「ねぇねぇ、 ゲーム好き?」
それが天上翼と黒神黒深、 それに巻き込まれた浅葱誠の腐れ縁の始まり――。
入学式が終わり、 すでにクラスに馴染んできたであろう頃、 翼の隣に座っている一人の女子生徒が声をかける。
黒神黒深。
それが女子生徒の名前、 黒深は楽しそうに翼の方を向いて笑っている。
今の時間は一時間目の休み時間。
翼は、 授業の支度を早くして、 余裕に眠る時間を作っていた。
それは翼の目の前にいる黒深も同じだった。 ただし眠る為ではなく、 絵を描いたり話を書いたりするためだった。
「好きだけど?」
「やっぱ? どんなゲームが好き?」
うるさいな――、 あまり人付き合いがいいともいえない翼の席は、 人があまり近づいてこないので静かだった。
翼自身、 人付き合いがあまりよくないこともあり、 クラス内では仲のいい友達がいない。
それが今では黒深によって静かさはなくなっている。 早く追い払ってしまおうと考えた翼が視線をそらす。
授業開始のチャイムが鳴るまでの辛抱だ、 翼は、 ぶっきらぼうに答えた。
「シューティング、 もういいだろ、 授業が始まる。」
その声と共にチャイムが鳴り出す。 しかし黒深の席は隣なため一応着席はしたが翼の方を向いて話しかけてくる。
翼の眉間に皺が刻まれた。 授業を聞けよ、 俺も聞く気はないがな。
「シューティング、 てことはコマンダーXとか知ってる?」
コマンダーX、 シューティングゲームをやっているものなら一度は聞く名前。
結構昔のゲームなのだが続編が出て、 ゲームセンターから消えることはない大人気のゲーム、 知らないはずはないだろうと思い、 黒深は聞いた。
「知ってる」
「あーそうか、 うんやっぱりあんただ」
何が、 と翼が聞こうとしたが丁度そこへ先生が入ってきた。
タイミングの悪さに、 そして会話をしてしまった自分自身に内心舌打ちをした翼は、 号令が終わってからもう一度聞くことを決めた。
「起立、 礼、 着席」
学級委員の号令が終わり着席する。
翼は、 座りながら黒深へと聞いた。
「何のことだ?」
「さあね? 騒がしいやつとは話したくありません、 てオーラをわざわざ出しているやつには言わないよーだ」
お前が初めに話しかけてきただろう。 悪戯をする子供のような言葉に苛ついた翼だが、 黒深はすでに、 授業ノートを取るかのように見せかけて、 何か別のものを書いていた。
どうせこれ以上聞いても無駄だな、 翼は眠くなることで有名な社会の先生の説明を聞かずに眠った。
どうせ役に立たないことだ――。
その後2時間目から4時間目まで翼だけでなくクラス中が、 気だるげな雰囲気を漂わせながらある生徒は居眠り、 ある生徒は落書きをして、 といった状態で過ぎた。
もちろん、 先生は注意などしない、 とにかく一時間で決めた範囲分を終わらせることに必死だ。
そして昼休みになった時、 翼の眠りを妨げたのは、 やはり黒深だった。
「起きろー、 飯食えなくなるぞー?」
元から声が大きい方である黒深の声で、 翼は眠りを妨げられたことに対して文句を言った。
普段から眠そうなイメージを持つ翼は、 このときばかりは苛立ちを隠さずに寝起きの低い声で怒った。
「うるせぇ」
「・・・・・・あっそ」
つまんないの、 黒深はそう呟くと自分の席に座りなおしてお弁当を食べだした。
眠気の覚めない翼は、 それをぼんやりとした目で見ながらまた眠りについた。 そして次に翼が目覚めたのは放課後だった。
誰かが翼の肩をゆする。
熟睡している翼だったが、 周りの静かさと、 妙に響く声で起きた。
「起きてー、 教室閉めるよー」
日直の生徒が未だに教室で眠っている翼を見つけたようで、 起こそうとしている。
「おー・・・・・・」
気の抜けるような返事を返した翼は、 のそのそと帰り支度を済ませた。
今日の日直って誰だっけ――?
