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リアデイルの大地にて 作者:Ceez
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22話 日常を謳歌しよう

   



 感傷も終わった所でケーナ達は互いに名簿登録を済ませた。
 名前さえ判明していれば何処へ行っても互いに連絡が付く機能で、運営のバックアップの無いこの世界では果たしてどのくらいの距離までカバー出来るのか分からないが、一人ではないと思えるだけマシだと考えた。

「そーいやー気になっていたんだが、ケーナの息子とかってなんだあれ?」
「こっち来て二ヶ月だとか言ってたな。 スカルゴ殿とかカータツ殿とかどうなってんだ?」
「何ってあの子達はアレよ、里子システム。 マイマイに至っては二百年の間に子供作るわ孫は作るわ……。 お陰でこの年でお婆様やら曾お婆様やら呼ばれる始末よ。 もう慣れたけど……」
「あの特殊技能はそれでかよ……」
「うん、スカルゴは何だか知らないけど、【薔薇は美しく散る(オスカル)】を使う事に付いては天性の才能があるわ」
「そんなもん覚えさせるなよ」

 肩をすくめてウンザリした表情で説明するケーナに、まじまじと見ていたコーラルがポンっと手を叩く。 シャインニングセイバーも竜人の表情は見分けにくいがタラリと汗を流した。

「俺の里子は人が二人だ。 関係も弟子とか、そんな感じだった」
「……やべえ、俺確か同族で弟とかエルフで親友とか作った覚えがあるぞ」
「シャイニングセイバーはエルフが生き残っていそう。 コーラルの方は探せばコーラル流とか剣術道場でもありそうだね?」
「うわ、超嫌過ぎる流派……」

 頭を抱えて唸るコーラル。 他人事ではないシャイニングセイバーも当の本人に会ったらどうしようかと悩み始めた。 ケーナは自分と同じ様に多いに慌てるが良いと、傍観の体勢に入る。 のほほんと見物体勢に入ったケーナにそーっとコーラルが近付く。

「なあ、ケーナ、スキルが欲しいんだが……」
「参考までに聞くんだけど、何の技能?」
「……回復魔法」
「持ってねーのかよっ!?」

 真っ先にシャイニングセイバーが「馬鹿だコイツ」と言った感情を持って突っ込んだ。 回復魔法であればオンラインオフラインともごく簡単なイベントで手に入り、時間も一時間とすら掛からない。 持ってないプレイヤーの方が珍しいくらいだ。 図らずとも此処にその珍者が居た事に二人とも呆れ顔になった。

「じゃあ、試練を受けてください。 欲しいからと言う人に、ハイそーですか、なんてあげていたらスキルマスターとしての名折れですから」
「うわ、ケチくせえ。 いーじゃねーか、もうゲームじゃねーんだろここは」
「いいじゃない。 スキルなんか無くても、その辺の冒険者よりは遥かに上なんだし」
「ちっ、プレイヤーの(よしみ)でくれよ」

 嫌そうな顔で駄々をこねるコーラル。 シャイニングセイバーは少し考え込むとケーナの塔の所在を聞いた。

「んーと、東の外殻通商路の国境よりやや南寄りの森の中、銀色の塔。 マスター仲間からは一番ぬるーい試練ってよく言われたわ」

 少なくともオプスの塔の超絶隅から隅まで罠地獄、よりは遙かにマシと言うのは自負できる。 挑戦したプレイヤーから言わせて貰うならば、『百八の死に方を体験出来る所』だ。 あれが十三塔の中で一番タチが悪いと仲間内では悪評であった。 例を挙げると、入り口脇に『ここのダンジョンで死んだ場合の云々の同意書』が置いてあり、近付いて覗き込むと上からギロチンが落ちて来る罠から始まる。 大半のプレイヤーがコレに掛かって最初からリタイアする所から、別名”悪意と殺意の館”と呼ばれていた。

「遠いなあ……」

 ボヤくコーラルと迂闊に王都を離れられないシャイニングセイバーに、背後の闘技場を指差す。

「ちなみにコレが京太郎さんが管轄してた塔」
「なにーぃっ!?」
「こ、こんな近くにあったのかーっ!」
「試練の内容は知らないけど、一応起動はするはず。 本人が居ないけど私が担当してるから大丈夫」

