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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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57話 尋問、いいえ対話です

「フンフフフ~ン♪ フフッフッフフ~ン♪」

 空は快晴、気分は上々。 足並みも軽く、天気のよさに釣られて駆け出したいくらいだ。 

「……そういえば昔、天気のいい日に病院の中庭で駆け回っていた子供達の声を聞いて『なにがあんなに楽しいんだろう?』とか思ってたけど、こんな状態に置かれると納得もするわよね」

 病室でただひたすらに、壁色が白から黄ばみつつある経過を眺めるという日常を思い出して、ボソリと呟くケーナ。 当時は病室へ遊びに来た仲のいい少女に『おねーちゃんも外で遊べればいいのにね?』と言われ、『そのうちにね』と笑って返答した記憶がある。 しかしその時はもう、手足からはすっかり肉付きがなくなり、無事生きられたとしてもリハビリに何ヶ月も掛かる有様だったのだから、安受け合いにも程があるだろう。 それ以前に首から下は彫像のようだったので、どこをどうやったら回復とするのやら、今でも謎だ。 

「まあ、このウザイ人混みもそんな人達の固まりだと思えばいいかぁ」

 やや達観した感じで周囲に目を向けた。 フェルスケイロの西側商店街とも言うべき街並みは普段とは違い、何処もかしこも人だらけではある。 あちこちの道端に露店が軒を連ね、食い物や珍しい一品を求めて代わる代わる人が首を突っ込んでいた。 街の中央通り付近なら兎も角、この辺りの地面は石畳などは敷いていない。 強固に踏み固められた地面がデコボコになっていて、少々歩き辛いくらいだ。 あちこちから人の波に押されたり、ケーナの背が低いことも原因だったりで人ごみの中は非常に進み難い。

 西門付近の広場に近付いて、ようやっと人混みから抜け出したケーナは溜め息を吐いた。 色々な人や物にぶつかった肩をぐるぐると回してほぐす。

「はふ……。 あーあ、これだったら素直に屋根の上でも移動してくればよかった……」

 どちらにしろ人目が多いので、屋根を移動するのは【姿隠し】と併用してになるだろう。 実は最初に裏通りを移動してきたのだが、『犬も歩けば棒に当たる』の如く要らぬ騒動に巻き込まれ、時間を取られた。 気配を消しつつ移動していた怪しい黒装束の一団と鉢合わせになり(ケーナの超感覚技能(パッシブスキル)類の前では【隠密】も意味無し)、相手側にケーナが手練れの邪魔者と判断された結果、襲い掛かられたのである。 勿論、やさしく対応(パラライズ)し、一網打尽にしたところで騎士団に引き渡したのは言うまでもない。

 フェルスケイロの西側交易路に続く西門は未だ封鎖処置が解かれておらず、門は堅く閉ざされたまま数人の兵士や民兵が詰めている。 四六時中彼等の厳しい視線に晒されるのはお気に召さないらしく、この辺りには露天商の店は全く無い。 現にそこまで移動してきたケーナに向けられている視線も『なんだこの嬢ちゃんは?』といったものばかりだ。 それらの視線に動じることなく門の詰め所に近付いたケーナは「こんにちは~」と元気な挨拶をひとつ。 面食らって「こ、こんにちは?」と、どもりながら挨拶を返す門番に用件を伝えた。

「騎士団長からこっちの門を通っていいと許可取ってるんだけど、何か聞いてませんか?」
「ここの門を? ……ちょっと待て」

 対応してくれたのは詰め所の中から顔を出した三十代くらいの兵士、この場を預かる隊長らしい。 何かの書類を引っ張り出した彼は、ケーナに冒険者ギルドカードの提示を促した。

「はい、これ」
「すまないな、一応規則なんで。 ええと『ケーナ』殿……と。 よし確認した、少し待っててもらえるか、同行する騎士がいるらしいんでな」
「同行する……騎士ぃ? なにそれ?」