名前が思い出せない翼は、 日直当番の名前が書かれている黒板を見た。 浅葱誠、 黒深と仲がいい女子生徒だった。
同じ部活に所属している誠は、 翼へ聞く。
「部活は?」
聞いてくる誠は、 出欠が毎回とられているので、 欠席についてはクラスの人が報告する、 それに従った誠の問いに翼はだるそうにしながらも答えた。
「たるい、 帰る」
そう告げて、 あまり多くの量は入らないであろうバッグを肩にかけた翼は、 あくびをしながら教室から出る、 しかし翼本人に帰る気、 などというものはなかった。
翼の日課はゲームセンターにおいてあるコマンダーXの記録調べること、 今、 翼が一位を取り続けているが、 時折翼を抜かして記録をとる人間がいる。
それをよしとしない翼は記録の更新に励む。
それが、 翼の日課であった。 翼は徒歩で学校へと来ているため、 距離のあるゲームセンターに軽くジョギングをしながら移動することも日課に入れていた。
下駄箱を抜けたところで誠がじゃあね、 と手を振ってくる。
誠に見送られながらも翼は、 ゲームセンターへと向かった。
翼がいつも行くゲームセンターは、 3階建ての建物を贅沢に全てのスペースを使ったものだ。
1階はプリクラやゆるゆる設定なUFOキャッチャーなどの景品目当ての人がいる場所。
「翼ちゃんじゃん、 今日もサボり?」
UFOキャッチャーの景品と睨めっこしていたのは、 ガングロで、 一見怖そうなイメージを受ける女子高生だった。 女子高生は笑顔で聞いてくる、 女子高生本人もサボりらしく数人の男子と女子と一緒だ。
このゲームセンターの常連とも言える女子高生に声をかけられた翼は、 面倒だが一応の返事をした。
「サボりじゃない、 しっかりと部活には欠席すると言ってきた。」
「それをサボりっていうんだよ! あははは!! チョーうけるー!!」
何がおかしかったのか女子高生は笑った。
笑った理由になんとなくで、 不快なものを感じた翼は2階へと階段を上がる。
その後ろで笑いすぎて、 間違えてボタンを押したようで、 叫び声があがるが翼は無視して2階へと上がる、 2階はメダルゲームや音楽ゲームを主として置いてある。
そこでまた翼は呼び止められる。
今度はメダルゲームの席で、 入り浸っている青年を見つけた。 翼の知る限り、 彼はいつも同じ席に座っている、 青年がいないとき、 その席は使用禁止になっている。
翼は、 青年が来ると同時に職員が、 その張り紙を剥がしているのを見たことがある。
それからはあえて突っ込むまいと心に決めたのだ。
「またコマンダーXかい?」
「そうですよ、 和田さん、 仕事はどうしたんですか?」
今の時間は5時を少し過ぎた頃、 普通の会社員ならばまだ仕事をしているであろう時間、 和田は何故か照れくさそうに頬をかいた。
仕草だけを見ればまだ成人前だと言っても違和感はない、 その顔もどこか子供っぽいということで隠れた人気がある。 らしい。
和田もこのゲームセンターの常連で、 翼とは比較的に仲がいい。
休日など、 たまに翼の分のメダルを用意して、 会話をしながらプレイすることもあった。
「仕事はもう終わったんだ、 それじゃあ頑張ってね」
大当たりー、 若い女の跳ねたような声を聞いた和田はメダルの補充をはじめ、 翼の方へとは、 もう向かなかった。
3階への階段を上る翼、 3階は翼の得意とするシューティングゲームをはじめ、 カードゲーム、 ダービーゲームなどが置いてある。
