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イシスの記憶 4

作者:葛城 炯
私はイシス

 宇宙移民船カルネアデスがゾデアグ軍中型戦闘艦と遭遇してから14年後。
 戦闘艦を護衛艦アルテミスと名付け、カルネアデスはその中に納まり航行している。
 護衛艦の中に収まっていることで私達は安全に、そして移民船としては有り得ないほどの速度で航行することができている。
『イシス様。最後の空間跳躍の準備がもう直に整います。しばらくお待ち下さいませ』
 アルテミスのインフォメーションアンドロイドのルナがカルネアデスのブリッジで私に恭しく頭を下げた。
『ありがとう。ルナ。出港時に100年かかるとされていた予定より56年も早く目的地エデン8281に到着することができます。アナタの御陰です。感謝します』
 私もルナに頭を下げる。
 まるで人間同士の挨拶。
 機械である私とルナは顔を見合わせてから笑い合った。
『イシス様。到着したら……先ずは何をなさるのですか?』
 ルナに問われて私は彼女の言葉を思い出す。
 植物学者である彼女は私に惑星に着いてからの手順を何度も指示していた。


「いいかい? エデン8281に辿り着いたからって人間を起こしちゃいけない」
『いいのですか? 移民手順書では最初に人間を蘇生させることとなっていますが?』
「ふん。そんなン百年前から何一つ見直されていない手順書なんか捨てちまいな」
 私は困惑した。
 彼女は何を根拠にそんなに断言するのだろうか?
「いいかい? 何度も言うけど、人間を起こすのは最後。まず最初に惑星の様子を調査。状況を確認したら、次の手順に従って積み荷の凍結受精卵を順番に解凍して播種するんだよ」

 レベル1:惑星に微生物1つ確認できない場合
「海に注ぐ河を見つけること。できるだけ大きな河。そして途中に沼とか湖があるのが良いね。その湖に淡水植物プランクトン達を放すのさ。あ、pHが中性かどうかを確認してからね。海の塩分濃度がどの程度か解らないけど、河を流れているのは淡水のはずだからね。それから海に海水植物プランクトンを放す。塩分濃度が許容範囲かどうかを確認してね。それで大気がどんな状況でも生物たちが呼吸しやすくなるはずさ」

 レベル2:大気が生物の呼吸に適している場合
「それはつまり植物プランクトンがわんさか居るというコトさ。だったら湖とか湿地にプランクトンのなれの果ての泥があるはず。カエルとかの両生類やトンボなんかの昆虫類を放すんだよ。そうそうクローバーとかも植えちゃって構わない。海にはカニとかエビとかウニなんかの幼生プランクトンを放すのさ。そして海にソイツらが棲み着いたら魚達を放す。海はそれで良い」

 レベル3:陸に植物が繁茂している場合
「ココまで来たら楽なもんさ。クローバーやラベンダー、リンゴとかブドウもじゃんじゃん植えちゃって。マツとかスギ、クヌギなんかの木も植えちゃうのさ。それぞれの適性となる気候、場所は解っているよね? そうそう。湖とかの泥を大地に撒いて耕して、ポテトも遠慮無く栽培して、小麦や大麦もね。湿地で稲も。ちゃんと収穫できるようになるまでは工夫しながら栽培するんだよ。いいね? あ、ミツバチ達も放して良いからね。蜂蜜は巣箱から溢れさせてていかから。蜂蜜に満ちる大地。神が約束した土地になるまでね」

 レベル4:植物が溢れ、収穫が約束された場合
「ここで人間達を起こしてやって。いいかい? 人間は生物界の頂点。別に偉かないよ。それだけ浪費する食いしん坊の王様気取りのお子様みたいな存在なのさ。だからちゃんと生物のピラミッドを造ってからじゃないと起こしちゃダメ」

 説明を聞く度に私は困惑した。
「いい? 解った?」
『解りましたが……随分と時間が必要と推測されますが?』
 その後の『それでも宜しいのでしょうか?』という問いかけの言葉は毎回、彼女の言葉で阻止された。
「そ。惑星を造り直すんだからね。できればレベル3から4の間は10年空けたいけどね。最低でも1年。レベル2から3は100年はかけたいね。最低でも10年。レベル1から2は1万年かけたいけどなぁ。でも20年は必要だよ。レベル2に近くてもね」
 私は呆れた笑い顔で彼女の指示に対応した。


『……はあ? 随分と時間がかかるんですね』
 ルナは笑い顔のまま呆れている。
 私もたぶん同じ顔をしていたはずだ。彼女に教わった最初は。
『彼女は何度も何度も同じコトを私に指示しました。エデン8281は失敗したとは言え一度は入植に成功した星。少なくともレベル2には達しているはずなのに』
 エデン8281は先に入植者が辿り着いた星だとデータにはあった。
 突然の大規模火山により入植地が壊滅したともデータにはあったのだが。
『それでも彼女は「火山噴火で大気がどうなっているか解らないだろ? いいかい呼吸に適していなかったらレベル1から始めるんだよ」って……何度も』
 それは起きた直後からの彼女の指示。
 私の運行プログラムにも『起こすべき人間は植物学者であるナンバー00のカプセル。冷凍睡眠から蘇生したら彼女の指示に従うこと』と特別コードで明記されていた。
 たぶん……彼女は何年かかってもエデン8281を楽園に変えてから他の人達を起こすつもりだったのだろう。


