ファンタジーショートショート:復活した勇者
「俺がまた復活したということは、同じく魔王がこの世に復活したと言う事か…」
そう言うと勇者は自身の体をひとつひとつ確かめるように動かした。そしてその次に自身の持っている剣等の装備の確認を行った。
「体のほうも問題無し。装備もそのまま大丈夫だな。さて魔王はどこで復活したのやら…」
そう言いながら勇者は自身が封印されていた祠を出た。次の瞬間動きが固まった。
「何だこのでかい建物の群れは!?ここは一体何処なんだ?」
そう、勇者の祠の周辺には巨大なビルが乱立しており目の前の舗装された道路には様々な車が猛スピードで走り回っていた。
「俺が封印される直後はここら辺一体は森だったはず、それに見慣れない物ばかりだ。なんだあの猛スピードで走る箱は…」
勇者が混乱してると、そこへ黒塗りの車が複数台止まった。
「はい、勇者を確認しました。えぇ当時の装備のままです。本人に間違いないでしょう。はい、お連れします。」
スーツを着た男が耳元で何かと話をしながら勇者の前までやってきた。
「貴方が勇者様ですね。私がこの国の代表より勇者をお連れしろと仰せつかった者です。是非我々に付いて来ていただけますか?」
困惑しながらもこのままでは何の情報も得られないと感じた勇者は
「分かった。そこまで連れて行ってくれ。」
早速車に乗り込んだ。
「しかし早いなこの乗り物は。」
勇者がそう溢すと
「勇者様が魔王を封印されてもう数百年経ちました。あれから我々は様々な出来ことがありました。一番大きい事といえば、魔法が使えない私達が科学という技術を生み出した事でしょうか。」
そうスーツの男は答えた。
「カガク?」
勇者が聞きなれない単語に聞き返してみると
「そうです。魔法は勇者様と魔王のみが扱えるものでした。そこでは私たちは別の方向を向いて技術革新に明け暮れたのです。この車や私が話していた携帯電話もその1つです。今までの歴史を少しお教えしましょうか?到着までまだまだお時間が掛かりますので。」
「是非お願いしたい!」
こうして到着するまでの時間勇者は歴史の勉強をする事になった。
到着した建物の一室にはでかでかと『魔王対策室』なる看板が付けられていた。
「勇者様をお連れしました。」
スーツの男がそう言うと奥から初老の男性が現れた。
「始めまして勇者様。私はこの国の大統領。まぁこの国の代表です。」
大統領が挨拶すると
「此方こそ始めまして私が勇者だ。挨拶もいいが、魔王が復活しているのだろう?私は何をすればいい?」
勇者が、そう聞いてみると
「最後のとどめをお願いします。他は我々だけで大丈夫ですよ。」
その言葉に勇者は唖然とする。
「馬鹿な!?相手は魔王と魔王軍だぞ。普通の人間である君達にどんな事が…」
その言葉を遮る様に大統領が説明する。
「我々も科学技術が発展し、それこそ一瞬で大軍を葬り去るような兵器の開発に成功したという事です。それに魔王復活も場所も全て予測済み。ある程度の罠も仕込んであるのですよ。」
勇者が驚いていると
「ただ魔王はその勇者様の剣で無いと封印できないご様子。なので魔王と魔王軍には私どもで大打撃を与えますので、とどめをお願いします。」
「分かった。人がどれだけ進歩したのか見せてもらおう。」
勇者は試すようにそう言った。
「では、勇者様をポイントにお連れしろ。ポイントに到着次第作戦決行とする!」
「空も飛べるようになったのか…」
勇者が飛行機に驚いていた。
「えぇ、ポイントまでもう直ぐですよ。」
ポイントに到着した勇者はその指揮所のモニタ前に居た。映し出されているのは様々なモンスターそして不適に笑う魔王の姿だった。
「魔王を確認!これより作戦を決行する!」
勇者の見ているモニタの前で大爆発が起こった。
「魔王の復活位置にある程度地雷やら爆薬やらが仕掛けてありまして、それらを一斉に点火させたのです。」
それだけで既に大ダメージを受けている魔王軍だが
「これからです。」
勇者についてきたスーツの男が説明する。すると上空から様々な物がまるで意思があるかのように飛び回り地面に突き刺さり大爆発を起こす。
「モンスターでも空を飛べるのが居ますけどね。我々は生き物が飛ぶ事が出来ないくらい高度での活動が出来るようになったのですよ。更に火力やその精度も比べられないくらい高いものを獲得したのです!」
実際その通りのようで、もう魔王軍に動いているものは見当たらなかった。
「そろそろ頃合ですね。勇者様、魔王の封印をお願いします。」
勇者が乗せられた装甲車の窓には黒こげになったモンスターの死骸があたり一面映し出されていた。
「魔王を発見したとの情報が入りました。今から向かいます。」
スーツの男が勇者にそう報告した。
現地に到着した勇者が見たものは彼方此方が千切れかけ、黒こげになりながら何とか息をしている魔王の姿だった。
「魔王よ…」
勇者が憐憫の目を向ける。
「そこにいるのは勇者か!?一体なんだこれは!お前の仕業か!?一体何が起こったのだ!」
混乱している魔王に勇者は
「もう俺もお前も過去の遺物ということのようだ。さぁ封印されるがいい。」
そう言って勇者は剣を魔王に突き刺した。
「怖い…今度復活する時はどんなことをされるのだ!」
それが魔王の残した言葉だった。
「お疲れ様です。勇者様。」
スーツの男は勇者に声を掛けた。勇者は疲れたように言った。
「俺は殆ど何もしていないさ。それこそ人間の勝ち取った勝利だ。皆で祝うといい。俺も直ぐ封印されるだろう。」
そう言うと勇者の周りが光り始めた。
「で、ではその剣を最後に見せていただきたい!」
スーツがおかしなことを言うので
「まぁいいか。」
と剣を抜いて見せた。そうするとスーツの男は剣に触ったり軽く拭いてみたりする。
「ありがとうございます。これで剣の成分が少しでも分かればいいのですが。」
というとその拭いた布を大事にパウチに仕舞い込んだ。
「…俺は次の魔王復活の時復活出来るんだろうか?剣のレプリカなんて造られて俺も要らないとか言われそうだな。」
そう思いながら勇者の意識も光の中に消えていった。