第二十九幕 花と善人
害児は車を女性の前に止める。この女性を仮に善い人Bとしておく。
善い人ら一行は、善い人Bに近づき、激励した。
「やあやってるね。さすが善い人だ。」
「どなたですか?あなた方は。」
「私?私は善い人だよ。あなたも善い人でしょ?」
「確かに私は善い人です。こんな風に町に花を植えているのですから。」
辺り一面中花だらけだった。花の都とでもいってもいいかもしれない。
「善人協会の人間ですね?」
害児が善い人Bにそう質問した。
「そうです。あなたたちも?」
「残念ながら違います。ここにいる善い人さんは、あなたと違う本物の善い人
です。私としてはあなた方が善い人を自称していることに、困っています。」
「何故あなたが困るのですか?よこしまな考えがおありだからでは?」
思わぬ善い人Bの鋭い発言に害児はたじろいたが、形勢を建て直し威圧した。
「利いた風な口を利くなよ。貴様のようなゴミ虫一匹駆除するのは私に
とっては簡単なことだ。」
「・・・。」
「・・・。」
二人は押し黙ってしまった。善い人は話が終わったと勘違いし、次の行動に
移った。
「さあ、みなで花で植えよう!せっかくだからこの私がじきじきに善いこと
に参加してあげるよ!」
善い人は善い人Bのかごから球根を奪い花を植え始めた。
その様子を見て善い人Bが口を開いた。
「私は花を植えないといけません。あなたに構ってる暇などないのです。」
「後悔するなよ。この私にそんな口を聞いたことを。」
「ふん・・。」
善い人Bはそそくさとその場を去っていった。
害児を馬鹿にされて腹が立ったどこかに隠れていた黒服が善い人Bをさらお
うとしたが、善い人に蹴飛ばされて、吹き飛んでいた。
騎士竜は害児に言った。
「害児さんとやら、あの善い人は全うに善いことをしているし、報っておいても
問題ないのではないか。」
害児は不機嫌そうに騎士竜を一瞥した。
「お前はまったく何も分かってない。もうしゃべるな。無能め。」
その言葉にさすがの騎士竜もむっとした。
「僕にやつ当たるのはやめてもらおうか。」
「貴様などに八つ当たりする価値すらない。いいですか。あの人が
善い人がどうかなどどうでもいい話なのです。そんなこと最初から
分かりきった話でしょう。善い人の名を使ってることが問題なんですよ。」
そんなことくらい騎士竜だって分かってる。騎士竜がいいたいことは
別のことだった。
「ならこんなちまちまなことしてないで、善人協会自体を潰してしまった
ほうが早いのではないか?」
「別に・・そうことを大きくするつもりはありませんでしたし、少し
お灸をすえればよいと考えてましたが、あっちがああいう態度にでるなら
私としても考えなおさないといけませんね。」
「ああそれがいい。こんなことするのは労力の無駄だし、ストレスがたまる
だけだ。
本拠地の場所は、さすがにデーターにないのだが、たださっきの花植えは
善人協会四天王の一人ということらしいな。」
「ほうそうですか。確かアッチラとかいうゴミ虫がそうでしたね。」
「花植えのマリーというらしい。」
「つまりあいつを捕まえて、はかせればいいわけですね。」
「それはそうなんだが、民間組織とはいえ善人協会は規模もでかいし、幹部
クラスとなれば、忠誠心も厚いという話だ。それにはっきりいってあれは
本物の善人だし、善い人も近くにいる。どうするんだ?」
「馬鹿で無能なあなたは黙って私にデーターだけよこせばいいのです。
後は私が全てうまくやりますからね。」
「相変わらずなごあいさつだな。」
害児はつかつかとマリーに近寄った。
マリーは露骨にいやな顔をした。
「何か御用ですか?」
「善人協会の本拠地に案内してもらおうか。」
害児はのっけから高圧的にいった。
「入会なさるのですか?あなたに勤まるとは思えませんが。」
マリーも負けていない。伊達に善人協会四天王ではないということらしい。
「こいつ・・人が下手にでていれば言いたい放題ば罵詈雑言、私にも
限度というものがある。」
害児は、拳銃を抜いたマリーに突きつけた。
マリーは微動だにせず、軽蔑した薄ら笑いを浮かべて、花植えの作業を
再開した。
「きさまぁ!」
害児は思わず発砲し、弾丸はマリーの体を貫いた。がしかしマリーの体は