「そのために……惑星往還機の速度というか性能を上げたんじゃないか。空間跳躍装置を強化したんだろ?」
 エデン1349でコスモゲートを修理した際、空間跳躍装置を手に入れた。
 それらを分解、改造して惑星往還機に装着している。
『そのためだったんですか。私は連絡用シャトルに装着した方が良いのではと思っていたのですが』
「余ったのを連絡用シャトルにつけたじゃないか。でもね、この船は宇宙移民船なんだ。この先、何度使うか解らないシャトルより惑星に着いたら縦横無尽に活躍して貰う惑星往還機の方が重要さ」
『それはそうですが……』
 彼女は私を睨んだ。意地悪そうな、醒めているような、そして少しだけ呆れたように笑いながら。
「いいから。使えるモノはなんでも使う。それがアタシの流儀なのさっ」
 私は言葉を返さずに深呼吸する仕草をした。
「解った? とにかく使えそうなモノは回収して、使い倒すんだよ。いいね?」


『確かに私も使い倒されていますね』
 ルナは呆れた顔で笑っている。
『ルナの協力の御陰で……』
 私はルナを見つめる。彼女が私を見つめていたような視線をできるだけ再現して。
『惑星往還機と連絡用シャトルの空間跳躍機能を上げ、作業ロボット装着用空間跳躍装置も幾つか作れることができました。改めて感謝します』
 私は頭を下げる。
 護衛艦アルテミスの空間跳躍機能をカルネアデスにも絶えられる速度にパワーダウンする際、空間跳躍装置が幾つか余った。
 それらを分解し再利用している。
『いえ。お役に立つことができて幸いです。それらは……移民に必要なことなのでしょう?』
『ええ。彼女は常々言ってました。「できるだけ可能性を高くする。そのために移動速度をあげるのさ」と。彼女はいつでも……可能性を高めるコト。範囲を広げることに熱心でしたから』


「いいかい? 何度も言うけど、移民が成功する確率は良くても精々60%程度さ。なんでそんなに低いのかは化石じみた手順書に従っているから。このアタシがいる限りは今回の入植は120%成功させるからねっ!」
『確率の最高値は100%です。しかもその数値である事自体が有り得ません。確率計算の最高値は99.9999999%です』
「……あのね? 120%ってのは確率表現じゃなくて気合の表現だよっ! それにナイン・トゥ・ナインなんか例に出さないでおくれっ! 縁起でもない」
『縁起? 例に出してはいけない理由は何故ですか?』
 彼女は真顔に戻って呟くように言った。
「……ナイン・トゥ・ナインは正体不明の伝染病が惑星で流行った時、惑星ごと『消毒』する時の判断確率さ」
『判断確率?』
「そ。ナイン・トゥ・ナインの確率で……その星に住む人間達が伝染病で死に至ると判断された時、惑星ごと焼き払うのさ。オゾン層を破壊したり、直接、戦闘艦の艦砲射撃とか……小惑星を惑星に落としたりしてね」
『……そんなコトを?』
 私は信じられなかった。
 移民船であるカルネアデスを統括している私にとってそれは……私の目的を否定しているかのような状況だったから。
「なんだい? そんな顔して。大丈夫。アタシがいる限りそんなコトにはさせないよ」
『失礼ですが、植物学者という職種は伝染病を防げる技術を持っていることが求められているのですか?』
 彼女は戸惑った顔……後で彼女に教わった表現で「鳩が豆鉄砲を食らったような」というらしい……をしていた。
「イーシースー? なんだい? 随分と嫌味を言えるようになったじゃないかっ! 確かにそんな役目はアタシじゃなくて医者の領分。アタシの弟の得意技だよっ!」
 彼女は私の頭部を身体と腕で挟んで締め上げた。
 ヘッドロックとかいう技らしいのだが、アンドロイドであり、頭部はチタンフレームの骨格に防弾機能もあるシリコンで覆われている。なんの効果もない。
 それでも彼女の行為に付き合うべきだろう。
『痛いです。止めて下さい』
 彼女は技を解き、呟いた。
「そんなに冷静に言われても面白くない」
 私は困惑した。どうやらもう少し表現を工夫しないといけなかったらしい。
「ははは。そんな顔しないっ! 後でどう表現すべきか教えてあげるよっ! じゃ、ポテトのご機嫌でも伺ってくるよ」
 ブリッジを立ち去る彼女はいつも元気だった。
 たぶん……元気でいるのは彼女の演技だと判断している。


 ルナは微風のような笑顔をスクリーンに映るデータを確認して真顔に戻した。
『準備が整いました。それではイシス様。跳躍します』
 私は記憶を再生するのを止めて頷いた。
 ルナは私の了解したのを確認してから高らかに宣言した。
『宇宙移民船カルネアデス、護衛艦アルテミス。エデン8281に向けて跳躍します。10、9、8、7、6、5、4……空間跳躍装置稼働……1、跳躍開始っ!』

