お、お前は……!!
シリアスに偏るのはクセです
いまだに退院できない。ねぇ軽く一週間経ってませんか?いつまでオレをここに押し込めとくんだよ。
もうな、ここの病院の飯上手すぎて、なのに運動なんて病人だから制限されるせいでできなくて。
……何が言いたい?太るんだってば!!
今なんてベッドに座りながらたまたま病院にあったラ○ベ見てる状態だぞ!体脂肪率これ絶対上がってる!
いやね、別に読書が嫌いってわけじゃないんだよ?○あるシリーズやバカ共が召喚バトルするのだってとても面白いさ。前世の小学時代からオタクしてたからな。
けどな、やっぱ太るのは嫌なんだよ!太るまでは坂を転がるように簡単で、痩せるまでは登山する並みにつらいんだ!
くっそ、金持ち甘く見てた。豪華な料理いいな、じゃねーよ。
うまい。けど太る。あー、なんかこうすぐ痩せれるダイエット商品ないかなー。
「王華、今いいか?」
「あ、はい」
っとお父様の登場だ。本は枕の下に隠してっと。
返事を合図に開くドア。ギリギリセーフで隠せたぜ。中に入ってきたお父様の後に続いて入って来たのは知ってるような知らないようなイケメンだった。
……どちら様?今日はお母様いないのお母様。
あ、ついでに母親とも会いました。やっぱ見覚えなかった。けども顔つきが鏡で見たオレの顔と似てたんで血は繋がってると思う。
たださ~、個人的に父親似のほうがありがたかった。
ほら、あんじゃん。娘は父親似、息子は母親似が幸せになれる~、なんて迷信だか言い伝えあるじゃん?あれない?
どちらにしろそういうの信じちゃうから。信じちゃうタイプだから。
「彼は王華の命の恩人でもある一条叶君だよ」
「こんにちは」
お辞儀をしたイケメンは金髪碧眼でハーフみたいだ。もしかしたらみたいじゃなくてハーフなのかも。
そういえば逆光で髪光ってたな。金髪なら反射してもおかしくない、か?
お父様は一条君はうんたらかんたら言って最終的に時間だからと言って帰っていった。……何だったのだ父よ。
にしてもイケメンと二人っきりとはときめくべきなのか。残念ながらオレは二次元が好きだ。二次元男子好きだ。
特別な性癖とかないけど三次元のイケメンはなぁ……てか年下だからなぁ……。
「……王華さん、怪我の状態はどうですか?」
「あと少ししたら退院できるほどには完治しましたわ」
本当は擦り傷とかでそんなに重症ってわけじゃないんだけど。それよりお嬢様言葉ってどうやるの?
オレ的には完璧な返しをしたつもりだが、どうやら目の前の彼……えっと、叶君は何かがご不満だったようで、一瞬顔を顰めた。なんだよこら。こっちは記憶喪失なんだぞ一応。
「……下手な演技しなくていい。できないくせにするな」
「……すみません。記憶を忘れてしまいまして……」
「違う。……ああもう面倒だなぁ……」
何がしたいんだこいつ。
人が折角それなりに言ったことには文句つけてくるし、奇行はするし。
ナースコールしていいですか?退場願いたいんで。
頭をガシガシ掻いていたと思ったらいきなりベッド近くのイスに座った。……だからなんなんだよ。
……頭を掻くで思い出したけど、前世での弟もそんなクセ持ってた。あ、弟いたんですよオレ。バンジーで死んじゃった後なんて当然知らないけど元気にしてるだろうか。既婚者だったから自殺とかはやめて欲しい。
「もういいや。姉さん、おはよう」
「……は?姉さん?」
何言ってんだこのイケメン。オレの弟は前世だけだぞ。
オレの不審な視線なてものともせずイケメンはオレを見てくる。その青色の目はどこか冷たくて……面倒くさいって言ってるのは確か。
「やっぱり前世と姿が違いすぎるからわかんない?別に俺だって好き好んでこの容姿になったんじゃないんだけど」
「え、前世?……前世って……」
「今は一条叶。前世は……千葉昴」
イケメンが口にしたのは、オレの弟の名前。
前世での、弟の名前。
よくわからない感情が心の中で渦巻く。グルグル回って、まずは渇いた喉を潤わせようと唾液を飲み込んだ。
少しだけ潤った(と思う)口から、声が漏れる。
「……お前………その姿似合わないな……」
「混乱してても言うこと違うだろ」
このツッコミは昴だ……。
なんて奇跡。なんて運命。前世での弟に生まれ変わっても会えるなんて。何億とも言える人の中から会えるなんて。
すごく嬉しい。そう思うぐらいにはオレは今までの状況に納得してない節があったのだろう。今は物凄く何かが満たされてく。
「……感動…って訳でないけど再会の話とか後だ。姉さん、先に重大なことを言っておく」
「なんだい昴。てかホント、もう少しこの感動の再会を味わえよ」
「……この世界は、とある乙女ゲームと酷似した世界です」
真剣な顔で昴に告げられたことに泣きたい気分が萎んでしまった。泣かせろよ。
てか乙女ゲーム?確かに姉さん、自負するオタクだからいろんなゲームプレイしたことあるけどね?
乙女ゲームだけは苦手なんだってばよ。
「前世で流行ったよねーそんな話」
「姉さんは混乱とかないの?」
「オレは今昴に会えてすっごく嬉しいんだ。もうそれで泣きそう」
「……その容姿でオレって使うなよ!!」
なんか叫ばれた。病院で騒いだらいけないんだぞー。
昴ならいっかということで枕の下から本を取り出す。地味に続きが気になるところで止めちゃったから気になって気になって。
昴は昴でなんか独り言言ってるし。「容姿が……」「胸が……」とかうるせーよ。最後の絶対オレ根に持っとくからな。
イケメンが項垂れるとそれはそれで絵になるけど中身が昴だから残念イケメンだな。
容姿がなー、多分ハーフだからな結構それなりにいいのにねー。残念イケメンはいるという実証だ。
「ああ最悪だ。なんでよりにもよって……気付いてたけどこうも変わると……」
「昴ー、オレもう少ししたら学校帰れると思うから説明係になってよ」
「今は叶……もう本当にその容姿でなんで……説明係にか。いいよ」
「ありがとー」
言っておくがオレは本から顔を上げてません。だって本の内容気になるんだもん。
だから知らない。昴が……叶がどんな顔をしてるかなんて。
「姉さん、俺はそろそろ時間だから帰る」
「んー」
「……次は、絶対……」
「なにー叶ー」
妙に聞こえなかったから顔を上げたらもう叶はいない。あいつ、さよならぐらい言えって前世で言いまくってたのに忘れたのかよ。
まあいいや。復活したら学校で会えるだろうし。
早く叶に会いたいなー。