弐の一 大岩舞台の大蛇
周りには、岩山が背後に構え、さらには深い森が覆う田舎町。
2人は、立ち寄った田舎町の酒場で妙な話を聞いた。
大蛇様への供物を選び出す時期が来た、と。
大蛇、と言う事は蛇なわけだが、供物とはいかに? 蛇が人間に供物を要求する、と言う事はつまり人語を解す蛇。
2人は、話にあった大岩舞台と呼ばれる場所へ向かった。
――大岩舞台
なるほど、確かに大岩を削り出し、平らにした舞踊やらが行えそうな広い舞台がある。
場所を簡単に説明すると、田舎町の背後に構える岩山のふもと。
町人の住む家屋も遠くにぽつりぽつりと見えるほどに離れた場所。
「恐らく、妖魔だの」
「しゃべる蛇だからな。妖魔じゃなかったらオカシイだろ?」
舞台袖で辺りをキョロキョロしながら話す。
どこかに“それ”の巣穴があるのでは、と見回すが見当たらない。
「何やっとるか?」
ふいに聞こえる声に、2人は振り返る。
町人だろうか、その男は、ツギハギされた服、たるみきったもんぺ姿。
《もんぺ》とは、農業などの労働用に用いられる袴の一種。
「大蛇が出るらしいが、どこにおるか知らんか?」
「おめーさんら、よそ者だべか?ほなら、言っとっけどさ、この時期その事口にしちゃなんねーべ?」
2人には言わんとする事は多少なり理解できた。
大蛇に、時期限定とは言え、町の全権を握られる。 町人にしたら、それは気持ち良いものではない。
「それを退治する。って言ったら?」
ナナシの言葉に、男は目を真ん丸くさせた。
「何バカな事を!?命が惜しけりゃ、ここには近付かねぇこった!」
「いいから、蛇のねぐらを教えてくれんか?」
ギンの言葉に仕方無し、舞台奥、錆付いた鉛の大扉を指差した。
「カギかけたるからよ、今は入れねーべさ」
「カギは?」
その質問に男は首を横に振る。
「内側からしか開かんよ」
「なぜ誰も退治しようと思わんのだ?冬眠中なら簡単に討れると思うがの?」
内側から閉められているとは言え、せいぜい扉一枚。
町人総出なら開く事は可能だろう。
ギンの言葉に男はうつむく。
「ダメだ。アイツは死なねぇんさ。昔、退治しようと町人集めて、扉ん中入ったっけどよ?
斬っても、突いても、傷一つ付かねぇんさ」
その言葉に2人は大蛇が妖魔である事を確信した。 妖魔の特徴、人の作った武器では傷付かない事。
殺すには同じ妖魔か、妖魔の扱う武器、霊力の宿る武器でなければならない。
「とにかく、今はここには近付いちゃなんねぇよ?
明日あたりには供物がここに届けられっからよ、汚したりしちゃなんねぇんさ」
「明日?明日は扉が開くわけだな?」
「そら開くけんどよ…」
男は後の言葉を言わず深くため息をつき、遠くに見える家屋へ帰って行った。
「明日か、とりあえず今晩の宿が必要だな」
――――――
田舎町に戻り宿を探すが、訪れる客も少ないため宿は見当たらなかった。
野宿を覚悟しはじめた時、左側の一軒家の戸が開き女性が現れた。
「もし、あなた様が噂の旅の方で?」
髪は丁寧と呼べるほどではないにせよ、整えられ、服装は少しばかり汚れはあるが、綺麗に着付けている。
「あなたは?」
「私は、芳と言います」
芳
歳は十七、八くらい。
ナナシと並ぶと頭が肩辺り、背は普通より少し低めと言ったところだろう。
「俺はナナシ、こっちはギン」
「ナナシ…?」
芳は聞き慣れない名前に首を傾げる。
「名前は随分前に捨てた。名が無いから“ナナシ”」
「そうでしたか」
2人の間にギンが割って入る。
「のう、ヌシ何かワシらに用があったのだろ?」
「あ、はい。宿を探していると聞きまして、ウチでよろしければ…」
ナナシとギンは顔を合わせると、ニヤリとする。
「助かった!危うく今日も野宿になるところだったからのー」
「全くもって……」
同じようにうんうんと、うなづく2人の姿に芳はクスクス笑った。
《続く》 |