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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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64話 イベント進行中

前話のタイトルを修正致しました。
 廃都内の王城へと侵攻して行く仲間(プレイヤー)達を見送ったケーナは、寂れた建物が建ち並ぶゴーストタウンそのものな周囲を見渡した。 近辺に魔物はいないらしく、俯瞰レーダーにも【直感】にも反応は無い。

『周囲ノ警戒ハワタシガ致シマショウ。 ケーナ様ハ存分ニ力ヲオ振ルイ下サイ』
「うん、お願いね、キー。 それでオプス、ぶっ壊すって言って……」

 身の内の声に耳を傾けていたケーナが相方に声を掛けようとして振り返ると、オプスが自分の身長の倍ある大槌を振りかぶっていた。

戦闘技能(ウエポンスキル)地殻粉砕(スゥア・バースト)

「って、ちょっ、待っ!?」

 文句を言う間もなく、それが振り下ろされる軌道を描くのを視認したケーナは、風の精霊の加護も加えてバックステップで数十メートルも跳んだ。 彼女の足が地を離れた瞬間、黄土色のエフェクトを纏わり付かせた大槌が石畳に接触(インパクト)。  ドゴオオオオン!! と、街が丸ごと上下に揺れたんじゃないかという振動と轟音。 オプスを中心にした直径五メートル程の周囲に亀裂が走り、数箇所が隆起して沈下する。 しかしその(ことごと)くが結果的に陥没し、ぽっかりと暗い闇の地下へと落ちていく。 本来は一対多に使う武技で、周囲に居る敵を纏めて転倒させる効果と共に地割れと隆起でダメージを与える技だ。 オプスは全体が崩落するよりも前に離脱していたので、特に問題は無くケーナの隣で大槌を肩に担いでいる。 自身の行使した破壊跡を眺めて、ポツリと呟いた。

「ふむ、地表の厚さはそんなものでもないな」
「いきなりぶっ放して感想がそれ……」

 歪な円形の地表が無くなり、そこを覗くと十数メートル程下に元石畳だった岩塊が折り重なっていた。 大抵の王都地下ダンジョンが二階層ないし、三階層で構成されているはずなので、似たような行為を後何回繰り返せば全壊するのだろうか? そのあたり、ケーナには見当も付かない。 それに大槌を使用した武技を使えるのはオプスだけなので、この時点で非効率なのは目に見えて明らかだ。 ケーナがスキルマスターであっても使えないのは、筋力(STR)が足りなくて高レベル用の大槌系武器が持てないという理由が挙げられる。

「埒があかないね。 手当たり次第に爆破していく?」
「そんなことを選択せんでも、取れる手段はあるじゃろう」

 オプスはニヤリと笑みを浮かべた。 ゲーム中だった頃の碌でもない手段を行使する前兆、と言える表情を見たケーナが一歩下がる。 オプスは大仰に両手を上げて自らの足元に召喚魔法陣を描いた。


召喚魔法(サモンマジック):LV7:地精】

 召喚陣が黄土色に輝いた途端、轟音を立ててオプスの足元から石畳諸共地面が盛り上がった。 術者である本人もそれに乗ったまま、周囲の岩や土を集めて隆起しながら次第に何かの形を整えていく。 やがて固められた石や土は、十メートル位の高さを持つチェスの駒に姿を変えた。 形は城兵(ルーク)で、色は茶色やら灰色やらの混じったまだら模様。 頂点の城壁を模した部分に片足を掛けたオプスがふんぞり返っている。 ちなみに何故最大レベルで召喚しないかというと、オプスの魔人族という種族の最大MP量はケーナのそれより遥かに少ないからだ。 つまりはMP不足── 一応【MP回復】という常用技能(パッシブスキル)で緩やかに戻っている最中 ──である。 

「まあ、それが定番かな……」

 うんうんとその姿を見上げて頷くケーナ。 地精霊の召喚獣は攻撃には向かないが、戦争期間中にフィールド上へ即席の砦や防壁を作るのに重宝していた。 勿論攻撃に使えることも可能だが、“押しつぶすか埋葬する”という攻撃を味わった者は、この召喚獣の恐ろしさを身をもって知っていた。 たとえヴァーチャルといえども生きながら埋められるというのは恐怖である。