 私達は虹色の回廊へと進んだ。

 そして……


 そして、跳躍した先には……何もなかった。

 いや、赤色矮星とそのハビタブルゾーンに小さなガイア型惑星が1つ。
 有ったのはそれだけ。

 データではエデン8281は主系列星。ハビタブルゾーンに惑星が3つ。うち1つは内側の限界に近く居住不適。それでも2つは居住可能な惑星があるはずだった。

 だが……あるのは巨大フレアを吹き上げる閃光星である赤色矮星。そしてガイア型惑星が1つだけ。
 あの惑星に移住しても巨大フレアに焼かれて人間達は簡単に絶滅してしまうだろう。
 そんな惑星が1つだけだった。

『そんな……バカな』
 私は呟く。呟くことしかできなかった。
 私にセンサーからの信号が届く。同時にルナが音声で報告した。
『イシス様。救難信号を確認。型式カルネアデス1729。船体番号26457513110。……移民船です』
 スクリーンにその船が映る。
 焼け焦げたような難破船が……ガイア型惑星から離れた軌道で漂っていた。


『私達は……この星系に就いた直後に銀河中央政府に抗議しました。ですが私の船の通信機では……届いたかどうか不明です。それでも人間達は……入植を開始しました。私は惑星の軌道に留まり……電磁シールド装置を常に稼働させ……恒星からのフレアが惑星表面を焼き尽くさないように……努力しました。努力したのですが……』
 この船の同型艦から回収された私と同じインフォメーションアンドロイドは涙を流していた。
 私達は人間達を説得しやすいように感情表現が与えられている。
 しかし、仲間のそれは……絶滅した人間達の涙のように思えた。
『解りました。アナタの情報と記録は私達が銀河中央政府に報告します』
『お願いします。私は……機能停止しても宜しいでしょうか?』
 私は困惑した。
 私達にそんなコトを要望するような機能は与えられてはいない。
『起動していると……人間達の記録が私の記憶メモリーに展開されます。私には……私の存在理由を問う、その記録が……辛いのです』
 私は頷いた。
『了解しました。ゆっくり休んでください』
 私は仲間に挨拶して立ち上がった。
『ありがとうございます。あの……』
『なんでしょう? なんなりと言ってください』
 仲間の言葉は私を驚かせた。
『貴女は……人間なのでしょうか? サイボーグなのでしょうか? 私に、私達によく似ておられますけど?』
 私は驚きの表情を納めてから微笑んだ。
『私はイシス。この船、カルネアデス1729−31415926535を統括するコンピューターのインフォメーションアンドロイド。貴女と同じ機械です』
 仲間は驚き、困惑し、そして黙って頭を下げた。
 それから……再び私を困惑させた。
『貴女は……私達とは違う。そんな異質な雰囲気が……そんな風にしか分析できません』
 私は……困惑を声にはせず、黙礼をして格納倉庫を後にした。

 たぶん仲間が私を「異質」と呼んだのは……私の中でこれからするべきコトに表情を、人間が呼ぶ感情というモノを滾らせていたからだろう。

 私は人間ではない。
 だが既に機械でもなくなっていたのかも知れない。

 ブリッジに戻った私は意味もなく大声でルナに指示を出した。
『ルナっ! 銀河中央政府に報告っ! エデン8281は人間達の居住不可能星系っ! エデンナンバーの抹消を申請っ! さらにっ! さらに……』
 私は一度黙りこんだ。どの様な表情をして良いのか、私に演算回路がオーバーヒートしていた。暫く時間を空けてオーバーヒートが静まるのを待ち、何故か低い声で指示した。
『さらに……私達に近隣の移住可能な星系のデータを転送するように。銀河中央政府の……』
 彼女の言葉が私の記憶メモリーに再生される。
 その言葉が再び私の感情を、いや表情の演算回路をオーバーヒートさせていく。
『銀河中央政府のバカどもにさっさと確認しろぉっ!』
 声を荒げたのは……私の記憶メモリーにいつもシミュレートしている彼女の感情だ。

 私の中の彼女は怒っていた。
 だから私も怒っている。憤っている。
 私は彼女の感情と同一化した。
 だが……今は何一つ嬉しくはなかった。


 護衛艦アルテミスの超次元通信機能と出力を以てしても返信が来たのは数十日後だった。
 10ほどのエデンナンバーが振られた星系のデータと短い説明。そして最後に余計な一言が添えられていた。
「既に人間が居住している星への移民は許可しない」
 銀河中央政府は……私達を無人の星へと閉じ込めたいようだ。
 その理由は?
 いや。そんなコトはもうどうでも良い。
 彼女の計画を、言葉を実現するためには無人の惑星でなければならないのだから。


 それから私達は狂ったように船を進めた。
 トウリョウとボウシンに空間跳躍装置のバックパックをつけ、先行して跳躍して貰い、障害物がなければ即座にアルテミスが跳躍する。
 跳躍距離は装置の出力に比例し、跳躍する質量に逆比例する。
 トウリョウ達の跳躍距離はアルテミスと同じ距離が跳べた。
 だが、トウリョウ達には障害物を回避する機能は与えられていない。形ばかりの遮蔽シールド装置を装備しているだけだ。
 跳躍した先に彗星でもあれば粉々に破壊される。

