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殺戮天使 蒼の章
作:弐乃菜子



蒼の章 14


                5

電車に三十分ほど揺られ、JR釜蔵駅に着いた竹は、郊外へと向かった。
時刻は既に夕方、竹の目前に竹林が広がる。
竹林の山道を歩いて、他者を拒むかのように構える門の前に辿り着き、そびえる建物を眺める。
――監獄。
その建物を見て、最初に抱いた感想がそれだった。
別に建物が刑務所だとかそういう話ではない。
ないのだが、なぜかそう思った。
街の郊外。
周囲を竹林に囲まれ、その中にひっそりと佇む豪邸は、時代劇で見る武家屋敷そのものの。相当の大きさを持った建物だ。
正門の横には使用人用の通用門のようなものもあった。
木造の門には呼び鈴らしきものがなかったので、竹は迷った挙句、通用門でない大きな門の方を叩いて、申し訳程度に声をかける。
(たのもー)
本当は声に出して言いたかったが、心の中で言っておいた。
そんな姿誰かに見られていたら、恥ずかしくて死ねる。
予想通りだが門の内側からは、何の返答もなかった。
門の厚さを想像するに、どう考えても門の更に中にある屋敷には聞こえるわけがない。
どころか敷地内に聞こえているかも怪しいくらいだ。
普段、客が来たときは一体どうしているのかと気になったが、ここに客などめったに来ないだろう事は予想できた。
――監獄に来るものはいない。
一応ノックして声はかけたという建前、予防線を張っておいたので、勝手に敷地の中に入ることにする。
竹は正門の横にある、通用門の方から入った。さすがに勝手にあの巨大な門を開ける勇気はない。
敷地内に入って、今度は屋敷の玄関をノックした。
こちらにも呼び鈴らしきものはなかった。
ここまで徹底していると、ここだけ江戸時代なんじゃないかと錯覚すら覚える。
ノックをして暫くすると、割烹着を着た中年の女性がやってきた。
五十代半ばの、恰幅の良い女性はこの家の使用人なのだという。
こちらは江戸時代というよりは明治時代の使用人みたいだった。
竹が用件を伝えると、女性は表情を変えずに「少々お待ちください」と言って家の奥に戻っていった。
三分ほどで女性が戻ってきて、「お入り下さい」促したので屋敷に上がらせてもらう。
女性の後ろについていくと、応接室になるのだろうか、卓袱台のある茶室のような部屋に通された。
「ここでお待ちください」使用人はそう言って、早々と部屋から出て行った。
部屋の内部を見回す。
ところどころに高そうな調度品が置かれていたが、特に価値がわかるわけでもないので、興味はあったが触れないでおいた。
五分ほど部屋で待っていると、障子が横に開く。
そして、片手片足が義手義足の和服姿の小柄な老人が部屋に入ってきた。
老人は竹を一瞥して、無言のまま卓袱台を挟んで竹の前に座る。
老人が座ると、そのタイミングを計っていたかのように、使用人の女性がお盆にお茶を載せて部屋に入ってきた。
中年の女性は竹と老人の茶をそれぞれ卓袱台の上にお茶を置くと、一礼して部屋から出て行った。
脇から得ていた情報では、八十歳を超えるという話だったので、もっと老人めいた人物を想定していたのだが、目の前に座って茶をまずそうに飲んでいる人物は八十歳過ぎというには若々しかった。
さすがに頭頂は禿げ上がり、残っている髪は総白髪になっているものの、浅黒い肌にはまだ活力が漲っているように見える。
その外観から考えて、五十代とはいかないまでも、まだ六十代といっても十分通用するのではないかと思えた。
唯一、その顔に刻まれた深い溝だけが年相応といえよう。
とはいえ年相応なのはそこだけで、何よりこちらを見つめるその眼差しが、まるっきり八十歳過ぎの老人のそれではなかった。
人を値踏みするような、人を射抜くような視線が注がれる。
耶麻寺(やまでら)(そう)(うん)
十二分に威圧的な、重厚な雰囲気が室内を満たす。
その老人が置かれた茶をまた一口飲む。
「……くくく」
老人は笑った。
「初めまして、になるな『神の複製品』。いやここは『天岩戸の破壊者』と呼ぼうか。それとも『神殺し』かな? はてさて、どの呼び名がお好みだろうか」老人らしく、しわがれた声だった。
しかし、決して力なくはない。
地獄の底で鎮座する閻魔のように上から下へ、静かに呼びかけるような、他者を圧倒する荘厳さと悠久を感じさせる落ち着いた声。
その声はどこか心地良く――そしてとても不快だった。
