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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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44話 ダンジョンは続くよどこまでも

 ケーナはクロフ邸に二泊する事となった。
 これは彼等が長期の依頼を片付けていたために、休息と準備に当てる日数である。 勿論、ケーナを連れ帰った兄は妹に物凄い剣幕で非難された。 それを眼光と一喝でぴしゃりと切って、クロフィアのせいでオウタロクエスに居辛くなったケーナの現状を説明した。 脅迫込みで妹を強引に頷くように仕向けたクロフに、ケーナは申し訳ないばかりである。

 王都の一角に居を構える彼等の自宅はツリーハウスで一般人の住居と比べてやや大きく、クロフ達はここを下宿屋として他人に貸しているらしい。 その四畳半程度の一室を借りたケーナは簡易拠点アイテムを置くと、夜のうちに一度村まで戻った。

 主人の気配に気付いて起きて来たロクシリウス達に過程を話すと、守護者の塔から自宅まで移した荷物で手持ちのアイテムをダンジョン用に整理する。 静かに眠るルカの寝顔を十分に堪能してからまたオウタロクエスへ跳ぶ。 その時にケーナに嫌がらせをしようと侵入して来たクロフィアを押し潰し、意識しないで報復をしてしまったという些細な出来事があった。

 そのせいで二晩目も更にその報復に訪れたクロフィアは、今度は自動迎撃システム(ちかんたいさく)の雷獣によって自宅から追い出されるという羽目に陥るが、きっと瑣末事だと思うので割愛する。




 オウタロクエスの王都からダンジョン村まで五日程の距離だった。 正式名称はレクテイ村と言うらしいが、どうせ行くのは一度きりだろうと思ったケーナは名前を覚えるのをやめた。 途中でゴアウルフの群れに襲われたが、ケーナの【気圧】で一目散に逃げ出した。 

 旅の間、ケーナはクロフから特に役に立たないオウタロクエス豆知識のようなものを聞いていた。 オウタロクエスの国内で、王都以外は樹上生活をしている訳ではないらしい。 むしろ樹上生活に拘った者達が集ったのが王都だという。 他にも女王は意外に話の分かる御仁で、時折城下町を視察と言う名の息抜きに放浪しているのだとか。 ついクロフィアが「そんな国の重要機密を他人にベラベラ喋るものではありませんわ!」と、激昂したり。 その反応を見る限り、ケーナが女王の身内だと言うのはクロフィアはまだ知らされていないと判明した。


「なんでそこまで猿になりたいのか。 甚だ疑問だなあ」
「樹上生活をしているだけで猿と呼称される言われはありませんわ! 地面にへばりついている者もソレ相応の呼び方をされたいんですの! 蟹とか」
「じゃあ、あとで妹ちゃんとは柿の投げ合いをするしかないようね?」
「どういう解釈ですのっ!?」

 のんびりとしたケーナの物言いになんでも噛み付くクロフィア。 二人の後ろから楽しそうな笑みを浮かべたクロフは、後に続く形でダンジョン村の入り口をくぐった。 この村は過去の白の国辺境村のように建物の多くを宿屋で占めている。 残りは冒険者に必須の道具屋か武器屋、酒場とおまけのように花街。 それは別として門をくぐった途端に、その辺りに居た冒険者の視線が三人に向いた。 正確に言うならばクロフ兄妹に目を付けて唖然としたという方が正しい。

「お、おい、……あの二人……」
「ああ。 クロフとクロフィアの兄妹だな……」
「なんだってアイツ等がここに?」
「冒険者ギルドがここの攻略に業を煮やしたってんじゃねえだろうな?」
「おいおい、そんな事されちゃあ俺達が小銭稼ぐどころじゃねえぞ……」

 そこかしこから小声で嫌味と取れなくもない会話を囁く声が聞こえてくる。 あからさまにその冒険者連中をチラリと見て、小馬鹿にするように鼻で笑うクロフィア。

 クロフは妹を諌めもせずにケーナに「こっちですよ」と声を掛け、造りの良い宿屋へと案内する。 ゆったりとくつろげそうな大部屋を借り、クロフィアは荷物を置くとつまらなそうな表情で窓際の壁に寄り掛かる。 部屋の中には鍵付きの小箱が備え付けられているだけで他にはベッドも椅子もない。 クロフが言うには大勢で雑魚寝する部屋だそうだ。 