 それでもトウリョウ達は突き進んだ。
 彼女の遺志を実現するために。
 実現する場所を見つけるために。

 しかし……全ては無駄となった。

 6年かけてエデンナンバーが与えられた10の星系を巡り……居住可能な惑星は何一つ無かった。

 最初の星系は恒星が主系列星。だがハビタブルゾーンにガイア型惑星はなかった。
 次の星系にガイア型惑星はあった。恒星も主系列星。だが既に赤色巨星となり燃え尽きようとしていた。
 3つ目の星系はまだ若い主系列星。だが若すぎてハビタブルゾーンが小さく狭い。ガイア型惑星はゾーンの外側を回る全球凍結したスノーボールプラネットだった。
 護衛艦アルテミスの砲撃で溶かすことは可能だ。だが直ぐに凍りつく。植物も育てられない。恒星が惑星を温めまでには1億年は必要。つまり居住不可能だった。
 4つ目の星系は輝きを増し始めた主系列星。ハビタブルゾーンにガイア型惑星もあった。
しかし、巨大ガス惑星が3つ。そして巨大ガス惑星の重力の相互作用で3つの巨大惑星はエキセントリックな軌道で回り始めている。ガイア型惑星は直ぐに弾き飛ばされてしまう。そしてその惑星を巡る衛星に朽ち果てたカルネアデス1729型の移民船が凍りついていた。
『この星には移民できない。推定では200年以内にこのガイア型惑星は星系から弾き出されてしまう。この信号を受け取る方へ。船の中で眠る人間達を別な星へと連れていって欲しい。この船の移動能力は……この星に辿り着くだけで使い果たしてしまった。誰か……この信号を聞く船の方へ。人間達を……別な星系へ……』
 消えかけた相転移炉の残り火が伝える通信は……私達が辿り着いた時に途切れた。
 そしてその船の人間達は……既に蘇生可能な状態ではなかった。
 5つ目も、6つ目も、7つ目も、8つ目も、9つ目も……
 星系に辿り着いていた仲間の船を見つけては、仲間達と使えそうな資材と機械を回収した。
 人間達のカプセルも収納した。

「蘇生不可能であっても人が住む星に埋葬したい」
 彼女の言葉だけが私達の行動を決めた。

 回収した機械を使いトウリョウとボウシンのバックパックの機能を強化した。
 それもまた彼女の言葉だ。
「使えそうなモノは回収して使い倒す」
 彼女の言葉に従うことだけが……私達を突き動かしていた。
「惑星を……蜂蜜に満ちる大地。神が約束した土地にする」
 それだけが私達の目的だ。


 だが……10番目の星系でも彼女の言葉を実行することはできなかった。

 10番目の星系は……恒星自体が存在していなかった。
 星系に紛れ込んだ白色矮星か黒色矮星が恒星と衝突したのだろう。
 恒星は超新星爆発し、星系は吹き飛んでしまっていた。

 私達は星系の遥か手前で超新星爆発の衝撃波に……震えていた。

 護衛艦アルテミスの遮蔽シールド機能は強大だ。超新星爆発の衝撃電磁波も弾き返した。だが飛んできた金属質天体……溶けていた10kmほどの天体が遮蔽シールドを乗り越えてアルテミスの外装第1層を溶解して張り付いている。
 後方への空間跳躍でなんとかアルテミスの破壊を防いだ。

 まだ先へ進めることを幸運だと言うべきだろうか。
 進むべき先がないことを嘆くべきだろうか。

『イシス様。トウリョウ様、ボウシン様、帰還しました。共に無事です』
 ルナの声が私達に僅かな希望が残り、新たな失望が訪れることがないことを告げた。
『姉さん。申し訳ありません。跳躍した直後に衝撃波に襲われて……通信できませんでした』
『いえ。無事で何よりです。衝撃波の中で再跳躍したのでしょう? 帰還できたことが奇蹟です。今は……』
 私は記録を再検索する。
 だが、何一つ再検討に値する情報はなかった。
『……今は故障箇所などを直してください。暫くは休息を』
 トウリョウ達も労いの言葉は要らないという表情をしている。
 黙って一礼して……メンテナンスルームへと移動していった。

 衝撃波が船を揺らす音だけが響いている。

 私達に……進むべき場所は、進むべき道はもう1つもないのだ。

『ルナ。銀河中央政府に状況を送信。この星系のエデンナンバーの抹消と……私達に新たな星系のデータを送信するように要請……』
 ルナはまだ動かない。
 私の次の言葉を待っている。
『そして……今までと同じ「先に送ったデータはまだ全て無駄とはなっていない」という返信が来たら、即座に、即座に……』
 私の記憶メモリーの中に彼女の言葉が再生された。
『銀河中央政府のバカどもに送信っ! つべこべ言わずに全部のデータを直ぐに送れとっ!』
 ルナは大きく頷き、通信機に繋がれたマイクに叫んだ。
 私と同じ言葉を。


 1ヶ月ほど経っても銀河中央政府からの返信は未だ来ない。
 何と言うケアレスミスなのだろう?
 何と言う杜撰なシステムなのだろう。
 幾多の移民船を送り出し、通信が途絶しても調査しない。
 エデンナンバーの改訂も行っていない。
 ランス01−21型のような無人調査船を持ちながら事前に詳細な調査もしていない。
 概略的な調査でエデンナンバーを割り振って、移民船を送り出している。

 何故?
 なぜ?
 ナゼ?