 首を傾げるケーナへギルドカードを返却し、書類片手の兵士長が説明を入れる。 簡潔に言えば何か問題が起こった時、第三者の立証が必要らしい。 勿論、問題などは起こらないほうが望ましいが、動向の監視と報告の義務もあって騎士の同行は必須だという。 国が通行止めにしている所へ、騎士団長が許可したとは言え冒険者が調査目的で入り込むには、それなりの付属品が必要だという事だ。

「ああ、なるほどー。 ……って、大丈夫かそれ……」
『足手マトイデスネ』

 調査と銘打っているが、実際は凶悪なイベントモンスターが闊歩する地域を覆う、結界強度の確認だ。 場合によっては溢れ出たモンスターを相手にしなければならなくなる。 レベルの上下は千差万別であるものの、イベントモンスターと呼称されるモノ達の最低レベルは七十五ぐらいだ。 四十~五十レベル程度の騎士が敵う相手ではない。 いざとなったら技能を駆使して護ることも考えて、ケーナは幾つかの技能を短縮呪文(ショートカットキー)にセットし直す。 椅子を勧めてくる兵士に礼を言って断り、外壁の日陰の部分に寄りかかった。 脳裏に思い起こされるのは昨日のオプスとの話し合いである。






 ─── 一日前。

「んじゃ、真面目な話といきましょうか」

 宿屋の一室、闘技祭の開催まで後三日と迫っていて、ケーナが学園の依頼を終えてから一日が経過していた。

「さあ、キリキリ吐け!」
「間髪入れずに脅迫からかっ!?」

 ギルドの仕事から戻っていたオプスを確認したケーナがやったことは、労いの言葉をかけることではなかった。 部屋を丸ごと【遮断結界】で覆い、オプスを椅子に縛りつけ、取調べ室のように尋問を開始することである。 サイレンは申し合わせたようにケーナの背後に立ち、静かに佇んでいるだけ。 ちなみにオプスを椅子に縛り付けたのは彼女の迅速な作業の賜物だ。

「我はあちこち回って、昨日帰って来たばかりなんじゃが……。 ついでに昨晩も説教をくらい続けたんじゃが」
「ああ、それはご苦労様。 でも私も偶然に昨日帰って来たところよ」
「うむうむ、そちらもお疲れ様じゃのう。 しかし、この仕打ちはいかがなものかと思うのだが?」
「だって、なんだかんだで余計なことばっかりあって、オプスに事情が聞けないんだもん」
「普通に聞けばよかろう」
「なーんかタイミングがあわなくてね……」

 全然悪びれた様子のないケーナに、オプスが文句を口にしようとした時。 サイレンが手をパンパンと叩きながら横槍を入れた。

「お二人とも、そこまで。 いつものじゃれ合いをしていると時間が経つばかりです」
「ああ、そうだった。 ありがとね、サイレン」
「いえ、これは何時ものことですので」
「おいこらサイレン。 お主、ご主人様に対する忠誠が欠けてやせんか?」
「何をおっしゃいますご主人(オプス)様。 自分はただ、ご命令通りにケーナ様をご主人様と同等に扱っているだけですよ。 きちんと(・・・・)ご命令通りに、です」
「だったらこの縄を解くがよい」
「この場合、悪者なのは秘密主義のご主人様ではありませんか。 勿論、ご主人様とケーナ様が同等であるならば、持っている情報も共有してしかるべきでしょう?」
「むう……」

 話のすり替えと言ってしまえばそれまでだが、オプス自身がサイレンに下した命令を楯にされては口ごもるしかない。 仲の良い主従の会話に、傍で聞いていたケーナは苦笑する。 ある意味この主にしてこの従者ありと言った感じの方向で。


