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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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30話 移住してみよう

   

「なによこれ……?」

 辺境の村に着き、遥か昔に馬車溜まりだった場所に建っているラックス工務店。
 その隣にまだ広々と広がる空き地に幌車ゴーレムを停めたケーナ。 彼女がラックス工務店の店先に掛かっている立て看板に首を捻った。 そこにはデカデカと流麗な文字で『堺屋・出張支店』と、書かれていたからだ。

「って言うかケイリック……。 マジでここに分店舗出したのね……。  ラックスとスーニャも押し切られたんだろうなー」

 ケイリックが無理難題を押し付けたんじゃなかろうかと、心配になるケーナだった。 前にケイリックに会ってから十日位しか経ってないと言うのに、素早い対応と有言実行に呆れるべきか。 とりあえずは落ち着いてから詳細を聞いてみようと考えた。



 先ずは家屋の建築からである。 村に着いたのが昼前なので、建ててしまえばそのまま使えるだろうと踏んでいた。 優秀なホームキーパーが二人も居る事だし。 目ざとい村人によってケーナの到着が伝えられたらしく、村長のコウケが数人引き連れて迎えに来ていた。

「おはようございますですな、ケーナ殿」
「ええ、おはようございます。 今日からお世話になります」

 ケーナのお辞儀に合わせ、左右に控えていたメイドと執事も深々と頭を下げた。 ついでにロクシリウスとロクシーヌ、ルカの紹介もしておく。 マレールと共にこの場に後からやって来たリットは、自分以外の同年代の少女に興味津々な視線を向けていた。

「しかしまあ子連れで来るとはねぇ。 他にも綺麗ドコロも二人に増えて……。 ケーナも良く分からない伝手があるんだねぇ」
「まあ私が家事が壊滅的に駄目ですから、ロクスとシィにその辺りは任せます」

 マレールの感心した言い方に、母親としてそれはどうなのかと、揶揄された気がしたケーナは肩を落とす。 執事とメイドはそんな主に頭を垂れた。

「家の事は我等にお任せを」
「ケーナ様はどうぞ独裁者(ていしゅかんぱく)のようにふんぞり返っていて下さいまし」
「どこの有閑マダムよそれ……?」







 ケーナ宅建設予定地で技能(スキル)と照らし合わせ、大体のスペースを確保出来ている事を確認する。 村長によると見える範囲内であれば、最大まで使っても構わないそうだ。 敷地面積だけで言えば、フェルスケイロで連日賑わう城が楽に建てられるだけのスペースはあった。

 今回ケーナ宅として建てるのは【建築:家屋】として数種類登録されている中でもLサイズのモノ。 八人程が住める、一スペースを二階部分か地下室かに設定出来るタイプだ。 面積としては庭を造っても余りあるが、村道を塞いでも困るので、ややスペース端ぎりぎりまで寄せる。 大き目の平屋として作るので、一部分は地下へ回す。

 使用するだけの大木輪切り丸太をドカドカドカンと周囲に出現させたケーナは、地精霊と風精霊を召喚し、早速取り掛かった。

 地下室を先に埋め込んでから、平屋部分が完成するまで僅か数分。 一般常識で言う非常識な光景を、既に見慣れた様子の村人達は拍手で迎えた。 その後、村の女性達が白い花弁の花を、玄関や窓口に飾って行く。 なんかのまじないかと疑問顔で見守るケーナに、コウケ村長は説明する。

「あれは新しく建てられた家を大地に馴染ませる為、我等に伝わる風習でしてな」
「はぁ、そんな事があるんですかー」
「特に邪魔でも無いと思いますが、枯れて無くなるまで放置しておいて下さいな」
「了解致しましたわ」

 既に家事担当の振り分けが済んでいたロクシーヌがそれに頷いた。 内回りを彼女が、外回りをロクシリウスが担当するらしい。 一々言動にトゲがある彼女を、外に出しっぱなしなのも村人との軋轢になりそうで心配だったケーナは、この配置に胸をなで下ろした。