 ケーナは二人に守護者の塔が現状、起動魔力不足で停止している事。 全部の場所を把握してないので探している事を告げ、心当たりがあったり見付けたりしたら教えて欲しいと頼んだ。
 それには何かを企んだ顔でニヤついたコーラルが食い付いた。

「よし、じゃあケーナ、見付けたらスキルと交換してくれ!」
「そう来るかー、んーと……。 そうだねー、まあいいけど」
「ヨッシャー!」
「子供かお前は……」

 ガッツポーズのままぴょんぴょん飛び跳ねるコーラルに呆れ顔のシャイニングセイバー。 地図を引っ張り出したコーラルはフェルスケイロとヘルシュペルの国境付近、海岸沿いを指差した。

「ここの海岸線に村が在るんだけどな。 素潜りで漁をしていた村人が、海中に宮殿を見たって言ってたんだ。 コレなら対価として充分だろう!」
「海中って言うとリオテークさんの所かー」

 難しい顔で考え込んだケーナは【スクロール作成】で【単体回復魔法:デュール】を作り出し、コーラルへ渡した。 もう少し言い訳をされると思っていた彼は少々拍子抜けだ。 シャイニングセイバーは浮かない顔のケーナにもしやと思って尋ねてみた。

「もしかして泳げないのか?」
「うーん、うん。 実はそう、泳いだ事ってリアルでも無いんだよねー」
「なんだよ、いい年して泳げないのかよー」
「おいコーラル、あんまりプライベートを突っつくな」

 コーラルを小突いて黙らせるシャイニングセイバー。 二人が喧嘩になりかけたのを炎獣の弓(ガンファイア)で脅して止める。

「私の事で二人が喧嘩してどうするんですか。 聞き訳が悪いとぶっ放しますよ」
「お、よし。 回復魔法も覚えたんでドンと来いだ!」

 何時の間にかスクロールを使用し終え、妙なテンションではしゃいでる感のあるコーラルにケーナは頭を抱えた。 シャイニングセイバーは腕組みして溜息を吐くと、何も知らないコーラルに忠告を入れた。

「お前、あんなモンで撃たれたら怪我で済むか分からんぞ」
「え? マジかよ」

 炎獣の弓(ガンファイア)はケーナの左腕に装備している銀弓の篭手と同じ仕組みの弓で、MPを炎獣に変えて撃ち出す武器だ。 ホーミングの如く空中を駆けて行くので、命中直前に【転移】でもしない限り絶対当たる。 EX武器だけに威力も半端無いので、パーティ戦時のケーナは主にこれを使っていた。 前衛が強力なのでむしろやる事が少なかった。

「済まん」
「いや、ただの脅しだけだったから、別に謝らなくても……」

 むしろケーナの心配事は泳ぐ事よりも塔の守護者にある。 スキルマスターNO.6のリオテークは女性プレイヤーでありながら、可愛い物や綺麗な物とは無縁でもっぱらキモかわいいモノや、グロテスクなモノを集めるのが趣味であった。 召喚魔法で主に使うものはムカデやサソリ等、ドラゴンよりは軟体系や甲殻系を好む性格であっただけに、どれだけ気色悪いモノが待っているのかと今から憂鬱になるケーナだった。




「ああ、じゃあ俺はこれで仕事に戻る。 あまり長い事離れてられなくてな。 用があったら城へ来てくれ」
「んじゃ、俺も仲間のところへ戻るかな。 じゃ、ケーナ。 またギルドでなー」
「いや、城へ来いって……。 行ったら入れてくれるのかなあ?」

 太陽が随分と傾き夕暮れが近付く頃になって、空を見上げて大体の時間を確認したシャイニングセイバーは背の剣を鳴らしてケーナにとりあえず解散の意を示した。 それに追従する様にコーラルも其処を離れる。 頷いて二人に小さく手を振ったケーナは、仲良く肩を並べて歩いて行くコーラル達を見て羨ましくなった。