 それはさておき、物言わぬ巨大なチェス駒へオプスは命令を下す。 ビシッと眼下に広がる廃墟の町を指差して。

「さあ、地精霊よ、お主の領分じゃ。 この街を大地へと還すがよい!」

 召喚主の号令と共に何の前触れも無くチェス駒がふわりと浮いた。 まるで見えない手によって持ち上げられ、一手を指すように前へ進む。 進んだ先はオプスが開けた穴の上であったが、見た目からしての重量感などを感じさせぬ軽い音がダンジョンに響く。 巨大なチェス駒は穴の中で無く、その中空に浮いていた。 トンと置いたような音が微かに響いた途端、駒を中心に四方八方に放射状の亀裂が走る。 ミリ単位まで計測したように、綺麗な蜘蛛の巣状の切れ込みが街に描かれた。 それらの四角い岩塊は一度ふよふよと浮き上がり、巨大なチェス駒の周囲へ円を描いて並ぶ。 土星のリングのように。

 チェス駒の地精霊を中心とした半径百メートル程の地面には露天掘り状態の穴が空き、深さは十メートル以上。 底の方で何かの動く影を見つけたオプスは、アイテムボックスから取り出した杖に封じられていた爆裂魔法を開放、叩き込む。 「こりゃ任せておけばいいね」と呟いたケーナはチェス駒地精霊の脇で空中に浮いていた。 翼人のブーツという装備に封じられた【飛行】能力を使って飛んでいるだけだ。 便利なように見えるが、一度使用するとチャージしたMPを使い切るまでその状態が続き、再び使用状態になるまでのMPを溜めるのに時間が掛かるという融通の利かないマジックアイテムである。

 空中になにをするでもなく漂っていた岩塊はしばらくすると下降を始め、規則正しく並びながら穴の底へと(はま)っていく。 岩塊のほとんどは廃都の地上部分を支えていた地面と一階層の床部分、二階層の床部分である。 埋める分としては圧倒的に容積が少ないので、三階層目が埋没して二階層目が半分ほどといった程度だ。 「どうすんのよ、これ?」という視線をケーナに向けられたオプスは、悩むまでも無く廃都の先に広がっているものを指差した。

「そこに海があるじゃろう?」
「あ、ああ~。 遠浅みたいな湾を作っちゃうのね……」

 実のところ廃都の先にある海の境界線は砂浜では無く、数メートルの崖になっているので水が流れ込めるかは微妙なところなのだが。

 ぴっちりと綺麗に整えられて半分が埋められたダンジョン。 見渡すように軋み音を上げ、少し傾いたチェス駒地精霊は結果に満足した(かどうか定かではない)ように、再び一歩進む。 今度はケーナの脇から遥か向こうに百メートルも移動して。 そして移動したと同時に亀裂を作って岩塊を浮かせ、出来た穴に埋め込んでいく。 地精霊なのに地に足が付いていないのはおかしいと思われるが、実際は重力を操っているので浮遊しながらの移動になるわけである。 黒コート姿でその頭頂部に突っ立っているオプスを見たケーナは、くすんだ金の前髪をいじりつつ溜め息を吐いた。 

「放っときゃ簡単に終わるかな?」

 前衛部隊はどうなっているのかなと個別会話モードを開き、雑談しながら空中をぽてぽてと歩くケーナであった。






 ────ッ

「うん?」
『ドウシマシタカ?』
「いやー、いまなんか聞こえたような……?」

 後衛陣で騒動が起こったのは、余計な一言を挟むオプスをドツいて黙らせたり、前衛部隊が敵モンスターに囲まれているのを放置した直後である。

 廃都の城門付近一帯の埋め立てが終わり、オプス達の背後には今まで街壁に阻まれていた【遮断結界】の向こう側が見えるようになっていた。 とは言っても竜達がぼんやりと視認出来るくらい。 隠れ鬼の妹達は廃都周囲の森の中に散っているようで、確認は出来ない。

 いい加減にオプスの召喚した地精霊の動きをボーッと眺めているのも飽きたので、自分も何かしようと今まで整えられた穴の底に降り立った。 漠然とした感覚が何かしらの音を捉え、首をめぐらすケーナ。 キーからの問い掛けにその場から見える三階層の暗闇に目を細めたその時だった。

