第五幕 歌う善人
薄暗い部屋の中、害児は一人ティーを楽しむ。
その表情はどこか嬉しそうで、ぼそりと独り言のようなことを言っている。
「今回の件、不幸な出来事ではありましたが、これで随分とやりやすくな
ります。」
その声に答えて闇から声が流れてくる。
「全く首領のお手並み、感服いたしました。」
その声を聞き害児はますます上機嫌になっていく。
「ふふっ。私は何もしていません。しかし・・無能な輩というものは
黙っていても期待通りに動いてくれるというものです。」
「それも首領の人徳がなせる技でござましょう。」
害児はそれには答えない。カップをテーブルに置き義足を点検し終わると、
車椅子に戻る。
「それにしても善い人さんは、今日も手伝いに行っているのか。」
噂をされた善い人は、手伝いと称し今日も公園で砂山を作り子供たちと遊んで
いた。
「いやあ、善いことをするのって楽しいなあ。」
「お姉ちゃんの作った山大きいね!」
「わたしは善い人だからね。」
善い人の作った砂山は大きいというものではなく、公園からあふれて小山
のようになっていた。
子供たちはその小山で遊んでいたが、周りの大人たちはいい迷惑、善い人には
町を助けられた恩義があったが、悪人と言われて善い人にぶっ飛ばされた
人達も中に混じっていたので複雑な感情だった。
「善い人さん。手伝ってくれるのは結構なのですが、できれば力仕事を担当
していただきたいのです。」
町の人の一人が勇気を振り絞り善い人に抗議をする。
「わたしは力仕事に向いてないんだよ。」
「し、しかし・・。」
「お、おい。その辺にしておけ。また殴られるぞ。」
「あ、ああ・・。」
町の人たちは、はた迷惑な善い人を尻目に町の復旧作業に戻っていった。
やがて日も暮れたので、善い人はそろそろ帰ることにした。
「善い人はそろそろ家に帰って寝る時間だよ。さてタンクさんはどこにいった
かな?」
タンクさんというのは、善い人の家に居候している背の高いすらりとした
女性で、実はロボットだったりする。
以前、ゴミ山に埋まっているところを善い人に拾われ、その後、彼女を狙う
悪のロボット連中を追い返し、今に至る。
「やあいたいた。」
タンクは小型の戦車になって、のこぎりなどで木を切っていた。
「帰ろうか。タンクさん。もう日が暮れるよ。」
「もうそんな時間なの?ああ本当だ。」
タンクは変身して人間に戻り、善い人と一緒に帰路についた。
善い人は、震災で崩れた家を頑張って建て直している町の人たちを見て、
うれしい気持ちになった。
自分がいいことをしたおかげだ。とそう思った。
「みんな善い人になってよかった。よかった。」
「善い人ちゃんが誰か悪人さんをやっつけたんでしょう?すごいなあ!」
「まあね。私は善い人だからそのくらい当然だよ。」
善い人はくるくる回る。
「タンクさん。今日もゴミあさりにいくの?」
タンクは、ゴミ山や遺跡などで何かを発掘するのが趣味だった。
ロボットなので疲れることはなく夜通し、発掘しても大丈夫なのであった。
「もちろん!今日は何が出るかなあ?」
「善いものが出るよ。間違いない。」
「善い人ちゃんがそういうならそうなんだろうねえ。」
タンクは、手首をパカパカと動かす。おそらく喜んでいるのだろう。
「そうだ。いいものがあった。」
タンクは手首から何を出す。妙な材質でできた何かの像だった。
「善い人ちゃんにこれあげるよ。かわいいでしょ?」
善い人はせっかくいい気分だったのに変な像を見せつけられて機嫌が悪く
なった。
「いらないな。そんな変な像。」
無愛想に返答する。
「またまた照れちゃって。はい。持っててね。なくしちゃだめだよ。」
タンクは善い人に無理やり像を持たせる。
善い人の都合などお構いなし。非常にマイペースな人であった。
「まあいいか。よろずやに売ろう。」
「売っちゃだめだからね!」
「こんなゴミいらないよ。」
「ダメダメ。持ってないとダメ!」
善い人は困り果てた。こんな変な像は明らかに要らなかった。
「これも善いことなのかな?」
善い人は仕方なく変な像を服にしまいこむ。
「じゃあ私はゴミあさりしてくるね。」
「うん。」
善い人は家に帰ると、漫画を書きながらハエを実験台に技を放つ。
「こんな感じかな?いやなんか違うな。」
「ぴ、ぴぎー!!」
