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アブストラクト リヴァー

作者:亜宮英将
  ゆっくりとした河の流れの中で、突然目が覚めた。暗い河の流れによって、体が仰向けに流されているのを感じる。ここがどこなのかはわからない。ただ河の真ん中を死体のようにおとなしく流されている。何かを意識しようとしても、記憶は霧のように消えていく。何故自分はこのような状態なのか。考えようとしても何一つ思い浮かばない。自分に残されたものがひどく希薄であることを感じた。しかしまずは身の安全を確保しなければならない。自分が何者かは後で考えればいい。

  頭頂部から耳の下半分を通って、体の側面を生温い河の水が流れているのを感じる。その水は黒く濁り、独自の質量を持って流れていた。身体を油のように包み、一体となった後にまた流れていく。あまりに自然な流れだった。そして静かだった。耳に流れる、低くまとわりつくような水の音以外何一つ聞こえなかった。河の底がここからどれくらい離れているのかは分からない。だが何となく、底を流れる水と表面を流れる水が引き寄せあっているように感じた。まるで磁気を帯びた油のように、全体が絡み合っている。

  まとわりつく流れの中で、頭を動かして辺りを窺う。薄暗い中、かろうじて河岸に森のようなものが見えた。周りよりも濃密な闇をまとっていた。なんとか体を起こして岸辺に向かって泳いだ。それほど距離はなかった。
 
  突然周囲の水が軽くなった。水は体を滑るように流れ始めた。さっきまでの一体感は消え失せ、水を掻くのにも苦労した。徐々に黒い水は質量を失っていった。自分の体が岸に着く寸前、水の質量は完全に失せた。身体が空中に浮いているかのような感覚がした。質量を持たぬ水をいくら押し出しても前に進むことはない。河の水は私を除外した。私にその体の一部たる資格を失わせた。こうして私は岸に着く寸前に、河から解放された。あのまとわりつく重たい水は私の前から去った。ただ浮力だけが残った。空気のような河の中で、私の身体は自由を手にした。しかし私はどこにも動けなくなった。水が力を伝えない以上、私の力は虚しく拡散していく。それは虚無の世界にでも吸収されるのだろうか。

  私には知るべくもない。死の資格を得てなお、河は私に明かさない。私がもがいたその力は、黒い水の中を通って、河底に蓄えられる。河はそうやって長い間流れ続けているのだ。


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