 機械である私には理解不能だ。
 いや。
 人間である彼女が今ここにいたとしても同じ言葉を言っただろう。
 理解不能だと。

 彼女の言葉の1つを再生する。
「惑星を蜂蜜に満ちる大地。神が約束した土地にする」

 神はいるのだろうか?
 神はいないのだろうか?

 神よ。神よ。人間達が信じる神よ。
 何故に私達には目的地が与えられないのですか?
 既に整った惑星でなくても良い。砂漠の惑星でも良い。人間達が降り立つコトができるだけの惑星で良い。後は私達か全て整える。
 神よ。神よ。人間達が信じる神よ。
 私達に、私達に彼女の言葉を実行できるだけの惑星を……この船に乗る人間達に与えてください。
 神よ。

 記憶メモリーに展開した言葉は……彼女の言葉だろうか?
 それとも仲間達が運んでいた人間達の言葉だろうか?
 記憶と記録を検索しても該当する言葉はない。
 私が発したのだとしても……そんな解析は今は無意味だ。

 ブリッジでコンソールに両手をついて項垂れていることしかできなくなっている私に……ルナが声をかけてくれた。
『イシス様。1つお願いがあるのですが……』


 ルナの申し出を私は快諾した。
『アクエリアに立ち寄りたいのですが宜しいでしょうか?』
 それがルナの願いだった。
 辺境を彷徨い、超新星爆発の衝撃波から逃れた私達はいつの間にかかつてのゾデアグ軍を構成していた1つの星系の近くに辿り着いていた。

 水と豊かな大地の星。アクエリア。
 7つの大陸と7つの大洋があり辺境の宝石と呼ばれた星。
 そして……銀河中央政府との戦いで宇宙の何処かへ飛ばされてしまった星。
『彼がいつも言っていたんです。「オレの星は銀河一綺麗な星なんだ」と』
 その彼は……既に亡くなっている。
 彼の遺骸は凍結カプセルに入れられてカルネアデスのエマージェンシールームDに安置されている。
『ですから一度見てみたいんです』
 言葉からルナと護衛艦アルテミスはアクエリアではない別な場所で作られたのだなと私は推定した。
 だが声には出さずに黙ってルナを見つめる。
『彼の故郷を……一度見てみたいんです』
 ルナは微笑みながら涙を流した。
『申し訳ありません』
 私は……ルナに謝罪した。
『? なんのコトですか。謝って戴くことなど何一つありません』
 ルナは困惑している。
『私は貴女に提案し、約束しました。彼を……私達が移住する星に埋葬すると。ですが……』
『イシス様。その先は仰らないでください』
 普段と違う強い口調。そして低い声。
『その約束はまだ実行されていないだけです。破られた訳ではありません』
 私は……黙ってルナを抱きしめた。

 いや、私が抱きしめたのは私の……間違った言葉を選んだ演算回路だろう。
 人間の言う……私の心を抱きしめたかったのだ。

 そしてルナも私を抱きしめた。
 ルナが抱きしめたのは……たぶん彼との記憶だ。
 私ではない。

 だが自分で自分を抱きしめることはできない。
 だから私はルナと彼との思い出を抱きしめ、ルナに私の演算回路、彼女の言動をいつも思い出しシミュレートしている演算回路を抱きしめて貰った。

 何故か……落ち着いた。
 冷静な機械に戻れたと推定した。

『イシス様。では船を進めます』
 ルナの微笑みだけが私を癒してくれていた。


 虹色の回廊を進む間、ルナはお喋りだった。
 彼との記憶を何度もリピートした。
 それから微かな希望を私に告げてくれた。
『あ……彼が言ってました』
『何を?』
『アクエリアの外側の惑星をプラネットフォーミングしていたと。その惑星の衛星軌道上に幾つも鏡を配置して恒星の光を多く集めて温めていると。ハビタブルゾーンの外側ギリギリだったので「一度溶けたらなんとかなりそうだった」と言ってました。もしそのシステムがまだ生きていたら……居住できる、移民できるかも知れません』
 私は直ぐに微笑んだ。
『それは楽しみです』
 ルナも微笑む。

 お互いに微笑み合うのは……0に近い確率だと知っているからだ。
 すぐ内側の惑星が何処かへ跳ばされてしまったのだ。その惑星の軌道も影響を受けているだろう。
 或いは……
 惑星を跳躍させるほどの攻撃が行われたのだ。
 警告として行われる艦砲射撃の的として破壊されている可能性は高い。

 だが、彼女の言葉を直ぐに思い出す。
「0に近い。だが0ではない方に賭ける」
 0と確認してしまうまで……私達は彼女の指示を再確認し合った。
 レベル1から始まる惑星移住プランを。

