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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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52話 娯楽を提供しよう

「こんにちわ、小さな淑女さん(リトルレディ)。 陛下のお友達でしょうか?」

「リトッ……!?」
「ぷっ、くくくくっ」

 初対面の挨拶が子供扱いな件について固まるケーナと、部下の酷い発言に笑い出すサハラシェード。 一体何の集まりなのか、自分の上司が腹を抱えて笑い出している現状にさっぱり着いていけない騎士団長。 片方の少女、───言うまでもなく外見年齢十代中盤にしか見えないケーナのことである───は面と向かっての『小さい』発言にボルテージ上昇気味だ。 即、手を出さないのは、ここが姪の国で自分の過剰なまでの攻撃力を自覚しての事。 内心、笑い転げている姪に、さっさと部下への間違いを正してもらいたいと思っていた。 その当てにしていた姪が再び笑いのつぼにハマるまでは。

「陛下?」
「あっはっはははは……、はあ、ふう。 いや、すまないなカンコウ。 こちらのリトr……ぷっ、くっ」
「いや、もういいけどね」

 こっちに来て以来、散々『嬢ちゃん嬢ちゃん』言われれば皮肉のひとつも出なくなるというものだ。 大人しく姪の発作が収まるのを待つ。 サハラシェードがなんとか呼吸を整えた頃にはすっかり不機嫌になったケーナが腕組みをして眉をひそめ、そっぽを向いていた。 周囲に放たれる【威圧】(プレッシャー)が尋常のものでなく、カンコウが脂汗を流しながら壁際に張り付いている。 流石のサハラシェードも身内と言えど怒らせてはならない存在だと思い出した。 理解するのが少し遅すぎたようである、事前に気軽に話しすぎたのも原因であろう。 これ以上のヤブヘビを避けるため、サハラシェードは簡潔に伯母を紹介した。

「ではカンコウ、こちらが先日協力体制を断られたケーナ伯母上ですわ」
「もんの凄い私が悪いみたいに聞こえるわよ、それ」
「おお、貴女が……。 父からよくお話は伺っておりました」
「……父ィ?」

 いや~な予感を感じて身構えるケーナ。 サハラシェードもそんな話は初耳なのか、興味深そうに耳を傾ける。

「ええ、カン・ウーと言います。 二十年程前に東へ旅立ったきり、音沙汰がないのですが……」
「え……、ええええっ!? カン・ウーさんこっちに居たんだぁ!!」

 聞き覚えどころか馴染み深い名前にびっくりし、カンコウなる息子の顔をまじまじと見つめるケーナ。

「お知り合いですか、伯母上?」
「うん、色々と」

 『カン・ウー』とはそれなりに交流のあった人物で、まだ桂菜が存命中だったゲーム時代の後半時期に、色々なイベントやクエストで臨時PTを組むことが多かったプレイヤーだ。 くりーむちーずギルドメンバーと一緒に最終クエストを請け負った外部協力者(京太郎他数人)の一人で、千百レベルの限界突破メンバーである。 名前の通り三国志かぶれで、外部エディッタを駆使して外見をアジア系おっさんにした珍しい拘りを持つ、ある意味異色プレイヤーだ。 周囲に西洋系な顔立ちが多い中、一際目立っていたのをケーナは記憶している。

「しかし、二十年前?」
「はい。 まぁ、あの豪快な父ですから、何処へ行っても基本変わらないと思います」

 その『カン・ウー』は人族な上に、設定年齢が三十歳を越えていたはずなので、旅先で根を張ったか、下手をすると何かの要因で亡くなっているかもしれない。 息子の言うように当人は豪快に竹を割った性格な人物なので、今ここで心配するものでもないかと、ネガティブな考えは横へ置いておく。

「東かぁ。 暇になったらそっちへ街道を作ってみるのもいいかもしんないね」

 オプスの話からすれば、リアデイル地域に住み着いた者達は、夢にも導かれてあちこちから集ったと言う。 ならばこの地域以外にも国があって然るべきだろう。 かつてのゲーム中で東側未設定区域(ただのモンスター生息地なだけだった)が整備されていれば、もう一つくらい国が増えていたかもしれない。

