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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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41話 王都襲撃事件(後編)

 フェルスケイロの西、騎士団プラス冒険者vs魔物の群れ、は戦端が開かれるも早々に混戦となっていた。 初期の目論見にあったひと当てする、などとは程遠い状況に指揮も何もなく。 魔物の群れとぶち当たった騎士や冒険者達には、相手側が只単に“突き進む”と言う意思しか持たないと感じられたからである。 この状況でひと当てして怯ませてから、全体の進軍速度を緩めるという目的は既に瓦解していた。 

 この防衛隊の中には丁度フェルスケイロに滞在していた『炎の槍傭兵団』も混じっていて、名の知られたアービタが冒険者側を纏めていた。 流石に百戦錬磨のアービタ率いる傭兵団としても、相手がここまで多種類に混ざると対処に苦労する。 群れの主力となるのは毒々しい紫色の体躯を持つ死蟷螂(デスマンティス)が三匹。 大きさは小さな民家一軒分で、これ一匹に騎士が五~六人で対応しなければならない。 続いてはホーンベア、これも騎士が二~三人程必要となり、八匹もいる現状ではこの二種だけで騎士団の半分以上が掛かりきりだ。 他にも頭頂部や背中が鎧状の鱗に覆われたゴアタイガーや、ガウルリザードが混じっただけでいっぱいいっぱいだ。 それに加えて普通の熊や狼の対応や、足元から突進してくる兎と猿などにまで構っていられない。 騎士団と冒険者からなる防衛隊は、じりじりと魔物の群れに飲み込まれていた。 騎士団は主力となるマンティスやホーンベアと拮抗していても、群れ自体は軍隊アリのように移動している。 戦っていない魔物達はそれを避けて進軍して来る為、後衛を務める冒険者達は倒した魔物をバリケード代わりに防いでいた。 既にその限界は見るからに目前だ。 

「ったくよぉ、だから最初に小細工をこさえておけっつったんだ!」
「どうします団長? ほっとくと前衛が飲み込まれますよ」

 しかし多勢に無勢、破られるのは時間の問題であった。 騎士団側の指揮官とは意見の相違からまともな連携が最初から取れず、援護に回っていたがそれが裏目に出た。 基本王都の防衛に引っ込んでいる騎士団は、常に実戦を繰り返す冒険者達よりは経験が浅い。 不慮の事態、つまりは魔物の後先省みない行動に直面してあっさり総崩れになった。

 アービタが見捨てるか助けるかの二択を選択しようとした時、事態に変化が起きた。 主に最悪な方向に。

 ボフンという軽薄な音と共に、魔物諸共騎士団を含むエリアにピンク色の煙が出現した。 後衛にいた冒険者達のグループにまではその被害は及ばなかったが、何が起きたのかと眉をひそませる彼らの目の前で即その効果は表れた。 戦闘をしていた者全てが行動を停止したのである。 もちろんその範疇に居た騎士団の人員も含まれる。 後衛の冒険者達が嫌な予感を感じてそれぞれが構えを取る中、騎士団と魔物に薄ぼんやりとした白い光が纏わりついた。 そして一斉に冒険者達の方向へ向く。 

「おいおい、何があった?」
「気を付けろ! 普通じゃないぞコイツ等」

 焦点の合わない虚ろな瞳で棒立ちになった騎士団の面々が、うっすらと笑みを浮かべた表情で剣を持ったままこちらに歩み始めた。 『ドドドッ』 それを見て、冒険者達に動揺が走る。 先程のピンクの煙と言い、不自然な白い光と言い、何かの魔法だと悟ったアービタは撤退命令を副長や他の冒険者に出した。 『ドドドドッ!』 騎士団が敵に回ってしまったので、これ以上の判断はアービタには出しにくい。 『ズドドドドッ!!』 防衛線を少しずつ下げて魔物との距離を取る最中に、耳にしながら無視していた何かが迫り来る轟音の主に怒鳴り散らした。