 集まっていた村人一人一人に挨拶を済ませたケーナは、村人としての第一歩が無事に済んで安堵する。 家に入って各所をチェックし、ロクシーヌに乞われるまま家具を作り出す。 ベッドやタンス、テーブルや椅子などを纏めて作り、ロクシリウスが各部屋へ配置していった。
 間取りは材料の関係上ガラス窓を大きく取った食堂兼居間が南側の中央に。 そこの西側に水回りの台所や風呂場がある。 基本的に風呂は村の共営浴場を使うつもりだ。 居間の東側に二部屋あって、家屋中央東西に伸びる廊下を挟んだ北側に、残りの六部屋と(トイレ)となっていた。 一部屋のスペースは大体四畳半程で、各部屋ごとにベッドとタンスを備えている。 ロクシーヌは小さなテーブルと椅子をケーナに頼み、自分の部屋に置いていた。
 南側の二部屋をケーナとルカで使い、台所の反対側にロクシリウスが。 ルカの対面をロクシーヌが選んだ。 使わない部屋は今のところ物置にする予定だ。

 ロクシリウスの部屋の真下辺りに地下室はあり、出入り口は廊下にある。 ケーナは複数の棚を地下室に設置してから魔韻石で小さな照明を埋め込む。 倉庫から引き抜いてきた、魔水晶と言う精霊等を半永久的に宿しておけるアイテムを奥に置き、氷精霊を召喚してソレに住まわせた。 ひんやりした空気が漂ってきたのを見計らい、アイテムボックスから野菜や果物をごっそり出して、ロクシリウスと棚にならべていく。
 一通りの準備を終えて上に戻ると、早速湯を沸かしたロクシーヌがお茶を淹れていた。 ルカの部屋をさっさと片付けて、壁紙をどうするかとかを聞いていたらしい。 もっぱら喋っていたのはロクシーヌだけだが。

「ルカ」
「……は、い」
「一人で部屋に居たくなかったら、私の部屋でもシィの所でも遠慮なく来てもいいからね?」

 カップを持ったまま外を、窓そのものをぼんやり見ていたルカは、ケーナを見上げてゆっくりと頷いた。 ルカの頭をひと撫でしたケーナはお茶を飲み干すと立ち上がる。

「ちょっと色々回って来るわ。 こっちは宜しく、喧嘩はしたら駄目だからね?」
「お任せ下さいまし」
「では自分は薪を探して参ります」

 先に外へ出たロクシリウスが扉を開けたまま待ち、ケーナが外へ出てから礼をして見送った。 扉を閉めようとしてから一旦止め、慌ててケーナの後を追って来たルカが戸口を抜けてから閉める。 再び二人に頭を下げてから、村で林業を生業にしている者の所へと、木を伐採している場所を聞きに行く。

 家から飛び出して腰にしがみついたルカを撫でて落ち着かせたケーナは、義娘の手を繋いで宿屋に向かう。 この様子だと暫くは一人で行動するのが難しそうだが、リットが友人になってくれる事で心が少しでも癒せればと、思ったからだ。
 家を建てた後で室内を整えた事で時間を食ってしまい、昼を越えたと感じたケーナは、ルカを連れてマレールに挨拶をし、軽い食事を頼んだ。 水を持ってきたリットに改めてルカを紹介する。

「リットちゃん、今度私の義娘(かぞく)になったルカよ。 ルカ、こちらはここの宿屋の娘さんのリットちゃん。 仲良くしてあげてね?」
「ええと、リットです。 ルカちゃん、こんどいっしょにあそぼう」

 ケーナの服を掴んで隣に密着して座っていたルカは、満面の笑みを浮かべたリットを見、ニコニコしていたケーナを見上げ、椅子からゆっくり降りてリットと向き合うとペコリと頭を下げた。 

「……ルカ……です。 よろし、く……」

 背丈は似たようなものなので同年代に見えるが、ルカの方が二歳年上の筈だ。 家業のお陰がマレールの方針か、余程しっかり者に見えるリットの方が姉っぽい。 遊びに誘おうとするリットに、首を振ってケーナの傍を離れようとしないルカ。