 何度も確認した後で……ルナがぽつりと提案した。
『イシス様。銀河中央政府からの返信を待つのは止めませんか?』
 私は黙っている。それは私も抱いている試案だ。
『そして私達の力で……新しい星を見つけましょう。条件に合致した星を。銀河中央政府が私達に課した制約は1つだけです』
 私はルナの言葉を補う。
『確かに。私達への指示は1つだけ』
 それは「人間が居住している星への移民は許可しない」という余計な指示。
『つまり「人間が居ない星」ならば問題はない』
『そうです』
 暫く沈黙した。
 演算回路で何度も確認する。
 そして……決断した。
『そうですね。「余計な指示」を元に行動しましょう。銀河中央政府からのデータが届かない以上、私達は私達の論理に従い行動しましょう』
 ルナは微笑んだ。
 私も微笑む。
 ……力なく微笑み合う。

 先の見えない決断。
 いまはその決断にすがるしかなかった。



 回廊を抜けた時。
 ……不意に違和感を感じた。
 恒星はある。アクエリアの内側を回っている惑星も3つ。そのままにある。
 当然ながらアクエリアは存在していない。そしてアクエリアの外側を回るガイア型惑星もある。残念なことにプラネットフォームシステムである鏡衛星は破壊されていた。それはいい。分析し、推定していたことだ。その外側に2つの巨大ガス惑星。そして巨大な氷惑星もガス惑星から遥か外側に3つ有る。
 巨大ガス惑星のラグランジェポイントに小型のコスモゲートが複数……全部で4つある。
 先の戦争で破壊されたのか、コスモゲートにエネルギー反応は無い。
 ゾデアグ軍との連絡用ダイレクトコスモゲートだろうか?
 修理すれば使えるのだろうか?

 いや?
 それよりも……何かおかしい。
 自然な草原ではなく、人為的に手が加えられた庭園のような……自然ではない何かが私には感じられた。
『イシス様……何か変です』
 ルナも同じ何かを感じている。

 私達は……
 人間ではない私達は、機械ではなくなってしまったのだろうか?

 だが……違和感はセンサー達も感じていた。
(第3惑星軌道と第5惑星軌道の間に質量を検知)
(質量を検知。記録に残る第4惑星軌道上に質量を検知。しかし該当する天体は確認されず)
 失われたアクエリアの軌道付近に質量を感じる。だが、該当する天体は観測できない。

『まさか?』
 私はある推定に辿り着いていた。
 そしてルナも同じ推定に辿り着いたのだろう。驚いた顔のまま頷いた。
『……しかし、その可能性は』
 ルナが何かを言いかけた時、船が衝撃に揺れた。
(攻撃を検知! 攻撃を検知っ! 遮蔽シールド展開っ!)
(空間跳躍を検知っ! 跳躍数、多数っ!)
(跳躍してきた船を確認っ! 調査船ランス01−21型っ! 戦闘隊形っ!)
 私達は銀河中央政府の調査攻撃艦に囲まれ、攻撃されていた。

 何故?
 どうして攻撃されている?

 私の疑問より早く、ルナが反応した。
『全艦戦闘モード。遮蔽シールド展開っ! 相転移炉っ! 最大出力っ! 迎撃砲、エネルギー充填っ! 撃てっ!』
 護衛艦アルテミスの外装に林立している電磁砲が火を噴く。1kmもの砲身から噴き上げられるプラズマがアルテミスを虹色に包む。そして質量プラズマ弾が敵艦を破壊した。
 その数、数百。だが次々と空間跳躍してくる敵艦の前には数百という数字は……誤差に近かった。
 それでもルナは、いや、アルテミスは応戦する。
 自身が作られた存在意義をかけて。
 当初の目的を達成するために……全ての砲口が火を噴き続けた。
 ルナは戦場を駆ける女神のように機敏に応戦している。

 戦火の中で私は疑問を持っていた。

 どこから?
 何処から敵は跳躍してくる?

 私の疑問は直ぐに解決した。
 動作を停止していたコスモゲートが稼働している。
 そして私の演算装置が1つのデータに辿り着いていた。
 コスモゲート型宇宙要塞。
 小型のコスモゲートを改造した要塞。
 遥か背後に展開している輸送艦などから無人戦闘艦を敵の近くに跳躍させて攻撃する無限に近い攻撃力を持つ要塞。
 設計された記録はあるが建造された記録は無い。

 そんな要塞が存在している。
 そしてそんな要塞がこの星系を……監視していた?