「さっきから何だ、この音は!」
「団長! アレです!」

 副長が示唆した方向を見た団長や団員、他の冒険者が街道北側の森林から木々をへし折って弾丸のように飛び出したナニカに仰天した。 魔物の群れの横っ腹に突撃をカマした茶色い砲弾は、魔物達を蹂躙しながら反対側へ突き抜けて南側の森林へ姿を消した。 超重量の突撃を受けた魔物は、跳ね飛ばされて華麗に高々と錐揉み回転して宙を舞い、次々に落下して絶命する。 大半は突撃の時点で既に死んでいたが。

「……今度は何のバケモンだ、ありゃあ?」
「どっかで見たような気もしますね」

 誰もが何事かと動きを止める中、南側の森から襲撃の主がひょこりと姿を現した。

 ぴ――っ!!

「「あ」」
「……団長、あれってケーナさんのっスよね?」

 雄雄しく(?)雄叫びを上げて胸を張る(ような真似)以前見た、ある冒険者の召喚獣。 アービタと副長が揃って唖然とし、ケニスンがずんぐりむっくりなクリムゾン・ピグのぴーちゃんを指差した。 炎槍傭兵団の団員は見慣れた召喚獣だから「なんだ、焦って損した、助かった」とか言う心境だが、他の冒険者達は不意の仲間割れをチャンスと思い、速やかな撤退を提案した。

「おい、アービタさんよ! さっさと下がらねぇと、仲間割れの巻き添えを食うぜ」
「いや、ここで撤退はしない。 丁度いいところに援軍が来たからな」
「待て待て、あんな化け物同士の戦いに巻き込まれたらただじゃ済まないだろう!」

 その化け物呼ばわりされているぴーちゃんは、群がる魔物達を鼻先で引っ掛けては投げ、飛び上がっては踏み潰しと愛嬌のある体型からは及びもつかない八面六臂の活躍を見せていた。 ただしその攻撃がじわじわと騎士団に迫っているので、手遅れにならないうちにどうにかする必要があるとアービタは判断する。 騎士団はアービタの古巣なので、このまま見殺しと言うのは流石に目覚めが悪い。

「なんとかして騎士達を魔物から引き剥がすぞ。 アイツが居ると言う事は彼女も近くにいるだろう!」

 アービタの号令で団員達がそれなりの準備を始める。 ある者は捕縛用のロープを用意し、ある者は穏便(?)に気絶させようと棍棒を装備し、術が使える者は麻痺効果や眠らせる魔法を準備する。 初めは呆れていた冒険者達だったが、アービタや団員が魔物に取り込まれた騎士を本気で救い出そうとしているのに気付く。 馬鹿げた考えに一笑にするも、面白そうな博打ととって次々と彼らに賛同し、肩を並べた。

「アービタさんよ、面白そうじゃねえか。 俺達も混ぜてもらうぜ!」
「あの高慢ちきな騎士に恩が売れるなんて他にねえからな、俺も加勢させて貰うぜ」
「気絶させて群れから引き抜くんだろ? こんな時でもなきゃ騎士を殴れる機会なんかねえからな、思いっきりやらせてもらう」
「……いや、殺すなよ。 頼むから」

 念のため手加減を確認するアービタは、魔物の群れの向こう側で大暴れをしているちびピグにも声をかける。

「おい! ピー助!」
 ぴぴ───っ?

 鋭い鎌を突き立てようとするデスマンティスを、モノともせずにどーん! と弾き飛ばしたちびピグはアービタの声を聞くと、そちらに向けて体ごと向き直った。 ついでに何か期待するようなキラキラする瞳を向けてくる。 アービタと副長はその純粋っぽい視線に「うっ!?」とたじろぐが、頭を振って気持ちを切り替えた。

「お前のご主人様はどうしたーっ?」
 ぴっ! ぴぴ───っ!