「へー」
「なんでしたらケーナ様だけでも個室を借りてきましょうか?」
「え、なんで? 修学旅行みたいに雑魚寝するんだよね。 結束が固まりそうでいいんじゃない」
「……し、シュ、ガクリョコー?」

 ケーナ自身は修学旅行の経験はないが、小説やドラマで見たシチュエーションに少し楽しみにしていた。 人数が三人と少ないことや、引き合いに出した単語を不思議がるクロフには意味深にクスリと笑う。

 アイテムボックスから小物の材料を数種引き出し、床に並べてから【技術技能(クラフトスキル)】を使用する。 これは着いて来たクロフ達の生存率を上げるものだ。 流石に自業自得からのミスで死亡などという結果には介入しようとは思わないが、コチラの言い分を聞いてくれて素直に忠告を聞いてくれる分には役立つアイテムを渡す予定である。 クロフィアが先走って、無残な姿を晒す予感をひしひしと感じているが……。




 流石に懲りたのか同室で寝ていてもクロフィアがケーナの眠りを妨げるイベントも無く、問題なく夜が明けた。

 宿屋を引き払い、ダンジョン前で装備や持ち物を点検する三人に、この地で小銭稼ぎをする冒険者の嫌悪やら厄介者に向ける視線などが集中していた。 ダンジョンはもうここで朝日に照らされて見える所から金箔成金通路である。

 ちなみに金箔化している通路は三階までしかない。 これは当時の作成中に七国中で買い占め過ぎてしまい、競売での金の値段が高騰したせいである。 如何なスキルマスターと言えど、持ち得る技能と商売の素質は比例しなかったと言う事だ。 

「はいこれ、髪飾りになっているから着けてね」
「髪飾りと言うには、やや無骨ですね」

 ケーナはクロフとクロフィアに昨日作ったアイテムを渡した。 髪にバレッタのように取り付ける髪飾りになっているが、本体はそこに付随している万年筆型の部分である。
 実はこれ魔韻石を埋め込んで投光機のような役目を果たす装備アイテムである。 起動キーワードは『神よ、我等の前を照らしたまえ』で、なにかと仰々しい理由は普段の会話や指を鳴らす動作で消えないようにする配慮だ。 それと幾つか作ったポーションも二人に押し付ける。 事前に命の危険性があるのをクロフに伝え、クロフィアにキチンと兄が言い聞かせたので、彼女はあっさりとポーションを受け取った。





 一階から十三階までは特に何もなく進む。 通路は横に三人が並べるほど広いが、探索に慣れていると言い張ったクロフィアを先頭に、クロフが続きケーナは最後尾だ。 ここに来るまでに各階に設置してあった『招かれる板(まものがポン)』は全て叩き割られていた。 中には壁材を剥がそうとした痕跡が残る所もあり、ケーナは作成に手を貸した者として溜息を吐きっぱなしだ。 剥がして持って行ったとしても現在の技術では加工することも出来ない、せいぜいそのまま金色の石材置物になるかどうかだろう。


 十四階に降り立った所で、何かを見つけたクロフィアが通路の奥深くに向けて矢を放った。 硬い物に弾かれる音がして微かに火花が散る。 光に照らされた通路にノタノタと進み出てきたのは、銀色の甲虫であった。 大きさは一メートル程もあり、三匹が固まって進んでくる。
 続けざまに放ったクロフィアの矢は全て外骨格に弾かれた。 そこで初めて銀色甲虫(ブリッツビートル)は侵入者を敵と認識したのか、速度を上げて三人へ殺到する。 クロフィアと前衛を代わったクロフが先頭の虫に剣を振り下ろすが、カン高い音を立てて外骨格に止められた。

 銀色甲虫(ブリッツビートル)は四十レベル程しかないものの、硬さだけなら八十レベルモンスターを凌駕し、その上経験値は少な(マズ)いという初心者には厄介な敵である。
 ゲームでのプレイヤーには麻痺玉などのアイテムで動きを止めて袋叩きにしたり、一旦距離をとってアクティブエリアから退避した後に背後から強襲する等の手間を取れば倒す手段ならあるだろう。
 ケーナはてっきりそういった手段を取るのだろうと思って眺めていたが、真っ向勝負で苦戦しているのを見て溜息を吐いた。 モンスターが真っ先にケーナを狙わないのはレベルの膨大な差があるからだ。 つまりは率先してクロフ達を襲う。