花びらとなって散ってしまった。
害児の周りに花びらが吹き荒れている。
(安い幻術だ。しかもしびれ薬だな。陳腐な手段を使う。)
突風が起こり、花びらは吹き飛ばされる。晴れた視界には、騎士竜と
レイピアをついてきたマリーの姿があった。
マリーのレイピアは騎士竜にの指よってさえぎられている。
マリーはレイピアを引き、くるくると回転させパチッと音を立てて腰に
収納させた。
「私こそは、善人四天王が一人、花植えのマリーと申します。
いきなり発砲するとは何という非常識無慈悲極まりない行為、あなたのような
極悪人がいては、この世の中ちっともよくならないのです。」
「・・威勢よく出てきたのはいいが、貴様の幻術など児戯に等しい。
こんな程度の技でこの害児にどう対抗するつもりだ?」
「愚かな人です。あなたは善人協会を敵に回しました。そして私も今は
引かせてもらいますよ。」
「私が貴様を逃がすとでも?」
「あはは・・愚かな人。こんな答弁は無意味なんです。私はもうここには
いませんから、それではまたごきげんよう。」
そういって、スカートの端をちょいと挙げる例のお嬢様挨拶をすると、花びら
となり散っていった。
マリーは害児たちから遠く離れた、花畑にふわふわ浮いていた。
完全に逃げおおせたと思っているようだ。
「まったくこの私の花植えを邪魔するなんて無粋な人もいます。
まあもう二度と顔を見ることはないでしょうけど。」
「あながちそうでもないな。」
「え?」
マリーが驚いて後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。
しかし、後頭部に衝撃を感じ、気づいたときには地面に激突していた。
「ふぎゃん!」
「まあ・・ゴミ虫にしてはよく頑張ったほうだが。」
害児は車椅子をマリーが倒れてる場所に引き寄せ、拳銃を突きつけた。
「こんな程度だ。しょせんはな。何故だか分かるか?」
「あまり無礼なことをすると許しませんよ!」
マリーはまだまだ元気たっぷりだが、害児はその言葉を無視して言葉を
続けた。
「分からないか。私が王者だからだ。ゴミ虫がいくら頑張ったところで、
王者たるこの私を出し抜けるわけないということだ。」
「王者ですって?あなたはおばかさんなのですか?」
「おーい、がいじさーん。」
遠くから善い人が歩いてきた。騎士竜も一緒だ。
「ちっ、うるさいのがきた。」
「どうやらあなたを出し抜ける人が来たようですね。」
「調子に乗るなよ。何度も言うが、貴様など私がその気になればどうとでも
できるのだ。」
「はいはい、それはようございますね。」
「最後にもう一度だけ聞く、協会の本拠地はどこだ?」
「それをいえば私を逃がしてくれると約束するならば教えましょう。」
害児はその言葉を聴いてにやりと笑った。
「ほうそうですか。いやあなたはなかなか骨があって見込みのある人物です。
今私は機嫌がいい。本来ならそんな約束は無効ですが、特別に約束して
あげましょう。」
もちろん害児が約束などするわけない。そもそも王者とゴミ虫の間に約束
もなにもあるわけがないではないか。
「この花の道、実は善人協会の本拠地より続いているのです。」
「え?そうなのですか。それはすごい。花が途中で枯れたりしないのですか?」
害児は素直に感心した。
「私は花植えだけではなく、その後の管理まで完璧なのですよ。」
「不思議なこともある。どうやらあなたはアッチラとは違うようですね。」
「あの人は、協会員よりピエロにでもなったほうがいいと思ってます。」
「それは違いない。さて・・。もうあなたには用はないわけだが。」
「約束はどうしましたか?」
「約束?あまりふざけないことです。約束というのは対等の立場のものが
行うもの、あなたと私は対等ですか?」
「そうですか。案外あなたもつまらない人間なのですね。」
「辞世の句はそれでいいのですか?殺しはしません。私は殺しはやめ
ましたからね。しかしあなたの体術を奪うくらいのことはできます。」
それを聞いてマリーは笑い出した。
「あははは、まあおかしい。」
それを見て害児もにやりとした。
「そうですか。私もおかしいですよ。あなたは恐怖のあまり気が狂って
しまったようだ。」
「そういうことではありません。貴方ほどの達人がなぜ車椅子生活なのかと