「…………団長、根本的に質問があります?」
「なんだ?」
「会話が可能ですか?」
「……ああ、声掛けてから気がついた。 さっぱり解らん」

 背後で様子を伺っていた団員以下、冒険者達が揃ってコケた。 ちびピグは魔物を千切っては投げつつ盛んにぴーぴー鳴いている、どうやら会話をしているらしい。 受け取る側に猪語の心得がある者が居ないので、まったく意味が不明である。
 指揮官の苦労とは別に、冒険者側の前衛は主力の瓦解した魔物達と戦闘状態に入った。 主に相対するのは騎士達で、魔物の方は炎の槍所属の傭兵員達が牽制を引き受ける。 元々騎士団込みで百人居たところに、メインの騎士団が抜けてしまったので魔物の群れに対処するのは半分程度だ。 それでも集団戦に慣れた傭兵団員は魔物をいなして行く。 側面からちびピグの攻撃があってこそであるが、別に倒す事に拘らなくてもいいのだ。 人間側の目的は騎士を魔物から引き剥がすことなので、四肢を傷付けその行動力を奪えばゴアタイガーやガウルリザードの鋭い牙もその威力を発揮しない。 団員達はそれぞれが盾になりつつ攻撃を防ぎ、横合いから一撃を加えて息の合ったチームプレイで魔物達を動けなくしていく。 それと同時進行で冒険者達が騎士を無力化して、後方へと遠ざけて行った。 

「はっはっは、公然と騎士をぶん殴れる日が来るなんてなあ!」
「街中だと威張り散らしてるからな、アイツラ。 溜飲が下がるってもんよ」
「いや、だからって鉄棍を股間にっつーのはマズかねぇか?」

 兜をヘコませる勢いで殴る者、麻痺効果のある魔法で落とす者、雷撃魔法を撃ち込む者、容赦なく急所を殴打する者。 日頃の恨みとばかりに遠慮のかけらも無いが、そこは熟練の冒険者、殺さないように細心の手加減が入っている。 反面、ここまでされなければならない騎士の普段の行いからの自業自得と言えよう。
 先程のピンクの煙は【魅了】の効果を持つ魔法だったが、永続的な効果を持つわけではないので殴られた騎士は目覚めると正気に戻っていた。 しかし、縄で縛られて猿轡までされていたので当然暴れる。 冒険者側はまだ影響が残っていると思っていたから、そのままで放置。 よって騎士達は理不尽な扱いに冒険者達への反発を募らせていく。 堂々巡りの悪循環が生まれているのに誰も気づいていない。

「つか、騎士を何とかしても魔物が減らねえ……」
「一体何処からこんなに沸いてくるんだ。 キリが無いぞ!」

 冒険者達が無力化して、ちびピグが片っ端から粉砕していても街道の向こうから押し寄せる魔物は中々途切れない。 これではアービタ達冒険者側がスタミナ切れで先に参ってしまう。 さっさと彼女(・・)がどうにかしてくれると思っていたアービタは、業を煮やして大声を張り上げた。

「おい! 嬢ちゃん! 近くにいるんならさっさと何とかしてくれっ!!」
「はいはい」

魔法技能(マジックスキル)押し寄せる羊(スリーピング・シープ)

 その声が聞こえた途端、魔物の群れが横合いから突如として出現した羊の大群に覆われた。 半透明の羊達はただ単に右から左へと魔物の群れを横切っただけで、その姿はあっという間に掻き消えた。 残ったのは地面に横たわり、イビキをかく魔物魔物魔物魔物……。 勿論無力化して回収予定だった騎士も例外なく爆睡していた。 意外に近い所から返事があったのに気付いたアービタが振り返ると、すぐ脇の森の中よりケーナがひょっこり姿を現した。

「すみません、別働隊を相手していたので遅れました」
「やけにいいタイミングだな。 出番を待っていたとかじゃないよな?」
「あはは……。 いえ、なんか男同士のチームワークが眩しくて、何時手を出したものかな~と」