 魔法抵抗の低い昆虫系モンスターには闇系魔法が有効なので、ケーナは【魔法技能(マジックスキル)影手針射(ブラインドショット)】を選択、数百発の影針が三匹の銀色甲虫(ブリッツビートル)を通過、対象の魂をズタズタに引き裂いて死滅させる。 後に残るのは外傷の無い骸のみ、それすらも少しの間を置いてノイズとなって消えて行った。

 少しつまらなそうな顔をしたケーナは、呆然とモンスターが消えた辺りを眺めている二人の横を通って先に進む事にした。 二人が驚いているのは、普通のモンスターならあのような消え方をしないからだ。 やや離れた所で二人分の足音が追いついてくる。 片方は文句を垂れ流しながら。 いや、喧嘩を売っているようにも見えなくもない。

「ちょっと! なんでアナタが先頭を行くんですの!?」
「……なんでって、そりゃあ妹ちゃんがあの程度(・・・・)の相手にかすり傷ひとつ与えられなかったからだよ。 大挙して押し寄せてきたら、どうやって凌ぐつもり?」
「ッ! い、今のは様子見だったのですわ! 次はアナタの手を煩わせる前に私が魔法で殲滅してみせますわ!」

 激昂しかけて何とか自分で自制するクロフィアの真っ赤に染まりかけた表情に、目を細めたケーナは「へえ?」と呟いて彼女に道を譲った。 何故か鼻息荒く満足げに頷いたクロフィアは、今度は慎重にゆっくりと進み始める。 クロフはケーナの横を通り過ぎる時にすまなさそうな顔で小さく頭を下げて、妹を補助する為に肩を並べた。

『頼リナイ同行者デスネ』
(正直に言いなさいよ)
『足手マトイデスネ』

 歯に絹を着せないキーの率直な意見に苦笑したケーナは、肩をすくめて二人の背を追った。 尚、入る前に取り決めてある事に、他の冒険者から恨みを買わないように宝箱や小部屋を無視する、と言う条件があり、これも二人がケーナに着いて来る必須条件となっていた。 なので、扉は無視して通路だけをずんずん進む。 時折クロフィアは扉や小部屋を見ては溜息を零していたりする。 ちなみにこの条件だけは地上に居た冒険者の態度を見たケーナが後付したもので、途中で『面倒になった』場合、撤回するかもしれない。 とは伝えてある。 クロフィアは呆れていたが、オプス達ケーナを知る者ならば『まあ、ケーナだしなあ……』と納得したかもしれない。





 ───── 十五階。

 ここに至るまでにケーナには失念している事があった。 リアデイルでのゲームシステムで作られた罠は、基本的に数百円程度の課金で購入する”仕組み(ギミック)”である。 その稼動は罠で例えるなら、『そのエリアに踏み込んだ者に対して○○と言う仕組み(ギミック)が作動する』、と言ったものだ。 これを回避するにはオフラインモードで手に入る【常用技能(パッシブスキル):直感】か【危険感知】で罠自体を避けるか、態と作動させてその脅威自体を避けるかである。 端的に言ってしまうと、作動させる為にいちいち隠しスイッチを押したり踏んだりする必要が無いのだ。

 ……なのでこの場で一番罠発見&解除等の盗賊技能に秀でてる(と自分では思っているらしい)クロフィアが先頭に立っているのは、ただの自殺行為であったりする。  

 それは投光機に照らされるやたらと真っ直ぐな迷路に、T字路が現れた時であった。 左右に分かれる道は兎も角、目の前の壁に不自然なスイッチが張り付いていた。 形状はパソコンのオンオフスイッチみたいなモノである。 最後尾のケーナにはその場所に近付くにつれ、脳内で【危険感知】による派手なベルが鳴り響いていた。 失態だったのは、同じような危機感を前方の二人も感じているだろうと思っていた所である。 勿論そんな技能(スキル)を持たない二人はそのまま進み、何の前兆も無く天井から外れて落下した石材(三十センチ四方、厚さ二センチ)に不意打ちを喰らった。