遊びでこの3階へ来る人はいない、 ここに来るのはゲーム廃人や、 いくつもの大会で名をはせる人であったりする。
時折初心者と思わしき人も来るが、 大抵は一週間ほどでどこか別のゲームセンターに行ってしまうか、 そのまま名のあるプレイヤーになっているかどちらかだ。
3階建ての建物全部がゲームで埋め尽くされる“パラディース”は、 大会会場に指定されることもしばしばある、 その分手練れがこの3階に集まりやすいのだ。
翼は真っ直ぐ奥に設置されているコマンダーXのゲームの前へと行く。
「おーい、 翼! またコマンダーXか」
今度翼に話しかけてきたのは従業員の制服を着た少年。
「うるさい」
「うわひっでー! この雅裕様が大ニュースを持ってきてやったていうのに!!」
少年、 遊座雅裕は、 心外だ! と怒るが翼はそれを完璧に無視して、 ポケットに入れているXの白いロゴが入った黒塗りのカードを取り出した。
雅裕は、 若いがそれなりの古株らしく、 翼は年上の従業員に仕事を教えている雅裕をたびたび見かけている。
「聞けよ! ついにお前の記録を抜いたやつが現れたんだぜ? ちょっとは驚け」
「俺の記録を、 抜いた?」
嘘だろう――? 真面目にショックを受けた翼はカードを差し込む手を止めた。
そしてやっと自分の方を向いた。 ということで雅裕は満足げな顔をする。
「うんうん、 やっと聞く気になったか! そう、 それはお前の帰った後のことだった。 鬼のごときお前と同じ制服を着た女子生徒が二人・・・・・・」
壮大な物語に変換されてしまっている雅裕の言葉を無視して、 翼はカードを差し込む。
雅裕の話を一度聞きだすと長いとかなり前に学んだ翼は、 ゲームに集中することにしたようだった。
翼の頭でひっかかったのは、“同じ制服”という部分だけだった。
『カードを確認しました。』
「おいぃいぃっ!!」
「黙れ俺様主義者が」
気だるげな返事をしながらもキャラクターを選択する、 攻撃力は1.5倍だが移動が遅い攻撃型の男性キャラのガイ、 スピード型で攻撃力が標準より低い女性キャラのレイラ、 そしてスピード、 攻撃力共に標準値のバランスタイプな男性キャラ、 ラウル、 翼はその3人の中でラウルを選んだ。
その瞬間、 名前は先ほどのカードと共に一番初めに登録したTENJOの名前になった。
いつでも翼はラウルを使う、 何かに特化するより、 全てにおいてバランスがあるラウルが一番使いやすい、 というのが翼の意見だった。
実際、 大会の上位に入る者は大抵ラウルを使っている。
『Ready?』
「今日こそクリアの15面までいけよー、 なんせ俺様が見込ん、 だぶっ?!」
辞書くらいの厚さの本の背表紙で殴られるのと同じくらいの痛み、 雅裕は頭を押さえて蹲る。
雅裕を殴ったものは、 画面に向かって撃つための玩具の銃、 色はそれなりに本物らしくつけられているがやはり玩具、 本物はもっと重いだろう。
翼は四方向に区切られた横1m、 縦50mくらいの画面に集中した。
『Go!!』
敵機が一瞬にして四つ切りの画面にあらわれる。
始めに翼は処理したほうがいいと感じた右上、 プレイヤーの機体の右側の方へ移るために足下にある右へと向いた矢印のパネルを踏んだ。
画面が四つ切りから1つの画面になる、 そこへ翼はためらいもなく引き金を引く。
照準が敵機を捉え、 派手な爆炎を上げながら画面から消えていく。
