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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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55話 キャンプに行きましょう

「やっほー、コーラル、お久しぶり~」
「ケーナァ? お前もこれに参加すんのか。 いきなりここだけ安全地帯になったかもしれん」
「いや、さすがに数十人がバラバラで動く状況に単独だと守りきれないってば」

 息子と娘の襲撃より二日後の早朝、王都東門の外側にゾロゾロと人が集まりはじめていた。 大半が青や緑のローブを制服として着用する学院の生徒が三十人。 茶色のローブやマントを着た数人が学院の教師。 六人の騎士と四人組PT『駿馬』&五人組PT『凱旋の鎧』の冒険者と単独(ソロ)のケーナ。 教会から派遣されて来たのが、従軍経験がある司祭一人と修道士が四人。 総勢六十人強からなる一団が今回のサバイバル実習に参加する全員であった。 居残りではあるけども、出発前の一言を述べるために学院長(マイマイ)の姿もある。 挨拶をケーナにした後は教師達を集めて最終確認の真っ最中だ。
 その中に幾度かの交流があるコーラルのPTを見つけ、ケーナは真っ先に挨拶を交わしていた。 他のメンバーとも頭を下げ合い、出発まで暇になったケーナとコーラルは雑談に花を咲かせていた。 生徒達は整列して、マイマイによる諸注意と激励を織り交ぜた朝礼を聞いている。

「闘技祭に出るの!? コーラルも込みで団体戦って、それなんてインチキ……」
「さすがに極力手加減を入れるけどな」

 話は間近に迫った闘技祭について。 初めてこの時期を迎えるケーナに、コーラルが楽しむスポットを教える。 狙い目の美味い屋台だとか、闘技祭で公認の賭け事だとかをだ。 自然と話はコーラルのPT(パーティ)『凱旋の鎧』が、今年こそはと参加する闘技祭団体戦へ。 自分達の実力を充分だと判断した彼等のリーダーが、かなり意気込んでいるらしい。 その熱意に負けてとうとうコーラルも反対意見を引っ込めたとか。

「さぞかし反対意見が不自然に見られたでしょうに。 レベルが一人だけ飛び抜けてると大変だよね?」
「察してくれるか……」

 苦笑するケーナに肩を落とすコーラル。 彼のPTは四人の平均レベルが五十ちょい、コーラルだけで四人足しても遥かに凌駕する三百九十二レベル。 周囲に合わせるのに随分と苦労してきた、と言う表情で溜め息を吐くコーラルの肩を叩いて労うケーナ。 二人は知らない、更なる八百長以上の脅威が参加者の中に名を連ねているなどとは。

 そのうち学院長の話も終わったようで、騎士の一人と纏め役の教師が号令を掛け、全体が移動し始める。 とっとことーと小走りに近寄ってきたマイマイがケーナに「宜しくね、御母様」と声を掛けて、ペコリと頭を下げた。

「まあ、目の届く範囲なら。 最悪死者蘇生魔法を使ってでも」
「ヤメテ!」「使うな馬鹿者!」

 胸を張って現在遺失技法になっている魔法使用を仄めかすと、マイマイとコーラルが声を揃えて突っ込んだ。 苦笑して「冗談よ」と言う母親をジト目で見つめるマイマイであった。 



 街道を行進する一団はややバラけている。 目的の野営地は毎年利用する開けた場所で、徒歩で王都から半日以上離れていると聞いている。 街道なので周囲への警戒は最低限になっている。 それでも過去、危険な魔物に遭遇した実例があるらしく、騎士達と冒険者で周囲を固めていた。 ケーナだけは唯一のほほんと肩の力を抜いた状態で、鼻歌を歌いつつ気楽なものだ。 彼女は森から直接、悪意あるモノの接近を教えて貰えるための余裕である。 そんな事を知らない学生達からは「あの冒険者、大丈夫か?」等と訝しげな視線を向けられていた。 しかし、騎士達は騎士団長の彼女(・・)が只者ではないと知っているし、他の冒険者からもその実力は認められているので、気にしている者はいない。 むしろ『彼女が慌てる事態になってからが本番だ』などという信頼を寄せられている。 その事実に本人は1ミリも気が付いていなかった。