「お帰りになる前に、伯母上に少々尋ねたいことがありまして。 よろしいですか?」

 腰を浮かしかけたケーナを引き留めるように、サハラシェードが声を掛ける。 そろそろおいとましようか、と思っていたケーナは「私に答えられるものならね」と頷いた。

「廃都の事なのですが……」
「あー、廃都かー。 ゴメン、そっちについては全然分からないんだ。 今度、オプスを締め上げるんで、何か分かったら連絡するね」
「オプス? 何者ですか?」
「オペケッテンシュルトハイマー・クロステットボンバー、魔人族の男で腐れ縁の友人だよ」
「はあ、伯母上にも友人っているのですね」
「どーゆー意味よそれ……」

 息子や娘、姪にもろくな認識を持ってもらえないことに涙するケーナだった。


 少し他愛もない話を続けた後、サハラシェードとカンコウに帰る旨を伝え、窓の外に待たせっぱなしだった巨大な亀に移動する。 来た時と同じく、出入りには窓を通って。 じわじわとオレンジ色に染まりつつある空を見上げ、急いで魔法を起動する。 城の窓からこちらを伺うサハラシェードに手を振った途端、その場にあった巨大な亀は忽然と姿を消した。

「あ、あれごと消えるとは……」
「まあ、伯母上だからね」

 目の前で見たものに納得しかねる、と言った顔の騎士団長。 自分の事のように胸を張る女王。 開け放した窓からは、巨大な亀の存在が不意に消えたことに対する戸惑いや不安のざわめきが聞こえてくる。

「先に通達しておいた方が良かったかしら?」
「それは此方で騎士を動かしましょう。 にしても―――」

 二人の視線は今さっきまでケーナがいたソファーへ、そこからテーブルの上に山と積まれた赤い液体瓶へ。 これはケーナが『そう言えば、騎士団に怪我人が出てたとか聞いたんだよね』と置いて行ったものだ。

『よく御存知ですね?』
『フェルスケイロ襲撃戦の後にスカルゴから聞いた。 作って溜まるばっかりだし、使ってね』

 一本手に取ったカンコウが溜め息を吐きながら上司を見る。 この一本だけで、瀕死の重傷を負った兵士が四人以上跳ね起きるだろう。 里子であったサハラシェードやカンコウならよく知るこのポーションは、二百年前なら百五十ギル程度で流通していたごく一般的な物だ。 そのまま現在の価格に換算すると、金貨一枚と銀貨五十枚に相当する極上のアイテムとなってしまう。 今となっては製法が失われ、ひとたびダンジョン等で見つかれば争うように高値で取引される代物なのだ。 以前、ロプスがケーナに告げた危惧はこう言った理由からだ。 そんな一財産になるものをポンと置いていかれては、二人共唖然とするばかり。

「では陛下、自分はこれで。 亀についても通達して参ります」
「ええ、お願い」

 呆けてばかりもいられない、彼等の仕事はまだ山積みなのだから。 騎士団長は当初この部屋に来た目的を果たすと、自らの役目を果たすべく慌ただしく出て行った。 薬瓶(ポーション)は侍女がおっかなびっくりと纏め、医療担当官の所へ持って行く。 景色がよく見渡せるようになった窓を閉めたサハラシェードは、自分の仕事を再開するために山積みの書類から一枚を取った。

「さて、後は伯母上任せ、としか言うしかないわね……」










 ―――轟音、大瀑布


 転移したケーナと巨大亀が出現した場所は、直前の心配し過ぎが空回りする海であった。 遠浅のそれ程深くない、巨大亀の脚半分が水に浸かる程度。 何も無い所に大質量が現れたものだから、砂や魚混じりの海水が下から上へ盛大に噴き上がった。 目の前に広がるは大海原で、後ろを振り返れば砂浜から緩やかに続く陸地が広がっていた。 ひじょーに既視感のある風景である。

「あ、なんか見覚えがあるような……」
『ルカ様ノ村デスネ』

 キーの報告にもう一度振り返って視線を下に。 見覚えある配置の、人気(ひとけ)が絶えた村があった。 村の上に落ちなくて良かったと心の底から安堵するケーナは、一度守護者の塔に戻って金箔仏像に問い掛ける。

「このカメって常に動いてないといけないの?」
『いいえ、九条様の要望がありましたので。 今はケーナ様のご意向にmeは従う次第であります』
「なら、しばらくこの場で停止してもらえるかな」
『承りました』

