ホンネとタテマエ-Innocent Style-
気がめいる。
担任の渡貫先生がニヤニヤと話をする時は、いつも嫌な予感がする。
「えー、最近、不審者が出没しています」
たしかに、そういう話を聞く。
「そこで、今朝の会議で決まったことなんですが」
急に、悪寒がした。
「うちのクラスには男女が15名ずついますね」
まさか。
「そこで、男子は女子を家まで送っていってあげましょう。
幸い席も隣どうしになってるから、男子は、隣の女子を送っていくように」
真っ先に抗議したのは、岩沢。
「せんせー、部活は!? 部活はどうなるんだよ!!」
「安心しろ、この騒ぎでしばらく部活は休みだ」
サッカー部の岩沢の表情からは、嬉しさと残念さがにじみ出ていた。
「他に質問ある人ー。なければ、終わります」
そういって渡貫先生は、級長の私に目配せした。急かすように。
『キーンコーンカーンコーン』
岩沢にとっては地獄を告げるチャイムが鳴った。
「ぉい、ブスッ!!」
よりによって、隣の男子がこいつだもんな。
「聞いてんのかよ、ブスッ!! 小島っ!!」
「最初から名前で呼びなさいよ」
「うるせー、ブスをブスって言ってなにが悪い!!」
このやりとり、こいつは飽きないのかな。
「で、ブス、おまえの家どっちだよ」
「な、なに興奮してるの?」
「こ、コーフンしてねーよ」
「してるじゃない!! 気持ち悪い」
ちょっと言いすぎたかな。
「ごめん」
え? 謝った?
あの岩沢が?
「やめてよ、そんなしおらしいの、岩沢らしくない」
え?
どうして私は今、こんなことを言ったの?
「え?」
あーもう、岩沢も不思議に思ってる!!
私のバカ!!
「しおらしい、ってどういう意味?」
岩沢のほうがバカだった!!
「自分で調べなさい、バカ」
「なんだと、ブスッ!!」
「ブスブス言って面白いの? 幼稚ね」
「なんだと、おまえの為にわざわざ一緒に帰ってやるってのに」
「じゃあ、はやく送っていってよ」
「……案内しろよ」
「あれ、今のとこ、左でよかったのかよ」
「うん」
「おい、まだ着かねーのかよ」
「うん」
「ここ、さっきも通ったぞ」
「知ってるよ。わざとだもん」
「は? ふざけんじゃねー」
「岩沢って、鈍感ね」
「なんだと?」
「なによ」
「ここがおまえの家か」
「うん」
「あ、明日!!」
「?」
「明日の朝、迎えに来てやるよ、ブスッ!!」
「ありがと」