次から次へと現れるにもかかわらず、 翼の手は一度も止まらない。
「相変わらずゲーム廃人だなぁお前」
「黙れ不良店員」
「残念、 俺様はしっかり仕事をしているんだよ不良学生」
「お前だけには言われたくないセリフだな」
くだらない会話を繰り広げながら翼は引き金をひく、 話している分反応が遅れる、 といったことはない、 翼自身慣れているのだ。
始めの頃話して集中が乱れるたびに撃墜されていた翼は、 今ではそれを支障とすることはなくなっていた。
翼が問題としているのはステージ10、 そこまでは20分もたたないうちに行ける、 しかし問題はそのステージ10からだ、 2つの追跡弾、 敵はそれだけなのだが何しろ画面を飛ぶ速さが早すぎる、 右から中央へ、 中央から下へと移動しているうちに落とされてしまう、 その攻略法を翼は未だに探しあぐねていた。
そのうちにも3つあったライフが1つ減り、 2つ減り、 あっという間に残り1つになってしまった。
焦りを感じ出した翼は、 集中しすぎた頭が、 朝に聞いた女子生徒の声を拾った。
「へったくそだなー」
翼の背後で画面を覗き込んでいた黒深は、 隣にいる誠に同意を求めた。
「やっている最中の人に対して失礼だよ黒深、 あれ、 天上君?」
「おまっ、 黒神?! それに浅葱まで!!」
知った声を聞いたせいで画面から目を離してしまった翼は、 すぐに接近していた追跡弾を避けた。
しかし一旦バランスを崩すとなかなか元の状態には戻せない、 そうしているうちにも追跡弾が目の前に迫り、 爆発した。
そしてランキングが発表される、 1位に翼の名前はなくNONAME&SEISENという名前が表示された。
1位をとったのは1人で、 プレイしているのではなく、 2人組みで協力プレイをしているようだった。
「はいどーん、 お疲れさん」
笑顔で言う黒深。 咎める誠。
がくりと膝をついて翼は呟いた。
「何でいるんだ・・・・・・」
つい口にしてしまった翼の言葉に黒深と誠は声を合わせて言う。
「もちろん、 遊びに」
いや、 だからそうじゃなくて・・・・・・、 心の中で呟く翼だがその心の声が黒深たちに聞こえるはずがない。
翼は何か言おうにも言葉が見つからないため、 黒深たちの手にしているカードを目にして、 言うことを決めた。
「お前らもやってんのか?」
主語の入らない言葉だったがなんとなく意味がわかった黒深が答える。
「あー、 これのこと?」
同意をとるように黒深が右手に持ったカードを見せる、 翼が持っている白抜きのXが書き込まれているカードと同じだった。
コマンダーXのエントリーカード、 誠と黒深は、 コマンダーX以外のエントリーカードを手にしていた。
しかし翼の後ろで並んでいたということは、 目的はコマンダーXだと限られる。
「そうだ・・・・・・というよりお前、 絶対に下手だろ」
「なんだって?!」
「人のこというやつに限って下手だ」
偏見交じりの言葉に黒深は失礼な、 といって怒った。
苛々と床を足で叩く黒深に、 誠が苦笑する。
ただ、 その苦笑に、 一部嘲笑が含まれていたことに誰も気付いていない。
「なら勝負してみる? 負けたら後でどうなるか・・・・・・」
黒深が挑戦状を叩きつける、 元からその気だった翼は仕方がないからやってやろう、 偉そうな態度を取る翼に黒深が大声で宣言した。
「どっちが下手かって教えてやる!!」
そして黒深が元から2人まで参加可能のゲーム機へカードを差し込む、
あれ――?
