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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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36話 暗躍する授業参観の日

 その報告がなされたのは陽も登らぬ早朝。 見つけたのは見せ物城の詰め所から帰ろうとした交代要員の衛兵だった。 部下を連れ、城付きのヤンマ便ですっ飛んで来たシャイニングセイバー騎士団長は、報告して来た衛兵が「何かの見知らぬ施設のような」と言っていたのを、現物を見る事で理解した。

「そりゃここの人間には馴染み無いわな、コレ」
「団長?」

 昨晩までボロボロの廃屋だった屋敷は見る影もなくなって整備されていた。 正面入り口の高い壁は綺麗に復旧されて、原色ペイントで地球では馴染み深い動物達、キリンやライオンやゾウやカバなどがコミカルに描かれていた。 傾いだ門戸は取っ払われ新しいアーチがやってきた者を迎える。 そこには『おいでませ 渇きの蠍 人物園へ』と書かれていた。

「冗談キツいぜ……」

 中は更に地球の動物園に似た柵付きの囲いで幾つかに区切られている。 だが、そこに居るのは入園口の微笑ましさとは逆に、醜悪で奇怪なモノばかりだ。 全身金色の人型ゴーレムと化した昨晩までお頭だった者は、金貨の涙をチャリンチャリンと流し「助けてくれ助けてくれえ」と訴えている。 下半身が数十本の人の腕となった男は汗と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を歪め頭を抱え慟哭している。 直径二メートルの晶貨と化して中央に顔だけとなった者。 顔は人のままで首から下は馬になった者。 樹木に取り込まれて半身同化した者は、これまた二メートルはある紫色の芋虫に樹皮からバリバリと喰われていた。 勿論、その芋虫には人の顔が付いている。

 その場に駆けつけた騎士や兵士達は誰もが嫌悪感丸出しだった。 シャイニングセイバーの指示により現場周辺は人が遠ざけられ、しばらくは見せ物の城も立ち入り禁止にさせる。 騎士達も冷や汗を拭いながら「人の所業じゃねぇぞ」とか「悪魔か……」と呟いていた。 簡易詰め所としてテントが張られ、シャイニングセイバー騎士団長と小隊長達は錯乱していた男達からなんとかこんな施しをした者の名を聞き出した。

「イグズデュキズ……だそうです」

 副団長が周囲を伺いながら恐る恐る告げた名前に、その場にいた者達に戦慄が走った。

「おお、神よ」
「なんてことだ……」
「日の神よ、我等を御守り下さい」
「なんでそんな大物がこんな所に」

 天を仰いで神に祈る者がいる中、腕組みをして沈黙をした騎士団長に皆の視線が集まる。 なんて心強い人だ、と羨望されているなどと思わない当人は部下を見渡して口を開いた。

「なあ……」
「なんですか、団長?」
「イグズなんとかって……何?」

 その場に居た全員がつんのめった。

「し、知らないんですか?」
「いや全く、有名なのかそいつは?」

 部下達が信じられねーという顔をするのに少々肩身が狭くなるシャイニングセイバー。 副団長が簡単なところを掻い摘んで説明してくれる。
 曰わく、世界を二分する日の神(光神)と夢の神(夜神)があり、夢の神に従属する小神に当たる事。 御伽噺でも人をあの手この手で堕落させたりする者や欲につけ込んで破滅させたりする者、その上位五神を五大公という事。

「そりゃ神じゃなくて悪魔っつーんじゃないのか?」
「それで分けられるんであれば話は簡単なんですがねぇ。 詳しい話は神殿にでも行って聞いて下さい」

 宗教的な話というのはやたらと面倒くさいと相場が決まっている。 気持ち悪さもあるが、何時までもこの辺り一帯を封鎖出来る訳もなく、輸送用の檻に詰め込んで街壁の外にある兵員用の倉庫に移動する方針で話は決まった。

「そもそもこいつらがその悪魔に目を付けられた理由があるはずだろう。 他には話を聞けてないのか?」
「はあ、有るにはあるんですが。 実に不可解でして……」

 手元の調書をペラペラ捲り、

「どうも冒険者の子を攫おうとしていたらしいんですが……」
「冒険者ぁ? 貴族じゃなくてか?」
「相手が団長の恋人候補のケーナ殿なんですよ」
「だから恋人じゃねーっつーの! って、なんでアイツの子なんか狙うんだ?」
「そこまでは知らないみたいでしたが」
「狙われてたって事は、王都に居るのか。 本人に聞いてみるしかねーな」
「はいはい、先ずはこっちを終わらせましょうね団長」