 ……先頭のクロフィアが。

 ゴヅンッ! と頭頂部へ良い音を立てた石材は彼女の体から滑り落ち、床へ落下してゴガラァンとダンジョンの奥までエコーが通る騒音を鳴り響かせる。
 頭を覆うフルヘルムすら着けていないクロフィアであるが、なんとか意識を保っていた。 筆舌に尽くしがたいダメージに床に突っ伏して頭を抱え、声にならない悲鳴を押し殺してプルプル震えている。 常人であるならば脳天をカチ割られていてもおかしくない。 慌ててクロフが駆け寄り介抱をする中、石材を拾ったケーナは天井を見上げる。 そこには何処から石材が外れたのか解らぬぴったりとした面を持つ天井があった。

「なるほど、このままここに居ると第二弾が襲ってきそうだね。 クロフさん、治療するならもう少し先に行ってください。 もたもたしていると次が来ますよ」
「そ、そうですか……」

 妹をお姫様抱っこで抱え上げ、左の通路へ移動するクロフ。 ちなみにスイッチは只の浮き彫りで、石材が落下したのはスイッチ二歩手前と言う所だ。 まずは危険が無いか観察してみる、という間合いにぴったりな位置にオプスの意地の悪さが伺える。





 ───── 十六階。

 この階では落とし穴にクロフとクロフィアが落っこちた。
 階段を下りた場所に十メートル四方の部屋があり、その先に一本道が続いている。 部屋の半分を通過した二人の足元が突然消失、しかも下方に向けて開く扉型の落とし穴でなく、左右に開く自動ドア式の落とし穴である。

 あまりの開口の早さに飛び退く暇も無く、二人共一瞬の内にケーナの視界より消えた。 中からは何かやたらと乾燥した物をパキパキーッ! と壊したか粉砕したかのような細かい音とケーナの腰辺りまで立ち上る粉塵。

 これにはケーナも、階段を下りていた頃から鳴り響く脳内危険信号に気付かない二人をオカシイなと思い始めていた。 てっきり防ぐ手立てがあるから、虎穴に突っ込んで行くのかと思っていたのである。 それはそれとして中からは盛大に咳き込む男女の苦しそうな息遣いに、ケーナは【換気魔法】を駆使して粉塵を部屋の隅へ追いやる。 もうもうと巻き起こっていた煙を払ったケーナは、二人を助けるために光源となる【付加白色光LV1:ライト】を天井へ放った。 これが粉塵の原因を浮き彫りにする。

「い、いやああああああああっっ!!?」
「…………うおっ!?」
「……うっわあー」

 穴の中に落ちた二人が足蹴にしていたモノは、白く変色してパサパサに乾いた巨大な環形動物であった。 平たく言ってしまえばミミズである。

 元々は一匹が大人二人分はありそうな長さで、ヌルヌルが待ち受けていたのだろう。 二百年も経ったソレは、最早カサカサに乾いてちょっとの衝撃で風化する構造物と化していた。 落下して踏み抜いたとは言え、未だその多くは原型を保っている。 冒険者といえども生理的嫌悪感のあるモノの粉塵を吸った事実から、甲高い悲鳴を上げたクロフィアはあっさり卒倒した。 ケーナはちょっと気色悪いと思う程度で、二人に【引き寄せ】を掛けて引っ張り上げる。 落とし穴の蓋部分は二人を引き上げると同時に瞬時に口を閉じた。 そうなるともうただの石畳の床が広がるばかりで、何処に落とし穴があったのか繋ぎ目も見つからない。 その日は部屋半分に【遮断結界】を張り、そろそろ夕方くらいだとキーが言うのでその場で一泊した。





 ───── 十九階。

 十七階は特に罠に掛かる事態にならず、普通に通過。 出たのはモンスターくらいで、クロフ達でも十分対処が可能な敵だった。 おそらく罠が仕掛けてあったのは小部屋の中だろうと、ケーナは推測した。 十八階は結構な数の小鬼型モンスターとエンカウントするも、ケーナがそのほとんどをあっさりと斬り捨てた。

 この階にも天井落下の罠があり、引っかかったのはまたもやクロフィアである。 折角引っ込んだコブの上に更なるコブを作り、涙目になった彼女から強引にクロフは先頭を歩く役目を奪った。 それはそれとして、問題は階段を降りた先に広がる十九階の風景(・・)である。


 べひうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~

 横殴りの強い風が吹きすさぶ目の前のソレに、クロフとクロフィア両名は目を点、口をおがーんと開けて呆然としていた。 ケーナの感想は「ここでこれかぁ」である。 一般常識の違い過ぎる差が現れる対照的な様子であった。

 三人の目の前に広がる風景は、なだらかな丘陵一面に広がる真っ白い雪原と、横殴りの吹雪である。 空は薄暗く、天井らしい天井は影も形も無い。

 ケーナの常識ではごくごく当たり前の光景で、ダンジョン内に外のようなフィールドがあることは特に珍しくも無い。 空や奥の方に見える森などは壁に映し出された3DCGのようなもので、広さ自体は上階と大して変わりない構造だ。 丘陵になっている様子から多少天井が高い程度だろう。 多少は肌寒いものの凍傷等を受けるくらいの氷結地獄的なフィールドに比べれば遥かにマシな方だ。

「ああああああの、けけけけケーナ様、こ、これは?」
「ん。 ごくごく普通の一般的なダンジョン風景、特に珍しくも無いでしょ?」

 あっけらかんと何でも無いケーナの表情に「とても珍しいです」、とは言い返せずクロフは押し黙る。 二百年前はこんな風景が一般常識であるダンジョンが蔓延っていたのかと思うと、認識を改めざるを得ない。 極稀にその時代の地下建造物等が見つかることがあっても、これと同様の風景が広がっていました。 とか言う報告は聞いたことがないからである。 実際は深く潜れば同様のダンジョンなど幾らでもあるのだが、この時代の冒険者にはレベルが違い過ぎて先へ進めないのが現状であったりする。

 当の経験者はもっきゅもっきゅと雪を踏み固めつつ前進して、周囲をぐるりと見渡す。 薄暗くて視界は悪く、丘陵といっても辛うじて暗い空をバックに白いでこぼこの輪郭を捉えられるくらいだ。 こういったダンジョンの場合、一番面倒なのは下に下りる階段が何処か(・・・)に埋まっているところだ。 

「掘り出すのかあ……。 スコップもないからなあ、魔法?」
『探スノニ専門ノ獣ガイルデショウ』
「麒麟引っ張り出すならアクティブモンスターを殲滅してからだねー。 でないと死人が出そうだし」

 ぶつぶつと呟きながら雪原を進み始めるケーナ。 かろうじてクロフ達から離れ過ぎない位置で雪を掘ったり、如意棒を雪にドスドスと突き刺したりしている。 何がしたいのか良く分からない顔でクロフがソレを眺めていると、クロフィアが兄の服をちょいちょいと引く。

「なんだ?」
「お兄様はあの女とどういう関係なのです? 『様』をつけるなんて……、何かありますの?」
「ああ、そうか……。 そうだな一応は伝えておいた方が良いか、お前が取り返しのつかない無礼をする前に」

 ケーナと妹の敬愛する女王の関係を暴露しようとした時、彼等の背後でドスっと妙な音がした。
 最大の警戒をしながら二人が振り向くと、ソコには二人を見つめる三対の黒い眼が。 慌てて後ろに跳び、間合いを取った二人は見つめたモノの正体を見て肩を落とした。 縦に並んだ丸い胴体に桶帽子を被り、木の枝の腕にグローブが垂れ下がる手、炭をはめ込んだ丸い目と力強い眉毛に人参の鼻、誰が見てもまごうことなき雪達磨だったからだ。 それが三体もソコに鎮座していたことに気付いたクロフは、再び武器を構えた。 チラリと周囲に目をやるとその三体だけではなく、吹雪の向こう側にも似たような影が数体見えている。 いつの間にか直ぐ近くまで接近されているのに愕然とするが、敵と判断して排除行動に移る。

 ところが剣を振るってさっくり表面を斬っても怯んだ様子も無く、ドスドスと雪上を跳ねながら体当たりを敢行してくる雪達磨。 クロフィアからの援護射撃もサクサク刺さるだけで、これといって怯む様子も見受けられない。 切り込みを入れても横殴りで降り注ぐ雪によって、あっと言う間に再生していってしまう。 それが五体になり七体になり、十体を超えた頃になって慣れない雪上に足を滑らせたクロフは、体当たりをモロに喰らってゴロゴロ転がった。 すかさず馬乗りになった雪達磨達は、じゃれつく犬のようにクロフの上でぽよんぽよん跳ねて彼を雪に埋めていく。 クロフィアも似たように雪達磨に圧し掛かられ雪原に埋められているのを隙間から見たクロフだったが、体を起こしたくても身動きひとつ取れず無抵抗のまま雪原埋葬の目になるかと思われた直後。

