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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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29話 家族を増やしましょう


 まずは宿屋を決めてタライと湯を借り、ルカを綺麗にして身なりを整える。 ロクシリウスと一緒に戸惑うルカを洗って髪を梳き、【服作成】で服を作った。 町娘達が着るような素朴な服、飾りの殆ど無いエプロンドレスっぽいものを着せただけで見違えるようだ。 
 ルカがロクシリウスに着せ替えられている中、ケーナは沈黙していたキーを起こす。

「キー、ちょっと幾つか技能をピックアップしてちょうだい」
『アイ、サー』
「得ただけで殆ど使わなかった造形物作成技能と道具作成。 あと長期保存に耐えられそうな食べ物か飲み物のヤツ」
『生活費ヲ補填出来ソウナ売買ニ使ウノデスネ? 了解致シマシタ』

 自分の姿を鏡で確認した着せ替えられた当人は、見た目だけなら良家の子女の容姿にポカンと口を開けた。

「良くお似合いですよ、ルカお嬢様」
「…………お、じょうさま? わたし、ちがう……」
「いいえ、御主人様の子女となったのです。 お嬢様で合っていますよ」

「まずはスカルゴ達に紹介しておかないとね? 疲れてるかもしれないけど。 ルカ、少し付き合ってね」

 義娘の手を引いて人通りの多いメインストリートに足を運んだケーナは、ルカと視線を合わせて呟いた。 ロクシリウスは連れて歩くと誤解されるおそれがあるので、宿屋で留守番をさせている。 ルカはこれだけ大量種族の行き交いが珍しいのか、さっきから首をひっきりなしに左右へ振って目線が通らない端から端まで見渡していた。


 ケーナはルカを連れて教会へ向かう。
 丁度会議から戻って来たスカルゴは、子連れのケーナを見るなり全て悟った顔で頷いた。

「何よいきなり人の顔を見て?」
「いえ、流石は我等の母上殿。 その娘子が新たなる義妹(かぞく)、と言う事で宜しいのですね?」

 元々通商ギルドから回っていたエクシズらの報告により、生き残り一人とは伝えられてはいた。 それが子供であることも、その場にケーナが居たことも把握済みであった為に予測出来る出会いであった。
 『煌めき』を纏ったスカルゴは『星が飛ぶ』ウインクをルカに向け大仰に手を広げ、博愛のポーズを取った。 スポットライト下のように光が一点化して照らされる大司祭。

「改めて歓迎しよう! 我等の家族へようこそお嬢さん!」

 ふふんと勝ち誇る彼の視線の先、最上級に会心だという大司祭の歓待を受けたルカは、心底怯えて半泣きでケーナの背後に隠れていた。

「ス カ ル ゴ ?」

 ゴゴゴゴと擬音を背負い、射抜くかの如く殺気立ったケーナの鋭い瞳に射竦められたスカルゴは、真っ青になってエフェクトを収めて慌てて土下座した。 やれやれと嘆息して威圧を解いたケーナはルカを宥め、改めて息子を紹介する。

「じゃ、ルカ。 コレが私の息子でスカルゴって言うのよ。 偉い地位にいるのにエフェクトを多用化する事でしか印象が残らない可哀想な変態、と思えばいいわ」
「は、……はーはーうえぇぇ~」

 ルカに最悪な印象を植え付けたという現状から、毒舌でのみの紹介に滂沱の涙を流して崩れ落ちるスカルゴ。 泣き顔を拭われ、撫でられて落ち着いたルカはおずおずとケーナの背後からペコリと頭を下げる。 母親の威圧下から開放されたスカルゴはしゃがんで目を合わせると、にっこり笑って「よろしく」と挨拶を交わした。

「最初からそれだけ言えばいいのよ」
「しかし母上殿、これこそが私であるという証なのですよ」
「捨ててしまえ、そんなアイデンティティ」




「それはそれとして報告は聞きましたよ。 通商ギルドからの報告に間違いは?」
「エクシズ達がどういった報告したんだか知らないけど、そんな感じよ」

 ルカが居るので村の話は出さず、それだけ告げておく。
 ルカは部屋のソファに座らずにケーナの服を掴み、落ち着きのない様子だ。 政治に関わる話をしてもケーナの利益にはならないので、顔合わせも済んだから次の用事に移る。