「お久しぶりです、ケーナさん!」
「おはようございます、ケーナさん」

 これまたケーナが只者でないと良く知る人物が、生徒の列から抜け出て駆け寄った。 

「おはよう、ロンティ。 ご無沙汰してるわね、マイちゃん」

 彼女が装備しているローブと杖は以前と変わらないが、今日は大荷物を背負っているロンティ(一応侯爵令嬢)。 軽装の革鎧を装備し、腰に細剣を下げて同じくリュックを背負うマイリーネ王女である。 この場合、『担当する役目が前衛後衛逆なんじゃなかろーか?』とか思うケーナだが、向き不向きは人それぞれなので、そういうこともあるだろうなと納得しておく。 他の学生から見れば王女と顔見知りで、敬語も無しに会話が弾んでいる冒険者に驚きが隠せない。 中には、いつぞやの『貴族脅迫騒ぎ』の現場に居合わせた学生も居て、あの冒険者が学院長の母親だと周囲の仲間達に耳打ちしていた。 お陰で王都を出て行程の半分も行かないうちに、本人の預かり知らぬところで彼女の立場を誰もが知ることとなる。 『あの大司祭と学院長の母親で王族に認められた凄腕の冒険者』……と。 間違ってはいないが、ケーナにとってはややハタ迷惑とも言える認識であった。

 なにやら不意に襲ってきた悪寒にぶるりと身を震わせたケーナ。 嫌な予感に周囲を見渡し、自分の直感スキルやキーの周辺警戒を確認する。 予め喚んでおいて、先行させた風精霊も戻って来てはいない。 異常を発見すれば帰還するように命令してあるので、今の悪寒は気のせいかと首を捻った。

「どうしましたか、ケーナさん?」
「いや、なーんかイヤな感じがしてさー。 周辺に異常は無いみたいなんだけど……」
「風邪、ですか?」

 心配そうに尋ねて来るロンティとマイリーネに、ケーナはなんでもないと手を振って元気さをアピールしておく。 何処かで何かをやっているオプスが悪いと決め付けて、殴る回数を蓄積することに。 遠方では件のオプスが似たような悪寒を感じていたが、この場に関係無いので割愛する。




 行程上特に大きな問題は無く進み、昼を過ぎる時刻になってようやく予定の野営地へ到着した。 街道より逸れて一時間程森林内を移動した先には、八十メートル四方の切り開かれた空間となっており、人の背丈くらいある雑草で覆われていた。 先ずはケーナ達冒険者でその場の安全を確保、学生達はその過程をしっかりと観察して自分達の糧とする。 しかし、ケーナが周辺の木々から聞き込んだことにより、あっさりとモンスター等の危険がないというのが確認された。 肩透かしを食らった学生達は、教師の指示で全体を三隊に分ける。 一隊は今夜の寝床を確保する為に草刈りに取り掛かり、もう一隊は教師も含むコーラルのPT『凱旋の鎧』と共に、近くを流れる小川まで水汲みに出る。 残りはもう一つの四人組PT『駿馬』と狩りに出掛けて行った。

 草刈と平行して、教師と術士専攻の学生が野営地の周囲に(まじな)い結界を張る。 マイリーネやロンティはさすがに外周り組には出してもらえず、野営地残り組だ。 ケーナはマイマイから【最後の砦】扱いとされているので、必然的に野営地に残っていた。 騎士が数人で周囲に目を光らせる中、ケーナは雑草の発する悲鳴を風精霊によって遮断していた。 雑草の『声』は木々の発する『声』と違い、『悲しそうな思い』が伝わってくる程度なのだが、聞いていて気分がいいモノではない。 思いは風で遮断出来る訳ではないが、きゃわきゃわと賑やかなので気休め程度である。

