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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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39話 王都襲撃事件(前編)

 村に戻った二日後、地図を片手に森の中を進むケーナがいた。

 どうやら皆が留守中に暇を持て余していたロクシーヌは、精力的に村の外を歩き回って食材に使えそうな木の実や葉等を調べ上げていたようだ。 台所を完全に自分の領地としたロクシーヌに頼まれて、早朝に村外に出て来たケーナ。 メイドに渡された直筆の食材調達地図を見て苦笑する。

 羊皮紙には村と書かれた家マークを中心に、キノコの群生地や何色のどんな木の実が生る木や、何の食べ物に合うとか書かれたどんな葉形のハーブがある場所とかが細かく明記されていた。 その内の一つ、ブルーベリーに似た木の実を手に提げた籠半分に取って来て欲しいと頼まれ、つい今し方採取して来た所だ。 ロクシーヌはそれをそのまま食卓に並べたり、潰してジャムや飲み物にしたりと多彩に加工する。 どれも技能を使う品ではないので、素の料理からっきしダメなケーナから見れば羨ましい事この上ない。 教えて貰いたくても「ケーナ様は私の仕事を奪うおつもりですか!?」と、ハンカチを噛み千切りそうな泣き顔を向けられれば誰だって反論できない。 それでいてルカと仲良く台所に立つのは問題ないらしい。 後ろ姿を見るたびに悔しい思いが募るので、なるべく準備中の台所を覗かないようにしている。

「何にせよ、ルカが料理上手になって頂戴な?」

 呟くのではなく、対話相手が居るように問い掛ける。 ケーナの左隣には肩くらいの高さに直径三十センチメートル位の巨大な目玉が浮いていた。 マジックアイテム『対の瞳』。 元々はゲーム中、初心者にクエストの経過を実地で説明する為の道具で、ルカの所にもこの瞳の対がある。 一応双方向通信の携帯みたいな物で、目玉の向こうからは微かに頷く気配がした。
 昨日一度自分の塔に戻り、倉庫とアイテムボックスの整理をして、自宅で新しく使えそうなアイテムを生成していた所へ、居合わせたルカが使ってみたいと言ったので今回の使用になった。 まあ、朝から村を出る時に出会ったロットルには引かれてしまったので、使用する場所を選ぶ必要はありそうだが。

 直ぐに街道が見えてきたので通信機能を切ってアイテムボックスに仕舞う。 わざわざ街道側に回らずとも畑が広がる柵側から入ればいいのだが、今や村の六方向に守護者(ガード)を配置してしまったので止めた。 守護者とはギルド所有の砦やダンジョンの外側で、番犬のような役割を果たすゴーレムである。 侵入しようとする者や外敵に対し容赦のない攻撃を加えるので、村の者達には村長を通して通達はした。 基本的に村外へ出る村人は限られるので、安全策の面で概ね好意的に受け入れられたと思われる。 設置したのは狼型アイアンゴーレムが四体と麻痺魔法を射出する砲台型が二機だ。 念の為、村の外周に『危険! 此処から入るべからず!』的なニュアンスを書いた看板が立ててある。



 朝食を終えた後は、陽が頂点まで昇りきる前に農作業に従事する村人以外で、手の空いた者が集まって青空教室を行うのがケーナの日課だ。 先生役にケーナとロクシリウス。 時折、暇だったらスーニャも混じる。
 教える事柄は人によってバラバラで、大抵は字を覚えたい者か計算をしたい者くらいだ。 時々魔法を習いたい者がいるのが困りもので、その人にはマイマイへ紹介状を書く道しか提示できない。 教えてくれと言いに来た村人は、村を出る事には難色を示すので結局有耶無耶になっている。

 平仮名片仮名をマスターした子供達は算数をやりながら、他の人達に文字を教えたりしていた。 それ以上の勉学をやりたければ、学院を紹介するしかないか? 等とケーナは思っている。 教えられそうなものはせいぜい読み書き算数くらいで、流石に大陸の歴史を教えてくれとか言われると難色を示すしかないからだ。 そっちはもうスーニャに丸投げである。


 昼食後は子供達とロクシリウスで共同浴場の掃除。 それが終わればリットとラテムはそれぞれの家の仕事に戻る為、ルカが手持ち無沙汰になる。 ケーナはその間、いつもの例の本読解に掛かり切りになる。
 ……が、その日は少々毛色が違っていた。 リットとラテムと別れたルカの前には、いつもなら自室か村の何処かの涼しい日陰で本を読んでいる筈のケーナが待っていた。