 さり気なく歩き出そうとしたシャイニングセイバーの襟首を掴み、副団長は現場に引き戻した。






 一方、ケーナ一家の方は朝食を終わらせた後、学院より先に向かったのは住宅街の端。 騎士団が今まさに撤収し終わろうとしていた付近に近い場所だった。 街の喧騒の中でもなんとか聞き取れるわいわいと騒ぐ子供の声を頼りに、彼等の溜まり場へ。 路地奥には十数人の子供達と、混ざってはいるが一人だけ生まれ持った資質から混ざりきれてない少年がいた。

「あ、デン助だ」
「げっ!」

 ケーナ達の現れた路地に背を向けていた為に気付くのが遅れた少年は脱兎の如く走り出そうとした瞬間、宙吊りにされた。 ケーナはルカ&リット両名と手を繋いでいたので、捕獲したのは勿論ロクシリウスだ。

「潰しますか?」
「二度ネタはいいよっ!」
「つか俺どーやって捕まったんだ!? はーなーせーっ!」

 ロクシリウスに後頭部をアイアンクローでガッチリ固定されているデン助はじたばたと暴れる。 ケーナからのアイコンタクトであっさり解放されてボテッと落とされた。 ぶちぶちと悪態をつくデン助を無視して、以前に石を買った子供を集団の中から見つけたケーナは、「石ある~?」と聞いてみた。
 うん、と頷いた子供は古ぼけた木箱を引っ張り出して来ると、ケーナの前に差し出した。 以前と同じく【鑑定魔法】を掛けて石を選別する。 視覚的に光って見えているのはケーナだけなので、様子を伺っている子供達は何が違うのか不思議そうにして見ていた。

「今度からひとつ銅貨五枚で引き取ろうか?」
「ええええええっ!」

 普段なら綺麗な石に手を入れてペンダントなどに加工する職人が買うくらいで、ひとつが銅貨一~二枚程度で売れる。 全部で三十弱あったので銀貨三枚を渡すケーナ。 普段の数倍の売り上げに、子供達は目を白黒させて驚いていた。

「おい」

 子供達との取り引き中、リットとルカは馴染めそうにないのか、ひたすらロクシリウスの後ろに引っ込んでいた。 二人の手を取って「次はお姉ちゃんに会いに行こうね~」と促した所へ、デン助から声を掛けて来た。

「あら珍しい。 私は君に嫌われてると思ってたんだけど?」
「今日は俺を捕まえないのかよ?」
「あれはまあ、アガイドさんから暇だったらって言われてるし。 今日は丁度ヒマじゃないんだ」
「そうかよ。 こいつらのこと……礼は言っておく」
「何のことやら、ただの売り物を買っただけでしょ?」

 あっけらかんとあったことを答えると、デン助は「チッ……、よそモンはこんな所来るんじゃねえ」とケーナを路地から追い出した。 眉を吊り上げるロクシリウスをいいからと押さえてケーナはその場を離れる。



 そこを離れてエッジド大河の渡しへ向かう。 岸辺の半分以上はモンスターに破壊されたままではあるが、あちこちから桟橋を以前のように伸ばし始めていた。 ルカは一度見ている上に育ちが海沿いなので特に驚きはしない。 リットだけが目を輝かせて河の流れを見ていた。 この辺りは上流地域の村北部と比較しても川幅が段違いに広いからだ。

「これ、川?」
「ああ、リットちゃんは村の北を流れているのしか見たことなかったっけ。 この辺だとこんな感じだよ」

 リットに「そうなの?」と問われたルカは少し考え、ケーナを見上げてからまたリットに視線を戻し、コクリと頷いた。 海の広さと比べていて反応が遅れたらしい。
 ゆらゆらと不安定な二双式の船に子供達はロクシリウスの手助けで乗り込む。 緩やかな流れで濃い緑紺の水面を二人で楽しそうに見ていた。 ケーナの方は同乗した人達にロクシリウスを夫と勘違いされたり、子供がいるのを驚かれたり、幾ら払えば水面を歩けるのか交渉されたりしていた。 中洲に着く頃にはぐったり疲れているケーナ。

「ケーナ、お母さん……、いっぱい、聞かれて、た」
「以前にここで何をやったんですか、ケーナ様?」
「おねーちゃん人気者なんだねー」

 それぞれの反応に自身の行いを悔やむも、やっちゃったものは訂正できないので引きつった笑みでとりあえず誤魔化しておく。

 学院では丁度グラウンドにて魔法実習が行われていた。 万が一の事もあるので【魔法防御】を子供達に掛けてから、授業の邪魔をしないように外周にそって移動する。 薄緑のローブを着ている生徒とは別に、紺や赤茶色のローブを着ているのは教師のようで遠くからでもよく目立つ。 その中の一人がケーナ達に気付くと慌てて移動して来た。 ケーナには直ぐ自分の娘だと判明する。