「じゃスカルゴ。 私は辺境の村に住むから、何かあったらそっちに連絡を頂戴」
「マイマイから聞いていましたが本当ですか……。 なんでしたら私が分神殿をそちらに設立しましょう!」
「来なくていーから」

 嬉々とした提案をバッサリと一刀両断され、意気消沈するスカルゴ。
 肩を叩いて「またね」と告げたケーナは教会を後にした。

 その足でカータツの工房へ向かい、予め注文してあった材木を受け取る。 その場に山と積まれた大量の加工前木材が、一瞬にして跡形も無く消える現象に、工房の従業員達は顎を落としていた。

「よしよし、これだけあれば家の一軒や二軒、申し分ないね。 ありがとう、カータツ」
「いや、いいけどよ。 その娘っ子か、俺達の妹かってえのは?」
「また随分耳が早い……、あー【以心伝心】か」

 しゃがみ込んで目を合わせ、片手を上げ「よろしくな」と簡単な挨拶を交わすカータツに、エクシズに会った時以来の笑顔を浮かべて頭を下げるルカ。

「うんうん、流石はカータツ。スカルゴと違って人当たりは良好よね。 年の功ってやつかな? ルカ、これが私の末の息子でカータツっていうのよ。 貴女のお兄さんね」
「お袋の方がずっと年上じゃねぇか……。 姉貴には紹介しねーのかよ?」
「マイマイの(がくいん)は唯でさえ人が多いからね、この前伝える事は伝えたし良いかなって」

 腕組みして思案したカータツは不意に苦笑いを零して「姉貴泣いてるが?」と告げた。 【以心伝心】で即交信したらしい。

「仕事サボって来ないように言っときなさいよ」
「姉貴も災難だなあ」






 カータツに別れを告げたケーナは、疲れて舟を漕ぎ始めたルカを宿屋で待機していたロクシリウスに預け、馬車を扱っている商店に向かった。 村までの移動用に使う為である。
 ついでに物資を運び込んで、金銭面での補填に当てられないか色々と試してみようと考えていた。 候補に上がっていて有力な技能は、NPC用に作るレベルを持たない者でも装備できる装飾品。 ウィスキー&ビール作成技能くらいだろう。 後は既に実績がある仏像作成。

『以上デス』
「ご苦労様。 麦を大量購入してみる必要があるわね、あとは宝石細工やらかなあ?」

 本来の製造方法では麦を発芽、その麦芽に含まれる酵素を利用してデンプンを糖化させ、これを濾過して麦汁を得たものを酵母によって発酵させる、となっているが。 技能(スキル)に掛かればややこしい工程など存在しない。 材料は水と麦があればどちらも大量生産が可能だ。 そうと決めたケーナは市場に向かい、大量の麦を買い込んで市場関係者の度肝を抜いていた。
 宝石の方は購入する方法はせずに、地中から採掘してくる方向で考えていた。 【召喚獣】の中にジュエルワームと言う全長六十メートルの巨躯を持つ甲殻ミミズがいて、地中の宝石を含んだ鉱物を巣に溜める習性を持っている。 その辺の山脈にでも放てば、適当に掘り出してくれるだろう。




 その辺はおいおい考えるとして、根本的な問題は『家に住む』上で必要不可欠な家事に問題があった。
 これは桂菜だった頃に全く接点の無い事柄で、恩恵を受けてはいても実行に移した事の無い未知の領域である。 根本的にノウハウすら無いのでマレールに教えを請おうとしても、基本的な知識も持たないので、文字通り一から教わる羽目になるだろう。
 桂菜は元々病弱だった。 幼少時から小学校に至るまで母親と一緒に台所に立つ、という良くある光景も経験する事はなかった。 中学に上がる前には事故に遭い、病院のベットから動けぬ様に成り果てた。 テレビで見た事はあっても実際に行動に移すというのは、未経験のほぼ素人である。 もしかしたらルカの方が詳しいのかもしれない。



