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殺戮天使 蒼の章
作:弐乃菜子



蒼の章 13


                 *

放課後。
竹は自宅に帰る前に寄り道をすることにした。
学校から三十分ほど歩いて最寄の駅に到着。
学校から一番近い駅でこの距離なのだから、普段駅から登下校する生徒に素直に感心する。
バスを使えば、十分と経たず着くのだが本数が極端に少ない。
(……健康には良いのかもな。って十六、十七の学生がそんな事考えるわけないか)
竹は自分も十七の学生だという事を棚上げしてそんな事を考える。
バスの本数が少ないので、ほとんどの学生が駅から学校までの距離を歩く。
周りが歩いているから自らも歩く。ただそれだけの事なのだろう。
それでも、もし自分だったら毎日この距離は歩けないと竹は断言できる。
単純に面倒だ。
そんな怠惰な考えの人間ほど、健康の事を考えるのかもしれないな、と結論付けて竹は苦笑いした。
竹は何かを考える時、自分の考えを自分で否定する。
そしてそれを繰り返す。
永遠に否定され続けるループ。
自己完結。
それが一番楽で平和なこと竹は知っている。
駅には同じ学校の生徒が沢山いた。
クラスの人間も混じっている。
男女数名のグループで、言ってみればクラス最大派閥。
行事などに中心となって積極的に参加しているグループだ。
竹は、そのグループと特に親しいわけでないので、認識する程度で話しかけたりはしない。
自分から関わる必要はない。
だが、そういう時ほど思ったのと逆のことが発生するものだ。
竹が切符を購入しようと券売機に並んでいると、そのグループの女子一人が竹に声をかけてきた。
「天倉君、珍しいね。買い物か何か?」
荒川宿禰(あらかわすくね)さん、人を安心させる可愛らしさと、人付き合いの良さからクラスのアイドル的存在になっている子だ。
だが、竹には地味で控えめな子という印象しかない。
実際、彼女に話しかけられてから名前を思い出すのに少しだけかかった。まあ未だに名前すらわからないクラスメートよりはマシだろう。
そんな彼女が明るく竹に話かけてきて少し驚いた。
まあ彼女とは出席番号が近いので、あのグループでは比較的仲の良い方ではある。
そもそも比較対象の中に仲が良い奴が一人もいないので必然的にそうなるわけだが。
「ん? いや、ちょっと行くところがあって」少し鬱陶しかったが、『可愛い』にカテゴライズされる女子をぞんざいに扱うわけにもいかず、とりあえず対応した。
順番が一つ自分に近づいたので前に詰める。
「ふーん。そうなんだー。私たちはこれから遊びに行くんだっ」と言いながら、彼女は竹の横に一緒に並んだ。
彼女も切符を買うのだろうか。
竹は、後ろを見ると他に並んでいる人がいたので、割り込みだなぁ、と少し困った。
それを言及するかしないか、悩んでいたら自分の番になった。
なので言及はしない方向で。
竹が行き先の駅がいくらかかるか、券売機の上にある運賃表を眺めていると、「どこに行くの?」と荒川さんが聞いてきた。
「釜蔵」竹はその駅を探しながら言った。
「それなら四百十円だよっ!」荒川さんが弾んだ声で言った。
「そっそうなの?」竹はいきなり大きな声を出されて驚いた。
そして、竹がどうして即答できたのかを問う前に、彼女が取り繕うように言った。
「……えっと、私の家、釜蔵にあるから……」少しもじもじした言い方だった。
どうやら大きな声を出したことが恥ずかしかったらしい、少し頬が紅潮している。彼女が言った直後に運賃表を彷徨っていた視線が釜蔵駅を発見した。
四百十円だった。
「そうなんだ」
竹は極力どうでもよさそうに聞こえない様に言い、券売機に五百円投入して、四百十円の切符を買った。
無機質に吐き出された切符とお釣りを回収し、券売機から離れる。
そのまま彼女も竹についてくる。
竹が「あれ? 買わないの?」と聞くと、
「私、定期あるから。それにあそこで買ったら横入りになっちゃうもん」
そうか、この辺だと割り込みを横入りっていうんだったなぁと、どうでも良い事を考えてから、ならどうして荒川さんは、わざわざグループから離れてまで、自分と一緒に並んでたんだ? という疑問が浮かんだ。
一緒に遊びに行くらしいグループは券売機から離れたところで談笑している。
竹にその疑問が浮かんだところで、彼女が言い辛そうに口を開いた。
「えっと……あのさ、もし良かったら――」
だがその言葉を全て言い切り終わる前に「宿禰行くよー」というグループの女子の声が聞こえ、彼女の発言は止まってしまった。
どうやらグループが移動をするらしい。
どこで遊ぶか相談でもしていたのだろう。
その声を聞いて、彼女は少し残念そうな感じで「……じゃあね、天倉君。また明日」といって皆の元に歩いていく。
どこか肩を落とすように歩いていく彼女を竹は「待って」と呼び止めた。
「なぁに!?」荒川さんはとても嬉しそうに振り向いた。
竹は、仲間以外には見せない本当の笑顔で言った。
「また来週。明日は休みだよ」竹はそれだけ言うと、そんな笑顔を見せてしまったことを少しだけ後悔して、それ以上彼女を見ないようにして改札へ向かった。
荒川宿禰は、その場に直立不動で硬直した。
顔の表面温度が徐々に上昇し、最終的に鬼灯のように赤くなった。
友人が真っ赤な顔をして泣きそうなっている宿禰を見て「どうしたのっ?!」と驚いていたが、
「ナンデモナイ」とロボットみたいに発音して首を横に振り、カチコチに固まっていた体をどうにか動かし、グループの輪に戻った。
輪に戻った時には、彼女はいつも通りの彼女に戻っていた。
彼女の一連の動きを見ていた友人は、最初は少し心配していたが、暫くしていつも通りの宿禰になったのを見て胸を撫で下ろした。
その後一日中、荒川宿禰はいつも以上に元気だった。

あの時、泣きそうな顔をしていたのは、嬉しくてだ。
だって、初めて、天倉君の本当の笑顔が見ることが出来たのだから。
荒川宿禰は、その日を自分の記念日とした。


4本連続更新のラストです。宣言通り色の違う話です。次話にはこの色は一切失われておりますのでご安心を。
*ここから少し長くなります。
前話や今話の話をなぜ混ぜたかと言いますと、元々この『殺戮天使 蒼の章』は大きな物語の流れの『一つ』として書いた物語だったので、あえて書かせて戴きました。なので『大神深翠』『荒川宿禰』を主軸に置いたお話しもゆくゆくは書きたいと思っております。長くなりましたが、お読み頂きありがとうございました。もう暫くお付き合い下さいませ。











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