空を包む雨雲。
ぱらぱら落ちる雨粒。
水溜まりを踏んでは、汚れる長靴。
けれど、飛び散る泥なんて些細なもの。
雨具を濡らす水滴の方がよっぽど綺麗で、心惹かれる。
一歩一歩。
歩く毎に波紋が広がるコンクリートの地面。
それは一瞬の広がりだけど、確かに私の道を刻んでいる。
自分にとっては少し大きめの黒い傘を、もう一度握り直す。
レインコートのフードは外れないように、ちゃんと顎の下で結ばれているから、安心して駆けて行ける。
目的地は町にあるたった一つの小さな駅。
だんだんと近付くその建物の前に、背広姿の男性が見えた。軒下で雨宿りをしていた男性は、こちらに気付いて手を振る。
「お迎えに来ましたよ―」
つい嬉しくて、私は水が跳ねるのも構わず、勢い良く飛び付いた。彼はしゃがんで私を受け止める。
「随分ご機嫌だな〜。何かいい事でもあったか?」
その質問に、私は空を指さした。未だ続く雨の世界に、私の顔は、多分自然と綻んでいる。
「今日は雨の日ですから」
「雨の日はいい事があるのか?」
「たくさんお父さんと、話しができますよ」
私が運んだ黒い傘を開いて、父親は優しげに笑った。
私は隣りに並ぶ、大きくて温かい手に掴まって、もと来た道を引き返す。
さっきよりも膨らんだ、この楽しい気持ちを抱えて。
雨が降っている。まるで二つの人影を、そっと見守るかのように――。
(終) |