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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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51話 そしてある邂逅をしよう

 翌日、ケーナ達はエーリネ商隊とヘルシュペルを発った。 

 同行した立場は料金を払ってお客さん、である。 しかもオプスと言う精神的にも心強い仲間を得たケーナは、ただのお客さんではなかった。 自重と言う単語をどこかに置き忘れたかのように魔法を行使し、商隊の旅はとても早く、安全なものになった。

「のう、ケーナ。 ちょっとやりすぎではないのか?」
「そう?」

 馬車の屋根に陣取るケーナは膝の上に座らせたルカを抱きかかえ、のんびりしたまま背後に立つオプスの問いにとても不思議そうな表情で答える。 周囲の風景は高速で流れていく。 はっきり言って馬車が持続するような速度ではない。 まあ、一番困惑しているのは商隊の主であるエーリネやそれを護衛する傭兵達だ。 

 商隊を構成するのは箱馬車が二台と幌馬車が三台の車列である。 その車列を先導するように、やや先を土煙上げて疾走しているモノがいた。 全長七メートル強もあり、岩が結集した表皮を持つ四足獣、大型トカゲ種モンスターに分類される岩トカゲ(ロックリザード)である。 言うまでもなく召喚獣で、喚び出したのはケーナに”お願い”されたオプス。 レベル三百五十にして、ゲーム中では定番の馬車を引く人材(?)であった。 今回の役目は商隊の露払い役で、コレの突進を受けて生きていられるモンスターはそういないだろう。 ソレに追従する商隊自体もケーナの【増幅(ブースト)】を付加した【行軍速度上昇(ムーブアップ)】により、馬車を引く馬は並足のように見えながら駆け足の速度である。 結局、本来掛かる日数より三日ほど短縮して、七日目の夕方には村へ到着した。

「なんか途中で馬三頭に引きずられたミノムシがいたような気がしたんだけど?」
「そうだったか、見た覚えがないのう?」
「……じゃあ、気のせいかなー」





 自宅に戻ったケーナとオプスとルカはメイド達の歓待を受け、一緒にくっついてきたエーリネから運搬してきた麦を買い取る。 もう、暗くなって来ているので、蔵に運び込むのは翌日になるだろう。 とはいえども村の主要道路には外灯が設置され、夜中でも煌々と夜道を照らしていた。 

「なんといいますか、この村だけ王都とは違った驚きを受けますね……」
「道は明るいわ、風呂は自由に入れるわ、防衛手段に事欠かないわ、一種の要塞だな……」

 夕食をマレールの宿屋で共にしたエーリネとアービタは素直な感想を漏らす。 意識しないで村の要塞化にメスを入れてしまっていたケーナの所業、おそるべしである。 ルカは自宅にて夕食をとった後、疲れていたのか直ぐに寝入ってしまった。 オプスは特に出歩く理由がないので、家で留守番である。 ケーナがわざわざ宿屋まで出向いた訳は情報収集のためだ。

「なんでも後二十日もするとフェルスケイロで『闘技祭』というものがあるとか聞いたんですが……?」
「ああ、あるな。 なんだ嬢ちゃんひょっとして出る気か?」
「ケーナ殿でしたら優勝は確実でしょう。 公認の賭けもありますし、それはそれで稼げそうですね」

 ケーナの実力を知っている二人は面白そうにニヤニヤしているが、彼女がそんな行動を起こすような者ではないと熟知している。 

「生憎、弱いものイジメの趣味はありませんから」

 きっぱりと断言するケーナ。

 闘技祭と聞いて彼女が考えたのは『あまり娯楽のない村において、地球で言うオリンピック中継のような事が出来ないか?』だ。 そのためのアイテムは一応ある。 目玉のアイテムで『対の瞳』、片方の瞳で捉えた映像を片方の瞳を持つ人物に届ける魔道具である。 本来は個人同士の伝達用に使うものではあるが、多人数での観賞用に大画面映像(プロジェクター)化する補助アイテムも存在する。 但しこちらの補助アイテムはアイテム作成技能(スキル)で作り出すものではなく、店売りの一品物だ。 勿論、ゲーム時代の店はこの世界には存在せず、ケーナもそんな趣味アイテムは持っていない。 では何処にあるのか言うと、心当たりはギルド本拠地だ。 時々、メンバーが『対の瞳』を持って行き、一日の行動を暇つぶしに面白おかしく実況していた時があったのを覚えている。 これを持って行ったのがギルドサブリーダーのエベローペだった場合、即座に阿鼻叫喚の十八禁桃色空間実況中継となり、本拠地から成人未満立ち入り禁止として叩き出されたのもいい思い出である。 