翼が目をこする、 黒深の手元にカードが二枚あったように見えたからだ、 翼はそれを目の錯覚だと処理して対戦モードを選択する。
「誠ー、 ちょっと遊んでて、 こいつ叩き潰すから」
「わかった。」
やる気満々な黒深を見て笑うと誠は、 他のゲームをやるためにその場を離れた。
そして黒深は玩具の銃の感触を確かめるように二、 三度握った。 目つきはすでに変わっている、 まるで敵を見つけた戦士。
「対戦でいいな?」
「オーケーオーケー」
笑いながら話している黒深だが目が笑っていない、 何か底知れぬ恐怖を感じた翼だったがその思考を打ち切るように機械の声が聞こえてくる。
変わらない、 戦闘開始の声。
『Ready、 Go!!』
戦いの火蓋が切って落とされた。
2人で共有の画面に敵影があらわれる、 黒深は右、 翼は上にいる敵へと標準をあわせる。
「弱い、 弱すぎるわぁあっ!!」
うるさい――、 対戦しているのはいいものの妙にハイになっている黒深の声が、 目立ちすぎて一緒に対戦をしている翼は、 迷惑そうな顔をして引き金を引いている。
そんな間にもステージは上がっていく、 見せ掛けじゃない強さを黒深に感じた翼は今、 大体同じくらいのスコアを一気に引き離すために本気を出すことを決めた。
まさかこいつ相手に本気を出すなんて――、 自分で自分の考えたことに驚きながらも翼は黒深から一気にスコアを引き離した。
撃墜数も、 いつの間にか黒深のスコアを越していた。
ふふん、 どうだ。 お前の方が弱いじゃないか。 翼は、 得意げに引き金を引いていく。
「あちゃー、 めんどーなことしてくれやがって」
スコアを引き離され、 撃墜数が20近くあいてしまった画面を見た黒深が呟く、 ふん、 ざまぁみろ、 翼は下手と言われたことを根に持っているようで、 偉そうな顔をしながら黒深を見返す。
その間にもステージはいつの間にか10になっていた。
ここで落とされるわけにはいかない、 翼は画面をきつく睨む、 2人対戦のため追跡弾は4つ、 たちが悪い、 しかしそんなことをものともせずに黒深はいつの間にか追跡弾を2つ、 叩き落していた。
「ありえねぇ・・・・・・」
「天上、 前」
驚いて画面を凝視していた翼の画面に爆炎があがる、 落とされたのだ、 気づけば凝視している間に減ったのか、 ライフが0になっている。
つまり翼の敗北、 画面に 『2P WIN!!』 と大きく出ている。 しかもランクイン、 対戦ランキング1位のところにTENJO&KUROKUROX、 と名前が入った。
ふざけた名前だ、 などと翼は言えない。 いや、 言えなくなってしまった。
そのふざけた名前に負けたのだから。
「はい雑魚けってーい!」
「嘘、 だろ・・・・・・」
「嘘じゃないんだよね、 これが、 おーい誠〜!!」
愕然としてうなだれている翼に、 興味をなくした黒深が誠を呼ぶ、 その顔は満足げで輝いていた。
ゲームセンター内を回って、 丁度3階に戻ってきていた誠は、 黒深の晴れ晴れした表情を見た。
「勝ったの?」
「もち、 この後どうする?」
決して負けたの? とは聞かない誠に黒深が笑いながら聞く、 誠は少し考えてコマンダーXをやろうと言った。
「てんじょー、 どいて」
悔しい、 俺のコマンダーXにかけているプライドが――、 普通の学生たちなら絶対にわからないプライドが崩れていく、 それを横目で見ながらとぼとぼと歩いていく翼に黒深が声をかけた。
「挑戦ならいつでも受けてやっからかかってこーい、 あははは!」
「もう、 黒深は・・・・・・それじゃやりますか」
楽しそうな黒深とそれを注意する誠の声がやけに遠く聞こえている翼は、 そのまま家へと帰っていった。
翼にとって、 あまりにも屈辱的な敗北は、 強く記憶に刻み込まれることになった。
そして、 あまり意識のしなかったクラス内で、 黒深と誠の存在が、 強く浮き彫りになるきっかけともなったのだ。