 改めて、縄を解かれたオプスが椅子に腰を落ち着け、ケーナは対面のベッドに座る。

「じゃあ、話を聞こうか」
「主語を入れんと意味が分からんぞ」
「茶国大結界のことだそうですよ」
「……ああ、アレか。 なんと話したものやら……」

 サイレンが補足を入れると溜め息をついたオプスが腕組みをして唸る。 そんなに難しい話題なのかと首を傾げるケーナに、【薔薇は美しく散る(オスカル)】を使って自分の頭上にどんよりとした曇り空を作るオプス。 今にも雨が降り出しそうな黒雲である。

「なによその先行きに不安しかないって表現はー?」
「まあ、実物を見てもらえれば分かると思うが、その通りぞ」
「廃都の事をサハラシェードがえらい気にしていてね、ある程度知っていればあの子達もそれなりの対応が取れると思うんだ」
「なんだそのサハナの亜種みたいな奴は? つか、物凄い懐かしい名前だのう」
「あの子の里子だよ。 女神とやらに任命されたオウタロクエスの女王様。 なんというか私の姪っ子になっちゃってる認識だけどね」
「おぬしはまた無意識に家族を増やしおって……。 後で別れが辛くなっても知らんぞ」
「それはその時になってから。 先に解決すべきは、なんで廃都が結界で覆われてるのって事かな? 最近になって漏れ出しているモンスターは……、【遮断結界】の耐久力が切れはじめてるの?」
「まあ、そうじゃろうな。 ここ最近の我等はあのダンジョンに篭ってばっかりで、メンテナンスも碌にせんかったからのう。 一応、留守を任せている者は居るのだが、そっちもそろそろ限界なんじゃろうなあ」

 ケーナが以前別の用途で使用したこともある、廃都大結界として機能する【遮断結界】魔法。 元々それは半永久的な魔法ではない。 モノ自体には防御力と耐久度が設定され、防御力は魔法を発動させる以外に注ぎ込んだMP量によって変わり、耐久度は発動者の魔力値が丸々適応されるのだ。 一応、付属機能として『悪意あるモノを通さない』だとかのキーワードを仕込む事が出来る。

 例を挙げると、ケーナが発動以外でMPを込めずに防御力ゼロの【遮断結界】を作ったとする。 その耐久度は、オプスが全力全開の攻撃を放ったとしても一撃は耐えられるシロモノが出来る訳だ。 ただし二撃目で壊れるが。 一度張ってしまうと、解除するには壊すか、術者が消すかの二択しかない。 このような理由から世界に残っている城砦の(たぐい)は、張ってある【遮断結界】が突破できないせいで未だに幾つかが手付かずのままだ。


「結界の管理は召喚獣に任せておる。 設置した当時、二百年前にはネットから切り離した此方側の大地に混乱が広がりそうだったのでな。 有力者達をかき集めて、適任のおける者に国の管理を任せたのじゃ。 ぶっちゃけると【統治】技能を持っている連中にな」

 【統治】技能はプレイヤーが支配する地域を発展させる為の技能だ。 オフラインモードの出発点である村を砦にまで発展させるときに所持していれば、プラス補正が付く。 それ以外では殆ど役に立たないと言う、幾つかあるうちの不遇の技能である。 後日、バージョンアップでオンライン側にも同じような村が出来るという話ではあったが、実装されるまでには至らなかったようだ。

「いやいや、それって伝承によると女神様に命じられたって聞いたよ? はっ、まさかまさかオプスが女装してやったとか……、あれ?」
「頼まれても誰がするかバカ者! 表向きに立ったのはこ奴よ」

 全力でケーナの言葉を否定したオプスは、傍らに直立不動で佇むサイレンを指差した。 指された黒髪エルフメイドは(ほの)かに頬を染め、少し苦虫を噛み潰した表情で疑問顔のケーナの視線に答え、小さく頷いた。