 浮いた蓮台座に結跏趺坐のまま深々とお辞儀をする金箔仏像。 転移魔法一回分のMPを残し、その他を中核である司会者の席に注ぎ込んだケーナは、守護者に別れを告げて自宅のある辺境の村へと転移した。





 家に帰ったケーナを迎えたのはルカとロクシーヌとロクシリウスの三人。

「おかえり、なさい……ケーナ、お母さん」
「「お帰りなさいませ」」
「ただいまー」

 重ねて言うが三人だけだった。 二人、この場合重要になるのはたった一人の存在が感じられずに眉をひそめるケーナ。 ルカを撫でていたケーナにロクシーヌが切り出す。

「オプス様から伝言を預かっています」
「伝言? オプスから? やっぱり居ないのねっ!」

 人を置いて行ったかと思えば、逃げたかのように姿が見えない。 きっと何か企んでいるんだとおぼろげに確信する。

「オプス、お兄さん……、四角いの、置いてった……」
「『七日後にフェルスケイロで待つ』だそうです」
「なんで七日後?」
「馬車に乗って行ったからではないでしょうか?」

 ロクシーヌの話によれば、エーリネの商隊に同行して行ったらしい。 その気になれば転移魔法で済むのに、彼にしては酔狂な行動だ。 馬車で七日後となるならば、ケーナと同じように行軍魔法を駆使して商隊を届ける気のようである。 何故かサイレンも連れて行ったようなので、何を企んでいるのか不安だ。

あっち(フェルスケイロ)に着いてから、何かする前に取り押さえればいいか。 今日はもうMPも無いし……」

 例のアイテムも取り付けなければとか思いつつ、問題児(オプス)への対処を後回しにするケーナ。 この判断を後日、激しく後悔する羽目になる。






 翌日は朝飯前とばかりに小屋に積まれていた麦をビール樽とウイスキー樽に変える。 朝食を終えた後に大画面映像(プロジェクター)機を持って、マレールの所へ置いて貰えないかと交渉しに向かった。

「ケーナの好きにおし」
「いいんですか?!」

 プレイヤーが見れば目玉がハマったラジカセとなるが、リアデイル大地側の人から見れば黒い台座にハマる目玉だ。 とてつもなく怪しい代物である。 それを持ってきたケーナが「これを置きたいんですが?」とマレールに伺ったところ、二つ返事でOKが出てしまったことに聞いた方がびっくりだ。 マレールからしてみれば、『無償で村に多大な貢献をしているケーナの提案を蹴ることは損をする』という認識から、理由も聞かずに承諾しただけである。 ケーナに同行したルカは一度使った事があるので、遠巻きに見ていたリットにアイテムの機能を説明していた。

「ケーナ、お母さんが……行った先の、ものが、見える……はず……」
「遠くが見えるもの?」
「うん、そんな……感じ?」

 なんとも曖昧であるが間違ってはいない。 「実演しよう」と言って大画面映像(プロジェクター)機のスイッチを入れる。 機械自体は壁に視線を向けていたので、壁に投射された映像は目玉が今見ている光景である。 送信機の役目を持つ目玉はケーナの肩斜め上に浮いているので、映ったのは宿屋の内部だ。 それがケーナが動くのに従い視点を変えていく。 宿屋の外の風景から地面に変わり、村を上空から見る俯瞰図へ。 そして細い街道に沿って森が広がり、その中央にポツンと見えるのは小さい広場とまでに縮小された村。 言うまでもないが、飛行魔法を使ったケーナが見ている上空からの風景だ。 朝飯を食いに来ていた数人の村人が、勿論リットやマレールからもどよめきが上がる。 最終的に見て分かるものが、画面の九割を占める濃い緑の森と、その中をジグザグに抜けて走る細い川(エッジド大河)だけになった。 一応範囲にはケーナの守護者の塔も入っているが、ただの点となっていて誰も分からない。 画面が何も映し出さなくなるとケーナが宿屋内に戻ってくる。 

「まあ、こんな感じです。 もう少ししたらフェルスケイロで闘技祭があると聞いたので、その様子がこっちで見れないかなーと思いまして……」
「でもこれ、ケーナが見ているものじゃないと見えないんだろ? 席とか取るの大変なんじゃないかい?」