「いいなあ、あれ……」


 故に周囲に警戒する注意力が散漫になっていた。 彼女のパートナーの『背後カラ……』と言う脳内に響いた警告音に、ハッとなったケーナは左手に何を持っていたのかも忘れて、勢い良く振り抜いた。

 ゴッ!! という打撃音と「はばぴゅっ!?」と情け無い悲鳴を上げて吹っ飛んだ蒼い何か。 

「って、え? ……あ、あれ?」

 左手にある炎獣の弓(ガンファイア)は弓というよりは形状はアーチェリーに似た短弓で、持ち手のカバーに獅子の彫り意匠がある。 その獣の眼差しを轟々と燃え上がらせた瞳が、持ち主の視線と同じく振り向いた先を睥睨した。 ケーナの視線の先には地面にくの字になって横たわり、泡を吹くスカルゴが倒れていた。 彼との身長差からするとドテッ腹に容赦なく突き刺さったと思われる、弓が。

「あっちゃ~。 だ、大丈夫スカルゴ?」
『少シ遅カッタデスネ……』

 慌てて回復魔法を施してから軽く揺すってみる。 
 その途端、コメツキバッタの如く跳ね起きたスカルゴはケーナの肩をがっしりと掴んだ。 意味が分からずに目を白黒させている母親に対して捲くし立て始める、先ずは『嫉妬のオーラ』をたぎらせて。

「御無事ですか! 母上殿っ!?」
「……は?」
「母上殿が男と密会していると見聞きし、このスカルゴ全てを投げ打って救出に来た所存です!」

 『どどーんと日本画風の荒波が砕けて、何時の間にか絵に加わっていた帆船が転覆した』背景を背負ったスカルゴは両手を力強く握り締めた。

「いや、ちょっと、す、スカルゴ?」
「一体あの男ドモに何を脅迫されていたのです!? しかも! ああ、しかも! 片方が騎士団長だったとはっ!?」

 激しい誤解を招いている気がしたケーナは息子を宥めようとした……が、
 『暗闇の中で稲光が激しく瞬き、真っ黒な凶鳥が飛び交う中』目を赤く光らせたスカルゴが雄々しく立ち上がる。 暴走したコレに口で何か言っても無駄だと悟ったケーナは、左手にある弓を握り締めた。

「おのれシャイニングセイバーッ! 女性にはそっけない振りをして我等が母上殿に手を出そうとは! 騎士道精神が聞いて呆れ……ッ…………、は、母上殿?」
「……何かしら?」
「そ、その、振り上げた左手の弓は、どうするので……しょうか?」 
「上げたら下ろすに決まってるじゃないの」
「落下地点に私が居るような気がするのですが……」
「あら奇遇ね、むしろ静かになって丁度良いんじゃないの?」
「……………………」
「…………………………」
「申し訳ありませんでした」
「分かればよろしい」

 素直に頭を下げたスカルゴになんとなくホッとした気分なケーナは、この掛け合いも何回目かなと思いながらつい頬が緩む。 怒られて笑い掛けられた側は意味が分からず首を傾げた。

「なにか有りましたか、母上殿?」
「ううん、別になんでもない」

 法衣の裾を引かれ姿勢を下げたら頭を撫でられて、訳が分からずにクエスチョンマークが浮くスカルゴ。 再会してからここまで機嫌がいい母親は珍しいので、先日みたいにド突かれる心配が無くなって安堵した。

「シャイニングセイバー云々って、何時から見ていたのよ? まさか話を聞いていたんじゃないでしょうねぇ?」

 一変して声に怖いモノが混じり始めたケーナに、首を振って完全否定する。 城から戻る途中で楽しそうな母親を見付けて、様子が珍しかった為、つい後を付けた事を詫びた。
 騎士団長と冒険者の二名と談笑する母親が何故か羨ましくなり、焦燥感に駆られて二人が居なくなって声を掛けた。 内心『貴様なんかに母上殿を渡すものかーっ!』と果てしない誤解をしているのに気がつかないまま、心の中のブラックリストにシャイニングセイバーを要注意人物に指定するスカルゴであった。