「ご主人様の指示に従い、確かに自分が務めました。 髪を染めて羽衣(はごろも)装備を使うように言われまして」
「うわあ…………」

 ケーナは心底同情するといった表情に変わる。 態々立ち上がって傍に寄り、サイレンの頭をポンポンと優しく叩く。 いつのまにかハンカチを取り出していたサイレンはケーナの労いに、目元ににじんでいた涙を拭う。 「うんうん苦労したねえ」「ううっ、ケーナ様……」「犬にでも噛まれたと思って忘れよう」「はい、お心遣いありがたく思います」「……元気出して」「……はい」 と、痴漢にでも遭って心に傷を負った後輩を慰める先輩の図を『スポットライトで照らされた舞台』で演じる二人。 背格好から見ると、妹に慰められる姉のようだ。 その間中ずっと、二人の汚い物でも見る視線はオプスに注がれていた。 

「ええい、なんじゃ二人してその目は!」
「「さいてー」」
「うっ……」

 自覚はあったのか、バツの悪そうな顔でそっぽを向く。 ちなみに『羽衣装備』と言うのは衣装自体に【飛行】魔法が付加してあるレア装備のことだ。 昔話に出てくる天女のような裾の長い着物に似た服に、輝く帯が周囲にたゆたい、後光が背後から差してくる実戦向きでない魅せ装備のことである。 欠点は上半身部分の布地がシースルー状態であり、女性プレイヤーに『運営(へんたい)の煩悩装備』と蔑まされていたアイテム類のひとつである。 こんなものを真顔で着れるのは、ケーナの知る限り一人くらいしか居ない。

 確かに美女の分類としても上の上に入るサイレンならば、髪を金に染めて羽衣装備の後光もプラスされれば女神と呼ばれても過言ではないだろう。 伝説の裏側を知ってしまったケーナは、以前に女神について熱く語っていた息子を思い出し、心の中でちょっと涙した。 しいて言うならばかなり幻想が含まれた語りについて。 やはり憧れの女性に男が高貴な幻想を抱くのは何処も同じなようだ。

「とりあえず、この事実は心の中にしまっておこう。 創世神話がガラガラと音を立てて崩れていく人もいるだろうし……」
「うむ、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものよのう」

 その”奇”を作った本人からしてこの言い草である。 この世界にはなさそうだが、ケーナは頭痛薬が欲しくなった。 




 それから、リアデイル配信終了した後の事をざっと説明して貰う。 端的に纏めると、国の発起、廃都にイベントモンスター封じ込め、此方側に落ちたプレイヤーの処理、と言った三つ程である。

 国の発起について、オプスはほぼサイレンに丸投げ。 サイレンはNPCや里子の中から【統治】技能を持つ者を選出し、エリアを北部・中部・南部に分けて国を興させた。 その際に、三国ともに廃都監視の役目を任せたらしい。 ところが二百年も経ってみれば、その役目を継続していたのは南部のオウタロクエスだけだと言うのだから驚きである。

「フェルスケイロの王様に、監視の役目はオウタロクエスが担ってるって聞いたけど……」
「もうそんな中枢にまで食い込んどるのか、お主。 貴族嫌いが聞いて呆れるわ」
「やはり代を重ねると、そういったものの義務感は薄れていくものなのでしょうか?」
「とは言え、二百年で四代くらいでしょう。 そんなんで忘れ去られるってのはオカシイと思うし、女神様から下賜されたお役目より利権争いの方が大事なんじゃないの? これだから貴族って奴はー!」
「全然関係ないところから妄想全開で逆恨みになっておるぞ」
「後でスカルゴに言っとくにしてもなあ。 どーやって説明したものやら……。 ああ、それと話は変わるけど、女神信仰とかどこぞの神様直下の五大公とかもオプスの策略?」
「土着の信仰なんぞ知るか。 大方、都合良くそこに当て嵌まっただけであろうて」


 次に此方側に食い込んだプレイヤーを一時保留にしてから廃都の処理を優先。 各地に湧いていたイベントモンスターを空間接続で強引に廃都へ纏め、【遮断結界】で隔離したのちに召喚獣の適役に管理を丸投げしてからプレイヤーを保護。 この此方に残ったイベントモンスターもケーナの力の影響を受け、ありったけが落ちてきた訳でもないとの事だ。 