「……ケーナ、お母さん?」
「うんうん、浴場のお掃除終わったのね。 それなら今度は私に付き合ってね?」
「……うん、何処かへ、行くの?」

 ポンッと優しく頭に乗せられた手に撫でられ、いつものようにほんわかした気持ちになったルカ。 ケーナは微笑みながら足元の草地から卵を拾い上げて「村中に産み落とされた、卵拾いかな?」と答える。 ケイリックに送ってもらった鶏を含めると、村内に放し飼いにされている鶏は全部で三十羽を超える。 殆どが雌鳥でどこかの牧場よろしく、村中であちこちに卵を産み落とす。 決まりでは食べる分だけ自分で拾う、となっているが、あまりに放置が過ぎると賞味期限を過ぎたりしてしまうので、定期的に村中を隅から隅まで見て回り、拾い集めてから古いのを選別して捨てる役割が回ってくる。 今回はその役目がケーナ家に回って来たと言うだけだ。 

 鶏が入り込みそうな茂みや、隙間などを見回りながら卵をかき集めて行くルカとケーナ。 途中、チラチラと何か気にしたそうなルカの見上げてくる視線にクエスチョンマークを浮かべたケーナ。 視線が合うと逸らされる為、大体の予想をしつつ聞いてみる。

「ん? どうかしたのルカ?」
「……本、は?」
「うん」
「今日は、……本、読まないの?」

 普段なら読んでいる本を読んでない光景に戸惑っているのだろう。 なにせ書かれた内容によっては、一日数ページしか進まない時もあった。 何が言いたいのか分からない雑学から愚痴まで多種多様な内容に困惑しながら読み進めた結果、ついさっきやっと読み終えてしまった。

「あれはもう読み終わったから、ルカが何か心配するような事はないのよ」

 読み終わったまでは良いのだ、読み終わるまでは。 問題は最終ページに書かれていた一文である。 あれが本を残していた目的だったとすれば、今まで読んできた部分は何だったのか。 あの性格に恥じぬ、ここに居ない癖に目の前で「やーい、引っ掛かったー!」等と罵倒されている気分になり、そっと涙するケーナだった。




 翌日からはまた村を離れてヘルシュペルへ。

「なんだかなあ~、自宅を作ったら更に忙しくなったような気がする……」
「でしたら何もお気になさらず、家でのんびり過ごせば宜しいのでは?」

 ケーナのぼやきに見送りに出て来たロクシリウスが答える。 「それが出来る無神経さがあればね」と遠い目をする主にロクシリウスは「ご苦労様です」と頭を下げ、背後の気配に道を譲った。 走って来たルカは手に持っていたバスケットをケーナに差し出した。

「ケーナ、……お母さん、お弁、当!」
「ルカが作ってくれたの? ありがとうね」

 受け取って視線を合わせて礼を言うと、小さく頷くルカを感極まって抱きしめるケーナ。 逆に抱きしめられたルカは眉をひそめ「失敗したー」と困り顔になる。 小さな子供扱いからいつか脱却したいと誓うルカだった。




「そういえば、先程のお話なのですが……」

 ケーナが紫色の光に消えた後、ロクシーヌが空を見上げていたルカに問い掛ける。 お弁当を作る際に台所へ立った二人は、未だたどたどしいルカと旅行中の事を良く喋っている。

「……う?」
「カータツ様が『お兄さん』で、スカルゴ様が『お兄ちゃん』なのはどうしてですか?」
「あ、うー、……えっと、ね」

 ロクシリウスは言われてみれば確かに、と頷く。 ルカは暫く思案していたが、手をポンと打ってからゆっくりと言葉にする。

「……カータツ、お兄さん、……お爺さん、みたい」
「「ぶっ!」」

 ルカが同時に噴き出した二人に訝しげな視線を向けると、手を振って何でもないとアピールする。 話の続きをロクシーヌが促す。

「スカルゴ、お兄ちゃん。 ……でっかい、おとうと?」

 この発言に使用人のプロ根性より感情が決壊した。 二人共ルカにくるりと背を向け、肩を震わせて無言で笑う。 ロクシーヌに至っては壁をばしばし叩きながら笑いが漏れていた。









