トワの家族
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。襲い来る盗賊達を倒した二人は共に故郷を目指し旅に出る。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「どこまで行っても砂、砂、砂だね」
「砂漠だからな」
薔薇色の夕空に金星が煌めき始めた。砂漠を歩く2頭のラクダに股がりながら、男と少年が話をしている。
地球を覆う砂漠にしてみれば、彼らは砂粒にも満たないだろう。旅を始めたばかりの少年のフォレスは、その自然の壮大さに圧倒されるばかりであった。
旅立つ前、二人はクル村で集められるだけの食糧を集めたが、盗賊に襲われた後ではやはり長旅をするのに充分な食糧は得られなかった。
その為、砂漠に育つ植物を集めたり獣を狩ったりして、食糧を確保しながら夜を移動した。昼はテントを張り休んだ。
「ねぇ、トワ」
ふいに、フォレスが聞いた。
「なんだ?フォレス」
「素朴な疑問なんだけど、トワが生まれた頃って、日本はどんな国だったの?」
トワは風に飛ばされないように帽子を押さえながら、答えた。
「今から5千年前というと、縄文時代辺りだな。
稲作が始まる前だ。その頃の日本は、中国より発展がずっと遅れていたが、それを俺が知ったのは、ずっとずっと後だ」
「なんだか、僕には気の遠くなりそうな話だよ」
フォレスがため息をつくと、トワはクスクスと笑った。
「無理もない。常人のする話じゃないからな」
「トワは人間じゃないの?」
トワはすぐには答えなかった。
「人間、だった」
ラクダのノールを歩かせながら、トワはまた一呼吸置いて言った。
「少なくとも、家族といた頃までは、ね」
「何があったの?」
フォレスが聞くと、トワは物思いにふけるかのように前方を眺めた。
「んー……ちょっと色々あってな。今はまだ答えられない。すまないな、フォレス」
フォレスは首を振った。そして、少し遠慮がちに言った。
「あの…トワの家族のことは聞いてもいい?」
「それは構わない」
「家族、いたんだね」
「意外か?」
トワがクスリと笑う。
「少しね。家族は何人なの?」
「父と母と俺で、3人だ」
「僕と一緒だね」
「俺の上に兄がいたらしいんだが、体が弱かったんだな、俺が生まれる前に幼くして病で死んじまった」
「お兄さん、可哀想だね」
「ああ、無念だよな。でも、当時はよくあることだった。
兄弟が多い家でも、全員がちゃんと成人するまで生きてられるか分からない時代だったんだ。医術が発達していなかったからな。
病気や災害があったら、皆シャーマンっていう祈祷師にすがる時代だ。祈るだけで病気が治るなんて、今からすれば笑えるよな。
でも、その頃は、自然や全ての物に霊が宿るとされ、人々は自然の脅威を畏れていた。精霊信仰って奴だな。
俺の生まれた村も同じさ。山奥で土砂災害も多かったからな。だが、その自然の恩恵によって、狩りや採集での生活が成り立ってた」
「その頃は本当に自然が豊かだったんだね」
「ああ。山は、今みたいな黄色い砂の山じゃなく、たくさんの木に覆われた深い深い緑の山だった。
木の実はたくさんあったし、獣も多く住んでいたし、綺麗な川も流れていたよ」
トワが懐かしむように言った。
「いいなぁ!宝の山だね」
「ああ。けど、あの頃は、まさか地球がこんな風になるなんて夢にも思わなかったな」
「僕も、昔この砂漠にも木が生えていたってことが信じられないよ。トワの話なら信じるけどね」
フォレスがニッコリと笑った。
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