「呼び方なんて、好きにして下さい。それでなくてもオレはあっちこっちで、好き勝手呼び名を付けられてますから」竹は肩を竦める。「あなたみたいに呼び方が一つしかなかったなんて羨ましい限りです。『狂気製造(マッドメイカー)』、それとも『脱落者(ドロップアウト)』と呼びましょうか? ああ、これで呼び名が二つか。良かったですね」
竹は口元を吊り上げる。
そして、今言った自分の台詞と口調、仕草に驚く。
皮肉を込めたつもりはなかったが、言った後に皮肉っぽいなと思った。
怜の皮肉屋がうつったのかもしれない。これはまずいな、と心の中で反省する。
竹の皮肉に老人は楽しそうに笑う。
「儂を相手に敬語を使ってきたのも驚きだが、初対面の人間にいきなり皮肉とは、さすがに噂通り一筋縄ではいかないようだな」
「あなたがどう思おうが勝手ですけど、今日はそんな話をしにきたわけじゃありません」
今度は怜のようにならないように気を付けた。風邪は引き始めが肝心なのだ。
「ほう、どんな話かね? 儂には君と話さなければならないような事は記憶にないのだが」
老人は惚けた(とぼけた)態度をとる。
その態度が癪に障る。
だから竹は、今日は怜のままでも良いかもしれない。と思った。
「今回の依頼の話です。オレは『紹介者』を通じてあなたの依頼を引き受けることにしました」
「依頼だと? 何のことを言っている?」老人は微かに動揺したようだったが、すぐに立て直した。あくまで白を切るつもりらしい。
だが竹にはそんなところにも不快感を覚える。
竹は小説でも映画でも、どんな物語でも同じところで足踏みしているような、さっさと先に進まない話は嫌いだ。簡単に言えば短気である。
「とぼけても良いですけどね、そんな事に意味はないですよ?」あまり人を嫌いになる事がない竹だが、目の前の老人は死ぬまで好きになれないだろう、と早々に判断した。
「……」老人は額の皺を寄せて、何かを考えている。
「言っておきますけど、あなたが今回の依頼者であると知ったのは、紹介者の黒澤怜からではないです」
「……『電子の蜘蛛』か」老人は苦々しげに言った後、忌々しげに竹を見た。
「そんなとこです。それで今回、そのことで聞きたい事があってきました」
「あの魔女がまさか貴様に依頼するとはな……想像もつかなかった」老人は少し頭に血が上ったようで、語気が荒い。
「想像がつかなかった? こっちの世界では有名な話ですよ?」
「儂は三十年前からそっちの世界とは殆ど切れている。天岩戸崩壊くらい大きな事件でもない限り情報は入らん」老人は、ふんっと鼻を鳴らす。
「そうですか。まあ良いですけど。それで質問は受け付けてくれますか?」竹は極力笑顔で言った。
「それが今回の儂の依頼を達成するために、必要なことならな」老人は射抜くような視線を竹に向ける。
笑顔の効果はなかったようだ。
「必要なかったらわざわざこんな郊外まで歩いてきません。それであなたに聞きたいことは、三人の人物についてです。オレの方でも色々調べたんですけど、疑問がいくつかあるので」竹は効果のなかった笑顔を封印して、友人以外からはクールと称されるいつもの無表情に戻った。
老人の表情が険しくなる。
これから誰について聞かれるのか想像がついたのだろう。
竹はそんな老人の表情を無視して問う。
「まずは一人目、山寺一馬についてです。この人物があなたの実の孫というのは本当ですか?」
 光太郎の話では情報の元が改竄されている可能性がある、とのことだった。
なので早雲の答え次第で、その真偽がわかる。
「本当だ。耶麻寺一馬は儂の実の孫だ」早雲ははっきりと断言した。
 情報は改竄されておらず、光太郎の情報は正しかったらしい。
 しかし、竹はどこか違和感を覚え、納得がいかなかった。
「……でも、あなたの一族はあなたが組織を抜ける際に、皆殺しにされたんじゃないんですか?」
「そうだ。皆殺しにされたはずだった。儂もそう思っていた。しかし孫は生きていた」早雲の表情は確信と自信に満ちていた。
 それが竹には不可解でならなかった。
 早雲は自らの離脱と引き換えに、一族の命を差し出した。
 さっきも言っていたが、三十年前に抜けて以来彼はこちらの世界とは切れていて、大きな事件以外の情報は入ってこないらしい。
 ならば、彼には確認のしようがないし、彼の一族が皆殺しにされた程度の情報は入ってこないだろう。
 それなのに、この老人はなぜこうも自信満々に答えるのだろうか。、
「なぜ、山寺一馬があなたの孫であると断言できるんですか?」
「……本人が儂の元に来てそう言ったからだ」老人は目を細める。
「はぁ?」竹はこの老人は本当に呆けているのではないかと一瞬本気で疑った。
「儂は呆けてなどいない。六年ほど前だったな。孫が急にこの屋敷にきて言ったのだ」