思いましてね。」
「・・・なにがいいたい?」
「いえ別に。」
「分かった。望みどおりにしてあげましょう。」
害児が刀を抜こうとしたが、その手を止められた。
どうやら騎士竜が追いついて、害児の手をつかんだらしい。
「おや?騎士竜。気配が読めませんでした。」
「そんなことより害児さんとやら、なにをやってるんだ。こんなことを
したら貴方の強力なパートナーが愛想を尽かしてしまうぞ。
僕に感謝してもらいたいくらいだ。」
善い人はその間、マリーを起こし、もっと球根がないかせがんだ。
「なるほど・・。確かにそうですね。早計だったかもしれません。」
害児はどかっと車椅子に腰掛けた。
「善い人さんに免じてここは許してあげましょう。ただし二度目はありません
からね。今度わたしの前に顔を出したら、わかってますね。」
「ふんっ。」
マリーはどうでもいいという風に善い人と一緒に花植えを再開してしまった。
「どうやらあの人は本当にしにたいようだ。」
害児は怒りのあまりぷるぷるしている。
「やめておけ。善い人が一緒では無理だ。」
「騎士竜ならなんとでもなるだろう?」
「それはなるかもしれないが、100%ではない。善い人にばれてしまうかも
しれない。」
「肝心なときに役立たずめ。」
「僕たちがこれ以上ここにいても仕方ないんじゃないのか。疲れるだけだ。
もう帰ろう。善い人はおいていけばいい。」
「この害児に逃げろというのか。」
「じゃあ花植えをしたいのか?害児さんとやらは。」
確かに、騎士竜は先ほど善い人からもらった大量の球根が手元にあった。
「・・確かにこんな馬鹿なことをしてるのは無益なことだ。」
害児は足元にあった球根を一つ取り上げて、マリーの頭に向かって投げた。
球根はマリーの頭に見事に当たり、マリーは地面に顔をめり込ませた。
「では帰りましょうか。」
害児はその様子を見て満足したようだ。
「まあ・・あの程度ですんでラッキーだったのだろうな。あのお嬢さんは。」
騎士竜も帰ろうとしてトラックに乗ろうとしたが、善い人が回りこんできた。
「善い人も一緒に帰るのか?」
「君は本当に反省が足りないね。せっかく私が善人になれるチャンスをあげた
のに、こうなったら私がじきじきにぼこらないといけない。」
「分かったよ。球根を植えればいいんだな?そんなくらいなんともないこと
だ。」
善い人が何かする前に、騎士竜はあわてて、準備をした。
まず、片足で地面を軽く踏む。地面はちょうど球根一個分が入れるくらい
の穴が複数できる。
騎士竜が持っている球根をかごごと投げると、かごは回転しながら、ちょうど
いい具合に一つづつ飛び出し、地面の穴に入っていく。
ブーメランのように戻ってきたかごをキャッツした後、また軽く地面を踏み、
球根が入ってた穴がに地面がかぶされる、その後別の場所から出てきた水
がそれらの土の上に降り注ぐ。
「どうかな?」
「なかなかやるね。」
「横着ですけどね。」
いつの間にか復活したマリーが善い人の横に並んでいた。
「結果が全てだ。そうだろう?」
「いいえ違います。花一つ一つに感謝の念を持って育てていくのです。」
「そうかな。ならもう少しサービスをしてあげよう。」
騎士竜はパソコンで1秒ほど計算した後、しゃごみこみ、地面を複数個所
指でとんとんしていた。
「?」
マリーは不思議そうにその様子を眺めている。
「終わったよ。後ろを見てみるといい。」
善い人とマリーが後ろを見ると、植えたばかりの球根から花が咲いていた。
二人の後ろは辺り一面中花だらけだった。
「これは・・。」
あっけにとられたマリーが振り返ると、騎士竜はすでにトラックに入った
後だった。トラックはマリーと善い人が見送る中、去っていった。
「なかなか手ごわい人もいますね。あの騎士竜という人。」
「あの人は悪人だよ。いつか私たちを裏切ろうとしている。でも心配しないで
大丈夫だよ。私が責任を持って善人にするからね。」
(あの技のきれ、私程度でも分かります。彼が敵に回ったらアッチラや
私、いや善人協会など一瞬で崩壊するでしょうね。
できれば敵に回したくないところですが。)
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