「お母様!」
「おはようマイマイ」

 飛ぶようにすっ飛んで来たマイマイは生徒の手前もあっていきなり母親に抱きつくような事はせず、急停止してから挨拶を交わす。 首を傾げてルカとリットを見ているので、苦笑したケーナはルカの肩を持って前に出した。

「こっちが今度貴女の妹になったルカよ。 ルカ、これが私の娘で貴女のお姉さんのマイマイ。 こっちの子は村でのお友達のリット。 こっちの猫人族(ワーキャト)が……」
「ケーナ様にお仕えしております、ロクシリウスと申します。 以後よしなに、お嬢様」

 きっちりとした姿勢で頭を下げるロクシリウスにやや引きつり、ルカの手を取ってから額にキスをする。

「よろしくルカ。 マイマイというのよ、気軽にお姉ちゃんと呼んで頂戴」
「……よろ、しく、……します?」

 お願いの部分がぼそぼそっとしたので聞き取り難かったが、概ね友好的に受け入れてくれたらしい。 これが事件直後だったらこうはいかないだろう。

「マイマイ、授業中でしょう?」
「あー、あはははは、じっとしてるのが退屈になって抜け出しちゃったんで……」
「こら」

 纏まって歩きながら生徒の固まっている所に近付いて行く。 マイマイは生徒達と教員にケーナ達を見学者だと説明する。 一見するだけなら四人家族にしか見えないので、ルカやリットに微笑ましい視線が飛んできた。 幾人かはマイマイとケーナの関係を知っているので、そこから話が広がり驚愕している者もいた。 水面歩きの人として一方的に知っている者達や、冒険者として知っている者は遠巻きに。 同宿での知り合いや、お世話した者はわざわざ近寄って挨拶を交わしていた。

「ちーす、ケーナさん」
「先日はどうも、また酒盛りしましょうぜ」
「あははは、飲み比べは勘弁ね」
「こんにちは、ケーナさん」
「いつぞやはお世話になりました」
「こんにちは、ロンティにマイちゃん」

 侯爵令嬢と王女殿下に家族を紹介する。 地位も一緒に説明してしまったのでルカとリットが萎縮してしまったが、当人から『構わない許可』を頂いて周りで見ていた生徒がびっくりしていた。
 授業の方はグラウンドの端に並んだ案山子に魔法を飛ばしたり、手元に光を灯したりしている。 初期クエストで得た技能(スキル)を街中で試したりしている初心者の集団に見えて、ケーナは感慨深い表情でその光景を眺めていた。

「お母様、妹達を校内見学に連れて行ってもいいかしら?」
「分かった、ルカに良いとこみせたいのね」
「はうっ!」

 自慢気なマイマイの様子を察し、致命的な所を突かれて肩を落とす様を見てからロクシリウスに視線を向ける。 彼は自分の役割は承知していると頷いた。

「じゃ頼むわロクシリウス。 マイマイは二人を泣かしたら折檻ね」
「お母様過保護過ぎ……、偶には私も愛が欲しいです」

 ぶちぶちと文句を垂れるマイマイを先頭に四人を笑顔で送り出したケーナ。 一緒にくっ付いて行かなかったのは敵視する視線を感じていたからだ。
 学院長が校舎内に引っ込んだのを見越してケーナに接近する者がいた。 二人の取り巻きを引き連れた身なりのいい青年がふんぞり返ってケーナの前に進み出る。 同時に周りの生徒達から舌打ちやひそひそ声が大きくなった。 青年が近付いてくると、ケーナの背後に回っていたロンティから青年が王女の母方の従兄弟だという説明をされる。 マイが困った顔で何も言って来ないのはソレが理由だからだろう。

「やあ、無名の冒険者女史。 学院長の母親だそうだが、キミ自身が別段爵位持ちと言う訳でもないのだろう? 平民であるのならばもう少し慎ましく生きるべきだね」
「………………」

 何が言いたいのかさっぱり分からないので無言を貫く。 その背後では宿での知り合い等が色々なジェスチャーを送っていた。 嫌味ったらしいから注意しろと言いたいらしい、要約すると。 相手の意図も直ぐ判明する。

「さて提案だが、君が例の馬車を持っているという冒険者だね? 冒険者なら冒険者らしく金で問題を片付けられるだろう。 キミ達平民の見たことが無い金額を積んであげるから、あの馬車を譲ると頷きたまえ。 コレが最期通告になるよ」