はじめまして。
お祖父さん。
俺はあなたの孫の山寺一馬です
今、俺は組織を抜けて追われているんです。
どうか俺を匿ってください。

「……それだけですか?」竹はやはりこの老人は呆けているのではないか、と危惧した。
「そんなわけがあるか。儂も元組織の人間だ。そんな事をいきなり言われて、はいそうですかと信じられるはずないだろう。そもそも儂が組織を抜けた時点で耶麻寺の血縁者は皆殺しにされたはずだ」早雲は馬鹿にするな、と凄んだ。
竹は、とりあえずこの老人は呆けてはいないようで安心した。
「……だからな、確認したんだ。そいつが本当に儂の孫なのかどうか」
「確認ですか? どうやって?」
「耶麻寺の一族がどういう役割で天岩戸にいたか知らんのか?」
「知りません」竹は本当に知らない。
耶麻寺なんて一族が天岩戸にいたのは、目の前にいる老人が抜けた数十年前の話なのだ。
組織を抜けた人物として名前だけは知っていたが、過去のたかが幹部一族の役割なんて興味もなかった。
「ふんっ。まあ良い」全然良くなさそうだったが、竹は黙って早雲の話を聞くことにした。
「耶麻寺の一族はな『人形師』の一族なのだ。だからその男にもしお前が儂の孫なら、自分と全く同じ人形を今すぐに作ってみろと言ったのだ。耶麻寺の人形細工の生成方法は特殊だからな、一目見ればすぐわかる」老人は自身に満ちた表情でニヤリと笑った。
「その男は耶麻寺にしか伝わらない手法で人形を生成した。しかも儂が見る限り歴史上の耶麻寺の誰よりも上手くな」だから信じた、と耶麻寺最後の人形師は言った。
「そして儂は孫を匿うことにし、六年間孫と過ごした。儂はその日々こそが人生で最高に幸せな時期だったと断言できる」老人は過去を愛しむように遠い目をする。
 竹は目の前で思い出に耽っている老人を心底憐れに思った。
この嬉しそうに孫を語る老人は信実を何も知らない。
しかしなぜ山寺一馬は耶麻寺早雲に真実を話さなかったのか。
実の祖父であろうとも、警戒するに越したことはなかったからだろうか。
まあ良い、とにかく老人の思い出話に付き合っているほど暇ではない。
竹は憐憫を表情には出さず、次の人物の話を聞くことにした。
「わかりました。じゃあ二人目。山吹九音に関して何か知っていることはありますか?」
「……」早雲はたっぷり間を溜めてから「当然だ。奴を作った当時、俺は組織の幹部をしていたのだからな」と言った。
「じゃあ知っている事を教えてください」
「知っている事はありすぎるな」早雲はふん、と鼻息を吐く。
「ありすぎる?」
「知らないのか? ――半世紀前、奴を作ったのはこの儂だ」老人は自嘲気味に言った。
「あなたが……?」
「そうだ。そしてそれが間違いだった」老人は過去の過ちを思い出しながらとつとつと語る。
「『八咫(やはたの)(かがみ)』のことは当然知っているだろう?」

八咫(やはたの)(かがみ)
映した対象の神格を表記する宝具。
『天岩戸』は簡単に言えばピラミッド型の会社組織と一緒である。
最高神『天照』を頭に、最上級神、または『管理者(セブンス)』と呼ばれる七人と上級神『幹部(テンポイント)』、そして中級神、下級神の五種類で階級分けされて構成されている。
その階級を分るのに『八咫鏡』を使用するのだ。

