俺と親父はテーブルを挟み、向かい合わせに座った。
「何だ、話って?」
初めに口を開いたのは親父の方だった。俺は手を軽く額に当て、俯き加減の状態で一言返した。
「俺、やっぱり才能無いのかも…。」
俺はある夢を追うために、大学を卒業した後も就職せず、フリーター生活を送っていた。
親父は黙ってしまった。元々俺のフリーター生活を良く思っていなかったので、きっと怒っているのだろう。そもそもこんな親父に夢の相談を持ち掛けたら、「やめてしまえ」と言われるに決まっている。もしかしたら俺は、親父にそう言ってもらい、夢を諦める踏ん切りをつけたかっただけなのかもしれない。
俺はさらに続けた。
「何度やっても失敗ばかり…。俺は自分の小ささを知ったよ。それに分かったんだ、表面が華やかな世界ほど裏はドロドロしてるって…。」
実際ドロドロはしていないのだが、一応そう付け足しておいた。
少し間をおいて、親父が再び口を開く。
「夢の『失敗』とは『成功しなかった時』のことを言うんじゃない。『諦めてしまった時』のことを言うんだ。」
親父の予想外の返答に、俺は唖然とした。
「だから自信を持て。お前はまだ一度も失敗なんてしてはいない。それに自分の小ささを知ったと言ったな? それは視野が広がったということだ。お前は成長したんだよ。いいか、恐怖や不安があるからこそ人は頑張れるんだ。無知ほど恐ろしいものはこの世に無いんだぞ。」
励ましてくれているのだろうか? いつもの否定的な親父とは違う。俺には、目の前にいるのが親父の皮を被った別の人間としか思えなかった。
「親父、夢のこと認めてくれてたのか…?」
思わず聞いてしまった。
「まあな…。最初は少し否定的な態度をとってしまったが、あれは正直お前に嫉妬していたからなんだ。父さんも昔、夢の一つや二つあったんだが、周りの目を気にするあまり行動に移せなくてな…。それでこのザマだ。ハハハ…。」
最後のは俺も笑うべきなのだろうか? それはともかく、俺は何だか心がすっと軽くなったような気がした。
前から分かっていたはずのことだけど、俺は改めて実感した。
夢を追ううえで、一番必要なものは、身近な人達の応援、励ましなんだと。勿論、周りの人間を見返したいという気持ちで頑張る人もいるだろう。実際その気持ちで成功をおさめている有名人は、俺が知る限りでも多々存在する。でも少なくとも俺にとっては、俺の事を認めてくれた親父はまさに夢の潤滑油、背中を押す追い風だ。
今までずっと俺の身体に纏わり付いていた妙な罪悪感。その枷が消え、俺の体は空気のように軽くなった。
今なら羽ばたけるような気がする。どんな高い所までも…! |