魔法技能(マジックスキル)炎舞扇射イア・フレア・ショット

 赤い射線が何条をも吹雪の中を走り、雪達磨を撃ち抜き、溶かし尽くし、薙ぎ払った。 クロフが体を起こしクロフィアの無事を確認する為に駆け寄ると、妹もなんとか雪だらけになりながら穴の中から身を起こしていた。 ケーナは扇状に撃ち込んだ射線から漏れた雪達磨達が、ぴょこぴょこ跳ねながら必死に逃げ出そうとしているのを見る。

召喚魔法(サモンマジック):炎精:Lv7】
「だんだん正攻法で進むのが面倒になってきたから全部溶かせばいいよね、うん」

 ケーナの前面に展開された朱色の魔方陣より、炎の奔流が迸る。 飛び散った炎塊は煮えたぎったマグマのようで、雪原に落下した途端、物凄い水蒸気を上げて穴を穿つ。 続いて魔方陣から飛び出したのは、肩を怒らせ真っ赤に燃えた巨大なゴリラだ。 マグマで形成された炎神ゴリラ(プロミネンス)は体のそこかしこから炎を吹き上げている容姿を持ち。 出現した瞬間から辺りの気温は上昇、着地した場は水蒸気諸共水分が蒸発し、床の石材も融解しかけて高温の熱波を発生させる。

 ゴオオオルウウウウウアアアアアアアァアァ!!!

 胸をドコドコ叩きながら咆哮すると、周囲に数メートル間隔で囲むように火炎リングが広がった。 モロ範囲内に居たクロフとクロフィアは巻き込まれる前にケーナが障壁で保護している。 雪達磨は既に跡形も無く、雪原は既にこの時点で只の石畳の空間となっていた。
 炎神ゴリラの腕の動きと同調したリングは、腕を大きく振り上げ咆哮した波動を受け取って赤を通り越して青白いぶっといリングに変化。 思いっきり振り下ろされた両腕と同じく石畳にめり込み、融解させて構造ごとブチ抜き、あちこちに入った亀裂から床が崩壊した。 床の残骸は青白いリングに触れた所から蒸発して消えていく。
 障壁はケーナが【浮遊】を掛けたので炎の残滓が今も空間内に定着する中、ゆっくり降下していく。 炎神ゴリラは『床ごとぶち抜く』役目を果たしたので、落ちていく最中に存在を薄れさせてバラバラの残滓となり消えて行った。 結果的に一撃は二階層を尽く消滅させ、三人は二十一階の通路へ降り立った。

「あらららー、ちと威力が強すぎたか」
「「……………………」」

 召喚精霊のあまりのレベルの高さと、その一撃がもたらした結果に猫人族(ワーキャット)の二人は真っ青な表情で声も出ない。 喚び出された炎精『炎神ゴリラ(プロミネンス)』は召喚レベル七、つまり実レベルは七百七十である。 本来は雪原を溶かすために喚んだが、どうやら久しぶりに喚び出されたことに歓喜した炎精が力を込めすぎたらしい。 ケーナが『女王の叔母』だと知っているクロフが真っ先に立ち直り、妹に手を貸す。 

「ホラ、掴まれ」
「え、……ええ、ありがとうお兄様……」
「んじゃ、どんどこ先に進みますかねー」

 余波でダンジョン内の空気がまだ暑い所をテクテクと進み始めるケーナ。 のろのろと妹の手を引きその後に続くクロフ達。 そういえば先程の会話が途中でぶつ切りになっていたのを思い出したクロフィアは、兄に続きを促した。 返って来た話はクロフィアの世界観を足元から崩すのに充分な衝撃であった。

「……………………え?」
「サハラシェード女王の伯母上だよ。 ケーナ様はな」




「…………………………え?」


 クロフィアは兄に手を引かれながら今までの自分の所業を思い出し、真っ白になった。

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