第三話:すべてを捨てても構わぬか
まず二人が始めたことは、近衛騎士の中から自分たちと同じ思いを抱いている者を探すことから始まった。しかし安易な決意では駄目だ。今の地位をすべて蹴り、一生を追われる身となっても構わないと思えるだけ強い意志を持った者でなければならない。
彼らが慎重に時間をかけて調べた結果、ここ二週間休養をしている兵士の話を耳にした。その男のいた小隊は一ヶ月前、ロサード王の命にてティラードにある小さな町を焼き討ちにした。その町の主が王に楯突いたとの噂が元だった。
「で、それきり奴は出て来やしねえんでさ。あんまり休めば陛下の心象も悪いってーのに」
溜息をついて同じ小隊の男がそう言い、じゃ、と片手を挙げると鍛錬場へと駆けて行く。その後姿を見つめながらヤンは肩を竦めて見せる。
「無理だな、その程度で神経ヤられるようなヤワいのはいらねぇよ」
「まあ、話を聞いてみようじゃないか。――行ってみよう」
言い出したら聞かねぇからな、とヤンはもう一度肩を竦めた。幼い頃からそうだった。ローレンシアは自分の目で見て納得したことしか信じない。だからこそ、噂だけで町を焼き討ちにする現王に反発を抱くのだ。
教えられた男の部屋はパン屋の二階の一番奥の部屋だった。そこまで案内してくれたパン屋の子供に礼を言って小銭をやると、ローレンシアはノックをする。
数回繰り返した後、やっと扉がほんの少しだけ、開いた。
「誰だ」
「エストレージャ国王軍近衛騎士、ローレンシア=ウォーディード」
「……近衛騎士……ウォーディード?」
扉の向こうで男がはっとしてその名前を繰り返す。面識はなかったが、さすがにローレンシアの名前は知っているらしい。
「……何用だ」
「先日の任務について聞きたいことがある。入れてくれぬか」
しばらくの沈黙の後、扉が開かれた。暗い部屋の中、憔悴した金髪の男の姿が見える。
「オレはヤンだ、同じく近衛兵」
「……テリー=ホワイトだ」
男はあっさりと名前だけ名乗り、奥の椅子を二人に勧める。部屋が薄暗いのはカーテンがしっかりと引かれているせいだった。窓の外の誰かの視線を気にせずにいいか、とローレンシアは内心苦笑して椅子にかける。それにヤンも倣った。
茶器の用意をする気配も無く、男は疲れたように歩いてくるとベッドに腰掛ける。腿に両肘をつき、頭を抱えるようにして呻く。
「そろそろ通告が来る頃か、とは……思っていた」
通告とは、ずっと休んでいる男――テリーへの処罰のことだろう。見たところ怪我や病気ではないようだし、確かにそろそろ切られる頃だ、とローレンシアは頷く。
「あたしたちはその伝令じゃない。むしろ出来れば、ここへ来たことは内密に願いたい」
意外な言葉に、テリーが頭を上げてぼんやりとローレンシアを見つめる。
「お前さんを責めに来たわけじゃねえってことだ」
ヤンの補足に頷いたローレンシアが、真顔で頷くと顎を引いた。その真剣な眼差しにテリーはぴくりと緊張する。
ウォーディードといえば元副団長を父に持つ女だ、とテリーは記憶を辿る。ああそういえば、隣の男はその古い友人でこれもまた元副団長に可愛がられているとか。
「率直に聞こう。――先日の任務についてテリー=ホワイト、おまえの意見を聞きたい」
「意見……?」
テリーが目を見開いて鸚鵡返しに訊ねる。それもそうだろう、国王軍に従軍してから自分の意見を聞かれたことなど無かった――この国の兵士にとって必要なのは従順さで、意見ではない。
「そうだ。あの任務でお前がどう思ったか、を聞きたい。もちろん他言はしない」
ローレンシアは重ねて念を押す。
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