「誘ってくれてありがとうね、リットちゃん。 ルカはもうちょっと落ち着くまで待ってね?」
「うん、わかった」

 素直に頷いたリットに代わって、マレールがスープとパンを持って来る。 ちまちまと食事をするルカを微笑ましく見ていたマレールは、ケーナに身を寄せて小声で聞く。

「随分大人しい子だね?」
「ちょっと惨事がありまして、唯一の生き残りなんですよ」
「そりゃなんとも世知辛い話だねえ……」

 顔をしかめるマレールは少し間をおくと、ケーナとの間に流れる暗い雰囲気を払拭するように、ワザと大きな声でケーナに言った。

「アンタ達の歓迎会をしようってことになったからね! ちゃんと今夜、ウチに来るんだよ!」
「……って、またですか!? 私がこの村に来る度に宴会してません?」
「いいんだよ。 どうせみんな何かと理由をつけて騒ぎたいだけなんだからさ。 大人しく宴会の出汁になるといいさね!」
「何ですか、その無茶苦茶な理由……」

 苦笑したケーナは咄嗟に思い出した事があったので、調理場に戻ろうとしたマレールを捕まえた。

「あー! 待って待ってマレールさん。 ちょっと味見してもらいたいモノがあるんですがー?」
「なんだい味見って?」
「お酒を作って売ろうと思うんですが、私だとお酒の味が良く分からないんですよ」
「それなら構わないけど。 つまりはケーナの奢りってことだね?」
「ええまあ。 一樽あれば……足りますよね?」

 前回の宴会で食堂いっぱいに座っていた村人達を思い出して思案するケーナ。 その背をポンポンと叩き、安心させるマレール。

「問題ないと思うがね。 足りなかったらウチの酒もあるさ」

 胸を叩いてその辺は気にすることじゃないとマレールが言ってくれたので、一樽だけで良いかとケーナは納得した。




 食事を終え、ルカと一旦家に戻り二人の家人に声を掛けた。

「……だそうなので、夕飯の準備は必要ないからね」
「はあ。 自分達二人分の賄いだけで済むと言う訳ですね?」
「…………」

 うんうんと頷くロクシーヌをロクシリウスは欺瞞の目で見つめる。

「何を疑心暗鬼してんのよ? 心配しなくてもアナタの分もきちんと作るわよ。 残飯(ねこまんま)で良いわよね?」
「ほー、気を使わなくて良いぞ。 お前の飯に手を付けるくらいなら川魚で事足りる」

 ギシリと二人の間の空気に緊張感が漂う。 ケーナの後ろでローブの端を握っていたルカは、頭を抱えた義母を見上げた後、両手をパタパタと振りながら両者の間に割って入った。 不意な闖入者に疑問顔になる二人。

「「御嬢様?」」
「ケンカ……、したら、ダメ……」

 普段俯きがちな少女から、強い意志の垣間見える目線を食らった執事&メイド(トムとジェリー)は、ばつの悪い表情で間合いを外す。 再戦の危機が去ったのを確認したルカは、感極まったケーナの抱擁を受けて、薄い胸に捕らえられた。

「えぅ?」
「感動した! ルカってばなんて頼もしいの。 今からアナタを調停大臣に任命するわ!」
「……ちょうて、い?」
「二人が喧嘩を始めたら止めて頂戴。 ルカには適任、ぴったりのお仕事ね!」

 既に親馬鹿の様相を呈している主人に冷や汗を垂らすロクシーヌとロクシリウス。 そんな二人にケーナから突き刺さる鋭い視線。 背筋を伸ばして命令に身構えるロク′S。

「二人も宴会には行くんだからね?」
「は? いえ、自分達は召使いでして、ケーナ様の歓待に混ざる訳には……」

『二人も行くんだからね?』

「「はいっ!」」

 首を横に振ったら最後、その場で人生が終わりそうな声色(きょうふ)に、ロクシーヌとロクシリウスは強張った顔で即答した。 「よろしい」と納得したケーナがルカの手を引いて、再び村回りに出る後ろ姿を見送った二人は、嘆息してよろよろと座り込んだ。

「「はああぁぁあぁ~……」」
「こ、怖かった……」
「あの親にしてと言うべきか……。 将来が末恐ろしい御嬢様だな」
「だいたい、ロクスがねぇ」
「先に妙なことを口にしたのはシィだろう……」

 再び顔を突き合わせようとした二人は、ぴったり閉まっている玄関口から二対の視線が覗いている気がして、同時に体を強張らせた。

「……ねぇロクス」
「……なんだ? シィ」
「自分達、今まで仲がとても悪かった気がするの。 今この場から態度を少し改めようと思うわ。 実に不本意だけど」
「奇遇だな、自分も同意見だ。 とてつもなく不本意だが」