 ヘルシュペルへ【転移】したケーナが真っ先に向かったのは冒険者ギルド。 エクシズとクオルケを探しに行ってみたが、受付嬢の話によると二十日くらい前に商隊の護衛仕事を受けて以来戻ってないらしい。

「伝言も受け付けられますが、どうしますか?」
「うーん……。 緊急って訳でもないから止めておきます」
「分かりました。 ではケーナさんが探していたと、お伝えしておきますね」
「すみません、お手数ですがお願い致します」

 次に堺屋を訪ね、麦の買い付けと輸送をイヅークに頼んでからケイリックに会う。
 ケーナの用件を切り出す前にケイリックから伝えられたのは魔道具(マジックアイテム)の生産についてであった。 注文はあるが発動キー(キーワード)が各所バラバラな上、貴族をあまり長く待たせる訳にはいかないので、村ではなく堺屋まで出て来て作って貰えないか? という要請である。
 ケーナには特に断る理由もなく、キーワード封入の手順を変えるくらいなので軽く請け負った。 報酬についてもその都度相談するという契約を交わす。 やっと自分の用件を切り出そうとした時、キーによって待ったがかかる。

(何?)
『フレンド登録者、シャイニングセイバー様から伝言(メッセージ)です』

 本来のゲーム中であればチャット感覚で会話が可能であったが、現状ではそうもいかない。 メッセージ画面を開くと『用件:要請』がヘルプコール用の赤文字になっていたので慌てて全文表示させる。

「『王都襲撃の予兆有り、支援求む』? なんだそれっ!? 随分大事に……」
「お婆様?」
「ごめんなさいケイリック。 フェルスケイロで何かあったみたいだから、この続きはまた今度ね!」
「は、はあ。 お、お気をつけ下さい」
「うん、ごめんね」

 その場で紫色の光芒に包まれて瞬時に姿を消すケーナ。 唖然と見送ったケイリックだったが、フェルスケイロの一大事らしいと聞いて母親に確認すれば判るのではと思い出し、【以心伝心】を起動させた。








 ことの始まりはケーナ達が村に帰還した頃とほぼ同じ時刻。
 積み荷に被害が出るのも構わず、商人の馬車が息も絶え絶えにフェルスケイロ住民街側の西門にたどり着き、衛兵詰め所に駆け込んだ事からになる。

「た、たたた、たい、たい……」
「おいおいどうしたんだ? まだ門が閉まるような時間帯じゃないぞ」
「まあ、落ち着け。 ほら、水だ」

 中でカードをしていた衛兵に水を貰った商人だが、それでもつっかえつっかえしながらの報告に衛兵達は仰天した。

 獣や魔物が列を成して国境沿いの森の中を行進するのを見た、と言うのだ。 流石に嘘や冗談だと捉えるには、必死な商人を見ればそのようなことはないとわかる。 とりあえず、術士の使い魔を偵察に出して貰う頃には、同じような報告が別の旅人によってもたらされた。
 そこから騎士団に連絡が飛び、王都全域に警戒態勢が敷かれる。 冒険者ギルドにも招集が掛けられて丁度暇を持て余していた数パーティ、計二十人程が参加し、街壁の守りに配置された。 学院からも自己責任で回復魔法の遣い手や調合士が参加し、本部詰めに回される。 学院長(マイマイ)は前歴があるために強制参加で騎士団と行動を共にし、妹が参加するならと周囲の反対を押し切って大司祭(スカルゴ)も同様に前線へ。

 夕方頃には術士の使い魔によって魔物の大体の規模が判明した。 国境近辺の魔物をかき集めたような混成らしく、中にホーンベアのような捕食獣と兎などの被捕食獣が確認された。 この現状によって魔物達の本能的な行動ではなく、人為的な何らかの術によっての作為ではないか? と判断されて王都全域に戒厳令が出された。

 王都の防御策が整うのに一日掛かり、翌日に王都よりやや離れた所に柵が張り巡らされて簡易な前線が構築された。 此方には騎士団の半分が配置され、冒険者や傭兵の希望者も混ざる。 指揮系統が混乱するのを防ぐ為に騎士団の指揮下に入って貰うのが条件である。 更に王都から半日かかる距離に最前線を形成し、騎士団第三隊を含む傭兵や、緊急に集められた冒険者の混合部隊百人程が駐留。 先ずは魔物の群れに一撃を加える事になった。





