガの腕と恐竜の尻尾が生えて、即席の蛇獣魔(ナーガ)キメラとなってプレイヤーを襲う。 

「ええいっ、質量とかどーなってんだこりゃ!」
「ファンタジーにそんなの求めんなよっ」
「いうてはならんコトを……」
「つーか、切ったの誰?!」

 黒プリンスライムの向こう側へ大剣使い達が抜け、こっち側に残った者達はぎゃあぎゃあと騒がしい。 切断攻撃がマズいと悟ったクオルケともう一人の鞭使いが【戦闘技能(ウエポンスキル):巻き投げ】を使う。 本来は対象を上空に投げて落下ダメージと転倒・気絶効果を与える武技である。 二人が頭と尻尾に鞭を巻き付け、タイミングよく上空へ放り投げる。 シュピラールが落ちて来る分裂体に対して【燃焼魔法】を行使、炎の玉に包み込まれたソレは断末魔を上げる前に燃え尽きた。

「火は使うようだが、火炎耐性はないみたいですね」
「たしか悪魔が召喚するクエストで出て来る筈じゃと思ったんじゃが、肝心の悪魔を見た奴はおらんのか?」

 冷静に分析するシュピラールと、記憶を掘り起こして皆に尋ねる隠れ鬼。 誰も悪魔を見た覚えがないので一斉に首を振る。

 本体の方を相手にしているプレイヤー達は、未だにひげ剃りを続行中だったりする。 落としても落としても黒プリンスライムの内部から新しい腕やら脚やら頭やらが生えてくるからだ。 時折魔法を放ってくるが、ケーナが掛け直した【上位魔法防御上昇】により被害は軽微で済んでいる。 しかしゼロとはいかないので、定期的に【回復魔法】がシュピラールやサハナより飛ぶ。

「ええいっ、きりがねえっ!」
「どんだけモンスター喰ったんだよこいつ?」
「昔粘土で髪の毛が生えてくるのをプラ鋏で散髪するオモチャがあってだな」
「何時の時代の玩具だよ……」
「オイお前ら、無駄口叩くより手を動かせや」
「「「やってるよ!?」」」

 見ている分には途切れることのない攻防が繰り広げられている。 いつ終わるとも知れない現状に業を煮やしたイェーガーは、戦闘の主導権を魔法の殲滅力に委ねる事にした。

「ケーナ!」
「うん?」
「お前等に任すから何とかしてくれ! このままだとこっちが疲労で潰れるわっ!」
「はいはーい任された。 サハナとシュピラールさんは足止めお願い。 それとお爺ちゃん!」
「何をする気じゃ?」

 声を掛けたケーナの目を見て何かを悟った風の隠れ鬼。 足止めを頼まれたサハナとシュピラールは、黒プリンスライムを同時に放った氷結魔法で氷漬けにする。 相対していた味方は警戒しながら距離を置いた。

「【合体魔法】を使って周囲ごと完膚無きまでに消し飛ばすわ、【天幻堕炎(レア・ロナ)】よ」
「おやおや、あんな範囲魔法を使ってしまってはこの辺り一帯がどうなるか分からんぞ?」
「だってあのスライム、出た場所から動かないんだもん。 もし下に球根みたいな根が伸びてたらヤじゃない」

 たしかにと頷く隠れ鬼。 黒プリンスライムは這い出た場所から大きく動いていなかった。 部位が無限に生える攻防がケーナの言う通りなら、まだ本体が下に潜んでいる可能性は高い。 隠れ鬼がひとつ返事で了承し、サハナも手を上げて参加する意を示す。

「私もそれ使えます、お姉様! 二重詠唱(ダブルスペル)も使って威力の底上げをしましょう!」
「そりゃ酷い提案ね、採用しましょう。 シュピラールさんは?」
「それは残念ながら持っていませんね。 しかしアレをこんな至近距離で使う気ですか? 全員巻き込まれますよ」
「ならお主は遮断結界で防御に回るが良い。 ケーナよ、味方の防御にも幾らか割く必要があるじゃろうて」
「じゃサハナ、三重詠唱(トリプルスペル)に変更。 レア・ロナ二発と遮断結界ね」
「はい!」

 このやり取りの間に、黒プリンスライムを閉じ込めた氷山には無数のひびが発生していた。 全員は一旦敵より距離をとり、城門近辺まで後退する。 目標であるスライムとの距離は百二十メートルくらい。 それより下がらないのは魔法使用前提条件に目標の視認があるからだ。
 リアルで使用したことのないレア・ロナの効果が何処まで及ぶか不明な為に、皆を守る必要性もある。 ケーナは後方に散るドラゴンへ隠れ鬼の妹達を守る命令を出すと、オプスへ今回の戦闘方法を伝える。 『後ろは気にするな』との返答を得て行動を開始した。

 ケーナとサハナと隠れ鬼が【三重詠唱(トリプルスペル)】を起動。 シュピラールは【二重詠唱(ダブルスペル)】でもってその場に残る前衛プレイヤーを二枚の【遮断結界】で覆う。 それを見届けた後にケーナが最初の基準となる魔法を放ち、隠れ鬼とサハナがそれに続く。

魔法技能(マジックスキル)天幻堕炎(レア・ロナ):ready set】×6
「「「撃て!!!」」」

 この魔法は効果発動するまでに少しの間があるので、最後に三枚の【遮断結界】を自分達を含んで、シュピラールの掛けた結界をも範囲に入れて行使する。

「……なんじゃありゃ……」

 誰かの呟きが全員の心の内を代弁していた。 半分が砕けた氷山に身を震わせながら収まる黒プリンスライムと、それを中心とした地上に巨大な朱色の魔法陣。 その上空には今さっきまでの快晴が嘘だったかのような渦を巻く曇天へ。 雲の渦を囲うように赤一色のオーロラが出現していた。 朱く染まった渦雲が中心部から薄れていき、内部に納まっていたものが徐々にその高度を下げる。 雲の巣から産み落とされようとしているソレは、擬似太陽とも言えそうな巨大火球だった。

「伏せなさいっ!」

 ゆうに直径百メートルはあろうかという火球がストンと雲の巣から落下したと同時にシュピラールが叫ぶ。 落ちようとしていたソレをポカンと見ていた前衛陣が慌てて姿勢を下げる。 次の瞬間、目標を押し潰して大地に着弾した巨大火球が大爆発を起こした。 

 目をつぶっていても一瞬で真っ白になる視界、音なのかも分からないまま耳鳴りが発生し、平衡感覚さえも失う激震に包まれる。 それもほんの一瞬のことなのか、随分と長い時間が経ったのかそれすらも分からない。

 初めに五感を取り戻した者は、前方に広がる光景を見て唖然とした。 徐々に起き出した者達も皆同じ反応である。 ぶっちゃけ何も無くなっていたが正しい。 古ぼけて倒壊寸前だった城も、それを支えていた地面も半円状に抉られていた。 その陥没した部分には海から水が流れ込み、そこそこの湾となっている。 周囲に展開してあった【遮断結界】も二枚が失われ、三枚目も消失寸前であった。

 ちなみ【遮断結界】に覆われていた地面は湾に突き出す岬のような形で残ってはいた。 人がその上で動いた途端、あっという間に崩壊して、飛べる者以外は強制的な海水浴を楽しむことになったのは言うまでも無い。

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