表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

絵をかく少女

作者: 天満

ある小さな町に、美しい少女がいました。

少女は絵をかくことがとてもとても好きでした。


ある日のことです。不思議なことがおこりました。

少女がカンバスにかいたことりが、絵から飛び出して空へ逃げてしまったのです。

この話はすぐに町じゅうに広まりました。


「話はほんとうなのだろうか」

町中の人が少女の家の前に集ってきました。

「ほんとうだ」「うそだ」「ほんとうだ」「うそにきまっている」

声はだんだん大きくなり、けんかがはじまってしまいました。


少女はとても悲しくなりました。

「どうすれば、けんかをとめられるのかしら」

考えて、考えて、そして。

町中の人の前で、少女は一枚の絵をかきました。

それは、七色にかがやく、とてもきれいな花でした。

花はカンバスの中で次から次へと咲き、やがてカンバスから溢れ出しました。


けんかをしていた人たちは、いつのまにかけんかをやめていました。

花がほんとうにほんとうにきれいだったからです。

小さな町はあっというまに花でいっぱいになりました。

そして、笑顔でいっぱいになりました。


「もっともっと、みんなを笑顔にできないかしら」

少女はかんがえました。

「おなかをへらしている人には、やわらかいパンを。

さむくてふるえている人には、あたたかい服を」

少女は、貧しい人のために絵をかくようになりました。

お金のある人は、少女のために絵をかく道具をもってくるようになりました。

お金のない人は、少女のほどこしに元気をもらい、がんばれるようになりました。



話は広まり、ついに王様の耳にとどきました。

ほしいものはなんでもほしがる王様です。

みんなが大好きな少女のところへ、みんなが大嫌いな王様がやってきました。

きらきらしたふくをきた王様は、ふんぞりかえって少女に言いました。

「宝石をたくさんかけ」

「できません」

「黄金をたくさんかけ」

「できません」

「なぜできないのだ」

「わたしは、貧しい人のためにしか、絵をかきません」

王様はひどくおこりました。

「わしの言うことがきけないのか。

その娘をつれていけ」

町中の人が王様をとめようとしました。

王様はけらいに命令しました。

「わしにさからうやつは、みんなつかまえろ。」


笑顔でいっぱいだった町の人たちが、王様につかまるなんて。少女は王様にたのみました。

「わたしは王様についていきます。だから、町の人をつかまえるのはやめてください」

少女がついてくるとわかって、王様は嬉しくなりました。

町の人のことなどすっかりわすれて、王様は少女をつれて町からさっていきました。


お城に帰った王様は、城の中の高い塔に少女をとじこめました。

「さあ、わしのために絵をかくのだ。

そうだな、まずは宝石がいい」

「わかりました」

少女は王様の前で絵をかきはじめました。

大きな大きな、山の絵です。山は、水晶でできていました。

「おお、これはすごい。いつできあがるのだ」

わくわくしながら、王様がききました。少女はこたえました。

「王様、絵の具があればもっとはやくできあがります。たくさんの絵の具をもってきてくれませんか」

「よし、わかった」

はやく水晶の山をてにいれたい王様は、けらいに絵の具をもってくるよう命令しました。

けらいはすぐに、たくさんの絵の具をもってきました。

「王様、まだたりません」

「どのくらいあればいいのだ」

「もっとたくさんです」

王様は、またけらいに命令しました。けらいはすぐに、もっとたくさんの絵の具をもってきました。

「王様、まだたりません」

「どのくらいあればいいのだ」

「もっともっとたくさんです」

「よし、わかった。わしも絵の具をとりにいこう」

まちきれない王様は、ついにけらいといっしょに、もっともっとたくさんの絵の具をとりにいくことにしました。


高い塔から王様と王様のけらいがいなくなると、少女はかいていた水晶の山の絵をいそいでかきあげました。そして、窓から下へえいっとなげました。

水晶の山はすぐにほんものの山になりました。山はどんどん大きくなり、少女のいる高い塔のまわりは谷になりました。高い塔からみえていた王様のすがたが、どんどん遠くなっていきます。あっというまに、高い塔のまわりは、だれもはいってこられないような山奥になりました。


山奥にとりのこされてしまった王様は、もう少女に絵をかかせるどころではありませんでした。つまづいて、ころんで、ぼろぼろになりながら、やっとのことで山から出ることができました。

こうして、少女は王様をこらしめることができたのでした。

けれども、冷たい水晶にかこまれた、山奥の高い塔の中で、少女はひとりぼっちになってしまいました。


「わたしが絵をかかなければ、こんなことにはならなかったのに」

少女はすわりこんで、しくしくとなき出してしまいました。

涙は石の床までながれ、小さなみずたまりをつくりました。


と、とつぜん、キィキィというこえがきこえてきました。

「あんたのせいじゃないさ。あんたはいままで、たくさんのひとをたすけてきたじゃないか」

びっくりして、少女はききかえしました。

「あなたは、だれ?」

「ねずみさ」

なんと、ねずみのかたちをしたみずたまりが、床からとび出したのでした。

「かんたんさ。あんたがいままでしてきたように、じぶんでじぶんをたすけたらいい」

たかいとうにはたくさんの絵の具がありました。

「そうとも。たいせつなのは、つかいかたをまちがえないことさ。あんたはよくわかっているだろう」

なみだがかわいて、ねずみはきえていきました。

「ありがとう、ねずみさん」

ほほにのこっていた涙をふいて、少女はたちあがりました。


「ちいさなだんろを、ひとつだけ。」

だんろの絵がかきあがると、くらくてじめじめしていた塔の中が、ぱっとあかるく、あたたかくなりました。


だんろのあかりの中、少女はもういちまい、絵をかきはじめました。

剣と盾をもった、騎士の絵でした。

「みんなをまもってくれる、騎士といっしょに、町へかえるのよ」

高い塔にはたくさんの絵の具がありました。

「大きな、強そうな剣がいいわ。それと、炎にもまけない盾」



絵がかきあがったとき、騎士は少女を高い塔から助けだしてくれることでしょう。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  欧州民話風ふんわりファンタジー。こういうお話、好きです。  ねずみのチュー告は、少女の涙由来だから、「冷静な自分」からの忠告なのかなぁ……などと深読みしました。 [一言] はッ! これ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