四の一 妖魔、斬る!! ―1―
妖魔の巣穴。
その実、単なる廃坑なわけだが。
周囲に流れる気は、冷たく突き刺さりそうなほど。 冬でもないのに外気は冷やされ、吐く息は白い。
上空を屍を求める巨大な烏の黒が、数匹旋回している。
「エサになるのは勘弁だな」
「当然だ」
2人は廃坑に向け、歩を進めた。
◆
内部は薄暗く、手に持つ松明の灯だけが頼り。
「ここで襲われたら、マズイぞ」
「大きな灯が欲しいのう」
通路は広く、その真ん中にはトロッコ用の線路が敷かれている。
しかし、その広さ故、襲われる範囲も広く、相手の場所を特定しずらい。
「なんか、この辺…」
ナナシは松明の灯を消す。
ふいに辺りが暗くなり、ギンはナナシにしがみついた。
「なんだ!どうしたのだ!?」
しだいに辺りが緑色に輝く。
ヒカリゴケ
内部物質が酸素に反応し、淡い緑色の光を発する菌類。
「ヒカリゴケか?珍しいのう」
関心するギンの手を引き、奥へ向かう。
◆
そこは他と違い開けた空間。
奥行きも広く、100人ほどなら収容できそうだ。
その空間に1人。
狼の顔に、獅子のたて髪を揺らす妖魔。
周りには、人間と同じ背丈の妖魔の死体が積まれていた。
「ようやく、会えた!」
ナナシの言葉に妖魔は振り向く。
嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、兄ちゃん。待ってたよ」
空間に響く妖魔の声に、ギンは全身を震わせた。
「ん?紅銀狐の娘か。しぶといねぇ」
一瞬、空気が揺れる。
後ろにいるギンのうめき声に振り返る。
妖魔は、ギンの首を掴み、体を持ち上げていた。
ギンは足をじたばたさせているが、拘束は緩まない。
「放せっ!」
ナナシは妖魔に殴りかかるが、右手で軽くあしらわれる。
「狐の肉も柔らかくてなかなかウマかったなぁ。お前はメスか、きっと柔らかいんだろうなぁ」
妖魔の長い舌がギンの頬を舐める。
「……ゲス、が……!」
ギンの言葉に、妖魔は口もとを緩める。
「気に入ったよー。喰う前にオイラの子を産んでもらおう!」
その言葉にギンは背筋をゾクリとさせた。
「くっ!」
妖魔に向け、空気の衝撃が襲いかかる。
反応して、左爪で払う。
一瞬緩んだ拘束に、ギンはじたばたさせ脱出する。
「ギン、大丈夫か?」
「ナナシ!」
左目を開き、両腕を黒い爪に変えたナナシが立っていた。
「すぐに刀になってやる!左目を閉じよ!」
ギンに一瞬で詰め寄ると、抱きかかえ、入口付近まで連れ戻す。
「なっ!?どういうつもりだ!」
「ギン、楓に会ったら伝えろ。志郎は親父とお袋の仇を討った、と」
志郎
聞かない名前だが、それが誰のモノかはすぐわかった。
「死ぬつもりか!妹を探すのだろう!?生きてこそ!……」
ナナシの、志郎の姿はすでにそこには無かった。
「バカ、モノ…!」
ギンはその場にヘタリ込んだ。
――――――
再び広い空間にたどり着くと、死体の山の上に座る妖魔を睨む。
「最後のお別れは済んだかい?」
駆け寄ると、右爪を振るう。
妖魔はニヤリと笑い、軽く振り払う。
払われたのを確認すると、後ろに跳び距離を空けた。
「前みたいにがむしゃらに来ないのかい?」
妖魔は座ったまま、左爪を払う。
人三人分ほどがあるため、もちろん物理攻撃は射撃、投擲以外届くハズもない。
それはあくまで人間、動物、並の妖に限った話。
大気を揺らし、見えない高速の刃が襲う。
横に跳びかわすが、かわした方向に妖魔が現れた。
「ほいっ」
突き出した左爪が右脇腹を貫く。
痛みを堪え、右爪を振るうが、半身になりたやすくかわされる。
しかし、同時に襲いかかっていた左爪が右腕に刺さる。
「おっと、油断した」
右腕を思い切り振り上げると、刺さっていた爪先がその勢いで折れ曲がる。
「くっ!」
生爪を折られたような痛みに、声を上げた。
「痛かったかい?ゴメンな兄ちゃん。楽に逝かせてやるからよ!」
振り上げた右爪を、志郎の首に振り下ろした。
それにすんでで反応し、上半身を後ろに反らす。
妖魔は攻撃の手を緩める事なく、左爪を腹部に突き出す。
志郎の腹部に、左爪が深々と突き刺さる。
「ぐぁ!?」
悲鳴を上げながらも、右手で妖魔の左腕を掴む。
志郎は大きく振り被った左爪で、掴んだ左腕を斬り落とす。
妖魔は志郎を蹴り飛ばした。
「……兄ちゃん、強いなぁ。オイラ楽しくてしょうがないよ!」
志郎は腹に刺さった妖魔の左腕を引き抜き、右膝を地面に付く。
肩で荒く呼吸しながら、吐血する。
「お、お前は!…俺が…こ、ろす……!」
よろけながら立ち上がると、妖魔を睨みつけた。
《続く》 |