 これについて悩みに悩んだ末、ハウスキーパーの専門家に相談してみた。
 主から難しい顔で家事に付いて相談を受けたロクシリウスは、絨毯の敷かれた馬車の荷台でとんでもない事を提案した。

 すべての諸準備を終え、辺境の村まで出発した初日の事である。
 【魔法:付加ゴーレム】で御者台に木彫りの馬首が生えた八人くらいはゆったりと乗れる馬車は、馬に曳かれずに幌車だけで自走していた。 すれ違う旅の者や、冒険者達が目を丸くして見送る。 魔韻石を埋め込み、術者が近くにいる事で半永久的な自律人形(ゴーレム)となるこの魔法。 ゲーム時代には車輪や足の生えた家や彫刻、酷いモノになると城や砦がフィールドを闊歩していた。 当時を思い起こせば、幌車が自律走行しているなど些細な事だと言うのがケーナの持論だ。 後日フェルスケイロで噂になってしまうなど知る由も無いが。

 それは兎も角、ロクシリウスは世界の根幹に関わる(かもしれない)事情をケーナに吐露した。

「それでしたら自分がケーナ様の家の一切を取り仕切りましょうか?」
「はあぁあぁ?」

 胡坐を組んでルカに膝枕をしていたケーナは静かに、それでいて寝耳に水な発言にすっとんきょうな声をあげた。 正確に言えばロクシリウスのお勤め期間が直ぐそこに迫っているからだ。 給金を渡して引っ込んだ彼を呼び出すには、再びハンドベルを鳴らさなければならない。 少なくとも当初はルカの為に連続召喚も考えていた。 二千年位は彼を保てるだけの資金はあるだけに。 
 しかし、ゲーム中のお金はなるべくとっておいて、この世界で自給自足すると決めていた彼女には取る予定の無い手段であった。 その為に村に居ながら、時々やってくるエーリネ商隊と取引の出来る金策を考えていたからで。 

「いえ、それに付いては推測でしか無いのですが。 帰還出来るかどうかは、自分も定かではありませんから」
「はぁ? ナニソレ……?」
「実のところ、この場に来る前の記憶があやふやなのです。 前回、御主人様にお会いした時より後日、自分が待機していた場所には何もなくなってしまっているので。 キチンと戻れるかは確証が持てません」
「…………ああ、なるほど。 運営が機能しなくなっちゃったから、管理下にあったシステムもうやむやになっていると思っていいのかな? もしかして幽霊船もクエストイベントの内だから、条件関係無しで出現してきたのかなあ?」

 それだとクエストイベントモンスターが全部、その辺に沸いて出ても可笑しくは無い。 そこに思い至ったので、ケーナは頭を振ってその考えを追いやった。 とりあえずロクシリウスの問題は帰還時期に例の館が出現するか否かだ。 そこまで待ってみてから結論を出してもいい。

「あとついでで宜しいのですが……」
「ついでに、なに?」
「ロクシーヌも呼んで頂ければ、と。 ルカ御嬢様には女性の付き添いが居たほうが宜しいでしょう。 まあ、(はなは)だ不本意ではありますが……」
「シィもかー。 それはそれで随分とにぎやかになりそうだねぇ」

 ゲーム中の機能NPC状態だった時の、オプスと起こした騒動を思い出して苦笑した。 むしろ賑やかと言うか騒々しい日々になりそうだと、予感がする。 あの時もプレイヤーを大多数巻き込んでの大騒動に発展したからだ。 賑やかで済めばいいのだが……。






 そんなこんなで滞在限界の日数を過ぎても帰還用の館が出現しなかったので、当然の如くロクシリウスの希望の通りになった。 その結果を受けて、もう一人の召喚メイドもこの場に喚ぶ事になる。 日中の街道に一時馬車を停め、周辺に人の通りがないのを確認した後にケーナが赤いハンドベルを振った。