「……奴が生まれた時、正確には製造された時に行った『八咫鏡』の測定で、先々代の『天照』を超える神格持ちであることがわかった。組織はそれに沸き立ち、奴を次期『天照』の候補者の一人として教育していった。当時はそれが嬉しくてしかたがなかった。なんせ儂が作って育てた奴が次期『天照』候補になったのだからな。まあそれはあの先代(かいぶつ)が産まれた事で叶わなかったが」
老人の顔色が変わる。
「だがな……三十年前、奴はあろう事か組織から抜け出した。しかも先々代の『天照』を殺害してな」
三十年前――目の前の老人が組織を抜け、『天照』が先代と交代した時期だ。
「あの時、儂はとんでもないものを作ってしまったと思ったよ。何せ儂は、先々代『天照』の殺害現場に居合わせたのだからな」老人は当時の恐怖を思い出しながらも語る。
「儂が先々代に研究成果を報告している時だった。奴は音もなく現れると、儂たちがそれを認識するよりも早く先々代を解体した。続けざまに奴は、何が起こったのかわからず放心する儂の片手片足を切り落として意識を刈り取った。まさに一瞬の早業だったな。その後奴は逃走し、儂は先々代『天照』を見殺しにした罰として、先代『天照』によって一族を皆殺しにされ独房に投獄された。その後、孫から聞いた話では奴は六年前に殺されたらしいな」老人は中空を見つめる。
 竹は老人の懐古に付き合わず、すかさず疑問を投げかける。
「ちょっと待ってください。その手足は組織を抜ける代償として失ったんじゃ? それに投獄? あなたはどこかの山の中に捨てられたと聞きましたけど?」光太郎の情報が間違っている事はありえない。
間違っているとしたら、それは元の情報が改竄されていることに他ならない。
しかし光太郎が改竄されている可能性を見出したのは、耶麻寺早雲と山寺一馬の血縁関係だけだ。
今、この老人から出た話と光太郎が調べた情報は食い違うどころか、明らかに別物だ。
なら早雲の言っている事実と、光太郎の調べた情報のどちらが真実なのか。
それともどちらも真実ではないのか?
 竹の思考は、老人の重厚な声で遮られた。
「それは違うな、この手足は間違いなく奴にやられたのだ。まあ貴様の知った情報。恐らく『電子の蜘蛛』が調べた情報のだろうがそれも間違いではない。表向きには儂は精神を病んで組織を抜け、その代償として先代に手足を奪われ、一族を皆殺しにされた事にしておいたはずだからな。この事実は儂と先代しか知らない」
「なぜ、そんな無意味なことを?」
「さあな、儂は知らん。先代の方針だったとしか言えんな」
 どうやら光太郎の情報が間違っていたらしい。
 いや、これを間違ったというのは嘘だろう。
 たった二人しか知らない過去の情報、しかも先代『天照』が事実を隠蔽していたのだから三十分かそこらで見抜けと言うほうが酷だ。
 一人の世界に入り込んでいた、竹の意識が老人の思いもよらない言葉に引き戻される。
「だから儂は組織を抜けておらんのだよ」
老人に刻まれた口元の溝が深くなる。
「言っただろう。独房に入れられたと」
『脱落者』は大きく両手を広げて言った。
「ここがその独房だ」
監獄。抱いた印象は間違っていなかった。
「ここが……」
「そうだ。ここに来た時に気付かなかったのか『神の複製品』。 この屋敷に張られた堅牢な結界に」
屋敷に張られたに二つの結界。
竹はこの屋敷に高度な技術を要する二重の結界が張られているのには、気付いていた。
だがその用途を、こちらの世界では最もポピュラーな『人避』と『警笛』を複合させた『二重結界』だろうと、勝手に決め付けていた。
竹は慌てて結界の用途を探る。
「何、慌てて探らなくても教えてやる。この屋敷に張られているのは、儂を敷地から出られなくする『捕縛』と、儂の力を使用不可にする『抑圧』の結界だ」
竹が慌てて結界の用途を探った結果、確かに老人の言うものと同じ結界が張られている。
だがこの屋敷には『二重結界』の上から、もう一種類の結界が張られていた。
その結界の用途に気づいた時、竹は全てを理解した。
しかし竹はこの場は気付いていない振りをすることにした。
話を聞き終わるまでは下手なことは出来ない。
「まあそういうわけで儂は、三十年間普通の人間として過ごし、一歩も屋敷から出ていない」老人は自虐的に笑って続ける。
「そんな老人に聞きたい三人目とは誰なのかな」老人は竹に視線を向ける。
その威圧するような視線は、竹が次に誰のことを聞くのか想像のついている目をしていた。
……それもそうだろう。
ここに来たのはその為なのだから。
「ではお言葉に甘えて。三人目は勿論、依頼の標的である殺人鬼についてです。あなたはその標的に関して何か知っていることはありますか? というかどうしてその殺人鬼を捕まえるように依頼をしたんですか?」
「どうして、というなら簡単だ『神の複製品』。お前も知っているだろう。殺人鬼の最初の被害者を」
「山寺一馬」
「そうだ。儂は殺人鬼に最愛の孫を殺された」
「だから、殺人鬼を捕まえる依頼を? なら捕まえてどうするんですか。拷問とか?」
老人は「それ以外に何かあるか?」と答えた。
竹は何だか興醒めした。
結局は復讐。
つまらない感情。
くだらない。
しかし、一度引き受けた依頼を途中で放棄はしない。
それが魔法使い(黒澤怜)と交わした契約内容だから。
「そうですか。それで殺人鬼の事で、何か知っていることはありますか」竹は冷めた顔で続ける。
「儂が殺人鬼の素性について知っていることは、一つだけだ」老人は一層低い声を出す。
「……それはどんな?」
「殺人鬼は『無音の凶刃』と本物の『天使』の子供だ」
「は?」竹は思いもよらない事を言われて固まった。
「言葉の通りだ。殺人鬼の母親は本物の『天使』、父親は『無音の凶刃』だ」老人は再び、吐き捨てるように言う。
この老人は何を言っている?
確かにあの少女が『無音の凶刃』の子供であるという話は、怜からもたらされた情報と重なるので、まあいいだろう。
だが本物の『天使』の子供とはどういうことだ?
「どういうことですか?」竹はストレートに疑問をぶつける。
老人は「そう焦るな」と竹を嗜めてから、
「ではまず『天使』のことを教えようか。まあ、お前も天岩戸の人間、そもそもお前こそが、その産物なのだから説明の必要はないだろう。あの組織が行っていたことを」と言って半目で竹を見た。