善い人はハエと一通り遊んだ後、食事にすることにした。
その時、扉がノックされる。
「タンクさん?入って善いよ。」
「善い人ちゃん。手がいっぱいだから開けられない。」
「もう仕方ないな!」
善い人はしぶしぶドアを開くと、大量のごみを抱えた戦車が部屋に入って
きた。
善い人の家はゴミだらけになり、そのうえで二人は食事をすることにした。
「今用意するから待っててね。」
タンクは自分の頭のハッチを開け、コップを二つ出す。
そして善い人には水を自分にはガソリンをつぎゴミ山の上に並べる。
「じゃあいただきま~す。」
「いただきます。」
善い人とタンクは、食事をしつつ話に花を咲かせた。
善い人は自分がいかに善いことしたかを語り、タンクを驚かせ、タンクは自分
がどんなにすごいものを発掘したかと語り善い人を驚かせた。
「すごい!すごいよ。タンクさん!」
「善い人ちゃんもだよ!」
さて、タンクはまた裏山に戻り、善い人は寝ることにした。
「おやすみ。善い人ちゃん。またね。」
「ふわあ・・。今日も善いことしたなあ。」
善い人は2時間ほど寝入り、うーんと背伸びをした後、外に出かけた。
家の外では害児が待っていた。
「善い人さん。今日もいい天気ですね。」
「そうだね。」
今日はどちらかというと曇っていたが、このいい天気というのは害児の口癖
であり、善い人も別に空が曇ってようが雨が降ってようが困るということは
なかったので、この問答の内容は常に変わる事がなかった。
「それにしても今日もごみだらけですね。」
「タンクさんが持ってくるんだよ。」
「善い人さんも大変ですね。」
「わたしは善いことができればそれでいいんだよ。」
善い人にとって部屋がゴミだらけになろうがたいしたことではなかったが、
邪魔なことは確かなので、いつも処理はしている。
「さて・・。昨日も手伝いに行ってたそうで?」
「それはもちろん。善い人だからね。」
「そうですか。そうですよねえ。お陰様で私のほうもずいぶん・・・げふん
げふん、いやなんでもないです。」
「害児さん。町の手伝いするのも飽きたから何か善いことないかな?」
「それは困ります。善い人さんにはせいぜい町の復旧の妨害をしてもらわ
ないと・・・。」
「ん?」
「いえいえ、ほら。小鳥のさえずりでしょう。そんなことよりも善い人さん。
見てください。いい天気です。」
善い人は害児と一緒に空を見上げる。
「それで害児さん。何か善いことはないのかな?」
善い人にとって関心はそこだけで、害児が行う不審行動のあらゆること
に興味などわくわけはなかった。
それは害児にとっては大助かりなことではあったが。
「また何かあったらお知らせしますよ。そうそう、私は用事があったのだった。
そろそろ城に戻ります。」
害児は冷や汗をかきつつ、逃げ出した。
向こうからプレオが近づいてくる。どうやらガスが来たようだ。
「ぶおんぶおん、キュイイーン!」
プレオは善い人の家の前にとまる。
「善い人君。おはよう。いや毎度助かるよ。」
「ガスさん。頼んでおいたものは?」
「ああこれか。」
ガスは車からガサガサとボウガンを取り出し善い人に渡す。
そのボウガンは、善い人の体ほどの大きさであり、まさに善い人専用の特注品と言える代物だった。
「常人の筋力じゃまず引くことはできない。吾輩自慢の一品なのだ。」
善い人はもうそんなことは聞いておらずボウガンで遊んでいる。
「気に入ってくれたようだな・・。さて荷物を運ぶとするか。」
ガスはせっせと善い人の家から荷物を運んでいると、そこに害児が近づいて
きた。
「やあガスさん。相変わらずハイエナのような方だ。」
どうやら害児は暇なのでガスに嫌味を言いにきたらしい。
あるいは先ほどの失態の腹いせかもしれない。
「へへっ。害児さん。これからもご贔屓にしてくだせえ。」
ガスは揉み手をしつつ笑顔で対応する。
「全く、善い人さんからただで物品をむしろうなんて自分で虫がいいとは思わ
ないのですか?」
「しかし・・これが吾輩の性分ゆえ。」
申し訳なさそうに、しかしにやつきながらガスは答える。
害児はその言葉にそっぽを向く。
「反吐が出る!ゴミ虫以下ですよ。あなたの所業は!もういい。帰っ
てくれ!」
帰れと言われて帰ったら商売にならない。
害児のあまりの理不尽な態度にもガスは笑みを絶やさない。