「丸投げばっかしじゃん。 そん時に纏めて処分しておけばよかったのに、今こうして苦労してるんだからさあ」
「いっぺんに全部の処理なんぞやってられるか。 単独でどうしろと言うんじゃ」
「丸投げと言ってらっしゃいますが、後で各所を回って点検等のフォローはやっていらっしゃったのですよ。 ここ五十年の間にかなりの数のプレイヤーの方がお目覚めになりまして、鉢合わせしないように外出は控えていらっしゃいましたが」

 目覚めたプレイヤーの一部は、カン・ウーのようにここの地域外へ出て行った者もいるとか。 後は寿命を迎えて亡くなってしまった、人族や猫人族(ワーキャット)等の短命種族だろう。

「にしてもプレイヤー保留って酷い。 私にしても何だって目覚めたら宿屋だったんやらなぁ」
「どちらにしろ人の意識をコピーして此方側のアバターへ下ろしたんじゃ。 心が体に馴染むまで時間が掛かるのは分かっておったしな。 目覚めるまでは残っていた砦やダンジョン、城や拠点へ放置しておけば誰かに干渉される事もあるまいて。 但し目覚めるのに百年以上掛かったのが想定外だったんだがのう。 ケーナの方はこっちの干渉範疇外であるからな、知らん」
「更に酷っ!」
『ソチラハ私ガ御身ヲ別空間へ保護シテイマシタ。 ケーナ様ガ目覚ル寸前ニ多少ノ意識誘導ヲ使イ、宿屋ノ者達ニ以前カラ泊マッテイタ客ダト思イ込マセテオリマシタ。 ケーナ様ノ混乱ヲ避ケルタメニ秘匿シテイマシタ事、謝罪致シマス。 申シ訳アリマセン』
「あ、キーの仕業だったんだ。 ん、ならしょうがないか。 お陰様でマーレルさんやリットちゃんに知り合えたし、結果オーライだよね」
『有リ難キオ言葉』

「キーと我とで激しく扱いが違うのは訴えたいところなのだがのう……」
「それは最早付き合い方の差といいますか、人徳ではないでしょうか?」


 ───『……あ……まー』


 問題の廃都であるが、まだ召喚獣が現存しているというので詳細はそちらに聞けとの事だった。 それで何故、オプスが一緒に行こうといった話題を避けているようなので聞いてみると……。

「少々野暮用が残っておってのう。 すまんが一人で行ってくれ」
「申し訳ありませんケーナ様。 この駄主人は自分がきっちり監督しておきますので後の事はお任せを」
「う、うん……。 また別行動かー、こそこそ何やってるのよ?」
「少々準備体操をなあ。 安心せい、少なくとも王都は無事じゃと思うからの」
「安心がすっ飛んだよ! 何する気! ねえ、何する気!? あんまり無体なことすんならここでガチ戦になるよ!」
「お主と我とでヤり合ったらここがクレーターになるだけじゃろう……」
「落ち着いて下さいませケーナ様、何か問題行動がありましたら直ぐにお知らせ致します故に」

 腕まくりをして噛み付こうとしたケーナを、「どーどー」とサイレンが宥める。 首に縄でもつけてムリヤリ同行させたい気はあるが、今まで世界を陰で支えていた苦労を思えば好きにさせておきたいところだ。 放置しておくのが色々と危険な性格ではあるので、イマイチ信用に欠ける。


 ───『……か……さ、……って、!』


 そこまで記憶を反芻していたところで、ケーナは誰かに呼ばれたような気がした。 内側に向けて思案モードになっていた意識を外に切り替えたところ。 突如キーから接近警報を聞き、慌てて壁に預けていた身を起こす。 まあ、起こそうとしたところでやわらかくて暖かいものに突撃された。

 具体的に言うと───

「おっ母様ーっ、おっ待たせー!! どーん!」
「は、ぷふっ!?」

 ……という歓喜の声と共に娘から飛びつき抱擁を受けたのである。


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