 正直に返して来るとは思わなかったので、やや呆れた顔になるアービタ。 「ごめんなさい」と素直にケーナが頭を下げたので、頭をボリボリと掻きつつ「まあ、死人も出なかったからいいけどな」とだけで収めておく。 この辺のやり取りの間に騎士の回収はほぼ終了していた。 残るは大量の熟睡中の魔物の始末ではあるが、後々掃除が大変なので陣地を後退させて見守ることになった。 その間に副長から事此処に至った経緯を説明されるケーナ。

「ふむふむ、それはたぶん……、【魅了】して【誘導】で操っているんですね」
「【魅了】ってあの大量の魔物をか? そんな魔法があるなんて聞いたことがないぞ」
「二百年前には使い手がごろごろ居ましたよ。 【誘導】って言うのは全体を目標に向かって行動させることです」
「じゃあ、あの群れの始まりを探せば大元の原因がいるって事か?」
「ええまあ……、ここまでの大軍を操るとなるとかなりの大物がいるでしょう」

 ぴぴ──っ! ぴぴ──っ!

 それまで魔物が寝こけている山の脇をうろうろしていたちびピグがかん高いいななき(?)を上げ始めた。 それを聞いたケーナは眉をしかめ、腰に差してあったルーンブレイドを引き抜き魔力を込める。 短剣状態だったルーンブレイドに蒼い刃が形成された。 いきなり臨戦態勢になり、とととっと駆け戻ってきたぴーちゃんを脇に控えさせたケーナの様子に、アービタは慌てて部下諸共冒険者達を下がらせた。 そして横に並ぶようにして話しかける。

「操ってる奴か?」
「ぴーちゃんが警戒するってんだからそこそこ強いと思います。 ぴーちゃんは私の後ろに被害が行かないように中衛ね?」

 ぴぴぴ───っ!

 ケーナのお願いにトコトコ後ろのほうに下がり、鼻を上げてふんぞり返る。 その様子を苦笑して見たアービタはケーナの横に留まったままだ。 敵の全貌を見ないままで下がるのは主義に反するとかで。


「変なのが来ても知りませんよ?」
「まあ、嬢ちゃんの邪魔をする気はないな。 俺も一応武人なのでな」

 槍と剣持って武装した男女が、ぐごーぐごーとイビキかきまくりの街道沿いの魔物川の傍で待つことしばし。 ザカザカと肩を怒らせて問題のモンスターが姿を現した。 見覚えのある姿にケーナが身構え、アービタが見た事の無い容姿に目を丸くする。

「……なんだありゃあ? 人獣(ライカンスロープ)にしては見た事の無い奴だな」
「やっぱりレオヘッド……。 魔物寝かしておいてよかったぁ~」

 安堵するケーナに不思議そうな視線を送るアービタ。 ちなみに人獣(ライカンスロープ)と言うのは頭が獣の姿のモンスター全般を指す。 犬頭のコボルトもこれに当たるが、基本人獣種は独自のコロニーを形成して人里を避ける。 大半は好戦的な者が多い為、人に仇為すモノ(モンスター)として扱われる事が多い。
 やって来たのはごてごてと革鎧の上に鋲打ちの金属板を貼り付け、ぴしりぴしりと長い金属で編んだ鞭を地面に打ちつける獅子頭の人獣(ライカンスロープ)獣使い(ビーストマスター)の個体名レオヘッドだった。 レベルは四百三十で、四百レベルの制限解除クエストに配置されているモンスターだ。 ゲーム中は鞭の一振りであちこちから魔物が集まるため、十八人PTで当たったとしても本命を倒すまでにはやたらと時間がかかるクエストである。 