それはなぜかというと、害児がガスにとってお得意様だからだった。
「まあまあ害児さん。例の町の復旧で随分荒稼ぎしてるらしいですな。
吾輩もあやかりたいものだ。」
「な、なにっ!」
害児はガスをにらみつけた。しかしガスはニヤニヤ笑うばかりで何の手ごたえ
もない。
「これは口が滑りましたかな。」
「まあいい。二度目はありませんからね。」
「いやはや害児さん。今後も吾輩のよろずやのごひいき・・。」
害児は皆まで聞かず、足早に去って行った。
「やれやれ。あの人は傲慢なのがいかんな。さて、今日は善い人君に手伝って
もらうとするか。」
ガスは善い人を手招きし、呼びつける。
「なにかな?ガスさん。私は善いことをするので忙しい。」
「善い人君。今日は吾輩の手伝いをしてもらえないだろうか。
ちょっと今日の商談の相手は面倒なのだ。」
「めんどうくさいなあ。」
「これも善いことというものだぞ。善い人君。」
「そうかな?なら善は急げだ!」
善い人はプレオを蹴っ飛ばして、自分もプレオに乗り込む。
プレオはすごいスピードで吹き飛んでいく。
「やあ。快適だよ。善い人君。方向もばっちりだ・・・。待てよ。
これは落ちた衝突でプレオが壊れるのでは?いやまず吾輩が死んでしま
うじゃないか。
・・吾輩は死にたくない!」
ガスは車の上で青くなった。
「善い人君!なんとかしてくれ!」
「なにを?」
「なにをってそりゃ・・。」
ドスン!バコーン!
車は森の中に墜落した。
「わ、吾輩のプレオがー!」
ガスは慌てて車から降り損傷を確かめる。
「ほっ。助かった。それに吾輩も何ともない。これは重装備のおかげだな!」
「ガスさん。どこに悪人がいるの?早くいいことしに行かないと。」
「な、何を言ってるんだ。善い人君。吾輩は危うく死ぬところだったんだぞ
?」
「ふーん。なんかものすごくどうでもいい。」
「ど、どうでもいいだってー!」
ガスは顔を赤くしたり青くしたりしながら激昂する。
「そんなことより善いことはまだなの?本当に使えないなあ。」
「はっそうだ。こんなことしてる場合じゃない。善い人君よく聞くんだぞ。
今回の仕事は素材の採掘だ。ドラゴンが住み着いている洞窟に行って
素材を掘ってくるんだ。」
「ドラゴン?」
善い人は怪訝そうな顔で聞いた。
「古代生物の一匹で高い知能と戦闘能力を持っている種族だよ。」
「へえ。面白そうだね。」
「面白くはない。あそこに住んでいるドラゴンは好戦的だから触発して
はダメなのだ。」
「戦ってみたら漫画の題材になりそうだ。」
「はあ。少なくても我輩を巻き込まないでくれよ。
それに善い人君の馬鹿力がないと採掘できないんだから手伝っても
らわないと困る。」
「わたしは力仕事は得意じゃないんだけどな。」
「どの口がそれを言うか。善い人君なんて馬鹿力をとったら何の取り柄
もないじゃないか。」
その一言は善い人が激怒するのに十分すぎる一言だった。
「なんだとー!わたしを馬鹿にするものはゆるさぁーん!」
善い人はさっきガスにもらったボウガンを向ける。
「み、見くびってもらっちゃ困るな。善い人君。それには矢が入ってない
のだよ。」
ガスの横を何かが通り過ぎ、後ろで爆音が聞こえる。
「え?」
ガスが後ろを振りむくと、辺りの木々が粉々に吹き飛んでいた。
「次は右目をもらうよ。」
「み、右目?善い人君冗談は・・。ぐわっ!」
ガスの体に巨石が命中し爆発する。
ガスはごろごろ転がり木にぶつかる。
「じゅ、重装備のおかげで何とか助かったが・・。が?」
ガスの前の前に無表情の善い人が立っていた。
「善い人君。吾輩ほどの善い人はいないと思うのだがどう思う?」
ガスの命は風前の灯。しかしガスは善い人の思考パターンを見抜いている。
「いやガスさんは悪人だよ。」
「まあ待て。善い人君。君はドラゴンを見たくはないか?」
「ドラゴン?」
「さっきいってた古代生物だよ。もうすぐ先にある。どうだ。ここは一つ
仲直りして一緒にドラゴンの住処に行こうじゃないか。」
善い人はそれを聞きぱっと表情を明るくした。
「ドラゴンか。どんなのだろうな。ガスさん早く行こう。」
ガスはそれを聞いてほっと一安心。
「ふうー。助かった。」
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