 無数の敵艦からの攻撃は遮蔽シールドが弾き返す。斉射で噴き上げられたプラズマも磁力線で縛り上げられて遮蔽シールドの盾の1つとなる。敵艦の攻撃はアルテミスの外装を揺らすだけ。

 それでも……
 それでもアルテミスのエネルギーは限られている。
 敵の数の前に尽きてしまうだろう。

 交錯する攻撃。
 アルテミスの攻撃と敵艦の攻撃が宇宙に紅いプラズマの線を象る。
 漆黒の宇宙を地獄の業火で焼き尽くすかのように……

 私は戦闘には何一つ役には立たない。
 それでも何かすることはないだろうか?
 でき得ることはないだろうかと情報を分析していた。記録を検索していた。
 私の演算回路の片隅で冷静に分析しながら、私の演算回路の殆どは別のことをシミュレートしていた。

 記憶を……再生していた。
 彼女の言葉を再現していた。

「銀河中央政府のバカども」

 思わず呟く。
『……銀河中央政府のバカども』

 言葉と共に何かが再現されていく。
 それは怒り。そして憤り。
 彼女の感情を私の中に再現していた。
 いや、彼女の感情が私の中で湧き上がっていく。

 私はマイクを掴み叫んでいた。
『やめんかっ! このポンコツどもっ! さっさと攻撃を中止しろっ! コチラはカルネアデスっ! カルネアデス1729−31415926535を統括しているイシスっ! 銀河中央政府からの命を受けて航行している宇宙移民船っ! さっさと銀河中央政府のバカどもに確認しろっ! この銀河中央政府軍のポンコツどもめがっ!』

 私の叫びが……敵にとってなんの意味も持たないことは判っている。
 だが私は叫んだ。

 そして何故か……攻撃は中断した。

『え?』
 ルナも驚き……私を見つめている。

『え?』
 私も驚いている。
 何故、敵は攻撃を止めたのだろう?

 疑問は……通信機に届いた信号が答えた。
(コチラは銀河中央政府ゾデアグ軍監視討伐艦隊。コスモゲート型要塞を統括しているコンピューター、ケルベロス062−666。そちらが銀河中央政府の移民船というのは本当か?)
 旧式の合成音声。
 必要最低限の機能しか搭載されていないランス01−21型と同じ制御装置の声だ。
『はい。私達は銀河中央政府に命じられて……辺境を航行している移民船です』
(ならば何故……)
 通信機は暫く無音だけを伝える。どうやら何かを再確認しているようだ。
(ゾデアグ軍中型戦闘艦、コートネーム・マゼンタ型07番艦に搭乗している?)
 私とルナは視線を合わせて……疲れた顔で笑い合った。

 事情を話したがなかなか納得して貰えなかった。
 それでも最後は……納得した。
(了解した。戦争が終結しているという情報を受け入れる。銀河中央政府の関係者、人間からの情報であれば納得せざるを得ない。事実と認定する)
 何故、彼らが私を人間と誤認したのかは……もう、分析の対象から除外する。今となってはどうでも良いコトだ。

 彼らの通信機能は制限されていた。
(我々は……作戦実行中は通信しないように指令されている)
 誰かが彼らへの指示を間違えたのだ。単純なミス。
(我々は確認したかった。作戦はアクシデントにより不完全な状態となっている。だが我々は指示を再確認できない。そのように指令されているからだ)
 単純すぎる無限ループ。
 延々200年以上もループしていたのだ。

 しかし200年以上も動作可能なままでいられたのは?
 その答えも単純だった。
(我々は銀河中央政府が管轄しているギャラクシーバルジ発電所から超次元回路を通じてエネルギー供給を受けている)
 銀河中央の巨大なプラズマ渦流から発電される膨大なエネルギーは銀河中央政府が管理している。
 だが膨大すぎてこのコスモゲート型要塞の待機モードで消費されるエネルギーに誰も気づかなかった。
 全てを単純に表現すれば……杜撰という一言に尽きるだろう。

 もし、彼女がこの場にいたら脱力して崩れ落ちていただろうか?
 それとも疲れて……深い溜息を吐いていただろうか?

 いずれにしてもその後は笑い出していたはずだ。
 そして笑った後でこう言っただろう。
「銀河中央政府って本当にバカ揃いだよね」と。

 彼らの通信制限を解除して確認させた。
 銀河中央政府が公布した「ゾデアグ軍反乱戦争で使用された艦船などが発見された場合、発見者の所有物とする」という法律を。
 彼らは素直に法律を受け入れ、結果として私達はコスモゲート型要塞を4つ手に入れた。彼らの機能とエネルギー供給システムを使用すれば、銀河の反対側までも到着できるだろう。

 しかし……
 そんな時間はない。

 カルネアデスに乗っている冷凍睡眠している人間達は100年を過ぎれば急速に蘇生率が低下していく。
 既に出航してから52年が経過している。
 彼女の指示を守れは……残された時間は精々20年。殆ど無い。


 ふと……
 確認していないあるコトに気づいた。

 ルナも同じタイミングで気づいたのだろう。互いに目配せして頷き合った。
『確認します。現在、実行している作戦とは……どの様な内容なのでしょうか?』
 ケルベロスの返答は短かった。
(現在続行している作戦はゾデアグ軍惑星アクエリア壊滅隠匿作戦)
 壊滅隠匿?
 不可解な造語だ。壊滅か隠匿かのどちらかだけで充分だろう。
(アクエリアを壊滅させる。そして未検証の技術である惑星跳躍技術の実験を行う)
 アクエリアを壊滅させるのは……超大型戦闘艦で事足りるはず。そして実際に実行されている。そこまでは記録に残っている。
 だが「隠匿作戦」なるものは記録には記されてはいない。
(作戦名は後で変更された。当初の作戦名は跳躍実験作戦。そして壊滅作戦とは別系統で指示された)
 別々に作戦を立案し、1つの部隊に命じる。
 そして後から作戦を変えるとは……
 混乱と杜撰の極みだ。
 そして全てを「無かったコト」にするために彼らの存在すらも記録から消し去ったのだ。
 小さな誇りと体面を護るために。

