伍の三 追いはぎ、斬る?
2人は都へ続く街道を歩いていた。
その街道は森を切り開いて作られたモノのため、昼間でも薄暗い。
楓はふいに立ち止まると、前を歩くギンの肩を掴み止める。
「どうした?」
ギンは振り向き、聞くと、楓は三度笠の前辺りを右人差し指でクイッと上げ、右の林に視線をやる。
視線の先に向くと、地面に生い茂る、膝ほどまである草が揺れている。
「私達に用か?」
楓の声に、汚れた着物姿の男3人が木の陰から現れた。
「へへっ!刀と筒置いて消えな!」
真ん中の男が嫌らしく笑う。
楓はその言葉に鼻で笑うと、ギンの前に立つ。
「下がっていろ」
刀を抜き取ると、構えるでもなく右片手で持つ。
地面を軽く蹴ると、真ん中の男に駆け寄り、刃を突き出す。
刃先を喉元寸前で止めると、男のみぞおちに前蹴りを叩き込み、それにより男は尻餅をついた。
刀の柄を両手に持ち、右横に払うと、右にいた男の左耳を斬り落とした。
残った1人に歩み寄ると、悲鳴を上げ逃げ出し、左耳を斬られた男も後を追い逃げ出した。
「さて、と」
右片手に持ち変えた刀の刃先を、尻餅をついたままの男に向ける。
「か、勘弁してくれ!」
不精ヒゲを生やした悪人面の男は、顔に似合わない情けない声を上げた。
「か、楓!殺してはならんぞ!」
殺気立っているのがわかるのか、後ろにいたギンが、今にも斬りかかりそうな楓に声をかける。
その言葉に返事をしないで、男を睨む。
「貴様が追いはぎ連中の頭か?」
男は顔を青くさせながら、首を横に振る。
「だろうな。…宗蔵か?」
楓の言葉にうんうんと、何度もうなづく。
それを確認すると、楓は刀を鞘に戻した。
男はよろよろしながら奥へ走り去った。
「宗蔵?知り合いか?」
「兄弟子だった男だ。少し前から盗賊に落ちぶれた、と聞いていたが」
楓は険しい表情で答えると、早足で歩き出した。
――――――
2人の前には10人ほどの男が、道を塞ぐようにしている。
集団の一番後ろに立つ男、よれよれの着流しの男。
宗蔵。 歳は三十代ほど。
身長は、六尺を超える長身。
ボサボサの髪、たくましい口ヒゲ、たくましいモミアゲ、たくましい胸毛。
一見、人ほどの身長の毛のカタマリ。
「楓、探したぞ?俺と一緒になると誓っただろう」
「そうなのか?」
「そんなわけあるか!」
楓はギンに怒鳴りつけると、刀も抜かずに集団の中へ歩いた。
掴みかかろうとする男の足を払い、襟を掴み首を絞める。
適当なところで緩めると、前蹴りで転がす。
それを見て怒りをあらわにした一人の男は、刀に手をかけるが、駆け寄った楓の肘打ちを顎に受けひるむ。
ひるんだ男の刀を抜き取ると、柄でみぞおちを打ち、前屈みになった男の顔面に、追撃とばかりに柄を打ちつける。
それに怯えている男に近寄り、横斬り一閃。
男の左手人差し指、中指、薬指を斬り飛ばした。
一連の動きに宗蔵は声を上げた。
「ま、待て!話せばわかる!」
さっきまでの威勢はどこへやら、楓の容赦の無さにさすがの宗蔵も止めに入る。
楓を止めようとしたのは宗蔵だけではない。
「楓!ヌシは、コイツらを殺すつもりか!?」
ギンの言葉に対して、楓は持っていた刀を投げ捨てた。
「…失せろ」
低くつぶやいた楓の言葉に、男達は逃げ出した。
「お前ら、待て!」
宗蔵の制止を聞く者は一人もおらず、ぽつりと残された。
宗蔵の前に立つと、腰の刀に手をかけるが、ギンがそれを制止する。
「楓!刀をワシによこせ!何かの拍子にこの毛玉を斬りかねん!」
しかし、刀を渡すどころか、刀を抜き取り上段に構えた。
「ちょっ!?」
宗蔵が言い終わる前に刀は振り下ろされ、腹帯だけを両断した。
しばし、静寂……
静寂にギンの声が響き渡る。
「宗蔵とやら!さっさと行け!斬られるぞ!」
宗蔵はうなづくと、全速力で逃げて行った。
それを確認すると、刀を鞘に戻し、ギンを見る。
「次は、止めるなよ」
「ヌシは人斬りか!?」
楓は、ギンの言葉にクスクス笑うと、歩き出した。
(本当に志郎の妹なのか?全くの別人ではないのか?いや、今からでも別人だったと言って欲しい……)
ギンは、楓の後ろをトボトボ歩きながら、そんな事を思っていた。
《続く》 |