六の三 陽光、暖かく
庭先の長椅子。
昼間の暖かい陽の光を全身に浴び、ギンはうつらうつらしている。
ほうけた顔で、あぐらをかいて座っていると、真吾がニコニコしながら近付いて来た。
「ギンさん、でよろしいですか?」
「ギンでいい。何か用か?」
まどろみを邪魔され、言葉に少しトゲが出る。
そんなギンの態度に、いつもの笑顔で返す。
「お茶でもいかがですか?良い茶葉が入りまして」
「茶受けは団子。それ以外は受け付けん」
◆
口の中に、団子を一杯にさせ、幸せそうに茶をすする。
「どうです?良い香りのお茶でしょう?」
真吾の問いにギンはうなづいて答え、更に団子を口に放る。
その姿に真吾は、父親のような笑顔を向ける。
視線に気付き、ギンが睨みつける。
「さっきから、ニコニコ気持ち悪いヤツだのう」
「えぇ?気持ち悪いですか?楓さんは、暖かい笑顔だって言ってくれましたけど…」
ギンはその姿を思い浮かべ、クスクス笑う。
「アレにも、そんな可愛いらしいところがあるのだのう。少し以外だ」
「楓さんは元は大人しい方だったのですが、道場に行きはじめてから男っぽくなってしまいまして……」
真吾は暖かく輝く太陽を見ながら、ふぅーとため息をついた。
少し老けた真吾の肩を、ポンと叩く。
「ヌシ、苦労しておるの」
「…いえ」
――――――
楓が神社に戻ると、庭先でくつろぐ2人を見つけ、そこへ向かう。
ギンは真吾にひざ枕され、すやすやと幸せそうな寝顔を浮かべ眠っていた。
「真吾」
「あ、楓さん、おかえりなさい。ギンさんから、旅の話を聞いていたら…」
真吾はギンの頭を優しく撫で、微笑んだ。
楓もその長椅子に腰を下ろす。
「なあ、真吾。……勝手に出て行って、そのなんと言うか、わ、悪かった」
うつむく楓の頭を撫でると、いつもの笑顔を向ける。
「少し驚きましたけど、こうして無事でいてくれたんですから、安心しました」
楓は恥ずかしそうにしながら、真吾を見た。
すると、真剣な表情で楓を見つめ返す。
「楓さん」
「な、何?」
いつにない真面目な真吾の態度に、楓の声が裏返る。
「僕は今でも楓さんを愛しています。楓さん、今からでもやり直しませんか?」
「えっ、と、あの…」
「あなた以外の方は、もう考えられないんです!」
駄目押しとばかりに、真吾は楓の肩を力強く掴み、真剣な眼差しを向けた。
顔を真っ赤にして、目を泳がせる楓。
その視線が、ギンに向くと、口もとをニヤリとさせているのに気付いた。
目はつぶっていたが、起きているのは確実。
楓はそれを見るや、勢いよく立ち上がり、再び神社を出て行ってしまった。
ギンは薄目を開けてクスクス笑う。
「か、楓さん!」
冷たい風が流れると、真吾はがっくり肩を落とした。
ギンは体を起こすと、真吾の頭を撫でた。
「アレからは手を引け。ヌシに、どうにかできる相手ではないぞ?」
「いえ!諦めません!」
真吾の力強い声が、境内に響いた。
――――――
翌日、一軒家の空き部屋を借り、夜を明かした楓とギンは、旅の支度をしていた。
部屋の前に真吾がやってくると、ふすまを開けるわけでもなく、廊下へ正座した。
「楓、必ず……必ず帰ってきなさい」
それだけ言うと、真吾は立ち去った。
真吾が去ったのを確認すると、ギンは微笑み、つぶやいた。
「良い男に、惚れられたな。死ぬわけにはいかんぞ」
「…そう、だな」
少し頬を赤くした楓は、照れ臭そうに答えた。
《続く》 |