 そんな考えは家に戻り、オプスに計画を話した所で頓挫した。

「くりーむちーずのギルド拠点?」
「私達に縁が深いものはこっちに来ているはずよね? ヘルシュペルの最西端にあるはず……」
「ないぞ」
「……は?」

 一言で切って捨てられ、沈黙がその場を支配する。 オプスは斜め四十五度の虚空を見上げて、思い出話を語る老人のような表情で淡々と事実を告げた。 老人なのか若者なのか男なのか女なのか、いまいちはっきりしない人物である。

「あれは……そう、リアデイル配信停止前日のことであった。 『自分達もド派手なことをやりたいね』などとこぼしたメッシュマウトに原因はあるが、最後だからと乗ってしまったメンバーにも非はあろう。 つい最後の記念にと我等は……」
「……おい、まさか……」
「限界突破メンバー全員の魔力を結集して、合体魔法で拠点を吹っ飛ばしたのだ! うん、綺麗な花火だったのう……」
「皆のバカあああああああああああっ!!?!」

 覆水盆に返らず。 そういえばそういうことを思いつきだけで実行に移すメンバーだったな、と今更ながらに実感したケーナであった。

 合体魔法とは聞こえだけは格好いいが、同一目標に多人数で同じ魔法を撃ち込む技法(コンボ)の事である。 一番初めに魔法を撃ち込んだ人物の威力を基準として、参加人数分二倍していくだけだ。 通常通りであれば一番魔法の威力が高いケーナを基準とするのだが、当日には既に存在していなかった為、エルフ族で後衛補助兼回復要員のタルタロスがその役目を務めた。

 ケーナに次ぐ魔力の爆炎魔法が二の十八乗され、綺麗なアーチ状の火柱でもって拠点を綺麗に吹き飛ばしたらしい。最後の一ヶ月だと言うことで建造物の破壊仕様ver.1.03がアップデートされ、結構な数のギルドが似た様な事をやったとか。 後々に誰か使うという可能性を考えて欲しいと、ケーナは思った。 流石にゲーム世界が別の異世界に影響しているなどと誰が信じようか。

 魂の抜けた顔でテーブルに突っ伏したケーナ。 腕組みをしたオプスは「ふむ」と頷き、そう言えばと切り出した。

「その前にギルド内で不要なアイテムを、まとめて引き取ったな。 もしかしたらその中にお主の所望するアイテムが含まれていたのかもしれん。 適当に纏めたからリストも作らんと、隙間の出来た倉庫に突っ込まさせてもらったからのう」
「ホントッ!!」

 がばあっ! と即座に復活し、テーブルに身を乗り出したケーナは反対側のオプスに詰め寄った。 「さあ行こう、直ぐ行こう、とっとと行こう」と急かすケーナを呆れた目で見つめたオプスは窓の外を指差す。 お察しの通り綺麗な青く光る月が浮かぶ真夜中である。

「とりあえず、今夜は体を休めてまた明日よの」
「あ……、そういやーそうだっけ……」

 興奮してすっかり忘れていたらしい。





 翌日、遠足を待ちきれぬ子供のように早起きしたケーナ。 ロクシーヌやロクシリウスが目を丸くする中、オプスを叩き起こすと朝食や朝の諸々を手早く済ませて「早く行くの!」と急かす。

「九条の指輪があるじゃろう? それで済む筈じゃ」
「九条んトコに突っ込んだの!?」

 生産職専門と自称していただけあって、九条はスキルマスター内一番のアイテム持ちだった。 守護者の塔に常備されるアイテムボックスだけでは足りずに、課金してまでアイテムボックスを増やし「まだ足りない」とか、度々ボヤいていたのを覚えている。

