第四十九幕 新たな善人
花の国は、善い人が想像していたものと違い、人影一つなかった。
その有様を見て、穀潰しは善い人を馬鹿にする。
「どういうことだ?お前があれだけびびっていて、あまつさえ、
この俺に助けを請うほどにしては、拍子抜けの静かさだな。」
「しっ!黙って!今この瞬間にも、悪人が私達を狙っているという
事実を忘れてはならないよ。」
「あっそう。で、その悪人とやらはどこにいるんだ?」
善い人はしかしその言葉を無視して、ずんずん先に進む。
「ちっ、都合悪いことは全部無視かよ。」
そういいながらも、仕方なしに穀潰しは善い人の後に続く。
なぜか、豪雨と雷に見舞われたが、二人はあまり気にする様子はない。
二人が、花の国の領内をどんどん進んでいくと、地面の上に、
絨毯をしいてその上に、座っている何者かが見える。
穀潰しはテンションをあげて善い人に話しかけた。
「ひゃっはー!善い人さんよお!ようやく悪人のお出ましだぜ!
俺たちゃ悪人だ!気に入らないやつをぶん殴ってぶっ潰すぜ!」
善い人はすでに、絨毯の上の人物に蹴りをくらわせていた。
「S・ショット!」
要するに蹴り上げだ。絨毯の上の人物ははるか上空に吹き飛ぶ。
と思いきや、元の位置に戻る。
穀潰しは、例の幻術だなと思った。
善い人は、驚きもせず、再び蹴り上げ、その人物は元の位置に戻る
を繰り返している。
穀潰しは、ため息をつきながら、善い人らに近づく。
「おい、テンマ。穀はねえのか。」
そういいながら、穀潰しは絨毯の上に座り込む。
絨毯の上で今もなお蹴られている人物は、テンマ・トキトだった。
天崎というのは偽名だったというわけだ。
「ゼロもきたのか。まあ楽しめ。」
「相変わらずの馬鹿野郎だな。てめえはよ。
俺たちゃお前をぶっ潰しにきたんだぜ?
いくらお前でも、俺たち二人相手にはかなわないだろう?
違うか?」
テンマは善い人に蹴られながら答える。
「知っているか、たわけ。どうやら害児は悪人どもを集めて、
ヒノキ村自治区で暴れてるらしいぞ。」
「害児?そんな小者が今のこの状況と関係があるのか?」
それを聞いて聞き捨てならなかったのが善い人だ。
いきり立って、テンマに反論した。
「害児さんは善い人だ!そんなことをするわけはない!」
「だが事実だよ。」
テンマはそういい、周りの情景が変わっていく。
周りの情景が変わったのではなく、彼らがテンマのテレポートで移動
させられたのだ。
一瞬のうちにヒノキ村自治区に移動する。
「いけすかねえ。サイキックか!」
穀潰しが吠えた。
「おのれ!害児!許さん!」
善い人は、悪人達を談笑してる害児を見つけると、問答無用で蹴りかかる
。
慌てた害児は、たくさんの悪人に守られつつ、
みんな逃げろーといいつつにげていく。
あまりにも情けない変わり果てた害児の姿に、
善い人はがっくりと肩を落としたが、しかし善人の使命は、
何よりも重いものだと思い返し、
再度害児に追撃をしかけようとしたところ、
テンマに服を引っ張られ、思いとどまった。
「なにかな?」
善い人はテンマに尋ねる。
「今後は私が善人になってやろう。」
「なに?」
ふざけたことを!と善い人は激昂した。
そのせりふは善い人を激怒させるのに十分すぎるせりふだったのだ。
「もう我慢ならん!」
傍観していた穀潰しだったが、善い人とテンマの間に割って入った。
日ごろ馬鹿にされている害児を追い込む絶好の機会と判断したからだ。
「待てよ。善い人さん。あの様子だともう害児はダメだろう。
気持ちはよく分かるがよ。
だが害児が抜けた穴は正直でかいだろう?
ここは、なくなった戦力を補うためにも、新たな善人は必要だ。」
「穀潰し程度が、善人を語る資格があると思ったのか?」
「いってくれるぜ。だがな。俺だっててめえの国の下っ端だったんだぜ。
いわば俺も善人というわけだ。」
「なるほど・・確かに。」
「分かってくれればいいんだ。ということだ。テンマ。
よく俺に感謝しておくんだな。」
「たわけ!」
とテンマに一喝される穀潰し、毎度の事ながら穀潰しは嫌になったが、
仕方ないと諦めた。
「おい、善い人。今度から害児を見かけても放っておけよ。
それがやつのためだぜ・・。」
驕れるものは久しからずというが、盛者必衰の理というものだ。
穀潰しは、どういう経緯で害児がああなったのか知らないが、
多少は同情した。
とはいえ所詮他人事だ。基本的にはどうでもいい事。
穀潰しとしては、
そんなことより今まで害児に潰されてきた自分の面子
のほうが気になるのだった。
テンマとしては、闘争普及が何よりも使命であり、
害児を闘争に呼び戻すことは必須項目といえた。
お互いの利害は一致したので、それから先はスムーズだった。
しかし、善い人はテンマに気を許さず、緊張した日々が続く。
それはともかく、害児があれからどうなったのであったか・・。
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