 ケーナが喚び出した風精霊は召喚強度1なので、百十レベルが三体。 見た目は緑がかった半透明で四頭身くらいの美幼女、きゃいきゃいと騒ぎながらケーナの周囲をくるくると舞う。 時折、ケーナの髪や服の裾を使って、かくれんぼやら鬼ごっこっぽいことをして遊んでいる。 これも学生と行動を共にして判明したことだが、本来召喚精霊と言うものはこうもはっきり視認出来るものではないらしい。 加えて魔法の心得の無い者には、姿どころか囁きすらも聞こえない筈だそうな。 ゲームだった時には見えないと話にならなかったものなので、ケーナとコーラルにはそれが当たり前だ。 どういう言い訳をしようかと考えていたら、学生や教師には『力の強い精霊を使役する規格外』と認識されてしまった。 黙っているだけでどんどんと誇大な認識を追加されていくので、あさっての方を見上げ遠い目をするケーナ。

 水を汲みに行ったグループが戻って来ると、雑草を刈り終えた学生達と協力して今夜の寝床となるテントを建て始める。 三角柱を横倒しにしたような形で、四~五人が雑魚寝できる程度の大きさだ。 丈夫な細い木で骨組みを作り、白や茶色でまだらにつぎはぎされた獣革を被せて出来上がりだ。 この間、作成と周辺警戒は学生のみでやることになっていた。 騎士は役目上、王女を護るのが仕事だとしても、この行事は学生が経験を積む場である。 ケーナも学生を引率する纏め役の教師、初老の男性から風精霊の使用を控えるように言われていた。 皆が皆、便利な方法を使えるわけでもなく、それに頼りきりになるのは学生の糧にならないからと言う理由だ。 緊急の場合を除いて冒険者は暇になるか、教師役に回るかだと経験者(コーラル)から聞いていたケーナは、臨機応変に対応することにした。

「おいケーナ、何する気だ?」
「とりあえず寝床?」
「は?」

 風精霊を送還し、新たに真っ白い魔法陣を展開したケーナに慌ててコーラルが聞く。 常人には意味不明な言葉を返し、召喚魔法を起動した。 白い光が召喚陣から膨れ上がって弾けると、ケーナの前には大きな白い獣が出現していた。 その場に居た者達は三人マイリーネとロンティとコーラルの例外を残し、一様に鳩が豆鉄砲喰らった様にポカーンと口を開けていた。
 そこに出現したのは全長六メートルはあろうかと言う体躯に、全身真っ白い毛皮に包まれたイタチである。 体躯がデカいだけで見た目は普通のイタチと大差ないが、コレは本来の目の上にもう一対の瞳が備わっている。 「キュー」と召喚主へ挨拶らしきお辞儀をするとケーナを包むように全長の三分の一を占めるふかふかな尾を絡ませ、その横に後ろ足だけで直立した。 家の屋根に匹敵する高さから赤い四眼に睥睨された者達は、首をすくめて硬直する。 誰もが萎縮する白い獣に、その影響を受けていないコーラルが突っ込んだ。

「おいコラ! 説明もナシにいきなりそんなモン喚び出すな! ホラ見ろ全員ビビっちまってるだろうに!」
「はい?」
「さも不思議そうに首を傾げんな! つか、なんだよソレは、レベル見えない上に見た記憶もねえ!」

 ケーナが頭上にちょいちょいと手招きすると、四眼を細めた大イタチが屈んで頭をケーナにこすりつけた。 柔らかそうな毛皮をなでるケーナを見て、マイリーネとロンティがホワイトドラゴンの肌触りを思い出したのか、ぽやんと頬を染める。

