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鬼のユメ
作:狐狸川ゆうら



幕引き:凪ノ肆


 あの日……。
 京が俺の前から消えて、ちょうど今日で十七年。
 あれから直ぐ芳華は仙道の当主を正式に継ぎ、同時に結婚をした。そして幸人は神主である義父の後を継ぎ、俺は義父の裏の仕事…退魔の仕事を継いだ。
 やがて時は流れ、何時しか幸人も人の子の親となり、目に見える周りの景色も何もかもが変化を遂げた。
 だが俺は……。
 心の奥底で熾火おきびの様に燻り続ける心の痛みは、俺を中から蝕み続ける。
 叶わないと知りながら、未だ流れる事のない涙に一縷の望みを持ってしまう。
 俺はそれだけにしがみ付いて、しがみ付いて、なおも縋り付いて離れられない。
 京が消える寸前の笑顔が、脳裏に焼きついて離れない。
 胸が焦がれて、中から俺を焼き尽くしてしまいそうだ。
 俺は深い溜め息を吐き出すと、ポケットからタバコを取り出し、咥えて火を点ける。
 京を忘れるなどあり得ない。
 どんなに時が経とうと、声も顔も全て何もかも克明に思い浮かべることが出来る。しかし、いくら克明に思い描く事が出来ようと、触れる事だけが二度と叶わない。
 その現実は余りにも残酷で、確かに俺の中にあった何かを……空っぽにした。
 もしあの時、芳華が俺を止めなければ、俺はこうして息をしている事はなかった。
『凪、言っておくけど、アナタが今思うことを京は望まない。それに、ムジナに心の記憶を無理矢理呼び起こされた幸人くんは、不安定……。もし、少しでも義父や義母に恩義を感じるなら、幸人くんを生きて、支えなさい。分かったわね?』
 俺には選択肢など残されていなかった。
 そして、芳華は俺に次々と…それこそ息を吐く間もない程の仕事を寄越した。繋ぎは必ず芳華の式が寄越され、仕事の様子を最後まで見届けてから消える。
 この十七年、俺はそうして生きてきた。
 でも、もう限界だ。
「…………っ」
 いや……とっくの昔に限界を超えているんだ。
 俺は珍しく芳華に呼び出され、そこへ向かう途中で公園のベンチに腰を下していた。
 逢うのは、そうか……十七年ぶりになるのか。
 約束の時間はとっくの昔に過ぎ、俺は一箱分のタバコを吸い終えていた。さっき火を点けたのは新しい箱の一本目。
 ジジジ…息を吸い込むたびに、タバコの燃える音がする。
 そこへ、頭上から若い女の声が降ってきた。
「あの……大丈夫ですか?」
「……?」
 俺は首を上げるのが億劫で、ゆっくりと視線を上げた。初めに見えたのは、黒い革靴と紺色のハイソックス。続いて制服だろう短めのスカートとそれを押さえる手。
 秋の冷たくなった風が少しだけ強く吹きつけている。そこに懐かしい匂いを感じて、俺は慌てて顔を上げた。
 そして俺は、驚きの余り思わず咥えていたタバコを落としてしまった。
 目の前にある顔に、どこか見覚えがあった。
 少女の黒目がちの大きな瞳が、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。長い艶やかな黒髪が、フワフワと悪戯に風に踊る。
 どこかで見た同じ様な光景。頭の中がゾワゾワとむず痒く、どこかへ引き戻される錯覚を起こさせる。
 京?
 まさか、いや、そんな筈はない。
「あの…泣いて、るんですか……?」
「……いや」
 否定の言葉を言おうと口を開きかけるが、俺の目からはスルリと一滴の水が零れ落ちた。
「……?」
 これは……。
 少女は俺へどうぞ、とハンカチを差し出した。
「あの…ごめんなさい、なんだか声かけ辛くて……母が呼んでます」
「母?」
 眉間に思わず皺が寄った。彼女は両手を胸の前でしきりに交差させて振りながら、慌てて言葉を繋ぐ。
「えっと、その、私の母は仙道芳華です。私は娘で京華きょうかって言います」
「娘……」
 芳華が結婚したのは知っている。だが、子供を生んだと聞いた事はない。
 京華が、不安そうな瞳を尋ねるように俺へ向ける。
 ふと、俺は無意識にその頬へ誘われるように手を伸ばした。
 震える指先が熟れた白桃の様な頬へ触れる。
「……?」
 それへ彼女は答える様に小首を傾げる。その仕草がどこか酷く懐かしく、胸を締め付けた。
 その時『ただいま、凪』と、京の声が耳の奥に響いた気がした。
「……ったく、芳華の奴…」
 俺に出来なかった事をやりやがった。
 指先に感じる温もりが、確かな存在を俺に伝える。
 例え……全てがなかった事になったとしても、出逢う事さえ出来たのならばまた、そこから始めればいい。
「はじめまして、お嬢さん。俺は凪、よろしく」



 そして、時は再び巡る…………。


ここまで読んで下さった皆様、長い間ありがとうございました。
この回で『鬼のユメ』は完結です。
案外、ハッピーエンド?見たいな形になったのが私でも意外でした。最初予想していたのと、少し違うかもしれません(苦笑)
また、この作品は長編と云うだけでなく、私の中で色々なチャレンジを盛り込んでいました。
ですので、読み辛い時も在ったかも知れません。申し訳ありませんでした。
この作品を通して、己の未熟さを痛感致しました。これからも、更に精進していきます。(誤字や脱字はこれから直していきます。申し訳ありません……)
最後にもう一度、本当に読んで下さって心より感謝とお礼を申し上げます。
また別の作品で読んで下さった皆様とお会いできればと思っております。
ありがとうございました!!











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