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第九話:覚醒の片鱗
 なんなんだかなぁ、と一樹は寝ころんで夜空を見上げていた。
 ロイドとリィナは偵察と称して森の中に行ってしまった。一樹は今ダイナと共に廃棄された小屋の前で火を焚き、暖をとっている。
 やるべきことは特にない。
 二人は自分のために動いてくれているというのに、当の自分がなにもしないというのは居心地が悪すぎる。

「あいつら帰ってきたら肩でも揉んでやろうかな」

 そんなことを考えながら、一樹は腹の上で寝息をたてているダイナの頭をなでた。

「昼からずっと寝てるなぁ、お前。よく眠れるもんだ」

 おれの気持ちも知らないで、とダイナを腹の上からどかし立ち上がった。
 全身についた埃を叩いて落とし、割られた薪を掴んでびゅんと振るった。これが剣ならば。自分は勇者になれるのかもしれない。
 試しに横薙ぎに払ってみた。木の重みが腕に伝わり、笑みがこぼれた。
 調子に乗ってきた。

「こんな感じでいいのかね……ほっ、とりゃっ!」

 子供のチャンバラよろしくの体で薪を振り回し、一樹はなぜかそれに優越感を覚えてしまった。上に、下に、斜めに薪を動かし、びしっと決めポーズをとる。

「決まった……!」
「なーにが決まった、だよ」
「…………」

 決めポーズのまま一樹は硬直した。それでもなんとか首だけを動かして後ろを振り返ってみれば、呆れた顔をしているロイドと、見てはいけないものを見てしまったと顔に書いてあるリィナがいた。
 恥ずかしいなんてレベルじゃなかった。

「あ、あのえっとね、剣の振り方はそれじゃだめだよ……」

 リィナの優しさが今は辛い。

「あー、えー、偵察のほうはもう終わったのか?」

 平静を装っているのに、ポーズはそのままなのでなんとも間抜けな構図である。

「んにゃ、まだだ。リィナが心配だとかいうから一旦戻ってきただけ」
「それでなんにもなかった?」

 一樹はそれに頷く。

「特にはなにもないかな」
「この山は平和だからなぁ。とりあえず、そのポーズやめようぜ、見るに堪えない」
「あ、あぁごめん……」

 耳まで真っ赤にしながら、一樹はポーズを解いた。近場にあった四角い石に腰を下ろす。
 リィナとロイドは火を囲むようにして座った。

「で、なんで薪なんか振り回してたんだ?」
「いや深い意味はないけどさ……、なんとなく、かな」
「ふーん。まぁ、あんな恥ずかしいポーズはこれっきりにな」

 まともに二人の顔が見れない。
 しかし眼を泳がせておくわけにもいかず、一樹はロイドの担いでいた目立つ銃に視線を当てた。突撃銃のようなタイプではなく、猟銃のような形をしている。

「ん、この銃気になるのか?」
「そりゃあ」

 でかい銃が目の前にあれば気にもなる。
 ロイドは担いでいた銃を下ろし、一樹に無造作に手渡す。先ほどの薪とは比べ物にならないほどしっかりとした重みがある。

「こんな重いんだな、これ。しかもかなり使い込んでる感ある」
「爺ちゃんのお下がりだからな」
「? こういうのって騎士専用のがあるんじゃないのか?」

 そう言ってリィナに振り向く。
 リィナの細い腰にも、その身に似合わぬ剣が携えられている。

「えへへ、私の剣もお父さんのお下がりなんだ。うちの部隊はこういう感じで自由な武器使ってるよ」

 恥ずかしそうにリィナは髪を掻き上げた。

「けっこう武器に自由あるんだな。全員統一してるんだと思ってた」
「運命を預ける相棒だからなぁ、自分が使いやすいやつでいいってガロンさんが決めたんだよ。上からいろいろ言われてるらしいけど」

 考えがいかにもあの人らしい。
 一樹はロイドに銃を返すと、ロイドはそれをもう一度肩にかけ直し、立ち上がった。

「リィナ、そろそろ行くぞ」
「あ、うん! じゃ行ってくるね、カズキ君。ダイナちゃんもいい子でねー」

 先を歩くロイドについていくようにリィナは走っていく。いい子もなにも、当の本人は寝ているのだから関係ないと思う。
 そうして再びロイドとリィナは森の中へと去って行った。
 もちろんやることなど見つからない。肩揉んでやるの忘れたな、と思ったと同時にダイナが目を覚ました。