(…………これは喧嘩を売られているんだろーか)
『黒幕ト言ウヤツデハナイデショウカ?』

 周囲はシーンと静まり返り、生徒も教師も身じろぎせず事の推移を見守っていた。 学院長の母親と言う冒険者が相手にしているのは現王妃を輩出した侯爵家の嫡男である。 ロンティのアガレスト侯爵家とフェルスケイロを二分するトップからの交渉に、誰もが彼女は首を縦に振るものだと思っていた。 王女と侯爵令嬢を除いて。

「あのねえ、寝言は寝てから言いなさいな」
「……なん、だって?」

 ふふんと自信満々だった青年の笑みははっきりとしたケーナの拒絶に豹変した。 冒険者風情を侮蔑する憎々しげな顔で横柄な態度へ切り替わった青年。 彼は腰に下げていた杖を手に取ると、それを構えるようにケーナへと突き出した。

「いいだろう、折角交渉の場を設けてやったというのに断るとは。 ならば力づくで貴様からもぎ取ってやる。 覚悟するがいい!」
「…………力づくって……おいおい」

 生徒達から悲鳴が上がる中、【魔法行使(マジックユーザー)岩人形形成クリエイト・ロックゴーレム】の魔法が行使される。 背後から「マジかよ」とか「ヤベェって、あれ」などの声が飛ぶ所を見ると、それなりの実力者らしい。 大地から隆起した巨岩がゴリゴキと耳障りな騒音をたてながら形を変えていき、高さ二メートル程のゴツゴツした容姿のロックゴーレムが出現した。 実力の差を知るロンティとマイにとっては、あの日に見たホワイトドラゴンに比べれば児戯のようなものである。 ましてやアレを操る人物がそれ以上の実力を持つものだと理解している。

 「どーしろってのこれ?」と難しい顔をしているケーナに対して、マイことマイリーネ・ルスケイロは慈愛の笑みを浮かべゆっくり頷いた。 つまりはやっちゃっていいとの許可を出され、ソレだけで呆れた表情になるケーナ。 クロフィアと相対した時よりも酷い弱い者苛めにOKサインを出され、自分に向かってノッシノッシと歩む岩人形を見る。 自分の百分の一以下のレベルしか持たない無機物に対し周囲の悲鳴もなんのその、腕を振り上げて此方に殴りかかろうとしたソレのドテッ腹に軽くキックを叩きこむ。 勿論、一撃でHPをマイナスにされて木っ端微塵、岩人形は哀れにも小石の山と成り果てた。

 痛いほどの沈黙が満ちた。 魔導士としては学院で上位を誇る生徒の作ったゴーレムが、蹴りひとつで粉砕されたからだ。 術者の青年は顔を青くして自分の(しもべ)だった小石の山を見つめ、平然と立つ冒険者に視線を移す。 この場で優位に立って居ると言うのに何故か戸惑っていた女性は深々と溜息を吐いた。

「ねえ貴方、走るのは得意?」
「は? な、何を言っている?」
「死にはしないと思うけど、逃げるといいよ。 【召喚魔法(サモンマジック):load:雷精Lv3】」

 空中から染み出した放電現象が結集し、ワイヤーフレームで形成された大柄な煌く獅子が出現した。 貴族の坊ちゃん青年の目の前で地に足をつけると、周囲に震動を振り撒いて吠え、稲妻が走って地を穿つ。 ズザザザザ───ッと様子を伺っていた生徒達が獅子の放つ威圧感に恐れをなし、貴族の坊ちゃん青年の周囲から居なくなった。 顔面蒼白でペタンと尻餅を付いた目標に威風堂々と歩み寄った雷獅子は、いただきまーすとでもいうような感じで頭に噛り付いた。

 バリバリバリバリッ!! と目に痛い輝きと雷撃音アンド、「ぎぃゃああああああああっ!?!」という悲鳴が二度三度と響き渡る。 遠巻きに見ていた生徒達と教員は隣人同士で抱き合い、真っ青になってぶるぶる震えつつ、恐怖の時間が通り過ぎるのを待つしかなかった。 こんなことになるんじゃないかと達観して見ていた王女殿下と侯爵令嬢を除いて。 マイマイ一行が戻る頃には雷精を送還し終え、黒焦げたボロボロの衣服を申し訳程度に纏った人物が倒れているだけになっていた。 生徒や教員は場所を移動し、校庭の反対側で授業を続けている。