接近警(ワーニンッ)!!──』
「って、わあっ」

 キーの警告と同時に、何か大きな影が触手のようなモノをこちらに向けて放った。 その軌道を見るや否や、体を地面すれすれに伏せて避ける。 頭上を鋭い音を立てて通過したのが何かを確かめる暇も無く【暗視】で見通した暗闇から二撃目が来るのを察し、予め短縮呪文(ショートカットキー)として設定しておいた魔法を解き放つ。

魔法技能(マジックスキル):load:雷壁(ウォール・ザン)

 前にかざした右手を中心として雷が四方八方に放射され、花弁の多い花(タンポポ)のような盾を形成する。 直径はケーナの前方を塞いでもまだ余る八メートル。 千百九という高レベルで発動すれば、六百レベル以下のモンスターなら問答無用で死滅する防御(・・)魔法だ。 明滅する放電現象が盾に触れようとするモノ全てを黒焦げにする。 樹の幹に似た黒く太い鞭のような影は、ケーナの【雷壁】に触れた部分が消滅し、先端部があらぬ方向へ飛び散った。

「っ!?」

 黒く太い鞭だと思われた先端部は、焼き尽くされた中心部から投げ出され。 ……たかに見えた瞬間、その形状から崩れて無数の黒い粒となり、耳障りな羽音を響かせて元来た暗闇へと戻っていく。

「って、むしぃ!?」
『魔甲蟲。 四百レベル時ノ限界突破クエストニテ遭遇シタモンスター、デスネ』
「あーあー、あの軍隊アリ的……な……」

 おぼろげな記憶を口にしたケーナの背中に冷や汗が垂れる。 見た目は黒い体躯に赤い目を持つカナブン。 それが人がすっぽりと収まるくらいのボール状に群れて、襲い掛かってくるモンスターだ。 当時は魔法重視の成長をした者でPTを組み、第三者から「そこまでやらんでも……」と言う感想が出るくらいに合体魔法を打ち込んだものである。 そもそも病院では、部屋に虫が入ってくるだけで身動きの出来ない桂菜には脅威で。 やれナースコールだの、やれ悲鳴だのと大騒ぎだった。 暗闇に蠢く群体の動きを一時も漏らさず凝視する彼女の側に、上から降って来たオプスが音もなく着地する。 どうやら後方で放たれた雷撃に、何かあったと気付いたらしい。

「どうした?」
「……あ、え、えーと」
『魔甲蟲デス』
「ふむ、群体か」

 暗闇を見据えたまま言いよどんだケーナに代わりキーが答え、チラリとケーナの視線の先に目をやり事情を瞬時に察するオプス。 そこまでは良かったが「あれ、何かオカシくない?」と眉をひそめたケーナが首を傾げ、オプスを見る。

「だからどうしたと言うんじゃ?」
「今、会話してた?」
「きちんと成立しておったじゃろう、何を言っておる?」
「……キーと?」
「ああ」
『エエ』
「………………」

 そう言えば事情説明された時に、キーの補足がなければ意味の通らないところもあったかと思い出す。 あの時は気付かなかったが、たしかにそれがなければ会話の流れは変なものになるだろう。

「言わなかったかの? 我もそやつもお主と深い関わりを持っていると」
「前世うんぬんの話? こっちにはそんな記憶も無いのに聞かされても対応に困るって言うか……」
『ソレデヨロシイノデス。 我等ハアリノママ、貴女ラシイ貴女デアレバ何モ望ム事ハアリマセン』
「それはそれで二人に悪いと思う」

 内と外から苦笑する声にしゅんと落ち込んだケーナに、オプスが軽く笑う。 なんとなくからかわれた感じを受けたケーナは頬を膨らませて抗議した。 しかし、すぐ近くの脅威から目を背けたのはまずかった。


 暗闇から前触れもなしに突出した黒い蟲霧は獲物を捕らえんとする獣の如くアギトを広げ、耳障りな羽音と共にケーナの身体をひと呑みにせんと襲いかかった。 【直感】の警告を受けてはいたが、意識の大半をオプスとキーに割いていたため咄嗟の回避行動に移れず、彼女の視界は瞬く間に黒いモノに覆い尽くされる。 その際に見えた悔しそうな、苦々しい表情をしたオプスが「珍しいな」というのが印象的で。 慌てなきゃいけない状況にも関わらず、つい微笑んでしまうケーナであった。





