ドッペルゲンガーを相棒にした魔物バカな変人研究者に突撃インタビューをしたが、目の前にいる彼は果たして本物なのだろうか。
擬態の能力を持つ生物を知っているだろうか。
彼らはドッペルゲンガーという魔物で、対象の姿形・能力を真似ることができる。
彼らは生物の魔力を糧とし生きている。そのため、ほとんどのドッペルゲンガーは魔力の多い生物に擬態し、その生物の群れに潜んでいるのだ。
人に化けたドッペルゲンガーが人里に現れると、魔力欠乏症を起こし衰弱する者が出始める。
多くのドッペルゲンガーは魔力を奪う対象に化けるので、自分を目撃すると衰弱してしまうことになる。
巷でいわれるような「自分のドッペルゲンガーと出会うと、魂を奪われるので死期が近づく」という噂も、彼らのその生態から創作された迷信のひとつだ。
(もしも、その話が本当だったならば、ドッペルゲンガーに何度も出会う機会のある冒険者という職業の者は皆、死んでいることになる)
ドッペルゲンガーは魔力を奪いこそするものの、自身に危害が加わらない限り、命を奪うような攻撃をしてくることはない。ある意味では、非常に大人しい部類の魔物だ。
しかし、大きな危険のないように見えるドッペルゲンガーではあるが、いざ退治しようとすると、場合によっては厄介な存在となる。
彼らは身を守る時、自分に害をなそうとする者に変身をする。歴戦の強者であればあるほど、ドッペルゲンガーとは脅威になりうる存在なのだ。身体の能力はもちろん、その者が得意としていることを真似できるのだ。剣技、魔術、特殊な能力。彼らは何の制約もなく、それを振るうことができるのだ。ドッペルゲンガーに足りないものは経験だけと言われ、闘いに勝つには技術を要するのだ。
――ドッペルゲンガーは、本能で魔力の多い生物を真似る。
私が遭遇したドッペルゲンガーも、そうであった。
しかし、そのドッペルゲンガーは護衛ではなく私を真似てしまったことが、運の尽きだった。
護衛たちは何度か戦闘をし、魔力をおおよそ半分ほど消費していた。戦闘を行わない私であったが、そこそこの魔力は備わっていた。そのため、その場において、魔力が一番多かったのだろう。ドッペルゲンガーは本能に従い、魔力が多かった私に変身したのだ。
知っての通り、私は魔物にしか興味がない探究者。運動などほとんどしたことがないひ弱な人間だ。
そんな私をドッペルゲンガーは真似た。私の唯一の取り柄である魔物への愛を彼は真似たのだ。
私の姿をしたドッペルゲンガーの第一声は呪いでも魔法でもなく、私の口癖でもあった「魔物はすばらしい」であった。
そして、すでに捕まえてあった何匹かの魔物の観察を始めたのだ。姿形を真似るだけではなく、彼は私と同じように魔物に多大な関心を示しているようであった。
彼と意気投合した私は、そのドッペルゲンガーを連れ帰ることにした。
もとより、魔物へ擬態するドッペルゲンガーにとっては、魔物の生態を知りたいという欲求は非常に馴染みやすいものだったのだろう。変化をといてなお、魔物へ興味は絶えなかったのだ。ただ真似るだけという彼らの能力を超えて、彼の行動を遺伝レベルで書き換えてしまったといっていい。
魔物に興味を持った彼は、積極的に様々な魔物に擬態し、その生態を明らかにするようになった。魔物に擬態した彼は正確に魔物の生態を理解する。
私達は二人で魔物について、実験することもある。私は知識を得、彼は経験を得る。
今では、私の良き相棒だ。
――え、目の前にいる私が、本物の私か気になるかい?
確かに、私は魔物の研究で忙しい。面倒ごとは、影武者の一人や二人に押し付けてしまってもおかしくはないような人間だ。
しかし、ドッペルゲンガーは質問に自ら考え答えるといった高度な会話はできないものなのだよ。
――普通はね。と、隣室で観察していた私は小さく囁いた。
ドッペルゲンガーは真似しかできない。
ドッペルゲンガーは魔物であり、結局は退治されるものだ。根気よく対話をするものなど皆無、人社会の複雑なコミュニケーションに触れ、真似る機会などないのだ。ヒトに化けたドッペルゲンガーは、覚えた言葉を適当に繰り返すことしかできず、早い段階でドッペルゲンガーと見破られ、退治される運命なのだ。
私はドッペルゲンガーである彼がどこまで人間の社会性を真似できるのか、魔物の可能性をこの目で確かめていた――。
そして、後に彼らは一冊の図鑑を世に送り出した。
「魔物の図鑑―魔物はふしぎな生きもの―」
目次
1章 身近に潜む魔物
コラム1 魔物についての基礎知識。
2章 森に潜む魔物
コラム2 特に注意すべき魔物の習性。
3章 水に潜む魔物
コラム3 魔物は役に立つか?
4章 空に潜む魔物
コラム4 いざという時の魔物のおいしい食べ方。
5章 暗闇に潜む魔物
コラム5 魔物は飼うことはできるのか。(「ブロブを飼ってみよう」【 http://ncode.syosetu.com/n1838cs/ 】)
6章 伝説に潜む魔物
コラム6 魔物と共にあるとは。