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短編(和もの)

お嬢と忍者

作者: 月鳴

※この作品はフィクションです。実在の忍者とは何の関係もありません。



「お嬢!!俺を置いて行かないでくださいよ!!」

「いや」

「そんな、酷い!」

「じゃあそのコンビニ強盗みたいな不審者丸出しの格好止めてよね!!あとお嬢って呼ばないで!」


 黒い長袖のTシャツ、黒いスキニーパンツ、目深に被った真っ黒のキャップ、履き心地の良さそうなスポーツブランドのこれまた真っ黒なスニーカー、顔半分を覆うように巻かれた黒いマフラー。見えている肌色は目元と手だけ。

 ……見た目立派な不審者なこの男は、言いたくないが、私の幼馴染である。


「これは忍者の服装を現代版にアレンジした物なので、いくらお嬢のお願いでも変えることは出来ません!それにお嬢はお嬢です!」


 バカな言葉に朝から頭が痛くなる。しかもこの台詞は冗談でもなんでもなく本人本気で言っているのだからほとほと始末におえない。

 ここは、戦国時代じゃない!争いのない科学の発達した現代日本ですよ!!

 なんて根絶丁寧に説明したところでこの自称忍者野郎が納得しないのは長い付き合いでよくわかっている私は返事を返すことなく無言で足を動かすのだった。


 ──むかしは、こんなんじゃなかったのになあ。


 帰らざる過ぎし日に少し…いや、かなり目が遠くなった。



 我が家は立派な巻物の家系図が残っているような由緒ある家柄、らしい。歴史の教科書を開けば1行くらいは書かれているような。それがどのくらいすごいのかは当事者だからかイマイチわからないが同級生などに同じような人間が誰もいなかったので珍しいのだとはなんとなく理解した。

 そこそこ力のある武家だったらしい我が家には、隠密、所謂忍者と呼ばれるものたちも支えていた。

 ここまで言えばもうお分かりだろう、そう自称忍者の不審者やろう──もとい我が幼馴染は、その忍者の末裔なのだ。…残念なことに。

 そのことを教えられたのは私もあいつも五歳になりしばらくした頃だった。それまでは家が隣のただの、普通の、幼馴染だったというのに。


 男の子は、誰しも一度は戦隊ものやヒーロー物に憧れるのではないだろうか。画面越しのそれならばどんなに良かっただろうか、あいつはよりにもよってあいつのじじ様の語る忍者物語(サクセスストーリー)にどハマりしてしまったのだ。


「すごい!!かっこいい!!」

 と歓声をあげ、挙げ句、

「ぼくはひめちゃんにつかえるにんじゃになる!!」

 なんて言いのけたのだ。


 翌日からじじ様と忍者特訓なるものを始めた。内容はよく知らないけど、擦り傷だとか切り傷なんかよく作っては私が治療していた。

 今はもうそんなこともないけれど、まだ忍者特訓は続いているらしい。目標は免許皆伝だとか、いやに目をキラキラさせて語ってきた。

 どれもこれも(主君)に仕える立派な忍者なるためなんだとか。


 それが、今日(こんにち)に至る私とヤツの関係だ。


 ───私は、ただ側にいられたらそれで良かったのに。

 いつからか。そんなこともわからない内に、水が下に流れるように自然と私は幼馴染のことを好きになっていた。

 優しくてカッコよくて、いつも私と一緒に笑ってくれる幼馴染。離れることなんて想像もできないようなくらいずっと側にいた。それはこれからも変わらないと思っていた。


 だ・け・ど!


「やっと追いついた、お嬢!俺から離れたらお守りすることができないじゃないですか!」


 主従関係は求めてなーーーーーい!!!!


 確かにずっと側にむしろいなくていい時もずっと側にいる。(例:トイレ。もちろん蹴っ飛ばして追いやっている)

 嬉しいか嬉しくないかと聞かれれば、まあ嬉しい!(トイレは別) でもね、違うの!私も年頃の乙女として夢とか憧れとか持ってるのよ!!

 だけどそれはけっして、けっして!主従関係の上に成り立つものじゃないのよーー!!!


 幼馴染同士自然と惹かれあって甘酸っぱい告白とかしちゃってめでたく恋人になって家までの帰り道、手を繋いで二人で帰っちゃったりとかなんか、なんかそういう少女漫画みたいなことを私は望んでいるの!!


 しかし現実は残酷だ。


 私の半歩後ろでぶーぶーなんか言っているのは確かに私の大好きな幼馴染だが、二人の雰囲気はけっして甘酸っぱいものではないし第一相手の見た目が不審者だ。コレジャナイ。私が求めているのはコレジャナイ。

 いや、幼馴染のルックスは悪くない。成長期に伸びた身長は180を越えすらっとした細い足にスキニーパンツがよく似合うし忍者として鍛えているらしい体はただの黒いTシャツをお洒落でセクシーなものに見せている。

 顔だって悪くない。日本人にしては高めのまっすぐな鼻に切れ長の二重、まつ毛はあまり長くないが男性らしいキリッとした感じがかっこいい。瞳も髪も美しい黒だ。

 だかしかし!その整った素晴らしいパーツは私がやつの誕生日に贈った黒いマフラーと安い雑貨屋で買った黒いキャップによって全く見えやしない!なんたる。

 …黒いマフラーについては本人たっての希望と、私のちょっとした独占欲だというのはここだけの秘密。素顔を知っているのは私だけでいい、なんて。そんなワクドキをはらんだ関係なんかじゃないのに。


 あ、ダメだなんか落ち込んできた。


「どうしましたお嬢、急に暗くなって」


 どうしてこいつは私の異変にすぐ気付くのだろう。


「なんでもない」


 お前のせいだと言えたらどんなにいいだろう?絶対に言えっこないけど。


「そうですか? でもなんかあったら言ってください。なくてもいいですなんでも言ってください。俺は、お嬢の体だけじゃなく、心も守りたいんで」


 ───なんで、なんでそんなことを言うのだろう。そっちはそういうつもりなんてこれっぽっちもないくせに。


 そんなことを言うから、私は。


 いつまで経っても期待しちゃうんじゃないか。いつか、ただの女の子として見てくれるんじゃないかって。

 忍者とか、主人とかそういうの全部忘れて、野上姫(のがみひめ)、っていうただの人として見てくれるんじゃないかって。




「うるさいバカッ!あんたなんか知らない!」

「えぇ!酷い!心配しただけなのに!!」

「あっかんべー!」

「あ、お嬢!待ってくださいよー!!」



 でもいいの、今はまだ。


 あんたの気が済むまで、忍者ごっこ、付き合ってあげるわ。


 だって私まだ、あなたから離れられそうにないから。それまでは。


 あなたのそばで。



あれ?コメディにしたかったのに最後ちょっとシリアスになってるなんて…どうしてこうなった。

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