「……チッ」

 暗闇の中から全貌を見せる魔甲蟲の群体。 一匹がだいたいニセンチメートル弱というモノがどれだけ集まったものか。 怨唆を呟くオプスの眼前に歪で不定形なボールが空中に浮いている。 一般的な民家が中にすっぽりと納まりそうな五メートル程の大きさだ。 時折形を歪めているのは捕らえた獲物を補食しているのだろう。 喰えればの話だが。

「……」

 無言のオプス。
 今まさに隣にいた腐れ縁であり、不可思議な縁で結ばれた友人たるケーナが姿を消したと言うのに慌てる素振りもない。 しかしその表情は歪み、親の敵を憎むように殺気立っている。 普段の飄々とした態度はなりをひそめ、かつてのギルドメンバーが彼を見たならば目を丸くして頬を抓り、現実を疑うであろう。

「まったく度し難いものよの……」

 ポツリと漏らした言葉には後悔のような感情が混じっていた。 足元に伸びる自らの影に向けて呟くが、そこに上から光が差していた。

 曇天から光が差し込むように、魔甲蟲の塊の隙間から光が(ほとばし)る。 「――――ッ!?」 声を持たない魔甲蟲が羽ばたきだけで悲鳴を上げ、光から逃れようと分散し始めた。 逃しはしないと内側から外側へ刃の如く突き出されたのは無数の光針だ。 光に触れた魔甲蟲は瞬時に塵と化し、空に溶け消えていく。 群れが解け、わらわらと散る魔甲蟲。 その中心から降り立った光の衣を纏ったケーナ。 正確には衣などではなく、燐光で形成された巨大な蛇がケーナの肩から足元まで巻き付いていた。 巻き付かれている当人は呆けた表情で、燐光の蛇をしげしげと眺めている。

「……チッ」
「舌打ちしたっ?!」

 ケーナが隣へ降り立ったところにオプスからの舌打ちが飛ぶ。 ケーナが突っ込むが、オプスの視線は燐光を霧散させて彼女の身に吸い込まれていく蛇に向かっていた。 再び自分を見下ろして、何となく感じていた守護者に礼を言う。

「ええっと、ありがとう、キー?」
『オ気ニナサラズ』
「忌々しい」
『ダッタラオヌシガ庇ウナリ何ナリスレバヨカッタロウニ』
(あ、それでオプスが不機嫌なんだ)

 何時にも増して言葉に棘のある態度に、キーに対して嫉妬してるのかと納得するケーナ。 なにせ彼女からすれば、いきなり黒い靄の中に包まれたと思ったら自身の内から神々しい光が輝き、靄が晴れて今に至るという訳だ。 何が起こったのかと把握するより二人の会話に安心感を感じて、つい笑みをこぼす。 それに益々憮然さを増したオプスは八つ当たり先を求めて視線を動かした。 そして這々の体で元来た暗闇へ逃げ込もうとしている魔甲蟲に向けられた(ロックオン)

「貴様等がっ!」

魔法技能(マジックスキル)紅焔獣抱擁レア・ロード・ハゥーヴ

 オプスが下から上へ邪魔なものでも払うように手を振り、魔法行使した。 魔甲蟲の真下の地面に亀裂が走り、隆起して炎の吐息が噴き出す。 それは続いた炎柱の前触れにしか過ぎず、逆巻く炎蛇と化して魔甲蟲の逃げ道を塞ぐ。 獲物を檻に囲ってしまえば本命のお出ましだ。 大地を剥ぐように亀裂がめくれあがり、マグマの塊が浮上する。 赤と黒、溶けて流れるマグマと外気を焼きながら固まった火山岩を纏うのは巨大な炎猿。 溶岩から無数の腕を突き出して、囲った炎蛇ごと魔甲蟲を胸に抱き遠吠えをあげた。 遠吠えは天にも昇る火柱となって遮断結界の天井に突き刺さる。