――次の日――
「おっはよー、 誠! ん? よぉ天上」
学校の教室、 誠の姿を見つけた黒深は挨拶をする。
その後に、 座っている翼の姿を見つけてにやつきつつも軽く手を上げた。
まだショートホームルームが始まるには早い時間だというのに、 黒深たちのいるクラスの生徒はほとんど登校し終わっていた。
そんなに早く来て何をしているのか、 勉強ではなく、 友達同士で通信対戦をしたり、 漫画を貸しあったりと学業はどうしたと聞きたくなるようなことばかりだった。
「何だよ」
不機嫌と言う言葉がぴったりと当てはまる様子に黒深はおどけてみせた。
「うぉ、 不機嫌、 どうしたの?」
理由はわかっているのか、 わかっていないのか、 首を傾げて聞く黒深に翼は、 負けたことと、 今の黒深の態度に対して頭に血が上り椅子から乱暴に立ち上がって叫んだ。
普段の翼ならばありえない行動に、 クラス中の視線が一気に集まった。
「お前のせいだろうがっ!!」
「う、 わぁっ?!」
普段あまり声を荒げることをしない翼に驚いた黒深は、 よろけた衝撃で、 スカートのポケットからカードケースを落とした。
きれいに舞うカードの中に翼の見慣れた白抜きのXのカードが2つ、 2つ――?! 翼がそれに気づいたと同時に黒深よりも早くカードを拾い上げる。
取り返そうと焦った黒深は、 よろけた体勢を立て直せずにしりもちをついた。
「これ・・・・・・」
「あー! うわぁあぁっ!!」
黒深が取り返そうとするがもう遅い、 翼は2つのカードに書かれているローマ字を読み取った。
「KUROKUROXに、 NO、 NAME?! お前・・・・・・!!」
「うわちゃー」
企みがばれて、 失敗したとばかりに額に手をあてる黒深の横で、 誠がからかうような顔をしている。
ばれちゃあ仕方ねぇか。 黒深は、 諦めたような表情をしつつも立ち上がった。
「本当、 なのか?」
「そうだよ、 ちなみにSEISENは私だよ」
「と、 まぁそんなわけであんたのライバルは以外に近くにいたり? みたいな」
「天上君?」
ありえない、 嘘だ、 あれだ、 本当はどこかにカメラがあってドッキリでしたー、 なんてオチなんだろう? というかそうであってくれ――!!
肩を震わせてうつむいている翼に、 近くにいたほかの男子が追い討ちをかける。
「よう! ゲーセン記録塗りつぶしの旅はどうだ? ノーネームに、 SEISEN?」
「んー、 まだ半ばほど、 ってかコードネームで呼ばんといてよ」
「そうだよ、 学校は学校なんだから」
「嘘だぁああぁぁあっ!!」
翼の叫び声は今まで大きな声を出したことがなかったせいで、 あっという間に噂になり、 翼が、 黒深に対する復讐心を増加させる原因となった。
それ以降、 クラスの連中には妙に好かれることとなった翼だが、 黒深や誠といったコマンダーXのライバルを増やすことにもなった。
『YOUR WIN!!』
「はい、 これで何勝何敗目だっけ? 誠」
「えーっと0勝51敗になるね、 諦めたら? 天上君」
「諦めるかよ!!」
「おー、 何か意外と熱血君、 まぁ頑張れ、 いつでも受けてたつから」
あれ以来、 翼は毎日のごとく放課後に、 黒深へと挑戦していたが条件はいつも“部活に出ること”、 頼んでいる方である翼は仕方なく部活に参加し、 部内の先輩たちにも驚かれた。
気づけば取り付きにくいと思われていた翼の周りには、 大体誰かしら話しかけに来ているところが見られるようになった。
黒深に対しての復讐心はもちろん忘れてはいないが、 側で何気に状況を見て楽しんでいる誠についても色々と知った翼は、 今では悪友として黒深たちといるときがある。
この3人の腐れ縁と、 全ての人における平穏を崩す物語は、 もうすぐ、 始まる、 その兆はすぐそこに――。
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