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  月下の王城 作者:香住
第九話:定まった焦点
 反乱軍『アンシアン』の立ち上げメンバーはヤンとローレンシア、それからテリーの三人だったが、半年ほどでそのメンバーは五十人ほどに増えた。最前線で城に乗り込みたいと意気込む者から、非戦闘員でも気持ちだけ参加したい、という者までさまざまだ。ローレンシアがいるせいか女性の戦闘員も数人いる。ヤンがリーダーとしてその采配を振るいつつ、テリーが予想外に人同志の折衝に向いていた。
 そして立ち上げから約一年後、ある日付に焦点が置かれた。反乱軍『アンシアン』の決起である。

 あまり人を増やすだけでも無意味であるという考えに一理あるとして、血気盛んな一部のメンバーの強硬な声に応えるかたちでその日付は縁取られた。目的が定まると、今まで漠然としていた思いは炎を立てる。ちりちりと胸を内側から焦がすような高揚感が高まり、戦いに赴く者たちの表情は一律に厳しく引き締まっていた。
 王座の間へ向かう特攻チームが四人、ヤンとローレンシアと、それから腕の立つ男が二人選ばれた。そして城まで特攻チームをガードをする予備メンバーのリーダーにテリーが置かれ、非戦闘員のメンバーは国内の各街に散らばった幾つかのアジトへそれぞれ潜む予定だった。
 予想外にリンティアを説得するのに手間取ったのはローレンシアだ。己の非力さを知っている彼女なら指示どおりおとなしく別アジトへと行くだろうと考えていたのが見事にひっくり返される。

「嫌です」
 リンティアは背筋を伸ばしてじっとローレンシアを見つめる。透き通るように青い瞳がキッとつり上がっていて、いつもの柔らかな彼女とは違う印象を与える。
「嫌……と言われてもな」
 苦笑に逃げ、ローレンシアは思案する。テリーの傍にいたいのだろう。それはよくわかるが、まさか予備メンバーに入れるわけにいかない。誰かを守りながらでは戦力は半減以下だ。
「わたしのこの力を、役立てたいの。……お願い、ロージー」
 確かに彼女の言うとおり、治癒の力は戦場にあってほしいものではある。しかしそのためだけにリンティアを城へと連れて行くのはひどく難しいことに思えた。
「わかってくれないか。おまえの気持ちは嬉しいが、危険には代えられない」
「そんなの、皆同じよ。近くにいなければ、癒すことすら出来ないもの」
 リンティアの思いは強く、なかなか譲らない。さすがのローレンシアもほとほと困りかけたときに助け舟を出したのがヤンだった。
「悪いがお嬢さん、お前さんを無事に守る手がねぇんだよ。諦めな」
 いつもの、ぶっきらぼうではあっても優しさが含まれた声ではなかった。それはまさしく戦闘員としてのヤンであり、『アンシアン』リーダーとしてのヤンだった。
 リンティアはキッとヤンを見つめてはいたが、灰青の瞳に睨み返されて俯き、大きな瞳に涙を溜めたまま弱々しく頷いた。
「すまないな」
 そう言ってローレンシアが彼女の肩をぽんと叩くと僅かに金髪が左右に揺れ、ぽつりと涙がリンティアの膝に落ちる。苦笑しつつローレンシアはヤンに目を向けて軽く頷けば、不機嫌そうに眉を寄せてヤンが顎で返事を返して部屋を出て行った。


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