「お、やっと目ぇ覚めたか。どうした、腹減ったのか?」

 一樹は脇に置いてあった手提げ袋から魚の干物を取り出してダイナの目の前に放り投げた。しかしダイナは干物には目もくれず、いつになく攻撃的な目つきで一樹の後ろに向かって唸っていた。

「どうした? 俺の後ろになにか――」

 本日二回目の硬直。
 一樹の目と鼻の先には、青い鼻とぎょろぎょろした眼をしている狼がいた。体こそ大きくないものの、立派な鬣を生やし何かの冗談だと思いたくなるような長さの牙がぞろりと並んでいた。
 これってデジャヴだよな、と心の中で冷静に呟いた。

「あっぶね!」

 一樹が避けるのと獣が攻撃するのはほぼ同時だった。
 獣は目標物がいなくなったのも構わず石にかみついた。牙が半ばほどまで食い込んでいる。

「すっげぇ口筋……。って感心してる場合じゃねぇぇぇぇ!!」

 獣は顔をぶんと振り石を吹き飛ばし、天に向かって咆哮する。蒼い目を一樹に向けて突進。一樹もその攻撃をなんとか避け、間合いを取る。
 振り返る隙を与えないようダイナが宙に浮いて、獣に突撃する。
 ダイナの頭突きをもろに脇腹に受けた獣は二、三歩よろめいたが、倒れなかった。むしろ怒りに火がついたようで、牙をがちがち言わせながら間合いを詰めてくる。

「さてどうしたものか。逃げても絶対追い付いてくるよな、こいつ」

 ロイドとリィナであればどうするのだろうか。
 いつも妄想していた夢の中で、自分はどうやってこの境地を切り抜けるのだろうか。
 自分が、勇者ならば。勇者じゃないとしても、なにか特別な力があれば。

「!?」

 瞬間、一樹に変な立ちくらみが生じた。視界のすべての色彩が反転する。
 その隙を見逃さなかった獣は一樹の喉に向かって牙をむけとびかかる。が、ダイナが一樹を押し倒して、最悪の事態は免れた。

「ダイ……ナ…?」

 考えたわけではなかった。
 一樹は自分も知らぬうちにダイナを抱きかかえた。その時だった。
 ダイナの、意志が、

――――――――
―――――
―――

 一樹は寝返りを打つ。頭に感じる、柔らかくて暖かい何かに違和感を覚える。
 とりあえず枕にしているのは岩ではない。尚且つ布でもない。目をつぶったまま、手探りで触る。本当に柔らかい。吸いつくような、しかしハリのある感触と、甘い香り。
 香り?
 一樹は心に疑問が生まれる。この香りはどこかで嗅いだ事がある。そう、これは――。

「いい加減起きろ!」

 頭をぶっ叩かれて、一樹は驚きながら勢いよく上体を起こした。
 慌てて周りを見渡せば、額に汗をかいたロイドが心配そうな顔をしていた。心なしか、ダイナもどこか心配してくれていたように見える。

「あれ……俺どうしてたんだ?」
「それはこっちが聞きたいっての。獣の咆哮が聞こえたと思って戻ってきてみればダイナと一緒に気絶なんかしてやがって」
「気絶? そんな記憶なんて……」

 そういえばダイナを抱いてからの記憶がないな、と一樹は思う。

「しかし、カズキもスケベなんだなぁ」

 いきなり脈絡のない発言に、一樹は一瞬反応が遅れた。

「――なにがだよ。俺は別に何も、」
「リィナが膝枕してるのをいいことに、ふともも触りまくったくせに」

 え、と一樹は慌ててリィナを振り向く。
 リィナは恥ずかしそうに顔をうつむかせて、

「………………………………………………えっち」

 一樹の思考が停止した。
 あの感触は夢だと思っていたのに、まさか現実のものだったとは。
 一樹も顔を真っ赤にして弁護する。

「い、いや、あれは夢だとおもっていたから……」
「でも気持ちよかったと」

 気が動転してしまっていた。だから、一樹はほぼ反射的に答えてしまった。

「え、うん」

 自分の発言に驚き、一樹は前言を撤回する。

「違う! や、別に気持ち悪かったとかでもなくて、むしろ、じゃない。リィナ、こ、これは別にやましい気持ちで言ったわけじゃなくてだな……!」
「ほんと……?」

 ほんとほんと、と一樹は力いっぱい頷く。
 ロイドはロイドで地面にごろごろ右往左往しながら、腹を抱えて一人爆笑していた。
だれがこの事態を悪化させたと思っているんだ。
風邪ひきました…
なので次の話は確実ではないですが、火曜日の朝を予定してます


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