 唸りつつ睨むようにケーナ達と距離を置いたレオヘッドは、ゴアアッと威嚇に吠えて手に持った鞭を大きく振り上げた。 アービタが反応するよりも早く彼の首を刈り取ろうと飛来した鞭は、直前にケーナが振るったルーンブレイドに先端を寸断されてあらぬ方向に飛んでいった。 此処までのやり取りだけで自分の手に負えないと判断したアービタは、油断無く構えたままじりじりと下がる。 弱い物から狙う主義なのか、再びアービタ目掛けて鞭を振り上げたレオヘッドはケーナから撃ち込まれた【炎裂弾(イア・ボム)】の直撃を受け、ドドーンと爆発に吹っ飛ばされた。 放物線を描いて魔物の寝こけている中に落下し、その衝撃で周囲の魔物が目覚める。 ケーナの使った【押し寄せる羊(スリーピング・シープ)】の魔法は何もしなければ一日寝ているが、攻撃や強い衝撃(魔法の範囲内とか)を受けると効果が切れる。 口元にニンマリとした笑みを浮かべたレオヘッドは、鞭を振るって魔物を起こしケーナに向けてけしかけようとしてその身を強張らせた。 事前準備に時間のあったケーナは【魔法技能(マジックスキル)重王圧壊(ギガ・グラビオール)】を使用。 頭上に掲げた手には直径四十メートルにはなろうかという、表面を透明な膜で覆われた闇の塊が浮かんでいた。 内部は中央に向かうほど渦を巻き、更に(くら)い。

「おいおい嬢ちゃん、なんだその魔法……」
「重力魔法です、ちょーっと範囲が広いので気をつけてくださいね」

 あんぐりと口を開け一歩二歩と下がるレオヘッド目掛けて、振りかぶったケーナはそれを投擲した。 ゴム鞠のようにぽーんと空を飛んだ【重王圧壊(ギガ・グラビオール)】は、べちょっと、泥団子が地面に落ちて半円状になったような形に変化した。 落下地点に居たレオヘッドや魔物を飲み込んで。 その直後、爆発的に膨らみ、その効果範囲を直径百メートルはあろうかという巨大な暗黒ドームに拡大させた。 範囲はケーナ達の鼻先にまで拡がり、眠っている魔物達の(ことごと)くをその内部に納めていた。 光さえも届かぬ超重力の奈落の中は、外からは全く見通すことが出来ない。 中でどういった惨劇が行われているのかさっぱり解らなかった。 まあ、中で何でもかんでも圧殺するのではある。 しかし、ドーム自体が『ゴガガガン!』とか『ゴリゴキゴゴッ!』とかいった音を立てて地面にめり込んで行くので、誰もが恐れ慄いていた。 改めてケーナの非常識さを肌で感じるフェルスケイロを中心に活動する冒険者達と、あまりのデタラメさに瞠目する今回の件でフェルスケイロに居合わせていた冒険者達。

「おいおいおいおいっ、なんなんだあの娘っ子はっ!?」
「なんつー魔法を使いやがる……」
「ああ、お前らが知らないのも無理は無いな」
「あの娘っ子がフェルスケイロの大司祭(スカルゴ)殿の母親だ」
「「………………」」

 揃って一角だけが沈黙に包まれる。 ケーナの事を知らない者達はあんぐりと口を開けて驚愕をあらわにしていた。 教えた方もうんうんと頷いて過去に自分達も通った道と同意する。 ある日下町の宿屋に飛び込んできた大司祭の醜態を知らぬ物はいないからだ。 普通ならそれでも幻滅されそうなモノだが、当人が普段からマザコン的発言が多いのが幸いして地位転落という方向にはならなかった。 寧ろ親しみが持てたと言う感想が多かったのは、ご愛嬌である。





 後方の雑談はさておいて、別の意味で危機に直面しているのはケーナ側である。

「あっちゃ~……」
「おい、嬢ちゃん、これはちぃーっとばかし問題になるんじゃねえか?」
「……やっぱりゲーム中とは色々と違うんだなあ……」

 アービタとケーナの前に拓けている、元街道だった所が問題になっていた。 ゲーム中はドーム状に囲った中の敵を圧壊して消すだけの魔法だった【重王圧壊】ではあったが、まさか現実(リアル)で使うと効果範囲の地面ごと粉砕するような魔法になると思わなかったからである。 