 夜が明けると、街壁の外側の本陣にはあちこちからの情報がひっきりなしに入ってくる。 緊急以外の報告は副団長によって整理されて、団長のシャイニングセイバーに届けられる。 相談役として呼ばれたスカルゴとマイマイを交えて会議が行われていた。 基本、怪我人の移送や治療士、魔術士(せいと)の投入についてである。

「やれやれ、俺の任期中にはこういう総力戦みたいなのは、起こって欲しくなかったんだがなあ……」
「あら、武勇に優れるシャイニングセイバー殿らしくない言い回しね?」
「主に“武勇だけ”だがなー。 ここ数年で部隊運用なんかは慣れてきたが、戦争じみた事なんか想定するかよ。 まだ前に出て魔物殴った方がはええよ」
「確かに、我等三人で事に当たれば魔物の群れ程度ならどうにかなるでしょう。 しかし、それで済んだ場合には騎士団の存在意義を見失うと思いますよ」

 修道士や修道女を各隊へ振り分けたスカルゴの真面目な意見に本部が静まり返る。 主に「え? コレ誰?」な方向で。

「何ですか! 二人揃ってその反応!?」
「……え? だってなあ?」
「ええ、ちょっと私も実の兄なのか自信がないわ」

 背後に出現した暗黒の渦巻きに後退していくスカルゴを引き止め、「冗談だから」「スマン」と謝る二人。 むくれて拗ねる大司祭スカルゴ。 ファンが見たならば小躍りして喜びそうなレア場面である。 緊迫した本部に一時漂う緩い空気がシャイニングセイバーの一言で、途端に凍りついた。

「しかし、返信が来ねえなあ。 ケーナの所に届いてないのか……?」
「は?」
「え?」

 呆然とした表情の二人に、伝言を飛ばしてケーナに手伝ってもらえないかを打診したと告げるシャイニングセイバー。聞いたことに愕然とするスカルゴとマイマイ。

「お、お母様に援軍要請を出したですってっ!」
「なんという事を……。 母上殿の平穏な生活に横槍入れる気ですか、アナタは」
「いや、アイツだって冒険者なんだから要請出したって問題ないだろう?」

 不思議がるシャイニングセイバーを、射殺すように睨み付けるマザコン兄妹。 そこへ近付いて来た副団長は場に漂う剣呑な空気に首を傾げるが、特に気にせず団長へ報告をする。

「そろそろ前線部隊が魔物の群れと接敵します。 それと南側の街壁より報告なのですが、何者かが戦闘をしているのを視認したそうです」
「は? いやちょっと待て、それはどうして戦闘してるって分かったんだ?」

 街壁の南側には貧民街の他、彼等の食い扶持である畑が広がっており、その南は森だ。 いくら街壁から見渡せると言っても、森林内で戦闘をしていると判別するのは難しい。

「いえ、何でも森の中から吠え声が聞こえて、不自然な落雷が数発落ちたそうです」

 報告を聞くや否や三人は眉をひそめて顔を見合わせた。

「お母様、ね?」
「うむ、母上殿だな」
「なんでこっちに顔を出さないで勝手に戦闘してんだ、アイツ……」

 額に手を当てて頭痛を起こしたシャイニングセイバーは兎も角、ケーナを良く知るマイマイとスカルゴは巻き添えを防ぐ為に南側へ近付かない通達を出しておく。 曲がりなりにもケーナの最大威力攻撃は、何処まで被害を及ぼすか解らない範囲魔法であるからだ。







 ────時は数時間遡った頃。

 ケーナが【転移】で降り立った場所はフェルスケイロ東門の外側だった。
 当然戒厳令下にあるため門は堅く閉ざされ、中に入りそびれた旅人や馬車等が立ち往生していた。 その人達に聞いても何があったかは把握していないので、【姿隠し】と【飛行】を併用して街中に入り込み、冒険者ギルドへ向かった。
 ギルドで王都に迫る脅威について説明されたケーナはシャイニングセイバーと合流するために西門側へ移動していた。 戒厳令下の王都は人通りもなく静まり返っていて、大通りを一人てくてく歩くケーナは目立っていた。 結果、街中にも配置、警戒していた兵に見つかった。 年若い層で三人一組の衛兵達は見た目十六歳以下なケーナ(アイテムボックスに装備を格納しているためにほぼ軽装)を冒険者と信じず、好奇心で外に抜け出して来た子供と決め付け、早く家に戻るようにと諭した。
 仕方なく素直に引き下がる風を装ったケーナは再び【姿隠し】から【飛行】で王都の南側へ移動し、街壁から遠く離れた森の中へ降り立った。 随分な遠回りをして騎士団と合流しようとした所、同じく遠回りの迂回路で東門に向けて森林内を移動していた魔物の別働隊と鉢合わせたのだ。 運が悪いか良いかは別としても、フェルスケイロにとっては朗報と言えよう。