「あ奴も最後だと色々、普段は作らないような物まで作って放出してのう。 通常運転のままに見えたレアの価格が随分と上下しとったぞ」

 その時のプレイヤー反応を覚えているのか、楽しそうに語るオプス。 苦笑いを浮かべたケーナは、皆が最後までスキルマスターに振り回されたんだなぁ、と感慨深く呟いた。 ここにタルタロスでも居れば「お前も変わらんわ!」と突っ込んだろう。

 指輪を引っ張り出すと、眠い目を擦りながら見送りに起きてきたルカに出掛ける旨を伝え、ロクシーヌ達に後の事を頼む。 キーワードを唱えてオプスと共にその場から掻き消えた。




 目の前の光景がのどかな田舎から、書き割りに描かれた超高層ビル群と女神像に切り替わる。 背後にズラリと並ぶのは撮影用のカメラ群。 その中央、床から幾らか浮いている蓮の台座に金色の仏像が結跏趺坐をしていた。 ケーナとオプスの前に、音もなく空中を移動した蓮台座の上から、胸の前で手を合わせたまま仏像が深々と頭を下げた。

『これはオプス様、よくいらして下さいました。 このたびはmeにどのようなご用命でしょうか?』
「少々預けてある物を確かめにな。 それとこっちはここの指輪の持ち主となったケーナ。 スキルマスターNo.3ぞ。 断りが後になった事は許せ」
「なんでそんな慇懃無礼なのよアンタは……。 それと、ごめんなさいね」

 悪代官のように胸を張るオプスに呆れたケーナは、仏像に対して軽い会釈をした。 『これはご丁寧に、meこそ』とか言いながら更に頭を下げる仏像。 終わらない頭の下げあいループになりそうだったので、話を打ち切ったオプスは『関係者以外立ち入り禁止』と明記された扉を、指輪で鍵を解いて開け放つ。

 後を追って部屋を覗き込んだケーナは、室内に並んでいるモノを見てげんなりする。

「うわあ、なによこれ……」

 ケーナの塔であれば床に埋め込んである常備用のアイテムボックスが、床を埋め尽くした上では飽きたらず、壁にまでびっしりと張り付いている。 その総数、約五十個。 明らかにこれだけで追加料金を一万円以上食ってる計算になる。 廃人の執念恐るべしだ。

「……ウム、これじゃな」

 一つ一つチェックしていたオプスが、床のボックスから横に長いラジカセみたいな物体を引っ張り出す。 中央には丸いモノがはめ込める窪みがある、ケーナご所望の大画面映像(プロジェクター)機だ。

「よしよし、これこれ。 ありがとうオプス」
「……普段からそう素直であれば可愛らしいものなのだが……」

「ん? 何か言った?」
「何も言っとらん」

 適当に誤魔化すオプス。 こういった微妙な位置での関係が今の自分達に相応しいと考えていた、元が主従なだけに。



 一度、室内から外へ移動した。 守護者の塔は一部を除けばメインルームとなる部屋に魔法無効の術式を備えているためである。 大抵は複雑怪奇な迷路を通らないように塔の守護者に外へ送ってもらうのだが、この塔(施設)は大亀の背に乗せてあるだけなので室外へ出るだけで済む。

「って、ちょっと待て……」

 ケーナの呟きも当然で、何かおかしいと思いきや風景が動いてないのである。 それもその筈、ここの大亀は前回のオウタロクエス都市侵攻時の後、クイズを勝ち抜き条件を満たした勝者の意を汲んで都市を離れ、本来のコースに戻る予定だった。 しかし、都市内部に入り込み、城に接近し過ぎたためにUターンするスペースが無くなってしまったのである。 無理をすれば出来なくもないのだが、それには街の建造物をかなりの割合で破壊するというデメリットがある。 守護者もそれをするのは本意ではないので、城の裏手から少し向きを変えた地点で留まるという選択をするしかなかった、という訳だ。