(広範囲魔法は対地の事も考えて自重するべきかもしれないね……)
『戦場ノ選択ヲ間違エタヨウデスネ。 後日、範囲魔法ニツイテハ実地デ確認シテミタ方ガ良イカト提案致シマス』
(あちこち穴だらけになるんだろうねえ……。 範囲魔法だけでいくつあったっけ?)

 そんな考えは只の逃避であると思いながら目の前の惨状を見る。 暗黒ドームが発生した所を基点として街道に大きなすり鉢状の窪みが出来ていた。 徒歩の旅行者ならともかく、馬車での行き来は完全に無理なのは誰の目にも明らかだ。 色々と反省しているらしくしょんぼりと落ち込むケーナに、声を掛けたり肩を叩いたりして慰める冒険者達。

「ま、嬢ちゃんあんまり落ち込むなって」
「後々想定された被害からすりゃあ、こんなの微々たるモンだって」
「むしろあそこで殲滅してくれなかったら俺らがやばかった……。 感謝するぜ」
「そーそー、騎士には意趣返し出来たし、俺らも死人は出てねえしで結果良しってな」
「……はあ」

 残っていた魔物は、操っていたレオヘッドが居なくなったことで逃げ出してしまったらしく見渡しても気配が無い。

 それでも警戒心を緩めずにいたアービタは、何人かの部下と冒険者を選んで周囲の探索に出させた。 ケーナは頭の中でキーと相談し、地面を戻す技能(スキル)を検索していた。 傍目から見るとぶつぶつ独り言を言う危ない人であるが。 ぴーちゃんはもう警戒することもないと知ってケーナの傍でまったりモードだ。 その巨体があると言うだけで、他の人は近寄りがたい。 


 そこへ今度は遥か後方で待機していた筈の騎士団の本隊が、シャイニングセイバーやスカルゴ、マイマイを先頭に馬で駆けて来た。 娘息子は母親が居ることに驚き、騎士団長は何故か捕縛されている騎士達に驚いていた。 一部の騎士の不満が爆発する前にアービタが間に入り、かくかくしかじかとこうなった経緯を説明する。

「そういやー、魅了の効果ってどうなってんだ?」
「強いショックを与えれば解除されるよ」
「…………それを早く言ってくれっ!」

 疑問を口にした冒険者にあっさりと返答するケーナ。 それを聞いてから慌てて騎士達の拘束を解きにかかる。 案の定ぷりぷりと怒ってはいたが、操られて襲い掛かろうとしたのは事実なので助けてくれたアービタ達に文句は言えない、悪態を吐く程度だ。 冒険者側もそれは分かっているのかニヤニヤとするくらいで、露骨に言い返すものは居ない。 諦めてわしわしとぴーちゃんを撫でていたケーナは心配そうに駆け寄る子供達を見て笑顔を浮かべた。

「母上殿!」「お母様!?」
「あらあら二人とも、そんなに慌ててどうしたの?」
「どうしたもこうしたも、シャイニングセイバー殿の要請に応えて何も母上殿が出張らなくとも……」
「私達だってフェルスケイロ(ここ)の防衛くらいできますのに」
「でももう来ちゃったし、終わっちゃったし、ちょっと街道に壊滅的なダメージを与えちゃったけどね……」

 子供達が出張った所でレオヘッドの相手は辛かっただろう、呼ばれてよかったと安堵するケーナだった。 それよりも当面は街道の後始末をどうしようかと途方に暮れる。 選ぶ方法は大体同じ方向しか思いつかない。