 確かに最前列の特等席でも確保しないと、試合の一部始終を捉えるのは難しいだろう。 普通であれば、だ。 ケーナにはそういった普通を覆す特権がある。







「―――てな訳で闘技祭中、ここの敷地内でやる試合の様子を『対の瞳』に選りすぐりの視点で観戦させて欲しいんだけど、お願い出来る?」
『特に支障はナいと。 この塔近辺でアれば、此方に視認出来ヌ場所等ありまセん』

 当てにしたのは闘技祭の舞台である円形闘技場(コロッセウム)そのものが、守護者の塔であるところだ。 煙の守護者にその旨を伝えると快く了承してくれた。 守護者がスキルマスターのお願いを断ることはまず無いと言っていい。 可か不可はきちんと言ってくれるので、その辺りは分かり易い。

 ゲーム中では守護者(かれら)との会話パターンは数少なかったのに比べ、こちらに来てからはちゃんとした思考を持っていてくれる。 ある程度の無茶も通してくれるので助かっていた。

 守護者の指示で、中核となっている植木鉢に植えられた(もみじ)の脇に『対の瞳』をそっと置くケーナ。 その正面へ出現したのは空中固定された画面(ディスプレイ)である。 そこには貴族街側から見た、王都中央を流れるエッジド大河の様子が映し出されていた。 小さく見えるものの、渡し舟からヤンマ便までくっきり映っている。 後はそのまま村に戻り、この映像をあちらで確認すれば問題ない。

 ケーナは守護者に闘技祭の本番が始まるまでは、王都の様子などを映して貰うようにお願いしておく。 時間は午後からだいたい酒場が閉まるぐらいの時間までだ。 再びフェルスケイロに出てくるまではそれで様子を見て、マレールと相談することになるだろう。 中核にたっぷりとMPを注ぎ込み、ケーナは守護者の指輪を使って一旦自分の塔へ戻る。 そこから外へ送ってもらい転移魔法で村へと戻った。 これは守護者の塔内部では転移魔法(守護者の指輪は例外)が使えないからだ。 塔の外へ送ってもらうことも出来るが、出現場所が警備の厳重な円形闘技場(コロッセウム)外周付近になってしまう。 ぶっちゃけ見つかっても侯爵家の紋章を出すとか、シャイニングセイバーに頼るとか手はあるが、色々面倒なので遠回りな方法を選択した。

 村に戻ってから確認したところ、きちんとフェルスケイロ側で見たものが映っていた。 ついでに沢山の村人が押し寄せていて、酒場は黒山の人だかりだ。 村からあまり出る者が居ない所なので、皆物珍しいのだろう。 楽しんでくれれば何よりだと考えたケーナは、マレールに映し出される時間を伝え、問題があればその都度話し合うと決めて、家に戻った。


「ここのところあちこち行ったり来たりしてたしなー。 オプスがフェルスケイロ着くまではのんびりと過ごすかなあ」
「そうですね。 ケーナ様もたまには一日中ゴロゴロするとかして過ごされたらどうでしょうか?」

 昼食の席でロクシリウスにそう言われ、頷きかける。 すぐに隣でじっとこちらを見ているルカに気付き、咳払いをひとつ。 慌てて取り繕う。

「う……、狩りにでも行って来るよ」
「ええ。 ふふふ、ケーナ様のお好きなように。 家のことは万事抜かりなく私共にお任せを」

 メイドと執事はぷっと吹き出すとニコニコしながら給仕を続けた。 不思議そうな顔になるルカはちょっと顔が赤いケーナに手を伸ばす。

「ケーナ、お母さん……風邪?」
「あああ、なんでもないなんでもない。 ルカも村の外へ行ってみる?」

 恥ずかしさを誤魔化すようにルカに聞き返すケーナ。 てっきり以前の騒動で首を横に振られると思っていたケーナは、素直にこくーりと頷いたルカにぱっと破顔する。 

「よし、じゃあ釣り……、でいいか。 ご飯食べたら大河まで足を伸ばして、お魚釣ろうね」
「うん」

 そうしてちょっとした遠足っぽい午後を過ごしたケーナ一家。 しかしその一行はロクシーヌとロクシリウスが一緒なのはまだいいとしても、過保護なケーナにより、召喚獣で喚び出されたわんこーズとぴーちゃんとヘイゲルが同行していた。 全員足して三千レベルを超えるという、迂闊に手を出すほうが可哀想なご一行様である。



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