 姿隠しを施していた筈が、最初から強く視認していたスカルゴには殆ど無駄らしかったので、問題点として留意しておく事にした。 精霊に礼を言って召喚を解除する。



「さてと、宿屋帰ってのんびりしようっと……」

 うーん、と伸びをしたケーナは、何だか使命感に燃えているスカルゴの様子におかしく思いつつ法衣を引いた。

「は! どう致しましたか母上殿?」
「私、宿屋に戻るけど、貴方もちゃんと仕事しなさいよ?」
「いえ、神殿の方は怪我人の処置が一段落しましたので、一休みしようと思っていたのです。 良い葉が手に入りましたから、母上殿も御一緒にお茶でもどうですか?」

 息子の背後に尻尾を振ったワンコの幻影が見えた気がしたケーナだったが、特に急いでする事もないので素直に了承した。 小躍りしそうな程喜ぶ息子の表情に、「マイちゃんも前途多難だなあ」と原因が自分だけに呆れ顔のケーナだった。








「なあに? まだ難しい顔してるの?」

 学院の私室でスクロールを前に考え込んでいたロプスは、ノックもなしで入ってきたマイマイに何百回目か分からない溜息を付いた。 どうも親しい繋がりを持つと誰にでも遠慮が無くなる性質(たち)らしい、この妻は。

「『読み込めたら』、ケーナ殿はそう言っていたが如何にも意味が掴めん」

 スクロールの文章に書かれている事の解読は簡単で、内容はレシピ材料に付いてである。 試しに材料を揃えてはみたが、それで何が起こる訳でも無し、途方に暮れているのが彼の現状だった。
 一方、マイマイには説明しても説明しきれ無い実際の問題点がよく分かっていた。 その問題は母親のケーナや彼女の兄弟達には常識的に意味が通じるが、ロプス等の今の世の者達には理解出来ない所にある。 

「えーっとね、先ずはソレを自分の物として認識。 それから使う事が出来れば簡単なんだけどねえ……」
「前からよく聞くが、その説明はイマイチ意味が通らないぞ。 これはケーナ殿から頂いたから俺の物。 スクロールを使う(・・)ってのはどういった意味を持つ?」
「ああああああ、もうっ! どーやって説明したらいーのよっ!?」

 頭を抱えて叫び七転八倒するマイマイの奇行に、まあいつもの事かと自分の思考に没頭するロプス。 これはこれで吊り合いが取れている夫婦と言えるのだろう。

 原因を明確にするならばアイテムボックスの有無にあった。 ケーナ達プレイヤー感覚で言うならば、彼女達が手に入れた物はアイテムボックスの中に有る物(・・・)として表示される。 そこから『使う』と選択すれば、手に取らなくてもポーションの類が効果を及ぼして用は済む。 それは別アカウントとなっていたマイマイ達にも適用されていた。 しかし、ロプス等のゲームに係わり合いの無い者達にとっては、そのアイテムボックスの概念そのものが理解の外にある為に、スクロールを手に入れて使う(・・・・・・・)という感覚自体が常識の範疇外となっていた。

 とどのつまりは使えないのである。 しかもこのスキルマスターの作るスクロールは、イベントで手に入るスキルスクロールと決定的に違うところが存在し、その問題点が今ここに示された。

「あ……」
「な、に……?」

 ロプスの手の中で輪郭をぼやけさせたと思ったら、光を放ち忽然と消え失せてしまった。
 作成後、二十四時間しか保たないのがこのスクロールの欠点であるだけに、ソレを知らないロプスは手の中から消失した成れの果て。 光の粒を呆然と見詰め、「あーあ」と見送ったマイマイは慰めるようにロプスの肩を叩いた。

「時間切れね。 御母様の作るソレは一日しか保たないのよ」
「くっ、折角の英知が……」

 がっくりと心底残念そうな顔で肩を落とす夫の姿に、可哀想になるマイマイ。 もう一度手に入れて上げたいがあの母親の事だ、次こそは試練を受けろと言いそうなので断念するしか無い。 仕方なく慰める為にそっとロプスに肩を寄せた。







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