「この子は仙界エリアのレアモンスター。 幸せの大イタチ様よ」
「うさんくせえ……」

 胡散臭い宗教が売りつける、幸せを呼ぶ壷並みの名称に口にしたケーナすらも苦笑していた。 「幸せ~」はプレイヤーの付けた渾名みたいなもので、正式名称は『仙獣イズエナ』、レベル四百五十。 その名の通り仙界に出現するモンスターである。 厳密に言うならばレアモンスターとは違い、只単に倒し難いというだけだ。 特殊能力は『逃げ足』と『幸運』なので、兎に角逃げる。 プレイヤーから遭遇する前に逃げる、遠くから見つけても逃げる、運良く接敵しても逃げる。 「アクティブモンスターとは何なのか?」と運営に愚痴りたい程に逃亡する。 スピード特化成長をしていたギルドメンバーからも逃げおおせたというから、ある意味レアモンスターだと言う噂が出回ったりした。 そんな行動パターンなので、仙界で出会うことが稀、戦闘する態勢に持って行くことすら至難のワザだ。 ケーナ達が倒したのも人海戦術を駆使して、広範囲に障壁を幾つか張り、その範囲内を魔法で絨毯爆撃という力業で数回後にやっとである。 時間にして一晩掛かり、参加メンバーが三十五人。 その中にスキルマスターが十三人混じっていたというのが、この作戦の前代未聞さを物語っている。

 逆に召喚獣として使うとその特殊能力はPTや召喚主に適応される。 『逃げ足』はほとんど使われなかったが、『幸運』はアイテムドロップ率アップや異常状態に掛かりにくくなる等の抵抗値上昇、味方側の特殊攻撃(毒や麻痺)効果上昇やクリティカル率アップ等の攻防全般に役に立った。 イズエナ自体の攻撃は、噛み付くか引っ掻くかしかないので、ケーナ達限界突破メンバーからすると、普段使用する狩場では足手まといでしかなく。 大抵、召喚した後は金魚のフンのようにPTにくっ付いて来るだけであった。

 今回ケーナが召喚した理由は、その真っ白で柔らかそうな毛皮目当てである。 天然物の生きた毛布として召喚しただけだ。 




 学生達のテントは広場の中央に密集して作られ、そこを囲むようにして周囲に火が焚かれる。 冒険者の分は自分達で都合付けるという話だったが、四人組PTとコーラルのPTは焚き火の周りに雑魚寝の予定だ。 ケーナもそれに倣って広場の外周側で焚き火の近くに陣取る。 これはイズエナの超感覚頼みで危険を察知する役目と、この中でケーナが一番高い防御力を有する為である。 加えて敵対者が近付く時にもしケーナが気付かなくとも、対痴漢用召喚獣(オートガード)が勝手に作動することも含めての配置だ。 

 とは言えあくまで非常用である。 このサバイバル実習の主役は学生なので、教師や冒険者と一緒に学生も交代制で野営に立つ。 ケーナは「先生、お願いします」「どぉれ」的な用心棒の役割を担う。 前日に顔合わせした時点でマイマイから教師陣に伝えられてあるので、疑問を挟む者はいない。 

 狩り組が獲って来た兎や野鳥をさばいて調理するのは学生の仕事。 参加している学生達は(王女も含め)慣れた手付きで食事の支度を整える。 教師と各PTのリーダーは今夜の野営についてローテーションの取り決めだ。 ケーナはその中に含まれておらず、適当に持ってきた肉と野菜と燻製魚と水を【調理技能:魔女の鍋】で加工する。 これは適当に三種類以上の食材を合成し、HP&MPの一割を回復する効果を持つスープにしてしまう万能調理法だ。 回復する値の基準値となるのは作成者のHP&MPである。 いつものように閃光が迸った後に出来上がったそれ。 何故か完成品は『怪しい紫色でボコボコ沸騰している液体に、ぶつ切りにされた材料が浮いている鍋』となって出現した。 物珍しさに見ていた全員が引く異様な物体である。 ゲーム中のグラフィック自体がそれだったので、なんとなく予想していた作成者も冷や汗だらだらものだ。

「魔女の鍋ってリアルにするとそうなるんだな……」
「うん、私もちょっと引くわぁ……」
「学生の手前だ、ちゃんと食えよ」
「……うん、がんばる」

 諦めと悲しさを背負ったケーナへ、唯一事情を知るコーラルがトドメを刺す。 幸せの大イタチ様が流れてくる紫色の湯気から顔を背け、召喚主の肩へポンと手を置いた。 ちょっと涙ぐみつつ、ケーナはスプーンを紫色の液体に突っ込んだ。


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