「石をゴーレムで運搬してからコンクリ漬けにするしかなさそうだね」
『石山探シカラデスネ』

「いや、要請を出したのは俺だからな。 上には俺から伝えておいて、ここの責任は俺が持とう」
「ありゃ? いいの、シャイニングセイバー?」
「水際防御を被害無しで治められたのはケーナのお陰だ。 そろそろこの辺で借りを返さないと負債が怖そうでなー」
「借金取立人扱いかい……。 じゃあ、後は任せるけど?」
「おう、無理言ってスマンな」

 ポンポンと肩を叩くシャイニングセイバーに申し訳程度に頭を下げ、その場を離れてアービタのほうへ移動する。 アービタ達は警戒や探索の仕事を騎士に引き継ぎ、フェルスケイロに戻る事になったのでそれに混ざる。 マイマイやスカルゴも残るらしいので「頑張って」と声を掛けてその場を離れようとしたケーナは、思い出した事があって振り向いた。

「スカルゴ!」
「は? なんでしょう母上殿?」
「ちょっと聞きたいことがあるから、明日にでも教会行くね」
「明日……、まあ、多分問題ないと思います」
「んじゃ、よろしく」

 ひらひらと手を振ってアービタ達冒険者の後を追う。 珍しい母親の頼みごとに首を捻るスカルゴに「よかったじゃん」と茶化す妹。 その場を離れながらケーナはエクシズ達の方はどうにかなったのかな? と思い出した。







 ─── オウタロクエス Side

 人々の重苦しい注目を一点に集めて王都に侵攻(?)していた巨亀は、城の裏手、境界線ギリッギリで停止していた。 後一歩踏み込めば都市部どころか、城に重大な損害を与えていた所である。 避難勧告が出ていたにもかかわらず、残っていた住民や大臣、騎士や冒険者と一緒に先頭に立っていた女王サハラシェードが深い溜息を付く。 覚悟を決めたところでいきなりの停止に、歓声よりも先に全員の安堵の溜息に迎えられた形になる巨亀。 決して歓待を受けるいわれは無いものではあるが、滅亡の危機は回避されたと言うことだろう。 巨亀の停止が確認されてからやや間をおいて、残っていた者達が歓声を上げる。 都市全体に広がった喜びの声を聞いた女王は、その時点になってようやっと肩の力を抜いた。

「やれやれ、一時はどうなることかと思ったわ。 停めてくれた者には報酬弾まないといけませんね」
「ふう、肝が冷えましたぞ……」

 宰相と頷き合う女王の会話を拾った騎士団長は、すぐさま部下を功労者確保に向かわせる。 巨亀の周囲で目を光らせておかないとカタリを装う者が出かねないからだ。



 場所は変わって巨亀神殿内部(テレビ局)では……。
 ぐったりして床に突っ伏した隠れ鬼とエクシズの姿があった。 ちなみにクオルケは早々に二十問を間違えて外に排出された。 今はクエストクリアとみなされたので建物の扉は開放され、再び登ってきたクオルケは二人と合流している。 隠れ鬼の頭上のカウンターは『39/18』、エクシズの頭上は『41/19』となっていた。 まさに崖っぷち状態である。 体力的には問題ないのだが、精神を緊張感でゴリゴリ削られていったので双方とも疲労困憊だ。 あろうことかこの守護者、途中から外の景色を壁に表示させたのだ。 刻一刻と近づいてくるオウタロクエス王都、微妙なチョイスの問題と時間制限に焦りが募られて冷静になるまでに随分と間違えてしまった。

『お疲れ様でした。 二割間違える前に計八十問正解されているのでクエストクリアになります。 you達の願い通りに守護塔の歩みを止めました。 これで宜しいでしょうか?』