 『チリーン』と静かに澄んだ音が辺りに響き、ケーナ達の眼前に光が瞬いて白い巨大な魔法陣が開く。 白い燐光がとめどなく溢れ、魔法陣の内側から建造物が浮上した。 赤い屋根に白い壁、黄色や白、青などの花畑のこじんまりとした庭付き一戸建て。

 まさかそんなものが下からせり上がってくるとは思わなかったルカは、唖然として赤い屋根のお家を凝視していた。 内側から溢れる光に押し退けられ、扉がひとりでに開く。 中からは茶色い猫耳に、オレンジチェックのメイド服を着用した十代後半の女性が姿を現した。 ロクシリウスと同じく猫人族(ワーキャット)のその者は、ミニスカートを摘んで恭しくケーナに(こうべ)を垂れた。

「お久し振りに御座います、ケーナ様。 ロクシーヌ、御前に参上致しました」
「久し振り、シィ。 何かおかしなところとかは無い?」
「はい? すこぶる健康で御座いますが。 ロクスが居るのに自分を呼んだと言うことは、このボケナスが何か破廉恥(エロティック)な事を致しましたか?」

 後ろで静かに控えていたロクシリウスのこめかみに、ビシリと怒りのマークが浮かぶ。 しかし何かを言い返すことはせず、無言を貫くだけだ。 一番最初に召喚した時と同じ様な展開に、ケーナの口元は引きつった。
 きょとんと会話を聞いていた義娘を紹介し、ルカの世話を重点的に頼む。

「分かりました。 不肖ロクシーヌ、ルカ様を何処に出しても恥ずかしく無いような淑女に育て上げて見せましょう」
「いや別に淑女とかはいいから。 この子がこの子のままでいてくれればそれで」

 腕まくりをして宣言するロクシーヌに、ケーナは首を振って自重を促した。 両親を失った直後なので、しばらくはしたいようにさせるのがいいと考えていた。 閉じ篭らせたくはないので、その辺のフォローをロクシーヌに任せる気で。

「全くだ。 ロクシーヌも少しは自重しろ。 自分達はケーナ様の小間使いなのだから」
「ロクスには聞いて無いわ。 貴方(ボケ)教育係(みほん)にしたんじゃ御嬢様がどんな奔放(アバズレ)に育つか判らないものね」

 ビシビシィッ! と、再びロクシリウスのこめかみに怒りマークが複数浮かぶ。 同族嫌悪と言うべきか、同時に呼ぶと仲違いが激しいのだ、この二人は。 嫌々ながら喚ぶ事を提案した彼も、予想内だったのか耐えてはいた。 ニヤリと哂って続けようとしたロクシーヌに、ケーナは待ったを掛ける。

「はい、そこまでー。 二人ともこれから家族になるんだから、喧嘩はご法度だよ? 街路樹を切り倒したり、家を倒壊させたり、人を投げたらダメだからね。 ルカの教育に悪そうな行為は慎んでね」
「はぁい。 分かりましたわ、ケーナ様」
「……了解いたしました、主」

 しぶしぶ了解する二人にケーナは苦笑した。 ゲーム中はとてもNPCに思えない言動が多かったので、今後の行動が読めないからだ。 なにせロクシーヌがロクシリウスだけでなく、PCの男性全般を罵倒する。 ロクシリウスは口で返すのではなく、遠回りに嫌がらせを敢行する、但しケーナが言ったように実力行使で。 二人を街中で使うことは周囲に多大な被害を及ぼすので、最初に一度同時に呼び出して以来懲りたケーナの経験談である。

 一応強めに釘を刺しておく。

「これから住む村は私にとって大恩ある所なので、村の人や共有財産に手を出したら怒るから!」
「「は、はいっ!?」」

 瞳に剣呑な光を持ってして力説したケーナに二人は震え上がった。 物騒なオーラを見て取れないルカは、ケーナの凛々しい姿にパチパチと拍手を飛ばす。 義娘の賛辞にふふんと胸を張った母親はふんぞり返る。


 全員乗った荷台からの騒がしい声を受けた幌車ゴーレムは、自分の存在意義を果たす為、村へ向けて再び走り出した。



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