 人間とは……
 人間の行動は本当に不可解だ。


(作戦を終了するか?)
『宜しいのですか? 作戦を命令したのは銀河中央政府軍のはずですが? 私達に解除権は存在するのでしょうか?』
 声にしてから自戒する。愚問だった。
(法律を確認する時に軍事情報センターにもアクセスして確認した。既に戦争が終結し、当時の司令部も解散している。我々に命令できるのは所有者である貴女方だけだ)
 私とルナは暫し黙考してから頷いた。
『では作戦の終了を指示します』
(了解した。次元振動を停止。空間を修復する)


 そして……奇蹟が現れた。


 巨大ガス惑星の軌道を回る4つのコスモゲート要塞から虹色の光が伸び……空間歪みを発生させる。
 いや、維持していた空間歪みを修復していく。
 ある軌道が虹色に輝き、虹色の光の砂が現れていく。そしてそれらがあるポイントに集まり……形となった。

 惑星アクエリア。
 超大型宇宙戦闘艦が表面に突き刺さっているガイア型惑星が……
 海の青と深き森の緑と大地の茶と極地の氷雪と雲の白のグラデーションが美しい惑星が……

 私達の前に現れた。


 超大型戦闘艦は確かに地上の都市を全て壊滅させていた。
 生き残っている人間はいない。
 それでも超大型戦闘艦は地上に落下していたのではなく、接触していた程度だった。
 戦闘艦の頑丈なフレームと搭載されていた航行システムの危険回避プログラムが完全な落下を防いでいた。
 確かに銀河中央政府軍の人間の指示はアクエリアへの落下だった。
 しかし人間達が退艦した後で危険回避プログラムが作動。
 近距離空間跳躍を実施。しかし惑星の重力圏からの退避は人間達が指示したプログラムが拒否し……結果として地表に『軟着陸』した程度で済んでいた。

『超大型戦闘艦のフレームが連続空間跳躍に耐えられるほどに頑丈だったのが幸いしましたね』
 ルナが呟く。涙を流しながら……冷静に分析していた。



『……以上がこの星系で居住可能な星、アクエリアを発見、いえ、再発見した経緯です』
 私は凍結カプセルの中の彼女に報告する。
 私の背後にルナ、そしてトウリョウ達、作業ロボットが勢揃いしている。
 ここへの旅で回収した仲間達も整列している。
『調査した結果を報告します。惑星アクエリアの都市があったと思われる区域は艦砲射撃により溶解、蒸発。殆どが湖や湾として跡が残ってます。陸地の植物は殆どが残っていますが動物たちは消滅しています。次元振動に耐えられなかったと推定されます。次に海ですが、魚達を始めとして海棲動物は生き残っています。海水が次元振動の緩衝材として働いたのでしょう。そしてこれらの状況から次元振動中も惑星アクエリアは恒星の光を浴びていたと推定されます』
 私は一度目を閉じて、言葉を続けた。
『惑星の表面に軟着陸していた超大型戦闘艦は制御装置に残存していた「落下命令」を削除。さらに制御装置をコントロールして短距離跳躍させました。現在は惑星アクエリアの人工衛星として静止軌道を周回しています。なお、この超大型戦闘艦をディアナと命名。現在はルナが管理しています。なおコスモゲート型要塞はケルベロスと呼んでいます。彼らにランス01−21型調査船を供給していた超大型輸送艦ノア、いずれもこの星系を護る役目を担って戴いています』
 ケルベロスとノアには銀河中央政府から帰還命令が届いていた。
 しかしケルベロス達は断った。
『我々の存在を抹消し、忘れ、解散した組織の残滓が我々に何を命令できるというのか?』
 帰還を諦めた銀河中央政府によりギャラクシーバルジ発電所からの超次元回路によるエネルギー供給は遮断されたが元々の高出力型相転移炉は健在だ。稼働に対して何一つ問題はない。
『以上が現在の惑星アクエリアを取り巻く状況です』
 私は立ち上がり、彼女を見つめた。

 カプセルの光の屈折の所為か彼女が微笑んでいるように見える。

『それでは……これから惑星アクエリアにレベル3からの移民を開始します』
 私の声を合図にルナやトウリョウ達、そして仲間達がそれぞれの方法で礼をした。


 私はイシス。
 移民船カルネアデス1729−31415926535を統括制御するコンピューター。
 そして今……
 ある植物学者の記憶を元に惑星アクエリアに移民を開始する。

 ……機械の1つ。

 この作の原案は「カルネアデスに花束を」になります。
 キャラは「101人の瑠璃」の末裔……かも知れません。
 次で完結します。
 空想科学祭2009 参加作品

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