「なにをやったんです、お母様?」
「喧嘩を売ってきたから買っただけ」

 事も無げに言い放ち、ルカとリットを抱きしめる母親の真偽を傍に居たマイやロンティに問う。 「概ねその表現で間違いありません」と返って来たので、だらだらと汗を流すマイマイ。 慌てて治癒魔法をかけて教員を呼び、治療室に連れて行った。 取り残されたケーナは「顔合わせも済んだからもうちょっと観光しようか?」と聞く。 二人が大きく頷いたのでマイとロンティに挨拶をしてこの場を離れようとした時だった。 学院正門から三人組の騎士が入って来るのにロンティが気付く。

「マイさん、騎士団が……」
「ええ、何かあったのかしら?」
「……騎士?」

 立ち上がって振り向いたケーナの前に巨躯の竜人騎士が近付いて来た。 マイを見つけると胸に手を当てて簡易礼をする。

「これは姫様、授業中に失礼致します」
「騎士団長、また何事かあったのですか?」
「いえ、本日はそうではなく……」

 体ごとケーナに向き直り、頭痛を押さえたポーズで告げた。

「ケーナ、お前に色々と聞きたい事がある」
「へっ!? 私に?」  




「千客万来ね~」
「何の事だ?」
「こっちのこと、こっちのこと」

 学院長の母親というだけでも注目があるのに、騎士団長と気負いもせず会話しているケーナにその場の視線は釘付けだ。 ゲームシステムに関しての話、と言うのでグラウンドの端まで移動する。 お供の騎士二人にも同席を遠慮してもらっている。

「……で?」
「あ、ああ。 んー、なんと言ったらいいか……。 悪魔を召喚するスキルってあるか?」
「あるよ」
「あるのかっ!?」
「私には使えないけど」
「……は? いやちょっと待てお前……、スキルマスターだろう?」
「スキルが全部あるからって何でもかんでも使える訳じゃないよ。 性別で使えないのとか、種族で使えないのとか、幾つかあるもん。 悪魔召喚が使えるのは人族か魔人族だけ」

 例えばドワーフしか使えない技能に【常用技能(パッシブスキル)掘削(あなほり)】がある。 他の種族は【ダンジョン作成】に専用の鉱夫を雇わねばならないが、これがあるドワーフは単独で坑道が掘れる。 ケーナは一応持っているが、無用の技能の内の一つだ。
 腕組みして考えていたシャイニングセイバーを見たケーナは、何かがあったんじゃないかと心配になってくる。

「ケーナの知る中で使える奴は?」
「スキルマスターで魔界に行った事のあるのだと……、三人くらいしか知らないなあ。 ウチのギルドは確実に魔界は行ってるけど、誰がどこまでスキル習得してるのまで把握はしてないから、分からない」

 魔界天界エリアは七百レベル帯から上位の者が行く、難易度の高いレベル上げ専用エリアだ。 ここを単独で切り抜けられるようになればカンストまで育てる事が出来る。
 なんとなく尋問じみてきたのに気付いたケーナはシャイニングセイバーを睨む。 部外秘な事件ではあるが、狙われていたのはケーナの身内なのでシャイニングセイバーは地下組織壊滅の概要を伝えた。

「ロクスが伺う視線を感じたとか言ってたけど、その人達だったのかも」
「街中に流れている情報だけで判断するなら、お前に手を出す奴なんかいねーよ」

 実際には手を出されているがその事実はロクシリウスの所で完全に止まっている。 ケーナの所には『伺う視線があった』としか聞かされてないので、構成員の大半を執事が無力化したなど知る由もなかった。

「最後にひとつ、ケーナの知る中で【悪魔召喚】を使いそうなのはいるか?」
「んん~? うーん……。 オプスくらいだと思うよ。 アイツの館、悪魔だらけだもん」
「分かった。 ありがとう、邪魔したな」

 片手を挙げて礼を言うとシャイニングセイバーはお供の騎士と合流し何事かを話し合うと、王女に頭を下げて学院を出て行った。 ちなみにシャイニングセイバーは、今聞いたオプスと以前聞いたオペケッテンシュルトハイマーを全く別の人物として認識していた。 オプスが略称な訳を知る暇が無かったからであるが。 狐につままれたような顔をしたケーナにルカとリットが近付いてその手を取る。

「どうかなさいましたか? ケーナ様」
「ううーん、悪魔が召喚されて地下組織が一個壊滅したんだって。 それがなんかオプスと関係があるんだそうよ」
「オペケッテンシュルトハイマー様がですか? 確かに彼の方であれば片手間にそんな事もしそうですね」

 決してその片棒を自分が担いでるとは言わないロクシリウスだった。


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