神話の時代。
神々は真実この世界にいた。
だが、いつの頃からか、神々は一部の痕跡を残して、この世界から消えた。
神々は、『岩戸』の向こう側へと姿をくらましたのだ。
天岩戸という組織は、その『岩戸』の向こう側、
神々の住む楽園へと向かう為の手段を探し、
自らの手で神を製造することで、『岩戸』を開いた組織だ。

「その過程で『天使』は作られた」
「神を目指す過程で『天使』の複製をしようとした事は知っています。でもあの研究は失敗に終わったはずでは?」
被験者の全員死亡。
それが、神の製造の戯れとして行った実験の結果だったはず。
「確かに『天使』の複製は失敗した。だがそもそも神のみを目指していたあの組織がどうして『天使』の製造など無駄なことをしたと思う?」
確かに不自然だ。
あの組織は『岩戸』を開く為、何百年と神に近付こうとしてきた。
言われてみて初めて気付いた。
神のみを目指していた『天岩戸』が何故、『天使』の複製なんて意味のないステップを踏んだのか。
嫌な予感がした。
出来る事なら外れて欲しい。
だが、そんな願いも虚しく、露と消える。
「なぜ天岩戸がそんな無駄な事をしたのか。それはな……あの狂気の組織が本物の『天使』を捕獲してしまったからだ。神が創りし神に最も近い存在。本来『岩戸』の向こう側にいるべきものが、こちらの世界に現れた。だから我々は『天使』の複製に着手した」耶麻寺早雲は狂気を帯びた瞳で言った。

              *

どこから来たのか妙齢の女はボロボロの状態で『岩戸』の前で倒れていた。
『岩戸』の見張りをしていた者が発見し、彼らは大いに驚いた。
金色の髪をした女の背には、真っ白な翼が生えていたのだ。
彼らは急いで、女を保護、捕獲し、『天照』に引き渡す。
捕獲した先々代『天照』は、即座にその女を本物の『天使』と断定した。
以降、彼女を研究材料とした。
神を製造するという狂気の名の下に。


お読み頂きありがとうございます。少し間が空きまして、もし待たれていた奇特な方がいましたら、すみません。設定が点ばかりで混乱するかもしれませんが、仕様です……とはいっても不十分、不出来な部分が多々あると思いますので、ご指摘戴ければ幸いです。次話はあまり間を空けずにUPします。











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