 『後退すればいいじゃないか?』とも言うが、木上生活を営む街の正規の住人は兎も角、地面にもスラム街ともいうべき町が広がっている。侵攻時は運よく避けられたが、バックした場合はそれすらも壊してしまう可能性が高いというので、前門の街後門のスラムといった所で足止めである。

 これは一度室内に戻ったケーナが守護者の金箔仏像から聞いた。 元はプレイヤーに関して知りたかったオプスの作戦だったので、ケーナの非難は当然オプスに向かう。 ……そこに居ればの話だ、背後にいた筈のオプスの姿は無い。

「……あれ? オプス何処行った?」
『オプス様でしたら、先ほど機材抱えてFlyしてしまいましたが?』

「………………ゑ?」
『……オプス様でしたら、先ほど機材抱えてFlyしてしまいましたが?』

「まあぁぁた、人に問題を押し付けていったのねーっ!!」

 うがー、と亀の頭の上で空中に向けて怒鳴るケーナ。 思えば無茶振りは何時もの事だなと瞬時に思考を切り替える。 戦争時に紫の国所属千二百人を一人で四時間食い止めろとか(そのあとアンケートで歴代一位を取る鬼畜ランキングに入賞する戦略を行った。 悪質な罠とも言う)、ダンジョン作るから依頼者で留まっていてくれだとか、理不尽な思い出ばっかりが浮かんで消える。 こみ上げてくるのは、ほいほいとそれに了承してしまう自分の付き合いの良さだろう。 ギルドの皆にも良く「ケーナはオプスを甘やかしすぎだ」とか言われていたのを思い出す。 当時は「そうかな?」と自分でも不思議だったが、今となっては納得の出来る訳がある。 かつては主従であった、と言うのが心にすとんと落ちる理由だ。 きっとかつてのオプスは主従であるのを言い訳に、自分に頼み事をしなかったのだろう。 だから今になって我侭を言って来る。 ケーナの勝手な思い込みも多分に入っているが、コレが一番心にしっくり来るので、何時もの様に苦笑して済ますだけだ。

「帰ったら一発殴るとして、どうしようか?」

 こんな小山のような巨体を動かすとして、手段は限られてくる。 あまりにもデカイ術を使うとすれば、この国の女王にケーナの存在を知られる可能性がありまくりだ。 それすらももしかしたらオプスの策なのかもしれないが。

 【魔法技能(マジックスキル)】より【領域転移(アロケート)】を選択。 これも取得クエスト以外ではほぼ使用することのない技能である。 そのクエストとは、好奇心旺盛な子ドラゴン(召喚魔法以外ではゲーム上存在しないドラゴンだが、クエストなどで度々出演するNPC)がダンジョンにハマってしまったのを助け出すというモノだ。 使用上の注意として、五メートル四方以上の物体と使用者を何処か(・・・)へ飛ばす、……という適当極まりない魔法である。 そしてその何処かから親ドラゴンまで子ドラゴンを護衛して、やっとクエストが終わるという非常に面倒極まりないクエストだった。 ちなみにケーナの場合、クエスト発生場所の青の国より隣の赤の国に飛ばされ、戻るのは非常に楽であった。 オプスの場合は黒の国まで飛ばされて行ったと言うから、人によってその苦労の度合いは様々であり、同じクエストを経過した者だけで話すときのいい話題にもなっていた。

 飛ばして遠くヘ行くのはまあいいとして、一番危惧するのは街や村に出やしないか? と言ったところだろう。 ゲーム中は絶対にそんな所へ落ちない安心感があったが、ここはもう現実(リアル)であるので、その可能性が無い訳ではない。 短縮呪文(ショートカットキー)へ浮遊を仕込み、さあ転移するぞーと、意気込んだところで城の窓越しに居た女性と視線が合った。 ちょっとマズイかと思い、慌てて魔法を起動させようかとしたところへ、その目線の合った女性が窓を開け放ち、ケーナのいる所へ飛んで来た。

「はぁ? 飛行魔法!?」
『ハイエルフ種族デスネ』

 紫のグラデーションでゆったりとしたドレスに身を包み、長い黒髪で前髪の一部に青い一房を持つ気品溢れる若い女性。 キーの見解の通り、短くとがった耳を持つケーナと同じくハイエルフ種族だった。 ふわりとケーナの前に着地したその女性は、胸に手を当てて軽く会釈をし、金色の瞳で見つめてきた。