 蓮の台座に座ったままふよふよ浮いている金箔神仏像が、三人を見下ろしながらそう声を掛けてくる。 

「あ、……あぶねえ……。 あそこで正解しなかったらヤバかったかもしれん」
「まったくよ。 残り二問、一人で何とかせねばならんかと思ったぞい……」

 忘れ掛けていた事まで搾り出すように脳をフル回転させたので、二人とも心は鰹節のように細切れであった。 それでも共に戦い抜いたという達成感で、どちらかとも無く笑みがこぼれる。 クオルケの羨望(混ざれなくて残念)な眼差しを受けながら、肩を組んで「「ワハハハハハハハッ!」」と笑いあう。 それで何か気が済んだのか、晴々とした表情の隠れ鬼は神殿から出るとエクシズ等と距離を置いて向かい合った。

「何やら待ち構えている輩もおるし、ワシはここで失礼させてもらうぞい」
「いや、ちょっとその前にケーナと会わないとか言っている理由を置いていってもらえないか?」
「ぬ、そうだったな。 ……どう話した物かのう……」

 顎鬚をいじりながら「むむむ……」と呟き考え込む隠れ鬼に対して、そんなに難しい理由があるのか? と困惑する二人。 

「簡潔に言うと所帯を持ってのう」

 あっさり風味な返答につんのめった、危うく甲羅上から転げ落ちるところだった。

「そんな理由で昔の仲間に会わないとか薄情過ぎだろうっ!?」
「少しは会わないとか言われた方の気持ちも考えてあげなよっ!」
「まあ、待て。 お主等の言い分ももっともなんじゃが、ワシはこのゲーム隠居した後に始めてのう……」

 勢いで突っ込んだ二人を押さえるような仕草で隠れ鬼は訳を話し始めた。 『理由があれば』と言った手前もあって、聞くだけ聞くことにしたエクシズは納得しきってないクオルケを抑える。

「当時はまだ連れ合いもおったんじゃが、童心に帰ったみたいについぞネットにのめり込んでしまってな。 連れ合いも文句ひとつ言わずに付き合ってくれたんじゃ。 それが先に立たれるとのう、もっと一緒にいて一緒に隣を歩いてやればよかったと後悔したんじゃよ。 そんな訳で悪いんじゃがケーナ嬢には第二の人生を楽しみたいと伝えておいてくれんか?」
「………………」
「…………、分かったよ。 ケーナにはそう伝えておくわね」

 重苦しい空気漂う中、黙るエクシズに代わりクオルケが頷く。 隠れ鬼は申し訳なさそうな顔で頷くと【転移】を使い、その場から消え去った。

「……はあぁ、人の過去なんか聞くもんじゃないな」
「同感さね。 さて、何時までもこんなところに用は無いし、さっさと降りて報酬でも貰いに行こう?」
「ああ、そうだな。 その後でケーナと会って伝えてやらないとな」




 巨亀は甲羅上から人が居なくなると、その場から方向転換をして本来の軌道へ戻るために動き出した。 人気の無くなった神殿内部では、金箔神仏像がどこぞからの通信を受けていた。

『……当初の予定とはえらいズレましたが、プレイヤーを三名確認致しました。 姫様に会えなかったのは残念ですが。 ……はい、はい、では以降はそのように……。 Meは暫くお役御免ということでしょうね、ええ、はい』

 通信の切れた神殿には静けさが戻る。 歩行する振動音すら聞こえない(・・・・・)静寂の中、金箔神仏像は薄く開いていた瞳を閉じ、蓮台座の上で結跏趺坐をするだけの守護者として口を閉じた。 











 ───後日、フェルスケイロでケーナと合流したエクシズとクオルケは……

「え? お爺ちゃんがそんなことを? へえ……」
「あの人マジで中の人、隠居爺だったのか?」
「うん、でもおかしいなあ。 生涯独身とかふんぞり返っていた覚えがあるけど、脳内彼女とか言ってたしー」
「「は?」」








 「隠れ鬼」
 おそらく最年長プレイヤーで、嘘か真か判断つかないことを真摯に語って相手をからかうことが趣味な爺さんである。 中にはそのまま訂正不可能なほどに信じてしまったケーナのような事例も存在する。 
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