 火系単体攻撃魔法では最上級に位置する術で、明らかにオーバーキルである。 羽音もかき消され悲鳴もなく、炎猿の(かいな)の内で静かに蒸発する魔甲蟲。 ついでに余波によってもたらされた副効果が、この魔法を『範囲カテゴリーじゃないか?』と言わしめた熱波。
 即ち……。

「……ってえ、あっつううぅっ!!」

 攻撃魔法の効果は基本的に術者を除いて(・・・・・・)影響を及ぼすため、オプスの隣にいたケーナにも当然余波が及んでいた。 悲鳴と共にオプスの側から離脱、慌てて【火炎耐性】の魔法を行使。 効果範囲がPT仕様な魔法の為、赤いエフェクトがケーナだけでなくオプスをも包む。

「あっついわ馬鹿ァ!」
「これはスマンな」

 やや笑いを含んだオプスの返答にむくれるケーナ。 今の熱波で焦げたりしたところはないかと確認するケーナの様子が、くるくる回る小動物のように見えて滑稽だ。 それを見られて少しは溜飲の下がるオプスであった。








 ――――同じ頃、暗闇の中で。

 無数に集まった影が、光さえ及ばぬ闇の奥で騒がしく蠢いていた。 あるモノは触手を激しく擦り合わせ、あるモノは無数の眼を瞬かせ、あるモノは強靭な尾を周囲に当たり散らし、あるモノは地に伏せ静かに命を待っていた。

 モノ達の世界はある日を境に限られた空間となり、制約は無意味なものとなった。 限られた空間の中で強いモノが弱いモノを虐げ、弱いモノは淘汰されながら従順に、僅かばかりの秩序が形成された。 外に出る道が開けたのはつい最近の事。 誰もが飢えや自由を求めて門に群がったが、全てが出られる訳でもなく、出て行ったモノは戻ることはなかった。 しかも逆に侵入してきた強者がここの秩序を乗っ取って、モノ達に提案をする。 『少し待てば獲物が外からやってくる』と。 その賭けに乗るしかなかったモノ達は、言葉通りにやって来た獲物を待ち構え……。 どうしてこうなったのだろうと首を傾げた。


 狭い世界を囲っていた壁は消え、これで外に出られると歓喜した。 だが壁は更に強固なものとなり、モノ達を阻む。 侵入者を食い散らかす役に混ざりモノ達――ヒエラルキーの中堅どころ、数が多い――が抜擢され、苦渋の涙を飲むモノもいた。 しかし、どれだけ待っても未だに一匹たりとも戻らない。 最後に残ったモノ達が潜む地下迷宮が端から切り崩されているという現状。 遥か遠方に差し込む光がどんどん範囲を広げていると言うだけで、モノ達には脅威である。 如何なる手によって地上を含む迷宮を切り崩す、という行動を誰が考え付くというのか。 つい先程、最も数多い種族が向かったが、恐ろしく強大な力が行使されたと同時に気配が途絶えた。 ここに来てやっとモノは自分達がガラスの橋か崖っぷちに立っていると自覚した。 そして愉悦の笑みを浮かべて此方を見下ろす強者が、やはり敵でしかないことも思い知る。 強者への服従すら忘れたモノ達は自らの生存を賭ける為に行動を開始した。







 暗闇の中ふんぞり返っていた岩場から降りたソレは、ガランとした迷宮の一角を見渡して口元をニヤつかせた。 こちらを警戒しながら、西側へゾロゾロと出て行った魔物達。 奴等が向かった方角は、本来なら入り口であった茶国王城の庭園に通じている。 本能的に一瞬で滅ぼされそうな東側には向かいたくなかったとみえる。

『――――――――』
『────、────』

 一時的に魔物の頭として君臨していた強者は四本の腕を組み、主から与えられた命令を呟いた。 そして迷宮の一角に最初から潜んでいた首無しの同僚へ目を向ける。 残った雑魚共が自分を警戒しつつ勝手に行動を起こしたのは、同僚の意識誘導によるものだ。 あとは上に来ている冒険者達が奴等の意志も本能も関係無く駆逐してくれるだろう。 とりあえず、何時現れるか分からん侵入者を待つよりは楽な仕事だったかなと、肩の荷を降ろす悪魔であった。
+注意+
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