「お久しぶりです、伯母上。 かれこれ二百年ぶりでしょうか?」

 かつてのコミュで「お姉様お姉様」とえらく懐いてきた後輩そっくりな容姿を持つ女性に、ケーナも一度会った事がある。 その時はもう里子として外に出てしまっていたが。 この出会いはおそらくオプスが仕込んだか、オプスが計略したか、オプスの計画の内か、ただの偶然か……。 「やっぱりオプスを二発殴ろう」と心に決め、改めて二人目の姪と向き合う。

「庭先を騒がせてごめんなさいね、サハラシェード。 直ぐに飛ばすわ」
「『飛ばす』と言うのが何のことやら。 ここで会ったのも何かの縁、折角ですから一緒にお茶でも如何ですか?」

 少し考えたが、遭遇してしまってはココで断るのも不自然かと思い、その申し出を受けることにした。 前回、あちらからわざわざやってきた使者の申し出を断ったこともあり。 これはお招きだからいいや、と思っておく。

「……と言うか、一国の女王が窓から飛び出すってどうなのよ?」
「はしたなくて申し訳ありません。 伯母上を見かけたものでつい、緊急事態だと判断致しまして……」

 飛び出してきた窓へ目をやると、こっちを心配そうに見つめる侍女がいた。 自分もあそこからお邪魔しなければならないのだろうか、と別の意味で心配になるケーナ。 伯母の心の内を知ってか知らずか、「さあどうぞ」と姪が案内する先には窓があった。 サハナの娘ならコレくらい破天荒なのかもしれないと、微妙な納得をしておく。








 飛び込んだ窓の先にあった部屋は、頑丈そうな机とそこに幾らか山になった書類、ソファとテーブルのセット。 どうやら執務室らしかった。 窓から見えるのは巨大な亀の横顔である。 景観も何もあったものではないと考えたケーナは、早急に移動させねばと思った。 部屋付きの侍女が恭しく頭を下げ、闖入者であるケーナを不審がりもせず、女王に言われるままに茶を振舞う。

(オプスの不手際の処理は何時も私に回ってくる気がするなあ……)
『ソノタビニ同ジコトヲ繰リ返シ言ッテイマスガ』

 侍女に礼を言うと目を丸くされた。 湯気の立つオレンジっぽい液体に口をつけると、リアルの紅茶と似た味がする。 ふとゲーム中には食料としての紅茶が精神力(MND)を少し上げる効果があったなと思い出し、ティーカップの中身を【鑑定】してみるが何の表示も出てこなかった。 クスッと苦笑したサハラシェードが、やや呆れたような口調で尋ねてくる。

「お茶に何をなさっておいでですか、伯母上?」
「んー、ちょっと気になったんでね。 無作法だったかな?」
「里でしたら長老が何かを言ったでしょうが、ここでは伯母上のお好きになさいませ」

 机の上の書類を片付ける姪を見て「お邪魔だった?」と聞いてみる。 サハラシェードは平然として「偶には誰かが居る環境で仕事をするのもおつなものですよ」、軽く微笑みケーナに返答した。 要するに静かな部屋で延々と仕事をするだけなのが退屈だったらしい。 あの妹(サハナ)であれば細かい仕事を与えておくと奇声を上げて投げ出すので、その点だけは対照的なのかと思う。

 しばらくは紙をめくる音と、時折交わす姪と伯母の会話だけで時間が流れていく。 ケーナが話すのは辺境の村からフェルスケイロに出てきて、今に至るまでの簡潔なあらすじを。 途中にサハラシェードが疑問を挟んで来るので、それに解説を加えていたくらいだ。 そうしていて、そろそろケーナがこの場を辞そうかな? とした時、執務室を訪れた者がいた。



「失礼します、陛下。 先日の再編成の議題なのですが……」

 ノックと共に部屋に入ってきた魔人族の騎士団長は、ケーナの姿を見ると目を丸くした。


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