「厄日か……」

 戦闘態勢を整えて【能動技能(アクティブスキル)】を多重起動、前方を隙無く見詰めながらアイテムボックスからルーンブレイドと如意棒を引き抜く。

 目前に広がる光景は、やたらと豪華に装飾されたローブを着込み、捻じくれた杖を持ったゴブリン、闇夜の魔術師(ナイトマスターロード)四百レベル。 それに率いられ、大型種を中心に構成された二十匹ほどの群れ。
 内訳は二本角の生えた四脚恐竜種TT(トリケラトプス)の三百レベルが四匹。 その背後にギザギザ牙の生えた顎を開けて威嚇する二脚恐竜種TS(ティラノサウルス)の三百八十レベルが四匹。 脇を固めるのは岩で作られたゴーレムのような容姿を持つ岩ゴリラ(ロックハイド)、此方は六匹が二百五十レベル。 最後尾に控えるのはサソリを土台にして上からネズミの皮を被ったような疫蠍(ウィルスコーピオ)が二百レベルにして六匹だ。 はっきり言ってこの戦力だけで、大陸上の国を全部滅ぼしてお釣りが出る脅威である。 

 ケーナの置かれた状況は小山のような肉食獣の群れの前に放置された哀れな仔羊である、……何も知らない第三者から見れば。 勿論、この群れを率いているゴブリンの魔術師もその第三者に入っていた。 気味の悪い笑みを浮かべ、体を揺らしながら愉快そうに嫌らしい者でも見る眼付きでエルフの小娘を見下す。

「ひょっひょっひょっ、運がないのう、この局面で出会うとはのう。 違う所で出会えておればもう少し趣向の凝った催しに加えて悦ばしてやったものを」
「いやー、それは遠慮したいなー。 寧ろここで私に会ったのが運の尽きと言うべきか」 

 これだけの戦力に囲まれても飄々とした小娘の様子に眉をひそめるゴブリン魔術師。 見せ付けるかのように腕を伸ばしパチンと指を鳴らすケーナ。 ゴブリン魔術師が「それは何の意味か?」等と問い掛けるより早く、天から二条の轟雷が群れの左右に控えていた岩ゴリラ(ロックハイド)四匹の頭上に炸裂する。 枯れ木を裂くような気軽さで四体を木っ端微塵に撃ち砕く。 

「な!? なんじゃとっ!」
短縮呪文(ショートカットキー)なんて見たことなかったかな? 二百年前には日常茶飯事なはずだよ」
「くそっ、貴様まさか……。 ええい! あの小娘を殺し尽くせっ!!」

 ゴブリン魔術師の命令に一斉に襲い掛かる大型モンスターたち。

 左手に如意棒、右手にMPを充填して光り輝くまでの刀身になったルーンブレイドを装備し、準備運動するように腕をぐるぐる回したケーナは不敵な笑みを浮かべる。
 真っ先に突撃してきたTT二匹を【戦闘技能(ウェポンスキル)跳ね上げる兎(ラビッドストリーム)】で地面ごと寸断し。 そこに続こうとしてたたらを踏んだTS二匹の頭を伸ばした如意棒で爆砕(フルスイング)。 頭部を失ったTSは倒れた端から塵となって消えていく。 ケーナは一旦後ろに飛んで間合いを開け、残った群れに【威圧】と【魔眼】を集中させる。 自分たちを率いるものより強大な重圧に圧されて緊急停止する魔物の群れ。 憎々しげな表情のゴブリン魔術師は杖を振り上げ魔法の準備に入る。

「貴様、女神の言っていた守護者(カーディアン)かっ!」
「知らないしー。 さっさと片付けてお昼にしたいんだ、私は」

 瞬時に小さくなった如意棒を握り締めたケーナの左腕に白い光が集まる。 対するゴブリン魔術師の杖にはどす黒い闇が生まれ始めていた。
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