「…………」
「…………」

 真剣な表情で頷いた二人は、何も無かったようにそれぞれの仕事に戻る。 その際、絶対に玄関口に目を向けようとはしなかった事をここに記しておく。





 揺れる麦穂を見ながら畑仕事をしている村人に挨拶をし、ロットルと出会って猟について話をした。 そんなに広くもないが、村人達が暖かい声を掛けてくれるので、ゆっくり回りきる頃には夕方となっていた。
 ルカはと言うと多少の警戒心もほぐれたらしく、ケーナに寄り添うくらいに引っ付いていたのが、手を繋げるくらいまでになった。 ケーナの頬も緩みっ放しである。

 最後に彼女らが足を運んだのは、『堺屋・出張支店』と看板が掲げられているラックス工務店だ。 ここの主人であるラックスと弟子のドダイは納品の為出掛けていて、妻のスーニャと息子のラテムが残っていた。

「こんにちはケーナさん。 これからは隣人同士よろしくお願いしますね。 お嬢さんも」
「こちらこそ宜しく御願いしますねスーニャさん、ラテム君も。 ほら、ルカもご挨拶は?」

 ケーナに促されたルカはおずおずと前に出ると、なんとか分かる程度に頭を下げた。 ケーナは失礼かなとも思ったが、二人は微笑んで返してくれた。

「あと、すみません。 ケイリックが何か無茶を言ったみたいで」
「ああいえ、特に私達に不満が有るわけではないので。 むしろ、『堺屋』の看板を預かっている所が畏れ多いと言いますか……」

 ケーナが居るのが丁度良かったらしく、ケイリックの主旨を説明された。 流通に回せそうなモノが有れば、材料の調達を請け負うので遠慮なくどっさり作ってくれて構わないだとか。

「どっさりって……。 何を作らせるつもりなんだろう、ケイリックってば」
「それにしても、ケーナさんがまさか大旦那様の祖母だったなんて……、びっくりしましたわ」
「ああ、偉いのはケイリックなんで、私は今までの接し方で構わないですよ」

 苦笑して手を振るケーナ。 スーニャもケイリックに接し方については「多分気にしないから」と言われていた。 その通りの反応なケーナに好感を得て、今後も友人として付き合っていけると思った。

「あー、じゃあちょっとサンプル品だけ出すんで、あっちで売れるかどうかだけ聞いて貰えます?」

 ぶっちゃけケーナが【転移】で飛んで行けばソレで済むが、ルカの事もあって早々村から離れられないので、商品登用は堺屋に丸投げにした。 麻袋に詰められた一袋四十キログラムはある麦を四袋出して、【技術技能(クラフトスキル):ウイスキー作成】と【ビール作成】を実行する。
 袋諸共火炎水に消えた麦は、九十リットル入りの洋樽となって即完成した。 それぞれ一つずつ並ぶウイスキー樽とビール樽を見たケーナは、頭を抱えた。

「中身は兎も角として。 樽はどこから出てたのよっ!?」
『麻袋ト籾殻(もみがら)カラナノデハ?』
「リアルで目の前にすると実に納得いかない気がするなぁ……」

 ぶつぶつと謎の会話をするケーナに気を使っていたスーニャは、「とりあえずこっち」と差し出されたウイスキー樽から少量をコップに移し、味見をする。 ビール樽はこのまま宴会へ持っていくつもりなので、そちらで御披露目をするつもりだ。

 大人達が会話している中、ルカはラテムから木切れと木の実で作られたヤジロベーを貰っていた。 ケーナから距離を取らない位置で、あちこちに乗せては喜んでいる。 それに気を良くしたラテムも今まで作った造形物、木彫りの動物や転がして遊べる馬車などを引っ張り出し、解説を交えながらルカに見せていた。

 お酒の方はと言うと、スーニャの感想は「なめらかで味わった事のない」と好評だった。

(確かウィスキーって水か氷入れるものだったような?)

 ……と、その昔父親が飲んでいたのを、かすかに思い出したケーナだが。 相手は酒豪で知られるドワーフの嫁である。 特に割るものも必要なく平然としていた。





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